《した魔法~生まれ変わった魔法が、15年ぶりに仲間と再會する~》12 二人きり
それから弘人が現れるまでの時間が芙にはやたらと長くじられたが、一臺の車が店の前に停まった時、時計が指していたのはまだ四時前だった。
窓に寫る二つの影に「早いね」と咲が立ち上がり、芙は心臓を高鳴らせる。
嬉しさ半分で、殘り半分は張と不安がり混じっていた。十五歳の弘人はいないのだと呪文のように心の中で唱えると、鈴の音が靜かな店に響き渡る。
先に現れた青年が店を探し、芙の視線と繋がった。
(オッサン……)
「じゃ、ないよ……」
ぽろりと零れた聲に、咲が「え?」と振り返る。
「どうした? 弘人だよ」
彼と視線を合わせたまま、芙は「うん」と頷く。
咲は噓つきだ、と思った。一目で彼が弘人だと分かる。十六年も経っているのに、あまり変わっていなかった。
髪がし短くなって、年らしさは抜けてしまったが、くっきりとした二重も尖った顎のラインも、十五歳の弘人のままだ。
そして、彼の後ろから現れたも、町子の知る伊勢薫(いせかおる)そのままだった。
思いより懐かしさに涙腺が緩んで、芙は目を濡らした涙を指でぬぐった。
芙を見る弘人の表が、困のを滲ませる。こいつは誰だ、と言わんばかりに咲を振り向いた。
「この子が町子だよ。どういう経緯かなんてのは聞かないでくれよ? この子は十五歳。町子が死んだ後に産まれて、彼の記憶がある。それだけで十分だろう?」
「生まれ変わった、っていうのか?」
咲の説明に弘人が視線を返す。その表に笑顔が浮かんで、芙は嬉しさと照れ臭さを覚えながら、「有村芙です」と名乗り頭を下げた。
「町子……なのか」
弘人は早足で町子の前まで移して、そのを足元からゆっくりと見上げていく。
再び合った視線に芙は「ただいま」とぎこちなく呟いた。
「おかえりなさい」
弘人の橫から聲を掛けたのは薫だった。昔と変わらず目鼻立ちのハッキリした人で、今考えると弘人がどうして町子を選んだのか不思議に思ってしまうほどである。
「ありがとう、薫」
「ほら、弘人も何か言ってあげなさいよ」
咲に急かされて、弘人は「あ、あぁ」と人差し指で頭を掻いた。
「ごめん。突然すぎて驚いた、っていうか」
突然訪れた町子の帰還をけれきれず、戸いを隠せない様子だ。けれど「本當なんだな」と念を押して、弘人は靜かに深呼吸した。
「本當なら、嬉しいよ。お帰り」
「うん、ただいま」
はにかんだ弘人にホッと息を吐き、芙はテーブルにつくと、力がない事と今まで東京や名古屋で暮らしていたこと、今は町子と同じこちらの高校に居ることを説明する。
目の前に座る弘人の顔をずっと見つめることができないまま、咲に補足をれてもらいながら一通り話すと、彼が突然「なぁ」と切り出した。
「俺、彼と二人で話してきてもいいか?」
「二人で、って。芙はどうする?」
咲にいきなり振られて、芙は「うん」と即答してしまう。二人きりになれることは、この上なく喜ばしい事なのに、心の隅にくすぶったがそれを「ダメだよ」と拒絶する。
けれど。
嫌だと言いだす事はできなかった。彼の橫に座る薫は、笑うことも嫌がる事もなく、ぼんやりとテーブルの端を見つめていたが、「薫も、いいね」と咲に同意を求められ、「ええ」と素直に頷いた。
「よし、じゃあいいよ。この店使って。私は薫と夕飯の買出しに行って來るから」
「私も?」
これにはあからさまに嫌がる姿勢を見せる薫に、咲は「いいから行くよ」と外を促す。
「芙、夕飯食べないって寮に連絡しちゃったから、みんなでごはんにしよう」
「えっ、悪いよ。私は何とかなるから」
帰り道にコンビニにでも寄ってもらえれば、と思っていた。送ってもらう上に夕飯など申し訳ないと遠慮すると、咲が「もう」と頬を膨らませる。
