《機甲學園ステラソフィア》第49話:Těsná Brána

Těsná Brána

-命に通じる門-

「目覚めよ。目覚めよ勇ニャよ……勇ニャスズメよ……悪の大ニャ王、ニャタンを倒すのだ…………」

ほのかに暖かい日差しが窓から差し込む中、スズメはそっと目を開いた。

瞳に映るのはよく見知ったチーム・ブローウィングの寮室。

そのリビングだ。

どうやら、いつの間にやら眠ってしまっていたようだった。

「おーやつおやつ♪ おやつをたーべよっ」

気な即興歌を口ずさみながら軽い足取りで現れたのはビェトカ。

ふと、ビェトカがもの珍しいものを見るような目をスズメに向けてきた。

「ビェトカ?」

ビェトカがゆっくりとスズメの元へ近づく。

その足取りは慎重で、まるでスズメがどこかに逃げ出すことを警戒しているようだ。

それだけではない。

「ビェト……!!!???」

スズメは聲にならないびを上げる。

なぜならば、ビェトカが自分と比べてもものすごく大きかったからだ。

ビェトカはヒョイとスズメのを持ち上げると言った。

「野良貓ぉ? どこかから迷い込んで來たのかなー? もしかして、フニャ貓のガールフレンドとか!?」

「貓……!?」

「ニャーだってかわいー! てかそもそもメスなの? ……せーべつチェーック」

「ギャァァァアアアア!」

突如間をまさぐられ、スズメは思わずビェトカに球を叩きつける。

「いった! うわ、怒らせた! ゴメンてゴメンて」

「フ――――――!!!!」

「騒がしいぞ。何ごとだ」

ふと聞いたことの無い聲が窓の外から聞こえてきた。

その聲の主は用にガラス戸を開けると部屋の中へとってくる。

「おっ、フニャ貓! このメス貓ってアンタのガールフレンド?」

「知らん」

恐らくビェトカに通じては無いだろうが、フニャトは律儀にそう言った。

「フニャちん!!」

「うわっ、なんだお前は! 引っ付くな!」

「あ、やっぱガールフレンドなんだぁ」

じゃれ合う貓2匹の様子を見てビェトカは勝手にそう判斷する。

「フニャちん助けてフニャちーん!!」

「なんだフニャちんフニャちんと主人みたいなマヌケなあだ名で…………主人?」

その姿は完全に貓。

しかしよく見ると頭頂部に跳ねたアホ、癖のあるミルキーブロンドの並みとどこかで見たような特徴を持っていた。

「まさかお前、サエズリ・スズメか!?」

「そうですよー!!!!」

場所を変えて機甲科寮屋上。

フニャトお気にりの場所その1に2匹はいた。

「主人、何故貓に」

単刀直に聞いてくるフニャトに、スズメは頭を抱える。

「起きたらこんなになってたんですよー! そんなの分かるわけないじゃないですかー!!」

「因果応報と言うだろう。何か原因があっての結果だ。よく思い出すのだ主人よ」

「えっと、関係……あるかは分からないですけど、変な夢を見たような…………」

「夢?」

「目覚めよ、勇ニャスズメ、えっと、悪の大ニャ王を倒せ、みたいな?」

スズメはうろ覚えな夢の容をたどたどしく口にした。

その容を聞きフニャトと瞳が僅かにだが大きく開かれる。

「心當たりがあるんですか?」

「実はだな主人。最近、貓たちの中である噂が囁かれているのだ」

「貓たちの噂……」

「ああ、ステラソフィア機甲科寮の裏に貓たちの集會所があるのだが……」

「あ、知ってます! たまにこっそり覗きに行くんですよねー」

「そこに、選ばれし貓にしか抜けないと言う聖なる貓じゃらし……通稱、選定の貓じゃらし(カリニャーン)が生えており、それを抜いたものは貓たちを救う勇ニャであると」

「選ばれし貓にしか抜けない貓じゃらし……あ」

「心當たりが?」

それは昨日の夕方。

暇を持て余したスズメは機甲科寮裏のビオトープ。

そこをさらに奧に進んだ場所にある野良貓たちの集會所に足を運んでいた。

