《【WEB版】灼熱の魔様の楽しい溫泉領地経営 ~追放された公爵令嬢、災厄級のあたためスキルで世界最強の溫泉帝國を築きます~【書籍化+コミカライズ】》328.魔様、聖王國に乗りこむことを決意します!

「おぉー、無事で何よりや! 心配はしてなかったけども!」

クサツ魔導公國でのゴタゴタを終えて、村に戻ってきた私たちである。

私は子どもの姿ではあったものの、村長さんとイリスちゃん、そして、エリクサーの活躍によって、あちらの騒は無事に片付いた。

「ちょっとは心配してよね! 私、まだ子どものままなんだからさぁ」

そう、片付いたのはあちらの問題だけなのである。

私はもとのに戻れず、非常に困っているのだ。

一刻も早く『麗で儚げで溜息の出るような黒髪の』に戻らなければならないよね。くふふふ。

「しかし、あのバカ大臣、ほとんど何も知らなかったのは誤算でしたね」

ララはそう言うとふぅと溜息をつく。

そうなのだ、逮捕した大臣を尋問した結果、彼は黒い何かを聖王アスモデウスから手したことが判明した。

聖王は私をやっつける代わりに、クサツ魔導公國を大臣にやるとそそのかしたとのこと。

ところが、その黒い何かについては、彼自も分かってはいなかったのだ。

のようにものようにも見えるもので、瓶の中にっていたとのこと。

毒や呪いの一種だろうと思っていたとはいうものの、見たこともない素材だったという。

大臣と一緒に逮捕された人たちもその黒い何かを見てはいたのだが、有益な報は得られなかった。

大臣が言うには私に料理を運ぶウエイターを買収し、その黒い何かを仕込ませたとのこと。

実行犯のウエイターの人にも話を聞こうとしたのが、ここで不可解なことが起こる。

「じ、実行犯ですか?」

「あれ? ウエイターだったよな?」

「誰だっけ?」

大臣含め、そのウエイターのことを誰も覚えていないのだ。

だったのか、だったのか、どんな姿をしていたのかさえ忘れているのである。

まるで、存在そのものが消え去ってしまったように。

大臣たちが頭を抱える様子を見て、私はし嫌な予がする。

そして、例の何かが私を絡めとる覚を思い出すのだった。

「まぁた、聖王國かいな! あいつら、ホンマに凝りひんやつらやわ! 前回、めっためたのぎったぎたにしてやったのに」

「そやな。魔様がそりゃもう盛大に破壊したから大人しくしてると思ってたのに、腹立つわ。いっそのこと、王様と村長さんを派遣したらええんとちゃう?」

メテオとクエイクの姉妹は犯人が聖王國だと分かると私の代わりに怒ってくれる。

そりゃそうだよね、ここ最近、ずっと嫌がらせをされているのだ。

これ以上、こんなことが続くなら、もうバシッと言ってあげなきゃいけない。

あんた、いい加減にしなさいって。

「ご主人様、村長さんとイリス王陛下は魔族の國を周遊して帰ってくるそうです」

「ひぇ……」

ここでララが予想外の一言。

帰國する間、あのコンビの姿が見えないと思ったら、そんなことになっていたとは。

村長さん、あの手作りカチューシャで乗り越えられるんだろうか。

イリスちゃん、ダークエルフの変、気にってたものなぁ。

魔族の人たちに大迷がかからないか心配する私なのであった。

「とはいえ、タダで帰ってきたんじゃないよ。実はすごい土産話があるんだから!」

私は空気を切り替えるべく、話題を変える。

それはクサツ魔導公國にあった呪酸沼を溫泉化する計畫である。

エリクサーが調査したところ、お湯には毒もなく、水で薄めれば子供でもれそうだとのこと。

にピリピリ來る溫泉で、うちの村近辺には湧き出ていない種類のものになる。

村長さんの例もあるので、飲料用にはたぶんできないけど。

その溫泉をヨイヨイの國と協力して、共同開発するプロジェクトである。

「へ、共同開発? 土地ごともらえばええやん?」

「そやな、ユオ様って『世界の溫泉は私のものよぉ』っていつもんでるし」

「魔様の名言その十四、『私の溫泉は私のもの、お前の溫泉も私のもの』ってやつやな。カレンダーにも収録されてるやつ」

共同開発という言葉を聞いて、メテオとクエイクの姉妹は微妙な顔をする。

しかも、私が言ったことのない名言を引用して。

「へ? カレンダー作ってるの?」

「これこれ、溫泉街でめっちゃ売れるんやで? 魔様の名言カレンダー」

そういうと姉妹は私の顔が大きく描かれたカレンダーを見せてくれる。

最新の魔法技で描かれた私の顔はまるで実のようだ。

かわいく描かれているのは嬉しいけど、言ったことのない名言がずらり。

「ほら、この名言その一、『夢は大きく! 溫泉で世界征服!』! このカレンダー、めっちゃ人気なんやで」

「これもこれも! 名言その五、『盜賊は、もれなく発よ!』も有名ですわ。ってるだけで悪人が近寄らないって言われてるやつ」

メテオとクエイクは私の後ろに巨大な炎が燃えている絵を示して、解説してくれる。

盜賊についてもさることながら、名言その一はやばい。

これじゃまるで私が世界征服を企んでる人みたいじゃないの!?

