學式も終わり、スズメは機甲科の校舎に併設された寮へと足を踏みれた。

その豪奢な寮の姿に圧倒されながらも、スズメは地図に目を通し自らが所屬することになるチームの寮室を探す。

地図に記されたブローウィングの部屋は寮の3階、一番西側の部屋――なのだが……

「西って左、だよね……じゃあ、コッチかな……？」

そのままふらりと寮に向かって左――東に向かって歩き出すスズメ。

「スズメちゃん、どこ行くんだ！」

不意に聞き覚えのある聲に呼び止められ、スズメは振り向く。

そこには、ワシミヤ・ツバサの姿があった。

「あれ、ワシミヤ先輩？」

「また道に迷いでもしたら大変だと思って迎えに來たんだけど……危なかったな」

「でも、地図にはアッチって……」

ツバサはスズメの橫から地図を覗き込み、しばらくその中を見ていたが、不意に笑い聲をらす。

「な、なんですか――？」

「スズメちゃん、逆だよ逆」

「逆……？」

スズメが道に迷うのも當たり前――スズメは北と南を逆さにして地図を見ていたのだ。

「あっ――！！」

その事実に気付いたスズメは、地図を上下逆に持ち帰ると地図の下――北の方へと目を向けた。

ステラソフィア學園北部には技科の校舎を表すマークが印されている。

「スズメちゃんは方向オンチなのか？」

「う――――た、多……多分、今朝のも西口からったのを東口からったと勘違いしてたんだと、思います」

あまりにも間抜けな所業にぽぅっと顔が熱くなる。

「可い子だなぁ」

「か、可い、ですか……恥ずかしいです」

「ふふっ。まっ、とりあえずアタシ達の部屋まで行くか。チームのメンバーもスズメちゃんの到著を心待ちにしてるよ」

「そ、そうなんですか……？」

「ああ、行こうか」

高鳴る鼓と張にを固くしながらも、スズメはツバサの後へとついていった。

寮3階の西側最奧の部屋――その扉には「チーム・ブローウィング」と書かれた表札がかかっている。

「ここが――」

「ああ、アタシ達のチームの寮室――キミが今日から4年間過ごす部屋だ」

ツバサはそう言いながら、ドアノブを回し、扉を押し込む。

「せーのっ、ようこそ、チーム・ブローウィングへ！！」

ツバサの聲に、聞き覚えのない二つの聲がハモりスズメへと歓迎の言葉を投げ掛けた。

スズメはツバサに促され、優しいベージュの合いに飾られた部屋へと足を踏みれる。

「それではスズメちゃん、我がチームのメンバーを紹介しよう。さ、チャイカから」

ツバサの言葉で、き通った長髪に白い。

制服の元を大きく開いたが前に歩み出る。

「ウチは機甲科3年、テレシコワ・チャイカですわ。お見知りおきを」

恭しく頭を下げるチャイカ。

その穏やかな腰に、優しい眼差し――初対面だが、どこか安心を覚えてしまうだ。

それとは対照的に、ぺったんとしたにはねたセミロングが特徴的なが前にズンズンと歩み出る。

「マハは機甲科2年、カスアリウス・マッハ！　よろしくですよ、スズメ後輩！」

「テ、テレシコワ先輩にカスアリウス先輩、ですね。サ、サエズリ・スズメです！　よ、よろしくお願いします！」

簡単に自己紹介を済ませた後だ。

「さて――それじゃあ恒例のアレ、やってくるか！」

不意にツバサがそんな事を口走った。

「恒例の、アレ？」

「さぁ、グラウンドに行くんですよスズメ後輩！」

「グ、グラウンド！？」

「新生歓迎チーム対抗戦の始まりですわっ」

「チーム対抗戦――っ！？」

機甲科校舎裏にあるグラウンド。

そこは、一周4km程あり、一見すると走路のようにも見える。

舗裝された道路に線が引いてあるだけで遮蔽などは何も無く、普段は裝騎の起テストなどに使われる場所だ。

その周囲には一応、防護フィールドを発生させられら2mほどの壁がそびえるが、それだけだ。

小型機関車に乗り、スズメとツバサ、マッハとチャイカの2人1組となりそれぞれがグラウンドの対岸に移する。

「中學にあった裝騎用グラウンドとは全然違いますね……さすがステラソフィアです」

「そうだろ？　これでも簡単なテスト用のグラウンドで、他にも演習場とかあるから騎使にとっては垂涎ものだもんな」

フィールド発生壁に備え付けられた端末へとツバサが學生証報端末――SIDパッドを掲げた。

