《機甲學園ステラソフィア》第53話:Který Soudí Spravedlivě

Který Soudí Spravedlivě

-正しくお裁きになる方-

その日は記念の日だった。

ステラソフィア學園機甲科の多目的ホール。

正面のステージには「第23回ステラソフィア機甲科卒業式」と書かれた垂れ幕が下がり、大勢の卒業生とその両親が集まっている。

そして、卒業する先輩の晴れ姿を一目見ようと集まった在學生たち。

人々が見守る中、壇上に1人のがマイク片手に現れた。

の落ちたような白のツインテールに眼帯をしメイド風のコスチュームにを包んだそのは宣言する。

「この卒業式は、我々バタフライ盜賊団が乗っ取った!!!」

「ナンなのよあの変なコスプレ! 盜賊ゥ? バッカじゃないの!」

スズメに連れられ、多目的ホールの二階から卒業式の様子を伺っていたツバメが突如現れた怪しげなメイドに悪態を吐く。

「まぁまぁツバメさん、落ち著いて……」

「確かに格好は変だけど、本の盜賊みたいですからね。今は聲を小さく。危険ですから」

「スズメ先輩、何か知ってるのでありますか?」

「うん、今日の朝のことなんだけど……」

その日の朝、卒業式を控えたビェトカがウキウキでメイクをしていた。

「……なんかケバくないですか?」

「えー、そう? このめちゃ盛りメイクを參考にしてみたんだけどなー」

ビェトカが示したのは1冊の誌。

ビェトカは意外とこういう雑誌を読していた。

「そもそもこの本に載ってるメイクってケバいヤツばっかじゃないですか。頭もそんなに盛って……いつの時代のギャルですか?」

「えー、ナウくない?」

「まずその言い方がナウくない」

スズメの忠告――というよりは批判を、だがビェトカは気にも溜めず卒業式の支度をする。

ふと、スズメが目が向けたのはテレビ畫面。

「へぇ、盜賊団が刑務所から獄だって……しかも、この近くですよ」

獄ぅ? ヘボい警備してんのね。ま、ワタシだって並のムショなら余裕で――バタフライ盜賊団……!!」

ニュースで報道されているその名前にビェトカの聲のトーンが下がる。

「知り合いですか?」

「まぁ、傭兵時代の馴染みってーか、この前再會祝いにムショにぶち込んだってーか」

「あぁ……」

「ちょっとばかし厄介なコトがあるかもね……」

「って事はビェトカの所為! ほんっとふざけてるわね」

「ビェトカは悪いことはしてないよ。逆恨みです」

「フン、スズ姉をこんなことに巻き込んだ時點で十分に悪いわよ!」

割と平然としているスズメたちに対し荒事には慣れていない、特に卒業生の保護者たちの間には揺が走っていた。

それも仕方ない。

周囲はアンジェラの部下たちが思い思いの武を手に取り囲み、更に外から聞こえるのは機甲裝騎の足跡。

逃げ場はない。

恐怖を押し殺したようなざわめきの中、アンジェラが高笑いをした。

「さて、完全に包囲されたこの狀況……我々の要求を聞かない場合どうなるか……わかるな?」

アンジェラの言葉に一同は押し黙る。

その沈黙はアンジェラの言葉を理解しているという返答になった。