そこでは、一本の貓じゃらしに代ずつでじゃれつく貓たちの姿。

いや、じゃれついていると言うよりは……。

「抜こうとしている……?」

スズメはそっと貓たちに近づきその様子を観察する。

たしかに貓たちはじゃれている、と言うよりはその貓じゃらしを口でくわえたり、前足をかざしたりしながら引き抜こうとしているようだった。

「ちょっと手伝ってあげよー」

そんな軽い気持ちでスズメは貓じゃらしに手をばし――ブチッという音と共に引き抜いた。

「あの時、周りにいた貓が驚いたような顔をしてすぐ逃げてっちゃったんだけど……もしかして、アレ?」

「ソレだな」

ソレだった。

「して主人よ。カリニャーンはどうしたのだ?」

「えーっと、そこに置いてきちゃった」

所変わって機甲科寮裏の貓の集會所。

スズメとフニャトはカリニャーンが生えていたと思しき辺りを散策していた。

「確かこの辺りだったはずですけどねぇ……誰か持ってっちゃったんですかね?」

「また面倒な」

その時、野良にしては綺麗な銀並みをした貓がスズメの目にる。

銀貓は何やら必死に地面にしがみつき、食いつき、前足と後ろ足をバタつかせていた。

「主人、あの貓の口元を見ろ」

「あれは……」

フニャトの示す先には一本の貓じゃらし。

銀貓はその貓じゃらしを持ち上げようとしているようだった。

「ナンで……ナンで持ち上がらないのよ! このカリニャーンを手にれてッ、あのニャタンに復讐しないといけないのにッ!」

それからも何度となくカリニャーンを持ち上げようとする銀貓だったが、結局持ち上がらない。

ついぞヘトヘトになった銀貓がその場にうずくまった時、スズメたちに気づいた。

「ナニ、アンタたちも挑戦者ァ?」

「挑戦者と言いますか……それ、私のっぽいので」

「ナニ言ってんのアンタ。このカリニャーンは選ばれた貓しか手にでき……な…………」

軽々とカリニャーンを持ち上げるスズメに銀貓は開いた口が塞がらない。

「どうやら、本當に主人が選ばれし勇ニャみたいだな」

「フニャちん持ってみて」

「手渡すな! せめて地面に置け!!」

「まさか、コンナやつらが選ばれし勇ニャ!? ふざけんじゃないわよ!」

カリニャーンで遊び始めるスズメとフニャトを目に、銀貓の怒りが発。

「うわっ、襲ってきた!」

銀貓の鋭い貓パンチがスズメを襲う。

「ちょっと待ってください! アナタは大ニャ王ニャタンを倒したいんですよね!?」

「そうよ! その為に、ワタシは、カリニャーンがっ、必要なのッ!!」

「ならば私たちと一緒に來ませんか? 私たちにはニャタンの報が必要です! ニャタンのことをよく知ってるアナタが來てくれれば……」

スズメの言葉に銀貓は攻撃をやめた。

スズメが一安心したのもつかの間。

「ならばワタシに力を見せてみなさい! ニャタンを倒せるだけの力を!」

再び銀貓が襲い來る。

「主人、カリニャーンを使え!」

「だけど、あの貓さんを傷つけるわけには……」

「忘れたか、カリニャーンは貓じゃらしだ! 貓じゃらしをどう使うかは――主人ならよくわかっているはずだ!」

「貓じゃらし……そうでした! 行きますよ、カリニャーン!!」

スズメは銀貓の目の前でカリニャーンを揺らす。

その軽快さに銀貓は思わずカリニャーンに手をばしてしまった。

「ほれほれほれ」

「んにゃぁ〜ん、にゃあぁ…………ハッ!?」

ひとしきりじゃれた後、銀貓は正気を取り戻す。

「これが……全ての貓をじゃらしてしまう聖貓じゃらしカリニャーンの力……負けたわ。アンタ、名は?」

「私はスズメです。こっちはフニャち――」

「フニャトだ」

「アナタの名前は?」

「ワタシに名前はないわ。復讐貓、とでも呼べばいいわ」

「えー、名前がないのは不便だよ。じゃあ、ニャトカ! アナタの名前はニャトカです」

