《12ハロンの閑話道【書籍化】》炎の友(1)
「ひ~~ん」
「ぶぼ」
5月某日。フランスはロンデリー牧場に再會を喜ぶ……喜んでいるのかは分からないが、第三者的に見れば輸送後放牧地に解き放たれ、姿を見止めるや否や、いの一番で駆け出し漆黒の馬をり寄せ鼻先で顔中ぐりぐりりまくるダイランドウと、「お前きたんかい」と迷そうな表で微だにしないサタンマルッコの姿が確認できた。
帯同していた大河原や須田の姿に気づきマルッコは「お、久しぶりやん」と首を上下させた。
「よーまるいの。元気してたか」
須田の言葉にあたぼーよ。とでも言うようにダイランドウを弾き飛ばす。額の白丸は歐州の地でも元気に日を描いている。
「須田先生。ダイランドウはいつから調教を始めるのですか?」
ケイコが訊ねると、須田は手を顎に添えながら若干思索する。
「そうですなあ。まずは環境に慣れてからと思っていたのですが、この調子だとマルッコについていけばすぐにでも慣れてしまいそうですな。適當に遊ばせながら馴らしていくとしましょうか」
「ええ。私もそれが良いかと思います。ここであればびび走ることが出來ますからね」
「本場の牧場はどえらいもんですなー。森がそのまま牧場になったようです」
「新しいところだとそうでもないみたいなんですが、老舗はこういった作りのもあるみたいですね。とはいえ自然は日本にもありますから、比較すると敷地の広さと起伏が大きいくらいの差ではあると思います」
「それだけとも言えますが、それが一番難しい」
お前ほんと何しに來たの。こっちのレースなんか? あっそ、頑張れよ。はいはい俺も応援してるから。
ぶるぶるひーんと戯れる二頭を眺めながら二人の會話は淀みなく続く。
「それで、まるいのはどうです? 走れそうですか?」
「の調子は良化しましたね。全力で走れるかどうかはわかりませんが、まあ併せていくうちによくなっていくんじゃないかしら」
「!?」
ケイコの言葉にマルッコが驚きを示す。「え!? 併せって言った!? 俺走るの!? もしかしてこいつと!?」みたいな顔だ。
「凱旋門賞馬がトレーニングパートナーとは、いやはやますます負けられなくなりましたな」
「最近たるんでるみたいでしたし、ちょうどいい機會ですよ。それに日本じゃいつもやってたことじゃないですか」
「とはいえその頃はマルッコもレースに出てましたからな」
「それもそうですわね」
えー、みたいな顔のマルッコと再會の喜びから踴り狂っているダイランドウ。プロジェクトはき出したばかりである。
施設の中を歩かせてみましょうということで、ダイランドウは背に大河原を乗せ、マルッコはケイコをらせて二騎は闊歩していた。珍しく人を背中に乗せているマルッコの姿にすれ違うロンデリー牧場の職員たちからからかう言葉が飛びう。
「マルッコはどこでもマルッコなんですね……」
栗東に居たころとなんら変わらない態度に大河原が苦笑する。
「この子はどこにいてもこんな態度ですからね。牧場の若駒や年嵩の行った馬含めて全部のボスになってしまったみたいですし」
「制圧するのが早すぎる……」
出りの激しい栗東ですら番長面で闊歩していた事を考えればそれほどおかしなことではない。馬がでかい面していることに目を瞑ればだが。
「いやしかし……ダイスケ、マルッコが居ると本當に落ち著きますね。分かっていたことではあるんですが」
「ご相談頂いたときにも思いましたが、そんなに酷かったのですか?」
「ええ。いつもどこかオドオドキョロキョロと。乗っていてもそんなじでしたので、調教もイマイチ効果が上がっていなかったです」
ところがこちらに到著してからまだ僅かな時間しか経過していないというのにダイランドウはすっかり落ち著きを取り戻していた。往時の自信に満ち溢れた(?)短距離絶対王者の威風すらある。
「それはよかったです。まだまだこれから仕上げていく段階になるかとは思いますが、目指すべき場所へ向けて頑張っていきましょう」
「ええ。せっかく頂いたご縁です。良い結果に結び付けてみせます」
その日から不思議な共同生活が始まった。
支度を整えた二頭は片や人をその背に乗せ、片や鞍も乗せずに並んで歩く。が溫まってきたら追いかけっこという名の併せ馬が始まり、それが済んだら放牧地へ放たれる。トレーニング以外の時間は走の名手に従い勝手気ままに敷地を歩き回る。
元より広い場所で仲間に囲まれた生活をんでいた馬である。殆ど自然そのものなストレスのない生活はダイランドウの神を著しく改善させ、それに伴って心とにあったギャップも解消されてゆき――
《先頭はダイランドウ! すでに3馬千切ってまだびる!
馬場の問題、衰えなんてものはなかった!
この馬にはあらゆることが些事でしかないのか、先頭悠々ダイランドウー!》
6月の初頭。ダイランドウは初期の目標に據えられていたアスコット開催のG1、キングズスタンドステークス、及び中3日開催のプラチナジュビリーステークスの同年制覇をし遂げた。特に走ったりするわけでもないのにダイランドウのためにイギリスまで帯同するはめになったマルッコは釈然としない顔をしていた。
言わずもがな、日本馬としても日本調教馬としても初の快挙に日本競馬は湧いた。この馬は一どこまでの事が出來てしまうのか。そんな期待の視線が次走ジュライカップに注がれている、そんな7月のある日。
一臺の馬運車がロンデリー牧場を訪れていた。別に馬運車なんて珍しいものではない。遠征で気疲れしたを癒すため、いつものように敷地の中を我が顔で闊歩していたマルッコも「あ、車があるなー」くらいですれ違っていた。しかし、鼻腔を刺激する、どこか覚えのある馬の匂い。ゆっくりと振り返り、停車してまさに今タラップが降ろされようとしている様子を眺める。
タラップが降ろされ、中から姿を現したのは鹿の馬。見知らぬ土地に油斷ないその眼は刀剣を思わす鋭さがあった。
目と目が合うその瞬間。
「!?」
「!?」
近走寶塚記念でも14著。その績から日本競馬にて終わった馬と評されてしまっている馬、スティールソード。その馬の到著である。
京都記念はたぶんきっと外れてると思います
アフリカンゴールド-エフフォーリアのワイド
當たってたら電子じゃない方の書籍の本買ってください^p^
まあ自分で買うのはエフフォーリアの単勝なんですが
すきやねん! エフフォーリアくん!
リターン・トゥ・テラ
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