「よかろう。では最初の要求だ。傭兵アルジュだ! 我々を牢獄にぶち込んだピシュテツ・チェルノブラヴァー・アルジュビェタを出せ!」

當然と言えば當然の要求にビェトカは頭を抱える。

「なんか貴のことを呼んでるみたいだけど? 何、知り合い?」

どこか苛立ちの混じった聲でビェトカにそう言ったのはエルザだ。

「えーっとまぁ、傭兵時代の知り合いてか、腐れ縁てか、この前電車をハイジャックしてたから捕まえた所為で逆恨みってか――うっわ、面倒くさ!!」

「ならさっさと自分を引き渡して殺されて來なさい。正直迷

「ねーそれヒドくない!?」

「おいそこ、煩いぞ!! 命が惜しくないのか!!」

外からズダンと銃撃音が聞こえる。

恐らくは、外にいる機甲裝騎がアンジェラの指示で威嚇撃を行なったのだろう。

「ほらほらほら、行きなさいって! 貴ならあんなヤツら余裕でしょ!?」

「うーん、人質がいなければなぁ」

だが、ここで手をこまねいていても仕方ない。

せめて時間稼ぎをとビェトカが重い腰を上げようとしたその時、1人のがステージへ立った。

「なんだお前は!」

「ワタシはチューリップ・フランデレン。このステラソフィアの學園長だ」

「學園長ってことはオエライサンだな。なんだ? アルジュだってうちの生徒、渡しはしない! とかイイハナシダーをしにきたのか?」

「そうだな。アルジュビェタを出せというなら、こちらとしても1つ、頼みを聞いてしい」

フランの言葉にアンジェラは鼻を鳴らす。

「ふざけるな、と言いたいところだがこのアンジェラ様は優しいからな。言ってみろ」

「見ての通り今は卒業式の真っ最中。せっかくだ、貴に祝辭をお願いしたい」

「はんっ! しゅく――え? 祝辭??」

途端に周囲が騒がしくなる。

しかしそれは卒業生や保護者たちの聲ではない。

「祝辭! 祝辭だってよ!!」

「マジで!? やったじゃん姉貴!!」

「うぅ……まさかリーダーが祝辭だなんて、泣けるっす」

「晴れ舞臺! 晴れ舞臺です! 寫真撮らなきゃ寫真!!」

にわかに騒ぎ始めたのはアンジェラの部下たち。

リーダーの華々しい姿を一目見ようとその視線をステージ上へ注ぐ。

その真っ直ぐな視線をけてはアンジェラも嫌だとは言えない。

マイクを握りなおし小さく咳払いをし、言った。

「い、いいだろう。せめてものけだ」

アンジェラの言葉にフランは満足気に頷くと卒業生や保護者に向かう。

「ではここで、バタフライ盜賊団代表アンジェラ氏より卒業生に向けての祝辭を述べてもらう。どうぞ」

「あー、えーっと……コホン」

アンジェラは改まると祝辭を述べ始めた。

「本日はお日柄もよく絶好の卒業日和、そして盜賊日和となりました」

「盜賊するならお日柄は悪い方が都合よくなくなくない?」

「確蟹〜」

「そこぉ! うるさいぞぉ!」

「サーセンっすリーダー!」

拙くも必死で祝辭を述べるアンジェラと応援してるのか茶々をれてるのかよくわからない部下達という狀況に恐怖に支配されていた空間がどこか呆気に取られるような空気に変わっていた。