「なっ、勝手に名前を付けんじゃないわよ!」

そう言いながらも、ニャトカはどこか嬉しそうだった。

「元人間ねー、どうりで勝手に名前を付けるワケだわ」

「勝手に名前も付けるが、勝手にあだ名も付けるぞ」

「えー、かわいいじゃないですかー。フニャちん」

「主人よ、前々から言いたかったのだが……」

不意に視界の端に黒い影がチラつく。

それはスズメたちの行く手を阻むよう壁だった。

「おい、おめーか聖なる貓じゃらしカリニャーンを抜いたってのは!」

いや、壁のように立ちはだかる3匹の黒貓たちだ。

「ほれほれ」

「「「んにゃぁぁぁあああん」」」

「チョロい」

カリニャーンのひとじゃらしで黒貓トリオは威勢を削がれる。

ひとしきりじゃれた後、黒貓トリオの1匹。

リーダー格と思しき貓が言った。

「勇ニャ様……」

「様付け」

「私たちは大ニャ王ニャタンの命によりあなたたちを妨害しに來ました」

「敬語」

「私たちは完敗です。しかし、私たちが負けたと知ればかの方がき出すでしょう」

「大ニャ王、ニャタン……」

「ええ。しかし、今のあなた方ではニャタンの闇の力には勝てません」

「勝てない……?」

「ナニ言ってんのよ。こちとらユーニャよユーニャ! なめてんの?」

「それだけニャタンの闇の力は強大なのです」

「その通りだ」

その時、臓腑の底に沈むような重い聲が響いた。

聲を聞いた黒貓トリオは震え上がる。

そう、ヤツが來たのだ。

「大ニャ王ニャタン……!」

貓の中では大柄な方のフニャトをはるかに上回る巨

ドブに汚れたようにくすんだ並み。

鋭い眼はあらゆる貓を竦みあがらせる。

「特上貓缶の仇ィ!!!!」

ニャタンの姿にニャトカが一も二もなく襲いかかった。

「ふん」

ニャトカの一撃は、鼻を鳴らしたニャタンから発せられた闇の瘴気に弾かれる。

闇をまとったその姿はまさに貓の中の魔王――ニャ王だ。

「ニャトカ!」

「ッ……ヘーキっ!」

「貴様が伝説の聖なる貓じゃらしカリニャーンを抜いたという貓か」

ニャタンは口の端を釣り上げ、邪悪な笑みを浮かべる。

「見たところ半貓前……しかし、危険の芽は早めに摘んだ方がよいだろう」

「こちらこそ、探す手間が省けました。大ニャ王ニャタン――勇ニャの使命としてアナタを倒します!」

「ふふ、來いッ!!」

スズメはカリニャーンを振りかざし、ニャタンをじゃらす。

しかし、

「カリニャーンが、効かない!」

あらゆる貓をじゃらすというカリニャーンの効果が全く発揮できてない。

「我が闇の力。けてみよ」

「カリニャーン!!」

しまいにはニャタンの闇の力でカリニャーンの"穂"が剝ぎ取られてしまった。

「そんな、これじゃあ貓じゃらしじゃなくてただのです!」

「スズメ!」

ニャトカも必死で応戦するがニャタンは強力無比。

「クソっ、仕方ない。お前ら、勇ニャ様を助けるぞ!」

「「アイアイサー!」」

リーダー格の黒貓の號令一下、2匹の黒貓がニャタンに襲いかかる。

「黒貓さん!」

「勇ニャ様、ここはいったん引いてください!」

「でも!」

「よろしいですか勇ニャ様。カリニャーンが使えなくなった以上、ニャタンを倒すのは不可能です」

歯をくいしばるスズメに表いニャトカ。

「しかし勇ニャ様」

そんな2匹を宥めるように、リーダー黒貓は優しい口調で言った。

「まだカリニャーンは死んだ訳ではありません。この林の奧深くにいる神を極めた貓を訪ねるのです」

「神を極めた貓……」

「彼に會えばきっと、カリニャーンはその力を取り戻し、ニャタンの闇を打ち払うを教えてくれるはずです」

リーダー黒貓はスズメにそう教えると、その背を向ける。

「では、お行きください勇ニャ様!」

「待ってください! アナタは――アナタはどうして私達を助けてくれるんですか!?」