「高校生は、こういう時「ありがとう」でいいんだよ。それに、芙が帰ってきたお祝いに、弘人が発してスキヤキにしようって言ってくれたから」
「はぁっ?」
もちろん、そんな會話は展開されていない。
驚く弘人に咲は「ねぇ?」と不敵な笑みを浮かべる。弱強食の世界ではないが、この場に置いて頂點に立っているのは咲のようだ。
「そ、そっ、そうだな。よし、俺の大人を見せてやる!」
不本意ながらもをどんと叩き、弘人はズボンのポケットからサイフを抜いて、二萬円を取り出した。「ごちそうさま」と咲がけ取り、「あっ」と突然聲を上げた。
「忘れてた。この子力はないけど魔翔が見えるから、戦闘になったら守ってあげるんだよ?」
「見えるのか?」
「さっき魔翔が出てさ。オオカミだったから大したことなかったけど」
「さっき、って。ここでか?」
「そうだよ。だから、また出てもウチの店壊さないでよ? 類だって居ないんだから」
異次元を使っての戦闘は、地の魔法使いである咲特有の技だ。対してもう一人の仲間だった桐崎類は、魔法で破壊されたものを修正する技を持っていた。
それ以外の魔法使いは基本、普段人の住んでいるこの次元で戦う事になる。一般人には魔翔や魔法は見ることができない為、何もない場所へ向かって杖を振る姿は「一人で何してるんだろう?」というじになってしまうのに、魔法によって壊れるは、そのまま壊れてしまうのだ。
「だったら尚更、外で話してくるよ」
ただでさえ、ここは皿やグラスなどが多い場所だ。弘人のる水の魔法で、全部床に流れ落ちてしまう可能も高い。
面倒そうに顔をしかめ、弘人はテーブルに乗せておいた車の鍵を摑もうとするが、咲の手がそれを制した。
「魔翔を倒すより、この店の狀態を維持するほうが難しい」と豪語する弘人を、咲がぴしゃりと否定する。
「このご時勢、こんな可い子高生が三十過ぎのオッサンと散歩やドライブなんて、ありえないんだからね?」
「まだオッサンじゃねぇよ。そんな他人の目なんて気にすることないだろ」
弘人の漫然とした態度に、咲は負けじと眉を吊り上げる。
「困るんだよ。近所の人に、この店が援助際を斡旋してるなんて思われたらどうするんだい? いいから、この中で。皿なら二枚くらい割ってもいいから!」
半ば押し付けるように「じゃあ」と言い捨て、笑いを堪える薫を連れて咲は店を出て行ってしまった。けれど裏でエンジン音が鳴ってすぐ、咲が再び口から顔を覗かせる。
「冷蔵庫にアップルパイってるから食べていいよ。コーヒーも自由にどうぞ」
それだけ伝えて、咲は今度こそ本當に買出しへと出て行った。
ハッピーエンド以外は認めないっ!! ~死に戻り姫と最強王子は極甘溺愛ルートをご所望です~
婚約者の王子とお茶をしていた時、突然未來の記憶が流れ込んできたフローライト フローライトは內気で引き籠もりがちな王女。そんな彼女は未來で自身が持つ特殊かつ強力な魔力に目を付けた魔王に誘拐されてしまう。 それを助けてくれるのが心根の優しい、今目の前にいる婚約者の隣國の第二王子、カーネリアン。 剣を取り、最強と呼ばれるほど強くなっても人を傷つけることが嫌いな彼は、フローライトを助けたあと、心を壊して死んでしまう。 彼の亡骸に縋り、後を追った記憶が蘇ったフローライトは、死に際、自分がもっと強ければこんなことにならなかったのにと酷く後悔したことも同時に思い出す。 二度と彼を失いたくないし、王子と自分の將來はハッピーエンド以外あり得ないと一念発起したフローライトは、前回とは全く違う、前向きかつ、バリバリ前線で戦う強すぎる王女へと成長を遂げる。 魔王になんか誘拐されるものか。今度は私があなたを守ってあげます! ※基本、両想いカップルがイチャイチャしつつお互いの為に頑張る話で、鬱展開などはありません。 ※毎日20時に更新します。
8 123お願いだから別れて下さい!
