《乙ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ】》269 キマイラ

「……キマイラ……」

……まさか、こんな存在(モノ)が本當にいるとは思わなかったわ。

「知っているの?」

「一応ね……」

総合戦闘力7000超え……まともじゃないわ。さすがのアリアもキマイラから視線を外さず、ネコちゃんも構えて唸り聲をあげている。

「私も文獻でしか読んだことはないけれど……」

レスター家の蔵書……書ではないけど、それに近い幾つかの文獻にそれは書いてあったわ。

自然ではない生きから変化した魔ではなく、初めから強大な存在として生まれた幻獣種でもない。跡に巣くう財寶の番人。それ以外で見ることはない竜種以上に稀な伝説の存在。

そのせいか、人間種に魔を與えた古代エルフが魔法で創り上げた魔法生だ……と一般的な書には書かれているけど、書に近い書にはそれとは異なることが記してあった。

その事がどうして一般的に知られてはいないのか?

考えてみれば當たり前のこと……。

人間の都市は危険を封じるため、そしてその恩恵を得るために〝ダンジョン〟の周囲に造られる。そのダンジョンの意思が、恩恵を與えるべき霊が、最大級の危険を生み出すと知られたらどうなるのか。

単なる仮説の一つかと思っていたけど、これまでの狀況を見て私はそれが真実だと確信した。

キマイラは、ダンジョンからのみ生まれるのだ。

ギギィ……。

私たちの背後でひしゃげていた金屬の扉が閉まっていく。それは最奧の魔であるキマイラが私たちを認識したからだ。

「扉はもう開きそうにないわね」

最奧の扉は最後の意思確認のためにある。だからそこを潛ったら一定時間で扉は閉まり、魔を倒すまで開くことはない。でも、扉がこの狀態では魔を倒しても開くかどうか怪しいわ。

こうなったら、誰かが霊の加護を得て、出口の扉を開くしか外に出る手段がない。でも奧にある祭壇に辿り著くには、キマイラを倒すしかなさそうね。

「どちらでも同じことだ」

ランク7の登場に警戒していたアリアは、覚悟を決め直したのか靜かにをほぐし始めた。

「そうね……」

ここへは私の〝願い〟のために來た。それが葉わなければ三人ともここで死ぬかもしれない。それでもアリアは、やることは〝同じ〟だと言う……。

絶対に諦めない。立ち塞がるすべてを打ち砕いて前に進む。

まったく、頼もしいわね。

「準備は?」

「いつでも」

『ガァ』

初めての敵だから準備も何もない。けれど私たちは常に戦うことを準備して生きている。いつもと変わらない。

「――【祝福(ブレス)】――」

き出したアリアとネコちゃんの防を底上げして、その瞬間に左右に分かれた二人の合間からキマイラに指を向ける。

「――【稲妻(ライトニング)】――」

私の指先から閃と共に雷が迸る。

まずは様子見。正直言って私たち三人だけで、あの離島の大規模ダンジョンに參加した戦力を超えている。

でも、あのときの最奧の魔はランク6だった。アリアはランク7である屬竜を倒しているけれど、そのときとは狀況も戦力も違う。

懸念點があるとしたら……〝私〟自ね。

『ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

雷が當たる寸前、キマイラが咆吼と共に魔力を放ってその威力を減退させ、から無數に溢れた獣の半を腕のように使って雷を弾いた。

やっかいね。知恵がある。

「こっちだ」

その瞬間に接近したアリアが複數のペンデュラムを放って、猿の頭部を打ち砕き、大鹿のを引き裂いた。

『ギガァアアア!!』

でも、複數ある頭部の一つや二つ潰してもキマイラは怯まない。即座にアリアに向けて狼の上半を振り上げ、蟲を潰すように叩き付けた。

でも――

『ガァアアアアアアアアア!!』

一瞬の時間差を置いて、逆側からネコちゃんが強烈な一撃を叩き込んだ。

あれは、【爪撃】の戦技かしら?