「わたしは弟たちを傷つけないためにニャタンの配下にった――ですが、それは間違いだったのだと気づいたのです。貴の貓じゃらし捌きをけて」

「黒貓さん……」

「行ってください。わたしたちステラソフィアに住む全ての野良貓のために!」

「ありがとうございます。行こう、フニャちん、ニャトカ!」

フニャトとニャトカは頷くと、スズメに続きその場を後にした。

「神を極めた貓――どんな貓なんでしょう。っていうか神って?」

「きっと貓に伝わる蹟――ニャのことね」

「ニャ?」

「まさか……実際に使える貓がいるというのか!? あのニャを!」

「フニャちん知ってるの……?」

「詳しくは知らないが――人間たちが使ういわゆる魔を貓に最適化した技だと聞いたな」

「つまり、魔使貓ってことですか……」

ニャ貓を捜して林の中を進むが、それらしき貓の姿は見當たらない。

「ニャ貓さーん? どこですかー?」

そう呼びかけながら散策をしていると、突如草むらがうごめく。

「ニャ貓、さん?」

「ナーンカ嫌な予……オンニャの勘ってゆーか」

ニャトカの勘は當たっていた。

ザザザザザザと激しい音を立てながら、茂みの奧から現れたのは巨大な巖山。

いや、

「これは――亀か!!」

圧倒的巨を持った山のような黃金の亀。

「あの亀、前にステラソフィアで暴れてた……確か名前はキンピカオオギルガメ!!」

スズメはその亀のことをアオノから聞き知っていた。

機甲科寮裏のビオトープを管理している子生徒アナマリアが連れてきたという巨大かつ兇暴な亀キンピカオオギルガメ。

本來であればとてもグルメであるというキンピカオオギルガメ――しかしよほど気が立っているのかスズメ達の姿が目にると突如襲い掛かって來た。

「マズいぞ主人!」

「分かってます! なんとかここから逃げましょう」

「逃げるったって――あのカメ、図デカいクセに……早いッ」

「くっ、なんとか撃退するしか――――ムーンサルト……ストライク!」

スズメのバク転宙返りからの引っ掻きがキンピカオオギルガメに命中する。

「やっぱり固い!」

だが、スズメの小さな貓爪ではキンピカオオギルガメに傷一つつけられない。

「スズメ! ワタシだって――戦う!!」

ニャトカがどこで見つけたのかロープをくわえてくる。

それをキンピカオオギルガメに絡みつかせ、転倒を狙うがさすがに重量のあるキンピカオオギルガメ――そう簡単に転ばせることはできない。

「フニャ貓! アンタもロープをくわえなさい!」

「ふっ、あの小娘みたいな口を利く……良いだろう。主人、目を狙え。カメのきは私達でなんとか抑えよう」

「分かりました――けてください。私の、一撃ィ!!」

スズメの一撃にキンピカオオギルガメは怯んだ。

そして興を削がれたとでも言うようにキンピカオオギルガメは茂みの中に戻っていく。

「驚いた。あの亀を撃退するなんて」

その時、聲が聞こえた。

「もしかしてアナタは――ニャ貓さん?」

「そういう君は勇ニャだな。そしてその連れか――わたしはニャ使ゲルニャ。歓迎する」

スズメたちはゲルニャの住処――彼が言うには"工房"に通される。

「これが伝説の貓じゃらしカリニャーンか。無殘な姿だね」

穂が完全に剝げてしまったカリニャーンを見てゲルニャは言った。

「ですけど、ゲルニャさんならカリニャーンを復活させる方法を知っていると聞きました」

「ニャタンを倒す方法もね」

「そうだな。確かにこのカリニャーンは使いにならないが――死んでいるわけではない。君達の実力はギルガメとの戦いで見せてもらったし……良いだろう。案しよう」

「案……?」

ゲルニャに連れられて來たのは小さな湖だった。

「わたしは神を今までけ継いできた。そんな中で、こんな言い伝えがあったんだ」

"勇ましき貓の持つ砕けし時、聖なる湖水で清めれば真なる輝きを取り戻すだろう"