「あの人たち、馬鹿でしょ?」

「そーなんだよねェ……」

先程とは違った意味でビェトカは頭を抱える。

「ということで、諸君らの門出を祝いたいと思う! おめでとう!!」

「うぉー! 即興で祝辭を言い切るなんてさすがっす!」

「姉もおめでとう! 祝辭なんて大任よくやり遂げました!!」

「以上、バタフライ盜賊団代表アンジェラ氏でした。では卒業生代表ピシュテツ・チェルノフラヴィー・アルジュビェタ、前に」

「うわぁ……呼ばれちゃったよ」

「仕方ないじゃない。行ってきなさい」

フランに呼ばれ、エルザに背中を押されてビェトカは渋々と壇上に立った。

「久し振りだな。傭兵アル……え、誰?」

現れたビェトカの姿に思わずアンジェラはそう尋ねてしまう。

それもそうだろう、やたらめったら盛られた髪型にケバいつけまつげに雑なメイクを施されたビェトカの姿はアンジェラのよく知るビェトカとはかけ離れていたからだ。

「ワタシだって。アルジュビェタ」

「いやいやいやいや、なんだ、いや、なんだ、いや……噓だ!!!」

「ナニよその反応!」

「頭にうんこ乗せた挙句、顔にフナムシくっ付けてる怪人ギャルがアルジュなわけないだろ!! 証拠だ! 証拠を出せ! お前が傭兵アルジュだという証拠だ!!」

「テメェぶっとばすぞ……ったく、証拠を出せばいいのね。証拠ね!!」

暫く考えた後、ビェトカはポンと手を打つ。

「ワタシがロメニアの施設に侵する任務をけた時だけど、勝手について來た挙句トイレを我慢できなくなってらしたコトあったよね」

「は、はぁ!?」

「あの後から作戦の時にはオムツ履くって言ってたけど今も履いてんのアンタ?」

「ちょ、ちょ、まっ、そんな事実はない! 事実はない!! じ、事実はないが、どうやら本らしいな。いや、話の容がわたしとアルジュしか知らないことだったからって訳じゃないぞ! その言いとか態度とかがアルジュだなーって思っただけで決しておらしなんてしてないぞ、してないからな! いいな!!!???」

「大きい方だったらもっと大変だったケド、小さい方だったからよかったわ」

「うるさぁぁああい!!! わかったから。もうわかったから!!!!」

アンジェラはハァハァと肩で息をし呼吸を整える。

「今のはカットしろ。カッコイイところから行くぞ」

にぃと口元を釣り上げ、仕切りなおすアンジェラをカメラのフラッシュが襲った。

「久しぶりだな、傭兵アルジュ……」

「あー、んで、目的はナニ?」

パシャパシャ、パシャパシャと焚かれるフラッシュがアンジェラとビェトカの2人を照らした。

「我々を牢にぶち込んでくれたお禮だ! さて、どうしてやろうか……」

「フィルム! フィルム持ってきて!!」

畫班撮れてるかー?」

「バッチグーよ〜」

「えぇいうるさい!! お前らなんださっきから!? フラッシュ焚きまくったりやたら大聲でお喋りしたり!! 今、何をしてる最中だ!?」

「卒業式っす」

「そうだ!! 卒業式だぞ、しは靜かにできんのか!!」

「すんまそん、ウチら卒業式とか出たことねーんで」

「それでもこの靜粛な空気くらいわかるだろう! 卒業式の邪魔になるから騒がしくするな!」

「ほーい」

「…………えぇ、どの口がソレ言う?」

言いしれない倦怠をビェトカが襲う。

どこから突っ込んだらいいのか、結局何がしたいのか全く理解できない謎の空気に混するばかりだ。

そんな中、フランがさりげなく元をかいた。

「フラン先生から合図です。ŠÁRKA《シャールカ》、DO BOJE(ド ボイェ)」

「いつのまにフラン先生と連攜をしたのでありますか?」

「ああいえ、何となくいいタイミングだなと思ったので」

「つまりそんな合図は決めてないのでありますね」

「そうなんですけどね! ですけど……別の合図は決めてますよ」

スズメはニッと笑うとポケットの中から1枚の紙を地面に落とす。

瞬間、黒い影がサッと出てきてスズメの落とした紙をどこかに持ち去った。

「では、我々の要を聞いてもらおうか! 傭兵アルジュ――わたしの元で働け!!」

「はぁ?」

「學校も卒業するのだろ? お前のことだから就活もせずに"どーせなんとかなるっしょー"とか言いながらダラダラ日々を過ごしてるに違いない! ならば我々バタフライ盜賊団で働け! 何、報酬はたっぷり出そう!」