――データカクニン

ピピッと電子音が響いたかと思うと、不意にズズズズと地面から小刻みな振が響く。

「うわっ、な、何？」

「自分の裝騎を運んでもらってるんだよ」

「裝騎を、運ぶ？」

「ああ、この學園の地下には裝騎輸送用のラインが繋がっていて、學園中にある端末から學生証を使って輸送申請をすれば裝騎を運んでくれるんだよ」

「へぇ……」

「ちなみに、あんな風に線の中にPSって書いてる所があるだろ？」

「あ、はい」

ツバサが指さすその向こうには、4m四方程のラインが引かれており、その中央にPSと記されていた。

PSとは機甲裝騎を意味するPanzer Soldatの略稱だ。

よく見ると、そのPSという文字の橫にランプのようなものが埋め込まれており、それがチカチカと點滅を繰り返している。

「あのランプがチカチカしてる時は気を付けろよ」

「えっ？」

ツバサがその理由を説明するより早く、ツバサの言葉の意味をスズメは理解した。

ビ――――！

その地面からブザー音が鳴り響いたと思った瞬間、地面が開き、その中からリフトに乗った蒼い裝騎が姿を現した。

「裝騎スーパーセル。アタシの騎だ」

「スーパーセル……ベース裝騎は強襲型PS-J4ジェレミエル、ですか？」

「おお、よく分かったな！」

「その、素と完全に一化してる大型のメインブースターは特徴的、ですからね」

その右手には、裝騎の標準裝備である12mmバーストライフルが握られている。

「それじゃ、スズメちゃんも裝騎を呼んでみようか」

「あ、はい！」

ツバサが行っていたように、報端末にSIDパッドを掲げ、手続きを完了する。

それから暫く、ツバサのスーパーセルの隣にスズメの裝騎が姿を現した。

「えっ、何、コレ……」

「これは、逆間接か？」

このステラソフィア學園機甲科では學時に國から裝騎を1騎、學祝いとして進呈される。

スズメ自も初めてのお目見えとなるスズメの新たな搭乗騎。

細のに、淺黃の騎を茶褐の裝甲が覆い、黒いラインがバックパックを流れている。

パッと見は何の変哲もない機甲裝騎。

だがそれは、一般の裝騎とは異としている大きな特徴が1つあった。

それが、膝の部分が逆に折れ曲がった腳部。

この學園で四年目を迎えるツバサも、様々な裝騎についての知識を持ち合わせているスズメもその裝騎の姿に見覚えはなかった。

「スズメちゃん、端末から裝騎の報を照會できないか？」

「やってみます」

しばらくの読み込み時間を経て、シャダイデータベースからスズメの機甲裝騎の報が表示された。

「ありました、軽量逆腳近接型PS-R-H1……ハラリエルです」

「腳部の形狀を工夫した事での跳躍機能の向上と、腳部への負擔を減らした裝騎か……ロールアウト日は聖暦168年3月……」

「ピッカピカの新品――！？」

「まぁ、ウチだと騎使の適正に合わせて最新裝騎が學生に回される事もなくない、が……こんな実験的な裝騎が學生に？」

怪訝そうなツバサをよそに、スズメはこの裝騎に何かをじ取っていた。

この新型裝騎にめられた可能――――まるで、スズメの為に造られたかのようなフォルムに心を躍らせる。

「ま、とりあえずはかしてみるか。ウチの対抗戦は新生が乗る裝騎の起テストも兼ねてるしな」

「わ、わかりました！」

「ちゃんと事前申請した設定になってるかも確認しとけよ」

「りょーかいです！」

そして2人はそれぞれの裝騎へとをらせた。

オマケ

ステラソフィア・キャラクター名鑑

4年：チーム・ブローウィング所屬

名前：鷲宮 翼

読み：ワシミヤ・ツバサ

生年月日：聖歴149年10月21日

年齢：18歳（4月1日現在）

出地：マルクト國神都カナン

長：168cm

重：63kg

使用裝騎：PS-J4S:Supercell（ベース騎PS-J4:Jeremiel）

好みの武：チェーンブレード

ポジション：リーダー・アタッカー

私立ティファレト學院中學出。

高い裝騎の作技能を見せ、ステラソフィアに自己推薦學。

趣味は機甲裝騎を題材にした大型ゲーム、サンクチュアリ・バトル・オンライン。

ゲームに於いて縦橫無盡のテンペストの異名を持つ。

個人的な聲のイメージは沢城みゆきさん。