「つまり、カリニャーンをここに浸せばいいってことですか?」

「ああ。そう聞いている」

スズメがカリニャーンを湖に浸した時――空からの梯子が舞い降りた。

湖の水と、空からのがカリニャーンに力を與える。

目もくらむような閃が弾けた瞬間――カリニャーンは小麥に輝く神々しい貓じゃらしへと変貌していた。

「これがカリニャーンの新しい姿――名付けるのなら、エクスカリニャーだな」

「エクス、カリニャー……」

「コレでニャタンの闇の力も跳ね除けるってワケ?」

「闇の力を完全に跳ね除けるのは難しいかもしれない」

「ハ? だったらニャタンを倒せないジャン!!」

ゲルニャの言葉に怒りが隠せないニャトカが食って掛かる。

「落ち著くんだ。ニャタンの闇の力――それはわたしたちニャ貓に伝わる神によって封じ込めるさ」

「ゲルニャと言ったな。つまりお前は、私達についてくるつもりか?」

「そうだ。君達についてく。大ニャ王ニャタンを倒すために」

ゲルニャの言葉にスズメは頷いた。

「わかりました。行きましょうゲルニャさん。一緒に!」

「どーせだからさ、なんかチーム名みたいなの考えない?」

「チーム名か。いい考えだと思う。結束力が高まるからな」

「主人よ、そんなことを言い出したのだがどうすれば……」

「良いじゃないですかチーム名。私に一つ、案があります」

「マジで? 聞かせて聞かせて」

「そうですね――ニャールカ、というのはどうでしょう!」

「ニャールカか……いいね。シンプルで可憐さもじられる。わたしは賛だ」

「ワタシもワタシも!」

「フニャちんは?」

「別に斷る理由はないが――つまりアレだろう? あの號令を言うことになるのだろう?」

どこか呆れたように言うフニャトにスズメは「當たり前じゃないですか」とフニャト額を小突く。

「では――ニャールカ、ド・ボイェ!!」

そこは慘狀となっていた。

地面に蹲る黒貓たちの他、彼らの勇気に銘をけ駆けつけた野良貓たちが、しかしニャタンの圧倒的な力に対抗できず敗退を喫した痕。

「ちくしょう……やはり、マタタビもダメだったか!」

リーダー格の黒貓が地面に球を打ちつけながら打ちひしがれる。

寧ろ、味方の多くが泥酔狀態となり損害を広げるばかり。

「勇ニャ様は、無事にニャ貓に出會えたのか……!?」

瞬間、ニャタンの真上から木の実が大量に落ちてきた。

「なんだッ」

その木の実に混じって急降下してくるのはニャトカ。

そのまま一気にニャタンに飛びかかる。

「キサマは勇ニャの連れか! ということは、戻って來たか勇ニャよ」

「はいっ!」

木々の合間を影が走る。

その影は一気にニャタンへ距離を近づけると、

「エクス、カリニャー!」

聖貓じゃらしエクスカリニャーでじゃらした。

聖なる力と闇の力がぶつかりあう。

以前と比べるとスズメにも手応えがあった。

しかし、まだまだ闇の力にかなわない。

「フニャちん!」

「隙を作ればよいのだろ?」

フニャトは全全霊をかけ、ニャタンに當たりをかます。

し怯んだその隙を見てスズメがんだ。

「ゲルニャさん!」

「ああ。行くぞ、勇ニャ」

ゲルニャの周囲の空気が変わる。

それはゲルニャを中心として渦巻くニャ力のせいだ。

「我らがニャ貓に伝わりし伝、けてみろ。ライト・ニャ・ライト」

ゲルニャの前足にが舞い散り塊となる。

