《反逆者として王國で処刑された隠れ最強騎士〜心優しき悪役皇様のために蘇り、人生難易度ベリーハードな帝國ルートで覇道を歩む彼を幸せにする!〜【書籍化&コミカライズ決定!】》【107話】不必要な神格化
謎の傭兵団は、帝國北部のティーレンス地方での目撃証言があった。この場所は、帝都から近いこともあり、警備制も他地方に比べてかなり厚い。
そんな中での正不明の組織の調査。
これは、特設新鋭軍がいているものの、帝國にとっても大きな意味を持つものだ。
「じゃ、會議を始めるわよ」
ここに駐留する部隊の指揮は、主に特設新鋭軍魔導部門に所屬するペトラ、コーネリア、レーヴァルが取る。
騎竜部門所屬のブラッティ、一般兵部門に所屬するスティアーノ、それから特設新鋭軍所屬でない俺に関しては、それに加わるという形での參加となった。
「今回私たちが探す傭兵団は、灣岸都市ノクトの地下水道、もしくは、山間部に隠し拠點を持っていると仮定されている。これを探すべく、探知魔法の得意な私たちが調査に抜擢された」
なるほどな。
容は、ファディの率いる暗殺者たちの方が適任であるように思えたが、魔の使える彼らも、得意分野だったか。
それに、『死神』はレシュフェルト王國の向を探ることに力をれているため、北部の方に人を寄越すことは難しい。魔導部門がこっちの調査を擔當する理由がよく分かった。
「探知魔法を使える子を多めに集めた。だからこそ、戦闘面での戦力不足が懸念されているけど……安心して、なんかいいじの助っ人を呼んでおいたから!」
……で、その助っ人が俺たちか。
視線が一気にこちらに集まっているが、気にしないでおこう。
「分擔は、私の指揮する第一部隊が上部地下水道を擔當。レーヴァルの第二部隊が下部地下水道を擔當。コーネリアの第三部隊は付近の山間部を探すという形になるわ」
ペトラが話を終えると、部隊から手が挙がった。
「あの、第一部隊の戦闘員がないように思えるのですが」
先程確認した部隊振り分けの表を見たが、確かにやや他の部隊に比べて人數がなかった。
平等に人數分けをすることも可能だと思ったのだが。
いや、そうじゃないか。
けた質問にペトラはすぐさま答える。
「だからこその助っ人よ。上部地下水道付近では、傭兵団の目撃証言が特に多い。手薄にするつもりはないわ!」
つまり、俺やスティアーノはペトラの率いる隊に組み込まれると。だからあらかじめ人數を減らしていたのか。
前提として俺たちを強引に捩じ込もうとしていた魂膽が垣間見えた瞬間であった。
「他に質問はある?」
「じゃあ、いいですか?」
「いいわよ、言って」
次にレーヴァルが立ち上がる。
「人數の振り分けが偏っているのは、先程のお話で納得しました。ですけど、第二、第三部隊には練度の高い魔導兵が多數組み込まれていました。いくら助っ人がるからと言って、第一部隊の戦力不足は解消しきれないと思うのですが……」
指揮権を持つレーヴァルだからこその視點だ。
俺から見れば、魔導部門の者たちの誰がどのくらいの力量を持っているかなどを事細かには知らない。
せいぜい名聲のある指揮の実力を小耳に挾む程度だ。
そこら辺、ペトラはどういう風に考えているのだろう。
助っ人といえど、俺とスティアーノ、それから突発參加のブラッティの三人だけ。
これで部隊戦力の大部分を補おうというのだろうか。
「助っ人は、ヴァルトルーネ様の専屬騎士よ」
「────!」
「レーヴァル、貴方は彼に対して大きな憧れを抱いているみたいだけど、実力は半信半疑みたいね」
なんか、語り出した……。
俺のことなんだろうが、どうしてそう得意気な顔が出來るのだろうか。
そして、まるで信仰宗教でも広めているかのように大袈裟な立ち振る舞いを始める。
「貴方たちは知っているかしら? 過去に起こったあの事件のことを」
それから、なんだか嫌な予がする。
彼の言葉に話を聞くために集まっている魔導部門の面々もざわつき始めた。
「そう、あの…… 沈黙の王アルディア大暴走事件を!」
やっぱりそれか……。
周囲の雑音が一段階ほど大きくなった気がする。
「あの、それって……」
「そうよ。あれは確か數ヶ月前のこと。盜賊団との戦闘で囲まれてしまった特設新鋭軍の兵たちの下に、烈火の如く現れたのが、かの専屬騎士──アルディア=グレーツだったのよ!」
「「「おぉ〜!」」」
やめろ、マジで。
恥ずかしくてその場を直視出來なくなっていた。
あの日のことは、個人的に大きな過ちとして、なるべく語らないようにしていた。
どれだけ凄いと言われようとも、あれは間違った行であり、恥ずべき失態だ。
「空高く舞い上がった騎竜、そこから飛び降り、盜賊団の一人を一太刀。その後、數千、數萬もの大軍を前にしても、怯むことなく進む。救いの手を差しべられた特設新鋭軍の兵の一人は後にこう語るの……『あれは、王者の風格だった。沈黙の王アルディア、彼が怒り狂ったことで、盜賊団の大軍勢は一瞬にして消し炭になった』と」
「「「おぉ!」」」
ペトラは拳に力をれて、さも本當にあったことかのように語る。実際は、數千、數萬の軍勢を相手になどしていない。多くて數十人程度の盜賊団を撃退しただけだ。
誇張された表現により、歓聲さえも上がっている。
勘弁してほしい。
「おいおい、アル」
「……ん?」
「良かったな、これでより神格化されるぜ!」
イラッとした。
スティアーノからすれば、他人事。笑ってその場を見ていられるのだろうが、俺からしてみれば、顔から火を吹きそうなくらいに忘れたい一場面である。
スティアーノのスネを軽く蹴飛ばし、俺は大きくため息を吐いた。
転げ回るスティアーノは死にそうなくらいに顔を青くさせているが、知ったことではない。自業自得だ。
「そう、彼こそが帝國の救世主となる男! 専屬騎士アルディア!」
「「「アルディア殿バンザーイ! アルディア殿バンザーイ! 帝國に栄あれ!」」」
最悪だ……本當に。
兵たちを煽っておきながら、ペトラは涼しい顔でしてやったりという表を浮かべる。
「なんか、賑やかで楽しい雰囲気ですね!」
ブラッティの悪気のない一言がグサリと心臓を貫く。
もうこれ以上、追い討ちをかけないでくれ。
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