《幽霊公(プランセス・ファントム)》7-3

「……ねえジーヴァ、あなたも自由になりたいの?」

アドリアンが蹌踉(そうろう)と退場すると、リールゥも「私、お邪魔よねえ」と言い置いて消えた。

二人きりになった寢室で、ぽつりとユーディトは訊いた。

し困ったような笑みが返ってきた。

「ソブラスカ家の契約は、そう悪いものではないからな。特に私にとっては。だから、解消したいとは思っていない」

百五十年毎の婚姻を行う當主は、ほとんどが男だ。彼の言う通り、ジーヴァが束縛された期間は、ほんの僅(わず)かなものだ。

「それじゃ、リールゥは?」

「あいつは、人のふりをすることが、何より楽しいようだからな」

「そう言えば、そうね……」

ユーディトにまとわりついていない時のリールゥは、パリで人と闇に紛れて、々と悪さをして楽しんでいるらしい。

「いずれにせよ、我々はお前たちから代償を得ている」

し申し訳なさそうなジーヴァの聲が響く。

ソブラスカ家代々の一族の壽命が、ジーヴァとリールゥの糧になった。

「でもわたくしは、それをまた返してもらっているわ……」

確かに、自分のが弱いのはの契約のせいだが、ジーヴァはしょっちゅう自分に力を分け與えてくれている。

「當然だ。お前は私の花嫁になるなのだからな」

そっと、今度は彼の額に口づけを落とす。そこはし汗ばんでいて、熱を持っていた。

「もうし、しいか?」

彼の問いかけに首を橫に振った。吸い込まれそうな深緑の瞳が、じっと彼を映す。

「眠ったら、もう大丈夫よ……」

ユーディトは、靜脈が薄くける瞼を閉じた。

*******

「ソブラスカ家の契約は、ほんと悪くないのよねえ」

居間に姿を現したジーヴァを、リールゥの聲が迎えた。

「何だ、盜み聞きか?」

「聞こえちゃったのよ」

しれっとリールゥは答える。

「公爵夫人になるのは楽しかったわ。お灑落も、お喋りも、駆け引きも、謀も、ね」

「………………」

を伴とした當主は、一緒にいて楽しい男ばかりでは無かったはずだ。大が屈折した人間揃いなのだ、ソブラスカ家は。

二人の間に落ちた沈黙に、リールゥは一人言のように付け加えた。

「それでも、もうちょっとだけ、人間が長生きだといいのよねえ……」

契約に従って彼が産んだ子も、皆とうに土の下だ。

どれだけユーディトに力を分け與えても、自分たちにとってはそう遠くない未來に、彼との別れが待っている。

「因業な契約だ……」

ジーヴァのつぶやきは、夜の闇に呑まれた。

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