ランク6の幻獣が放つ戦技にキマイラのが大きく抉られた。でもその代償に戦技を使ったばかりのネコちゃんは、戦技後の直からキマイラの攻撃を防げない。

「――【神撃(クリティカルエッジ)】――」

次の瞬間、ネコちゃんの一撃でキマイラの攻撃を躱し、アリアが放った戦技が逆側からキマイラを貫いた。

『グガァアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

その一撃でネコちゃんへの攻撃が逸れて、キマイラが怒りの咆吼を放つ。

今度はアリアが直でけない。同時に全から放たれた魔力が接近していた二人を吹き飛ばした。勢を崩した二人はどちらも攻撃を防げない。

「――【氷の嵐(アイスストーム)】――」

キマイラが魔力を放つと同時に私は氷の嵐を撃ち放った。

【氷の嵐(アイスストーム)】は速度がない。範囲攻撃なので味方を巻き込んでしまう恐れがある。だからこそこのタイミングを待っていた。

魔力を上乗せした全力の【氷の嵐(アイスストーム)】が、魔力を放ったばかりの無防備なキマイラを襲う。

だけど――

「ネロ、退がって!」

――了――

アリアとネロがその隙に距離を取る。本當なら追撃をするはずだけど、アリアは迷わず距離を取り、ネロも即座にそれに従った。

「……本當に厄介ね」

【キマイラ】【種族:魔獣】【魔獣種ランク7】

【魔力値:287/350】【力値:976/1180】

【総合戦闘力:7306】

力がほとんど減っていない。アリアもネコちゃんも私も、最後に放った一撃はどれも、ランク5下位の魔なら一撃で殺せるほどの威力はあった。

の強度も高いけど、それ以上に複數の魔が融合したキマイラはのダメージが通りづらいだけでなく、複數の〝目〟があることで、すべての攻撃から致命傷を避けていた。魔力がさほど減っていないのも、魔素の濃いダンジョンそのものから吸収している可能もある。

アリアが退がりながらも顔を顰めているのは、彼も鑑定をして私と同じ想を抱いたのでしょう。

アリアとキマイラの相は最悪ね。痛みをじているようにも思えないし、明確な急所も見當たらない。二階建ての家ほどもある巨にアリアの武は小さすぎる……。

それは私も似たようなものね。氷の嵐でも凍ったのは表面だけ。小さな魔では碌なダメージにならない。

倒すにはレベル7以上の魔がいる。

私の加護を使えば可能はあるけれど……。

「スノー」

その瞬間、私の思考を読んだようにアリアが名を呼んだ。

……分かっているわ。約束したもの。

でも……あなたが死ぬくらいなら、私が死ぬわ。

バキンッ!

『ギギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

凍った皮を砕くようにキマイラが咆哮をあげる。

もうき出した。

持久戦かしら……。

アリアもそう考えているから、鉄の薔薇も虛実魔法も使っていない。

大魔が無理なら、私たちが囮となって小さなダメージを與え、ネコちゃんがキマイラの力を削り取る。

私たちの魔力が盡きるか、キマイラの力が盡きるか。

そう考えてき出そうとした私たちは、その考えが〝甘い〟と思い知らされる。

ランク7の魔が〝まとも〟なはずがなかった。

『ギギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

ドンッ!!

凍結から解放されたキマイラが、突然放たれた矢のように飛び出した。

これまで初期位置からかなかったキマイラは數十本もの魔の腳を使い、獣を超える速度で移する。

「――【鉄の薔薇(アイアンローズ)】……【拒絶世界】――っ!」

襲われたのはアリアだった。

即座にアリアは虛実魔法を使い、自を非実化してその攻撃を躱す。

獣どころじゃない。獣は四本の腳を使って跳びはねる。でも、多數の腳があるキマイラは上下にぶれることもなく、常に地を蹴り、恐ろしいまでの速さを得ていた。

『ガァアアアアアアアアア!!』

『ギギャアアアアアアアアアアア!!』

即座にネコちゃんが援護にる。でもキマイラは背後の頭部でそれを確認すると、勢を変えることなく、直角に移してネコちゃんを弾き飛ばした。

『――ガァ』

吹き飛ばされたネコちゃんの全からが噴き出す。

あれはすべて、ぶつかった瞬間に繰り出された十近い顎の數だ。

鋼に近い強度を持つ皮でさえあれほどのダメージをけるのなら、私やアリアがまともに食らえば全を抉られて即死する。

私たちと同様に、キマイラも私たちの戦力を測るために様子見をしていたのだ。

「――【炸裂巖(ロックブラスト)】――」

私も出し惜しみを止めて炸裂する巖の砲弾を撃ち込んだ。

「!?」

その瞬間、ダンジョンの床を巖が砕き、それを跳ぶことで躱したキマイラの巨が私へ襲いかかってきた。

『ガァアアアアアア!!』

ドンッ!!

怪我をしたままのネコちゃんが橫から當たりをして、宙を飛ぶキマイラの速度がわずかに落ちる。

次の瞬間、拒絶世界を使ったアリアが私を抱えて離れると同時に、キマイラの巨がこれまで私がいた場所に、轟音を立ててぶつかった。

「……冗談じゃないわね」

出鱈目すぎて渇いた笑いしか出ないわ。

「何か手はない?」

拒絶世界を解除したアリアが、私を抱っこしたままそう問いかけた。

「そうね……」

本當に駄目なら私は加護を使う。でもアリアはまだ諦めていない。

アリアは、どんな敵が相手でも自分から諦めることはしない。

との約束を破ってでも命を懸けるのなら……。

「一つだけ試したいことがあるわ」

****「私によい考えがある」

スノーが思いついたその方法とは? フラグじゃないよ!

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