俺、佐藤大雅(さとうたいが)は高校生になり、初めての彼女が出來た。 だけど、それは好きだからという訳ではなく 無理矢理だ。 俺には、他に好きな人がいる。 だから 「お願いだから別れて下さい!」
8 103女であり男でもある私は復讐をしていきます
容姿端麗、文武両道な伯爵令嬢シトラル・サランバールは國の次期権力者達の嫉妬を買い、15歳の時無実の罪で殺されてしまう。 その後、神と名乗る少年に出會い神に選ばれ、加護を貰っている同い年の子に転生(?)する。 転生した子は男の姿にも女の姿にもなれる體質に強力な魅了魔法と光魔法を持って生まれていた。 その力を使い、無実の罪でシトラルを殺した人たちに復讐をしていくことを決意する 今度こそ最愛の人と幸せな人生を!! 初めて書いた作品なのでまだまだ下手なところは沢山あると思いますが、アドバイスやフォローをしていただけるとありがたいです!
8 134皇太子妃奮闘記~離縁計畫発動中!~
小さな國の姫、アリア。姫の中でも一番身分も低くく姉達に度々いじめにあっていたが、大國の皇太子、ルイス王子から求婚され、三才で婚約した。アリアはのる気でなかったが、毎年會いに來てくれて、「可愛い」「幸せにするよ。」「好きだよ」「君一人を愛する」と言葉に施されその気になっていた。12才でこっそりと皇太子のいる國へ行った····ら、既に側妃を二人娶っていた!しかも女好きで有名だった!現実を突きつけられてアリアは裏切られたと思い、婚約の破棄を父である國王にお願いをしたが、相手があまりに悪いのと、側妃くらい我慢しろ言われ、しぶしぶ嫁ぐことになった。いつまでもうじうじしていられない!でも嫌なものは嫌!こうなったら、円満離縁をしてみせましょう! そんな皇太子妃の離縁奮闘記の物語である!
8 150付き合ってから結婚するまで
少し前に間違って消してしまった「付き合ってから結婚するまで」シリーズを1から書き直してみました。 毎週土曜日更新。 主人公五十嵐優人と、幼なじみでヒロインの工藤陽菜が付き合い、結婚するまでのストーリーとなっております。 また、結婚してからのストーリーも「付き合って結婚した後」として、連載中です。
8 162辺境育ちな猿百合令嬢の憂鬱。〜姉の婚約者に口説かれました。どうやら王都の男どもの目は節穴らしい〜
田舎の領地で育ったリリー・アレナはアズトール伯爵家の次女。木があれば登るような元気すぎる令嬢で、領民には「猿百合令嬢」と呼ばれている。幼く見える外見ながら十六歳になっていて、初めて王都を訪れて最愛の姉との再會に喜んでいた。 しかし王都で出會う男性たちは美しい姉には目もくれず、なぜかリリーの周りに集まってくる。姉の婚約者までおかしな目で見始めてしまい、一人で頭を抱える。とはいえ、リリーはそんなことでへこたれない。こっそりストレスを発散させていると、氷のように冷たい目をした男と出會った。さらに、ちょっと変わった動物たちと觸れ合って癒され、姉の美しさと優しさに元気に感動する。 ……しかし。一度は解決したと思っていたのに、事態はリリーが予想していたより深刻だった。 (アルファポリス様、カクヨム様で連載していたものを一部修正して連載しています)
8 135