《機甲學園ステラソフィア》暴走走バカ2人
4日後の新生歓迎大會を控え、今日もサエズリ・スズメはカスアリウス・マッハの指導のもと、特訓と稱されグラウンドを裝騎スパローに乗って駆け抜けていた。
「ペースが落ちてきてるんですよスズメ後輩!」
そんなマッハの聲が裝騎チリペッパーのスピーカーに乗って響き渡る。
裝騎に乗ってグラウンドを走る――何とも無意味に見えるこの特訓、しかし、存外意味の無いものでも無さそうだった。
オーバーシンクロナイズと言う縦方法を用いる裝騎だと、実際にをかして裝騎をかす、と言う事が必要である。
それ故、実際にをかし、裝騎をかし、そのきに慣れることができるこの特訓に意味を見出すことは出來た。
「でも、ずっと走ってばっかりだと流石に……」
なんて愚癡ってみても、これが先輩の方針であると言うのなら仕方のないことだった。
「いやぁ、今日も元気に走り回っているのですねぇ!」
不意にスピーカーに乗って響いたその聲。
チーム・ブローウィングの誰でも無い、だが、どこかで聞いた覚えのある聲。
「アイツは――ツミカワ・ミズナ!!」
そう、チーム対抗戦の最後、裝騎の暴走によってグラウンドに割り込んで來た機甲科2年、ツミカワ・ミズナの聲だった。
その聲を発しているのは、ミズナの裝騎ミルキーウェイ。
ミルキーウェイはブースト機でグラウンドに割り込んでくると、裝騎スパローの前を駆けはじめる。
「にゃっはー、遅いのですよ~」
煽る様にそう言うミズナにスズメが反応するより早く、チリペッパー――マッハがミルキーウェイを追い抜く。
「遅い? ソレはテメーのことじゃないんですか? このウスノロミズナ!」
「ウスノロ? 今、ウスノロって言ったのですね……! 絶対にアナタには負けないのですよ!!」
グラウンドを疾走するチリペッパーとミルキーウェイ。
2騎は互い互いに毆り合い、妨害し合いながらグラウンドを駆け抜ける。
時に転げ、コースから逸れながらも互いに一歩も譲らずに走るその姿。
「す、凄い……んな意味で」
1人取り殘されたスズメは、走るのも忘れて茫然と2人の様子を見ていた。
「あーあ……またやってるよミズナのやつ……」
騒ぎを聞きつけてか、1騎の裝騎がグラウンドへと姿を現す。
純白の裝甲に、所々黃金の裝飾が輝く、まるで騎士か鎧を纏った天使を思わせる機甲裝騎。
だが、そんな姿には似合わない東洋風の片刃刀(オリエンタルブレード)を帯刀している。
「あなたは……?」
「チーム・バーチャルスターのリーダー、機甲科4年ディアマン・ソレイユだ。よろしくな」
スパローのサブディスプレイに裝騎の詳細が表示された。
名前はセイクリッド。
ベース騎は汎用の高い白兵騎PS-M5ミカエルだ。
「オレのチームのミズナが迷かけてるみたいですまないな」
「いえ……」
「ツバサ達はいねーのか?」
「あ、はい、技科の人と話があるらしくて……」
「そうか」
スズメとソレイユがそんな話をしている間にも、グラウンドに響き渡る、裝騎同士の激しいぶつかり合いの音と、マッハとミズナの怒聲。
「ああっ!? ブースト機はズルいんですよ、クソミズナ!!」
「何言ってるのですか!? 先に蹴りをれてきたのはそっちなのですよ!」
「はぁ……これ以上後輩に見苦しい所を見せる訳にもいかねーよなぁ……」
ソレイユは苦笑するようにそう呟くと、セイクリッドの腰に帯刀した刀の柄へ手をばす。
「あ、あの……もしかして…………」
ソレイユが何をするのか察したスズメの言葉に、
「ああ、ちょっと2人とも斬ってくるわ」
と爽やかな聲音でソレイユは答えた。
