ベルトは拳を構えた。

場所は窟。閉ざされたり口の前だ。

何も素手で毆り、崩れた口を吹き飛ばそうとしているわけではない。

もっとも、やろうと思えば可能だろうが――――

優勢すべきは部の報。

だから、ベルトは拳を放った。

≪致命的な一撃クリティカルストライク≫

破壊の一撃ではない。

それは蝙蝠の超音波によく似ていた。

暗闇の中で障害を避けて飛行する蝙蝠。エコーロケーションというらしい。

打撃から生まれた衝撃。

それは部の地面を走り、広い広い窟部に浸していった。

「これは……しまずいな」とベルトは険しい表を見せた。

「急事態だ……部で魔が暴れている。それもかなりデカいタイプの魔。強引だが、中にるぞ」

どうやって？ 周囲に集まってきている競技參加者や運営の魔法使いは疑問に思うも――――

≪二重斷首刀ギロチンエックス≫

ベルトが放ったのは高速の手刀。

言うならば、手を高速でかしているだけ。そのはずなのだが……

口を塞いでいるは巖だ。しかも、ここは極寒地。

吹雪が巖に纏わり付き、生み出した氷が巖を守るように包んでいる。

厄介な塊だ。だが、厄介な塊を――――ベルトは用意に切斷して見せた。

奇跡にも似た技を見た周囲の人々は顔を引き付かせる。　正確に処理できないは、笑いを生み出す。

「き、切り裂いた？　素手で……あははは……そんな馬鹿な……」

「名刀を持った剣士――――いや、剣聖って呼ばれる達人だって、こんな真似はできない」

そんな畏怖混じりの視線をけたベルトは、お道化るように肩をすくめて、

「行くぞ、メイル。　ここからは時間が勝負だ」

「はい！」となぜか嬉しそうな彼だったが、

「……ってタロウ！？」

メイルは、ワイバーンに背中を押させて驚いた。

「どうしたの？　中は危ないから、ここで待っていて……」

「いや、大丈夫だ」とベルトはメイルを遮った。

「この競技のために、俺と一緒に山にって鍛え上げて來たんだ。並みの魔なら、タロウの強さに寄ってすらこないかもしれない……なっ？　そうだろう、タロウ？」

「きゅるる……」とタロウの鳴き聲。

「むっ……」とメイルは頬を膨らませた。

実を言えば、ベルトに急ぐと言われて、彼の脳裏には浮かんでいた景があった。

一緒にパーティを組んだばかりの頃は、よくやって貰っていた方法。

ベルトにを持ち上げられ、お姫様抱っこの狀態で高速ダンジョン攻略。

「最近、やって貰ってません」と呟きはベルトにまで屆かなかった。

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・・

「窟の中は、思ったよりも広いですね」とメイル。

窟部に関わらず、ベルトたちはワイバーンに乗り、高速で飛んでいた。

「あぁ、考えてみたら、ワイバーンレースのコースとして選ばれた場所だからな。複數のワイバーンが低空飛行で通り抜けるテクニカルなコース……そんな予定だったはずだ」

「それだと、奇妙ですね。魔はどこから出現したのでしょうか？」

メイルの疑問は、もっともな意見だ。

コースとして選ばれた場所なら事前に安全を確認されていたはず。

當日だけではなく、數日前から運営側が確認していたはずだ。　本當に危険はないのかと……

「考えられるのは、誰かが人為的に魔を呼び寄せたか？」

「そんな……みんな頑張って、みんな楽しんでいるのに……」

「あぁ、許せないな」とベルトは前方を睨みつける。　靜かな言葉とは裏腹に怒りが隠されていることにメイルも気づく。

「メイル……前方だ、來るぞ！」

「はい！」

２人は、まだ見えぬ魔に対して戦闘態勢にった。