《親のり人形は自らその糸を切ろうとしている》俺達が知る事故の詳細 ③

【あれは、忘れもしない。

俺が二十歳になった日。

家族でお祝いに水族館に行こうと言われた。

いつものことだ。

でも、今回は違う。

“今日は盛大に祝おう!好きなもの買っていいぞ、律。なに食べよか?”

あれはお父さん、いつも優しくて將來はお父さんみたいになりたいって思った。

“兄ちゃん、やばいよな。お酒飲めるんだよな。大人になったんだから今度はいっぱい奢って貰うぞ!”

あれはお調子者の弟だ。笑顔で天真爛漫。喧嘩もしたけど、仲良しだった。

名前は……白咲春。実は駿と同じ名前で漢字が違うだけ。駿と縁をじたのもこの一つだった。

“……律、おめでとう”

お母さんは元々無口であまり話はしない。でも笑顔が綺麗で優しい。

そんな家庭で生まれ育った俺は思春期も普通にあり反抗期はあったが、不満もなく大好きな家族に囲まれて育った。

“用意出來たか?車に乗るぞ!”

お父さんの大きな聲でみんなが一斉に車に乗り込んだ。

ブーブー

どこからか、スマホのバイブ音が聞こえてきた。

“あ、電話だ。”

お父さんはスマホを耳に當て、そそくさと車から出て、走って玄関に向かった。

車の中から俺達は後ろの窓を見た。

遠過ぎて見えなかったが、眉間に皺を寄せ口に手を當てて話をしているようだった。

その雰囲気からいい報告ではなさそうだった。

“忙しそうだね、父さん”

“……うん”

大人になったら、休日でも頭の片隅に仕事のことを考えないといけないのか。

大変だな……と昔なら他人事の様に思えた。しかし、俺も大人の仲間りになった。もう他人事ではない。

お父さんの背中を眺めながらそうじた。

今思えばだが

お父さんはこの日に限りメールや電話の回數が多かったようにじる。

元々、仕事関係でスマホを見る回數は多かったのだが、その日はそれ以上に見ていた様な気がする。

“なぁ、兄ちゃんはさ大人になったらなにになりたい?”

“明確にはまだ決めてないかな”

“お父さん……の仕事は俺には難しいかも……”

車の中でそんな會話をした記憶がある。

“律に春。大人になるにつれて不安や心配は沢山あるわ。でも誠実で真面目にしていれば必ず大丈夫だから。私がついてるわ”

お母さんは助手席でし振り返り、俺達に伝えた。

誠実で真面目。大人がよく使う言葉だ。

俺はまやかしの言葉の様にじる。

でもそれ以上の言葉が見つからないから、皆が使うのだろう。

數十分電話をしていたが、やっとお父さんが車に乗り込んだ。

“ごめんな。さぁ行こうか”

行くとはどこに行くのか。決まっている。いつもの水族館。

俺と春はいつも以上にワクワクしていた。

やばいやばい!

この日がどれだけ楽しみだったか。

車を走らせていると、お父さんがバックミラー越しに俺の目を見た。

“なぁ、律。たまには春と二人で水族館を回ったらどうだ?”

“え?”

“せっかくの記念日。兄弟水らずで。お父さんもたまにはお母さんと二人っきりで居たくてな”

昔から(死語かもしれないが)ラブラブだった二人。ラブラブの言う言葉が本當に似合っている夫婦だ。

別にさっきの提案に斷る理由も見つからなかった。

“春はいい?”

“別にいいよ。兄ちゃんとデート”

デート……か?

“春がいいなら、いいよ”

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