「アンタねぇ、ワタシがアナタの元で働きます! とか言うと思ってんの?」

「その為の渉材料ならここにある。分かるだろ?」

アンジェラが見回したのはその場にいるステラソフィア生とその保護者達。

「アンタ、ワタシを仲間に引きれる為だけにこんなコトを?」

「まぁな。斷れば殺す。お前だけじゃない、この場にいるヤツら全員な!!!!」

「リーダーはマヌケっすが強盜や殺人には躊躇ないですよ~。こわいですよ~」

「そうっすそうっす。必要があれば殺っちゃう人っすからねぇ」

「まぁ、必要なかったら殺さないんだけどね。看守は殺さなくてよかったの?」

「えーいうるさい!」

ふざけた雰囲気だがビェトカはアンジェラの言う通り、殺すと言えば殺すタイプだと知っていた。

敵を殺さなければコチラが殺される――そんな世界で2人は生きてきたからだ。

ふと、アンジェラの足元に影がさっと走る。

「なんだ?」

そこに居たのは一匹のネズミだった。

アンジェラの顔を見上げ、鼻をヒクヒクとさせている。

「なんだネズミか……邪魔だ、あっちいけ!」

「ネズミ……」

アンジェラがネズミを追い払おうとしたその時――そのネズミが急にアンジェラに飛び掛かった。

「うわ、なんだ、やめろ!!! おい!!!!」

「ナイス、アッティラ!!」

ビェトカは咄嗟に近くにいたアンジェラの部下に蹴りを放つ。

「行って! フニャちん! ニャトカ! ゲルニャさん!!」

「にゃあ!」

更にスズメの號令で窓の外から3匹のネコが現れ、アンジェラの部下に飛び掛かった。

「助けに來ましたよ、サエズリ・スズメ!」

「卒業式を乗っ取る悪い人は――許しません!」

窓を蹴破り現れたのはズィズィとクラリカ。

元軍人らしい素早いきで盜賊団を制圧していく。

「さっすがァ! んで、外の裝騎は!?」

「外はローラが抑えてるよ」

「ピピピッピ!」

パスタサーバーを武のように扱うのはピピ。

「商売道をそんな風に使っていいの!?」

「アルバだからね」

「意味わかんない!」

「よし、今のに避難しろ。教員は生徒と保護者の導を!」

「フラン先生、アタシはアイツらぶん毆ってくるけどいいわよね?」

「ったくサヤカは……好きにしろ」

サヤカは拳を手のひらに打ち付けると、アンジェラの部下の1人に襲い掛かる。

よっぽど苛立っていたのだろう容赦の無い拳撃にフランは思わずサヤカを止めたくなるが避難導が先だ。

「キサマらァ…………!!」

アッティラの襲撃を振り払ったアンジェラは一気に避難中の人ごみに近づくと、その中から1人の子生徒を捕まえ、その首元にナイフを當てる。

「止まれ!!! このがどうなってもいいのか!!??」

ナイフを突きつけられ、恐怖の表を浮かべるのは――

「エルザ!!!!」

「あーもう、最悪……」

「フン、なんだアルジュの友達か!? 都合がいい!! キサマら逃げるんじゃないぞ! このが見たくなければ――がふっ!?」

瞬間、アンジェラの額に小石が叩きつけられ怯んだ。

「チャンス!!」

その隙にビェトカがワイヤーをぶん投げアンジェラを転ばせる。

「Sweet Dream♪」

ビェトカに稱賛の言葉を投げかけながら素早くエルザを確保したのはミス・ムーンライト。

さっきの小石もミス・ムーンライトのスリングショットから放たれたものだった。

「ぐぅぅううううう……!!!!!!」

なんとか取った人質もあっさり奪い返されアンジェラはをかむ。

「ハン、キサマら、後悔させてやる!! 大人しく我々に従わなかったことを後悔させてやる!!!! ディザスタ!!」

「ったくうっさいわね! いい加減おねんねしなさいって!!」

鞭のようにビェトカが放ったワイヤーの一撃。

それがアンジェラに叩きつけられるより先に、1つの影がけ止めた。

黒裝束にを包み、怪しい雰囲気を放つ

バタフライ盜賊団のメンバーの顔は全員把握しているビェトカだが、そのは見たことがない。

それに、ノリの軽いバタフライ盜賊団に似つかわしくない邪悪な気配。

「カンジが悪い。新り?」

「…………」

そのは何も答えない。

しかし、そのから奇妙な波が発せられた。

その波、その気配、その力をビェトカやスズメは知っていた。

「マズい、みんな早く避難を!!!」

「ツバメちゃん、アオノちゃん、外に出るよ! それと――」

「裝騎の準備ね! 悪魔裝騎なんてぶっ飛ばしてやるんだから!!!」

瞬間、ステラソフィアの多目的ホールを側から破壊し、1の悪魔裝騎が降臨した。

    人が読んでいる<機甲女學園ステラソフィア>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください