《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》永遠の火―エターナル・ファイア
「良かったぁ。功したぁ……」
へたりそうになるヘスティアを無言で引き上げて支えるハデス。今までの負擔と安堵はビジョンにまで反映されていた。
プロメテウスも慈に満ちた眼差しを三人に送っていた。彼らの魂を賭けた行為に敬意を表している。
「まったく三人とも無茶をして! さあ。ヘスティア。君の聖火を寄越してくれ。その仕様書をね」
「待ってたわ。持っていって。あなたにしかMCSはいじれないんだから」
プロメテウスはいつものように、爽やかな笑顔を浮かべている。
「ハデスが力を貸してくれるとは予想外だったね!」
「私もヘルメスには思うところがあるからな。相も悪い」
神話ではアフロディーテの策略によりエロスの矢によってハデスはペルセポネーにをした。相談したゼウスにたぶらかされ、彼を拐する。
母親である大地母神デメテルはもともとギリシャ神話でもとりわけ優しいハデスがこのような所業をするわけがないと夫ゼウスの仕業に気付き問い詰めるが、ゼウスは認めるが取り合わない。デメテルは激怒し、世界は荒廃した。
困ったゼウスはヘルメスを派遣し、冥府までペルセポネに連れ戻しにやってくる。様々な説はあるが、冥府の食べを口にしてしまった彼は地上と冥府を往來することになり、ペルセポネがいないことにって地上には冬が訪れるようになったという。
「しかも今回はディオニソスだろう。――あんな癖の悪い奴と同一視されるなんてまっぴらごめんだ」
「納得。大いに同意するよ。後者が主因とみた」
プロメテウスもハデスの心を理解した。いくら古典古代の東方世界で同一視されたとしても、ディオニソスと同一視は斷固拒否したいであろう。
ハデスも否定しなかった。
「東方世界においてはゼウスと並んでディオニソスとハデスが三位一の神格とされていたからね」
アシアは管轄地域ともいえる古代ギリシャの東方世界には詳しい。
「もはや邪教の類いだからな。ディオニソス関連は」
「本當に嫌なのね。でもプロメテウス召喚を手助けしてくれてありがとう。ヘスティアも自壊しないで済んだ」
ハデスのうんざりした顔は、開拓時代でもお目にかかれないものだ。アシアやヘスティアとしてはその表だけで得がたいものがある。
「プロメテウス、できそう?」
恐る恐る尋ねるヘスティア。
「さすがは爐床の神といったところだね。保護系、とくに火の制に関しては卓越している。巨大な力は発生させることよりも制が難しい。プロメテウスの火も然り、だからね」
「いけそうなのね!」
「いける。プロメテウスの火を発展させたもの。この三種の火は【プロメテウスの火】。【聖火】(セイクリド・ファイア)。そして【永遠の火】(エターナル・ファイア)。この三種をMCS機能として発させる」
「三種? 二種じゃなかったっけ!」
アシアが怪訝そうに眉を顰める。ヘスティアが設計した新たな火は二種のはずだった。
「ヘスティア案だと【プロメテウスの火】は抹消して【聖火】と【永遠の火】に移行する計畫だった。とはいっても基幹プログラムともいえる【プロメテウスの火】を消してしまってはこの二種も分岐不可能。プロメテウスの火を殘すことで新たな拡張機能をもたせたんだよ」
「人を死に追いやり、ファミリアの魂を燃やす火は無くしたかったんですけどね。そういうわけにはいかないか」
ヘスティアは心優しい神。魂の火を代償に人を死に追いやるプロメテウスの火を改良したかったのだ。
「ヘスティアの【聖火】はシルエットの潛在能力を呼び起こす。本來なら機の損傷が激しくなった場合に発する機能だったが、パイロットの意思で発できるようになる。連続使用は無理だけどね。當然リアクター出力は限界まで下がる。複數リアクター機は使い得かな」
「ん? ツインリアクターは二回、トリプルリアクター機は三回使えるってこと?」
「そうだよ。構築技士は腕の見せ所になるね」
プロメテウスは微笑む。高能量産機にもツインリアクターは普及するかもしれない。
「そして【永遠の火】。オリンピックの聖火《オリンピアード・ファイア》に限らず、地球では普遍的に存在する消えない炎。記念碑として、天然の火として。火そのものが宗教にだってなり得た。――これは命の燈火を消さないようにするヘスティアの願いを聞きれたものだ」
プロメテウスがヘスティアに笑いかける。人間大好きのプロメテウスが、ヘスティアの願いを無礙にするわけがなかった。
「【永遠の火】は構造限界の閾(しきい)値前後までリアクター出力を上げる、制限版のプロメテウスの火。ウィス出力はプロメテウスの火と比較して8割程度。【聖火】の効果も兼ねているから潛在能力も発する。そのかわり機負荷は同様。10秒後には、全リアクターがぶっこわれる」
「當然の代償ね。本來使うべきではないものだもの。ダブルリアクターだと修理代もバカにならないわね」
「気付いていると思うがアシア。ファミリアたちは寄り添う者のためにプロメテウスの火を使う場合もあるだろう。これは止められない」
「わかっているわ。それでも他の選択肢があるだけ、ましよ」
プロメテウスは重々しく首を振る。これはファミリアにとっても最後の福音なのだ。
『ネメシス星系全域の意識に告げる。古代オリンピアードに倣い、我が祝福であるプロメテウスの火はアテナのもとに焼(く)べられ、ヘスティアの手によって聖なる燈火に。【プロメテウスの火】は昇華された。【聖火】と【永遠の火】となってシルエットの力を引き出せる。新たな炎二種があまねくMCSに今、実裝されたのだ』
プロメテウスは言葉を紡ぐ。あえて本來の【プロメテウスの火】から新たな火二種に増えたような言いに変える。これでよほどの命知らずではない限り、プロメテウスの火を使おうとする者は減るだろう。好き好んでプロメテウスの火を使う者もいまい。
記憶の彼方に消え去るか、殘っていることを見つけ出し、仕様として記録し続けるか。プロメテウス本人は人類に委ねることにした。
『こたびの戦い、このプロメテウスも見屆けよう。ヒトは過去を超えなくてはならないのだから。火を掲げよ。人よ。未來に進め』
言い終えると、プロメテウスの足元が消滅し始めていた。
「時間切れだ。短い時間とはいえ実に有意義だった。ありがとうみんな」
「禮をいいたいのは私の方よ」
「我が愚妹が急に呼び出して迷をかけたな。プロメテウス」
「ありがとう。プロメテウス」
三人がそれぞれ禮を述べる。
「アシアの素直な禮が聞けただけでも十分だよ。コウとも話したかったけど、今回は仕方ないか。ヘスティア。最後に伝えておこう。君が用意したオリンピアードには、もう一つの條件を満たしていた。だからボクもこの場所に來ることができたんだよ」
「もう一つの條件? 何のこと?」
「限界だ。ごめん。またね、みんな! やがて來(きた)る存在(もの)に心からの祝福を!」
そう告げるとプロメテウスのビジョンは消滅した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ヒョウエ! 【永遠の火】だってよ! なくとも死だけは免れたみたいだぜ」
「ヘスティアが賭けに勝ったってことか。あいつぁやっぱり賭博の神じゃないかねえ」
「ヘルメス様だな、それは」
バルドが軽口を叩く。確実な死は避けられた。ならば生き殘るため、ここが腕の見せ所だ。
「兵衛さん! まずは良かった。必ず生きてください!」
コウは心から安堵した。プロメテウスの火は相手のMCSかリアクターを破壊しないと、発者が必ず死ぬシステムだからだ。
「違うな。コウ。勝つためだ。結び目を解けなければ。そして中を持ち帰ることができなかったら俺達の負けなんだ。そのためだったらプロメテウスの火だって使ってみせるぜ」
兵衛はプロメテウスの言い回しにすぐ気付いた。他の構築技士も同様だろう。プロメテウスは追加されたといっていた。プロメテウスの火という機能が消えて無くなったとは一言もいっていないのだ。
「兵衛さん……」
勝つため。兵衛は勝利こそが重要なのだ。
「死なないなら、あの出力は出せないさ。それじゃあ神代の兵には剣先は屆かないだろうな。いざとなったらプロメテウスの火だって使わなくちゃいけねえ。アシアの人々があの侵略者に勝つために」
「わかりました。使わせないためにも、必ず聖櫃の結び目を解いてみせます」
コウが兵衛に約束した。兵衛はの端を歪ませ、戦闘狀態を整える。
「おうよ。――勝つぞ」
「はい!」
兵衛のばかりを案じているわけではない。コウに助けを求めている子供がいる。
――今、外に出してやるからな。
五番機は聖櫃に接近した。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
フェンネルOSが大幅アップデート! WindowsMEから7ぐらいに安定しました。
ヘスティアは人々の生活を守護する神である、戦の火花となって散るフェンネルOSの改変を計畫していました。
いつかはオリンピアードで、プロメテウス召喚を行うためにも。
しかしバルバロイの襲來で計畫を前倒しするハメになりました。コウたちはいくらプロメテウスの火を使っても十秒しかなく無駄死にです。
保険の保険。新たな火は二重三重にプロメテウスの火から「絶対死」を避けるためのものです。とはいえプロメテウスの火は未だ存在しており、結月のようにパイロットが死ぬ間際に発する場合もあるでしょう。
聖火は今までダメージを負わないと発しなかった潛在能力を能的に発させることができます。
しかし一定時間リアクター出力が相當落ちるので、ツインリアクター機が有利になるわけでし。
プロメテウスは誕生する存在に祝福を行いました。もともとすべての植はプロメテウスの手により作られ、ゼウスが命を與えたとしています。
次回、コウが【結び目】に挑戦します
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へたりこむビジョン! アップデート後のOSはし心配? 続きを楽しみという方は↓にあるブクマ、評価で応援よろしくお願いします。
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