その塊をゲルニャはニャタンに解き放った。

「この力は……!」

「そうだ。神話の時代、闇の貓を打ち破ったという伝説のの貓の力だ。勇ニャ!」

さらにそのはスズメに燃え移り、スズメの力を沸きあがらせる。

「エクスカリニャーにの貓の力――それが組み合わさった勇ニャの力は無敵だ。行け!」

「サエズリ・スズメ、行きます!! エクス――」

スズメはを大きく振り上げると、その目でしっかりニャタンを見據える。

「カリニャァァァアアアアアアアアアアア」

の一閃がニャタンの闇を焼き払った。

「勇ニャよ。勇ニャスズメよ」

の中、聲が聞こえる。

それはどこかで聞いた聲。

そうだ、確か夢の中で……。

「勇ニャスズメよ、よくぞニャタンを打ち破った!」

「アナタは……?」

「私は貓々にの貓と呼ばれる貓じゃ」

「つまり、神様?」

「そんなところだろう。勇ニャスズメ、よく戦った。その働きを稱え、汝に褒を取らせよう」

「褒、ですか?」

「ああ。願いを1つ、葉えて見せよう。マタタビがしい、一生好きなだけキャットフードが食べられる、あるいは貓の世界の王者となることも可能じゃ」

「えーっと、あの、私人間なんで、人間に戻してもらってもいいですか?」

「貓世の全てを手にれる。貓の神になる。なんでもよいぞ勇ニャスズメよ」

「いえ、貓世の全てとかんでないですから。人間に戻してくださいよ」

「…………そんなんでいいのか? なんなら永遠の命とかでもよいぞ?」

「人間」

「………………わかった」

「なんでそんなに渋々なんですか」

再びスズメの視界にが溢れた。

「人間に戻れる……」

そう思うと同時に、フニャトやニャトカ、ゲルダと話せなくなることにし寂しさもじた。

気付けばスズメは人間に戻っていた。

視界が高い。

しっかりと両足で自立できる。

ふと足元を見ると3匹の貓がスズメにすりよってきていた。

「フニャちん、ニャトカ、ゲルニャさん」

「にゃあ」

「ニャタンは?」

スズメが目を向けると、地面に仰向けに倒れるニャタンの姿があった。

おもむろにスズメはニャタンに近づく。

スズメの姿に気づいたニャタンは目を見開いた。

「もう、他の貓をいじめたりしたらダメですよ」

スズメの言葉が通じているように、ニャタンは目に見えてシュンとなる。

周囲の貓たちが「ニャーニャー」と歓聲をあげるように鳴いていた。

「……ってことがあったので、最近よくブローウィングの部屋に野良貓が來るんですよ」

「いやいやいやいや、ナニそれナンの話!? てか、登場人……貓? どー考えたってワタシらモデルだし!」

「ほら、銀の貓。あの貓はビェトカと気が合いそうですよ」

「あの貓がニャトカね。あと、ニャ貓っていったっけ。本當にスズメの言う通りを使えるならなんか使って見なさいよ」

ビェトカの言葉にゲルニャはそっぽをむいた。

「ゲルニャさんがそうホイホイ使っていいものじゃないって言ってるよ」

「うーん、噓くさァ……」

「まぁ、噓っぽいですよね」

スズメは2匹の前に屈むと、エクスカリニャーをゆらした。

きっとこれからもステラソフィアの貓たちの間で語り継がれるだろう。

伝説の勇ニャスズメ、その伝説が。

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