《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》

三機のシルエットは聖櫃を追いかけるように加速する。

コウしか解除できないため、五番機が先行している。しかし彼らが速度を増すほど、聖櫃も速度を上げているように見えた。

結び目を斬ろうと五番機の刀を抜こうとしたその時、思わぬ所から靜止された。

『抜きの刀を突きつけて近付くことは推奨しません。子(・)供(・)が怖がります』

五番機からの警告に、我に返るコウ。中は紛れもなく子供だ。切っ先を突きつけて追いかけたらそれこそ逃げるだろう。

「ありがとう五番機」

五番機からは返事がない。基本無言を貫く。やりとりはメッセージでの回答が大きい。

だからこそ、こういう制止は効く。それほどに急を要する事態だったのだ。

「アレキサンダー大王の故事に倣うわけにはいかない、か。一刀両斷なら楽だったんだが。――ではどうやってあの封印を解く? 見えるということは、あの子は俺に助けを求めていた」

は助けてとコウに伝えてきた。

早く聖櫃から助け出してやりたい。

『あのね』

「ん?」

聲が聞こえる。

『あのね。ぺんたふぉいるのっとのほどきめさいしょうすうは、になの。めにみえるようにかなめとくびきがあるの。あなたはしゃりんがだいすきでしょう? あなたがさいしょにこうちくしたへいきをおもいだして』

たどたどしい言葉がMCSに響く。車という言葉にはっとする。

『コウ。換は2だと。パンタファイルノット――ソロモンズシールノットは最小で二箇所の解き目があると教えてくれている。留め、つまり要(リンチピン)とくびき(ヨーク)は車ね、その解き目そのもの。あなたにも見えていたでしょう? 五番機がすでに復號を開始している。お願い!』

五番機のなかに因子があるアシアが、すかさず反応する。

「リンチピン? トラクターの留めのことだよな。車の留め? あれか!」

闘技場で見つけた、二箇所のわずかにみえた突起のようなもの。良く見ると絡み目が通してある。

くびきと言われて気が付いたが、2點の突起の間に、巨大な線が一本、若干らかい合いで存在していた。

もつれた絡み目を解くには――

「高次元の暗號は五番機が復號処理を行っている。三次元空間ではそのように振る舞えば――」

五番機が聖櫃に近付いて、五番機は複雑に絡まった五芒星の結び目の集合に腕を突っ込む。

「これか!」

五番機のカメラは結び目のわずかな空間を見逃さない。

指を軽くまげ、くびきに差し込み――結び目を全力で引いた。二つのピンのようなが解き放たれた。確かにコウは、確かに何かを引き抜いたのだ。

遠く離れた二人の目には、五番機が聖櫃に両手の指をそれぞれ差し込んだかと思うと、大きく腕部を後ろに引いて何かを引っ張るように見えた。

部かられ、聖櫃の外壁は弾け飛んだ。

中から巨大な球狀のが出現した。これが【ゴルディアス】の制中樞なのだろう。

から幻想的なを放ち、シルエットサイズのの子が姿を現した。

顔立ちはどことなくアシアに似ているが、蒼い瞳が爛々と輝いている。黒髪で、白のだった。

五番機は球にしがみつく。ビジョンは五番機の中に吸い込まれた。

「ありがと。あとさんぷんぐらいでわたしはぜんぶここにはいるよ」

後部座席から、聲が聞こえた。コウが後部座席を見ると、先ほどのが小さいサイズになっていた。はにかんだ笑みを浮かべている。

「良かった。君の名は?」

「なまえはまだないの。なにものになるかまだきまってないから」

「何者になるか決まっていない?」

「うん。あしあとしんせつなおじさんと、お……きれいでかわいくてかっこよいおねえさんと。こどもにやさしいおっきなむしゃさんがわたしにいろいろおしえてくれているの」

「MCSのなかにいる存在……かな?」

綺麗で可くて格好良いお姉さんとは何者か。コウは思考を巡らせるが答えに辿り著かない。大きな武者は五番機そのものだと推測している。

『ちょっとまって。五番機のなかに、なんでそんなにいるの! だいたいわかるけど、自我まで顕在化できるの?』

「アシアも知らなかったのか!」

『この子に干渉できるとは思わなかったよ』

「アシア。この子は?」

『その子はネメシス星系でもっとも新しい超AI。世界の卵ともいうべき聖櫃から生まれた、新しい創造意識よ。あと2分40秒。守りきって』

「わかった」

コウは五番機を信じるのみ。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「へ。あの野郎。やりやがったな」

五番機がゴルディアスの制中樞をブリタニオン方向へ押しながら移を開始していた。

進む先には、高速で接近するアナザーレベル・シルエットのカラヌスがいる。

「三分か。アナザーレベル・シルエットの足止め、してみせようじゃねえか」

「おうよ。速度を落とせば、まあなんとかなるだろ」

そういっている間にも、荷電粒子ビーム砲が飛んでくる。

二人は事前に察知し、回避していた。

「妙に覚が冴えてやがるな。ビームがわかったぜ」

「俺もだ。今の攻撃、明らかに避けたというじだった。こいつぁ一どういうこった」

二人の會話を聞いていたコウが、ぶ。

「兵衛さん! バルド! 宇宙空間ではMCSはさらに意識を拡張するんだ。おそらくアレクサンドロスⅠでは、その能力は引き出せないはず」

「そういうことはもっと早くいえ! 時間はたんまりあっただろうが!」

笑いながら毒突くバルド。時間を稼げば彼らの勝ち。勝機が生じたことによる心の余裕が生まれた。

「まったくだ! 時間を稼ぎ、あわよくば一矢報いてみせるぜ」

二分もしない間にカラヌスと戦するだろう。

二人に許された時間は十秒のみ。

しかしMCSの恩寵はバルバロイには存在しないが判明した。勝機はそこにある。

「いくぞ。バルド君」

「あいよ!」

五番機より先にカラヌスの迎撃態勢にる二機。今よりアレクサンドロスⅠに仕掛けるのだ。

いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!

さらっと言葉を発する五番機。フェンネルOSは會話できます。ただ、あまり喋りません。ここぞという時に話します。初登場時、不撓不屈発同時、今回ですね。

ガル○ィーンみたいなキャラも好きですけどね!

キーワードは車留めは古來、とくにアレキサンダー大王にも深く関わりがあります。

ギリシャの神々もたまに戦車に乗っているので! 二の馬車による戦車は高度な技が必要です。同じ構造をそっくり二つ作る技が無ければいけないからです。

パンジャンドラムに留めがあったかは不明ですが、留めがなかったら転がりそう。自重があるから大丈夫かな?

一応あれ揚陸艇に乗せて運用するから、固定はされる予定の兵なのですが……

日本だとリンチピンは農などに今も使われ、通販で買えます。

バルド君の「そういうことは早くいえ」はもっともです。トライレームでは共有されているはずです。多分。宇宙戦に參加したパイロットがなすぎますからね。

さてこのが「何者になるか」、次回で確定します!

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