《した魔法~生まれ変わった魔法が、15年ぶりに仲間と再會する~》49 漂うものたち
晴れやかな夏の空の下、外には無數の魔翔がひしめいている。
先に出た二人が魔翔を倒したところだった。
羽の付いたボール型の魔翔が彼等の足元で息絶え、修司の魔法陣が宙に消えていく。
し遅れた芙に「何かあったかい?」と咲が心配したが、芙は「ううん、ちょっと手間取っただけ」と首を振った。
「ねぇ芙、その服、死に裝束にだけはしないでね。前の……あん時辛かったんだ。あの服著てだらけで倒れてたっていうアンタを見てさ」
「うん――気を付けるよ」
辺りを見回すと、魔翔たちはまだ三人に気付いてはいないようだった。一定の距離で反応し、奴等は敵意を剝き出しにしてくる習があるようだ。
咲が先導して芙を挾むように校舎へ向かい、校門の前に二人を見つける。まだ生徒の姿はなかったが、それに置き換えられたかのように校庭や校舎にまでも魔翔の姿が見えた。
「こんな早くからご苦労様なことだね」と杖の先端を掌に弾ませて咲が皮ると、
「朝まで待ってあげただけでも、有難いと思ってしいわね」
薫はそう言って、人差し指で瞼の端を掻いた。目がし充している。
橫に居る弘人は何も話さない。昨日と同じだ。
服こそ著替えているが、もうずっと魔翔に捕らわれているのだろうか。魔翔に怯える彼はもういない。戦いたくないと言っていた彼もどこかに行ってしまった。
弘人はうつろに魔翔を見渡して杖を握ると、くるりと魔法陣を描いた。
「何した? 弘人」
しかし青い魔法陣は回転を続けるだけで攻撃を発するものではなかった。
三人が警戒して構えると、修司がその変化に気付く。
「集める気か!」
しずつ、磁石のように。魔翔たちが魔法陣のに向けて引き寄せられる。
「厄介なことばっかりしないでしいね」
咲は杖を回した。
異次元を作ろうとして、目視で魔翔との距離を測った。
「一番遠くのは、育館の辺りか。ちょっと範囲が広すぎるね」
芙は驚いて校舎を振り返る。育館は長い校舎の先――つまり、學校の敷地は全滅ということになる。
バサバサと鳥型の魔翔がこちらに気付き、豹変した。
敵意を剝き出しにしてキィと唸り羽ばたいてくるのを、修司は緑の風を起こして向かい撃つ。鋭い音を立ててを切りつけられた魔翔は、力を無くして地面へ落下した。
どの魔翔も弘人と薫を攻撃目標とはしていなかった。芙たち三人のみを狙っている。
咲は「悪いね」と禮を言い、杖でいつもより大きな円を描いた。
「こんなに広範囲で次元を作ると、建が殘るんだよ。けど、私が死なない限りはいくら壊しても元に戻せるから」
金の魔法陣が空気に溶けて、その後の景に芙は「あれ」と辺りを見回した。
今までの風景と変化がない。建もあって、魔翔もいる。
何もかもそのままに見えたが「一般人はって來れないから」と咲が説明してくれた。
「魔翔と魔法使いだけが居るからね。薫――目星は付けてたみたいだね」
「確立を狙っただけよ」
嬉しそうに笑んで、薫は杖を高く掲げた。
「そういうことか」と修司が表を険しくする。
芙もようやくその意味を理解して杖を構えた。
魔翔と魔法使いしかこの異次元の中に居ないというのなら、魔翔以外でここに居るのは自分たち五人とミナだ。彼はおそらくこの中に居る。
「私たちが會えなかったのに貴方たちが會えたのなら、二人の近くに居る人よね、きっと。教師か何か? ここで咲が異次元を張れば、炙り出せると思ったのよ」
「良い考えでしょ?」と加える薫を前に、芙は絶対にミナが出てきませんように、と祈った。なるべく校舎側へ二人を導したい。
薫がくるりと振り返り合図すると、弘人はもう一度大きく杖を回した。
周りに居た魔翔がキィと鳴いて、同時にその視線が芙たち三人を狙う。
狼型が三匹、地面を蹴って飛び掛かってくる。三人がそれぞれ魔法陣を出すが、芙に突進する魔翔は炎の壁を軽々と超えてきた。
「きゃっ」と芙が咄嗟に腕を上げてを庇うと、修司が橫から緑のを飛ばした。一人に一ずつ向かってきた魔翔。それを修司は二同時に攻撃する。
「お見事」と舞臺見するかのように稱賛する薫。
「修司、ありがとう」
禮を言って構えるが、やる気と勢いだけではどうにもならなかった。
地面に叩きつけられてうめく魔翔。それらが息絶えて消えても、すぐに次が襲ってくる。
「ここは任せろ」と修司が芙の前に出て、肩越しにぶ。
逃げろということか。従いたくはないのに、そうするほうが正しいと思ってしまう。
橫に振る首を止めると、咲が芙の腕を摑んでし後ろまで走った。元の位置では修司が次々と魔翔を相手にしている。
「離れてた方がいいよ。ここは任せて。それに修司が強いのは私が良く知ってるから」
「――でも」
「ミナも隠れてる。あの人はすぐにやられるような人じゃないよ」
大丈夫だと肩を叩く咲。
「修司は昔と変わんないね。今でもアイツはアンタを見てる。全く、嫉妬しちゃうよ。類はね、ずっと町子が好きだったんだ。でも、町子は弘人ばっかり見てたから、気付かなかったでしょ? ホントうまくいかないね、って」
早口に言った咲の言葉に、芙は「えっ」と修司を振り返る。三同時に攻撃をする彼の背中がとてつもなく大きく見えた。
「そんなこと、私は知らなかったよ」
「だから余計、修司はアンタに後ろめたいんだよ。修司が弘人みたいに自己主張したら変だろ? 無想な奴だけど、アイツのこと信じてみない?」
確かにそうだと苦笑して、芙はくるりと踵を返し、校舎を見やった。
「ちゃんと言ってくんなきゃ、わかんないんだけどな。でもわかったことにしてあげる。私行くよ。だから、二人とも死なないでね」
校舎まで百メートル。駐場を抜けて行けば戦闘は避けられる気がした。
「じゃあ、またね」そう言い殘して、芙は全速力で走った。
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