それから、裝騎セイクリッドは、最早競爭ではなくただの喧嘩と化しているチリペッパーとミルキーウェイへと裝騎を走らせる。
それからの手際は鮮やかだった。
まるで人間のように、らかにをかし、刀を抜く。
「うおっ!?」
「何なのですかっ!!」
2人がセイクリッドの姿に気付いた時にはもう遅かった。
セイクリッドの刀が、チリペッパーとミルキーウェイの両足を一度に切斷する。
「す、すごい……」
驚くスズメにソレイユが手を振った。
「すみません、ソレイユ先輩……先輩方を止めてもらっちゃって」
「何、気にすんなって。あの2人が喧嘩してる時は、オレかツバサか先に見つけた方が止めるって約束だしな。それよりも邪魔しちゃってオレの方が謝らないと――ごめんな」
「いえ、でもあの2人ってそんなに……」
「似た者同士なんだろうな。顔を合わせる度に喧嘩始めるから大変だぜ」
「そう、でしょうね……」
はぁ、とため息をつくソレイユにスズメは思わず同する。
「とりあえず、あのミルキーウェイとチリペッパーを片付け無いとな……」
両足を失った機甲裝騎の片付けは非常に面倒くさい。
それぞれの裝騎を備え付けのリフトに乗せ、修理申請をするだけで簡単に修理はしてもらえるのだが、そのリフトまで運ぶと言う作業が面倒くさい。
そうでなくても、申請さえすれば回収員が來てくれるので、それで運んでもらうのも良いが、
「まぁ、回収員呼んでも來るまで時間かかるし自分たちでやっちまうか」
そう言いながら、ソレイユが何処かへと連絡をれはじめる。
それからさほど間をおかずして、2騎の機甲裝騎が姿を現した。
「やれやれ、またあの2人は喧嘩していたのね……あとでしっかり叱らないと」
紅く目をひくどこか薔薇を思わせるような機甲裝騎。
重裝甲でありながら四基搭載型(カルテット)ブースターによって強力な加速力を持つ裝騎PS-U3ウリエルをベースにした裝騎ロゼル。
騎使は機甲科3年、ディアマン・ロズ。
「もう、先輩……何してるんですか……」
薄い紺が綺麗な沢を放つ、細な騎士を思わせる機甲裝騎。
安定した作とに定評のあり、主にフェンシングゲームでよく使われるPS-A4アブディエルをベースにした裝騎ラピスラズリ。
騎使は機甲科1年、エレナ・ロン・サリナ。
チーム・バーチャルスターのメンバーだ。
「よし、ロズとサリナはミズナを頼む。えっと、スズメちゃんだよな?」
「あ、はいっ」
「オレ達はマッハを回収するぞ」
「りょ、諒解です!」
裝騎から引き摺り下ろされたマッハとミズナがグラウンドの隅で大人しく正座をさせられている間に、スズメ達4人はチリペッパーとミルキーウェイを回収した。
それからし遅れて、ワシミヤ・ツバサとテレシコワ・チャイカの裝騎が姿を現した。
どうやら、ソレイユはこの2人にも連絡をれていたらしい。
「あー、出遅れちゃったな……」
「まだ説教タイムは殘ってるぜ」
呟くツバサにソレイユが笑いながらそんな事を言う。
それを聞いたマッハとミズナの額に脂汗がにじむ。
「いや、でも説教は3年組がやりたそうだしな……」
ツバサがそう呟いた時には既に、テレシコワ・チャイカとディアマン・ロズの2人が満面の笑みを浮かべながらマッハとミズナのもとへと向かっていた。
それから2人がどうなったのか――それは言わない方が良いのかもしれない。
note+ノベルバ+アルファポリス+電子書籍でエッセイ、小説を収益化しつつ小説家を目指す日記
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