そのカレンダー、絶対に回収しなきゃ。

「ふふふ、共同開発っていうのは言葉のアヤみたいなものです。事実、クサツ魔導公國は我が軍門に下り、今回も『魔様、萬歳』『魔様、まじ破壊神』と人々は稱賛したのですから」

カレンダーに困する私のそばで、ララは嬉しそうにあることないことまくし立てる。

事実に噓を混ぜるという、一番質の悪い噓である。

クサツ魔導公國が軍門に下ったなんてことはない。

「でも、最後にご主人様が炎で敵を蹴散らした時、民衆のほとんどは青ざめてましたよ? あ、この人を敵に回すのだけは止めようって顔をしておりました」

「ぐぅ……」

ララの無題に論理的な言葉に黙り込む私。

民衆の面前でアレをやってしまったことについて恥をじざるを得ない。

でもでも、もとはと言えば、ララが悪い!

私は必死に助けようと思っただけだし!

「あちらの溫泉の名前は『魔様、破壊神』から、マジパ溫泉となりました」

「はぁあああ!? なんで名前まで勝手につけてるの? ヨイヨイに悪いでしょ?」

「ヨイヨイ様のアイデアです」

「うぐぅうう」

ふざけた名前がついてしまい、頭がくらくらしてくる。

溫泉の名前に破壊神ってどういうこと?

もっとクサツヨイヨイ溫泉とかでよかったじゃん。

私が何をしたっていうわけ?

「まぁ、ユオ様が破壊神なのは今に限ったことじゃないし、ええやん? ふぅむ、共同開発ってのなら、村から調査にいかなあかんな」

「はいはいっ! クサツ魔導公國のご飯味しかったし、うち、行きます!」

メテオは荒ぶる私をなんなく鎮めると、今後の方針を示すのだった。

ふぅむ、クエイクが溫泉開発の調査にねぇ。

この子も、たくましくなったものだ。

くふふ、クサツ魔導公國の呪酸沼はそりゃあもう何か所もあるのである。

魔族の人たちも溫泉のトリコになっちゃうんだろうなぁ。

そうだ、あっちにも古文書に出てきた街を作ったら素敵だよね。

私はこれから始まる開発プロジェクトにわくわくするのだった。

「とはいえ、今、一番の課題はユオ様のを戻すことです」

クサツ魔導公國での計畫についてひと段落すると、ララは神妙な顔をして話題を切り出す。

それは私のをどうやって戻すかということだ。

大臣はそれを聖王國から手したと語っていた。

恐怖の大王であるイリスちゃんが尋問したのだから、たぶん、噓は言ってないと思う。

「聖王國に解決へのカギがあるってことやな。あの國、基本的に鎖國政策やからなぁ、うちもったことないし」

メテオはいつになく真剣な顔をしてふぅっと息を吐く。

いわく、外國人が聖王國に國するのはとても難しいのだとのこと。

前回のクサツ魔導公國の時のように國するしかないのだろうか。

「ユオ殿、連れてきたのじゃぞ! 聖王國と言えば、このなのじゃ!」

「何だ、貴様らは? 私は忙しいのだぞ!」

腕組みする私たちのところにエリクサーが現れる。

はとある人を連れてきたのだ。

そう、傲岸不遜な態度を崩さない、クレイモアの菓子工房の見習い、ハマスさんである。

パティシエっぽい白い制服がかわいい。

はこんななりだが、つい最近まで聖王國の幹部だったのだ。

あちらのについて知っているはず。

もしかしたら、私に仕込まれた黒い何かについても。

のような、のような、黒い何か、だと? 聖王様が自らお渡しになられただと? ……まさか」

私たちがこれまでのことを話すと、ハマスさんは眉間にシワを寄せて考え始める。

パティシエの服裝のままだから、そのギャップがひどい。

「もしかしたら、暗黒水晶かもしれぬ……」

「暗黒水晶?」

「あぁ、聖王様の玉座の裏には真っ黒い水晶があると幹部の間では言われていた。暗黒の力が封印されていて、祈りを差し出せばどんな願いも葉えると聞いたことがある……。過去にも、その水晶を削ったものを聖王様は政敵に飲ませたらしいが……」

はまるでひとり言のように、私に盛られた黒い何かについて教えてくれる。

もっとも、それが本當に暗黒水晶なのかどうか、それはわからないとのこと。

「ちなみにその政敵は?」

「死んだ。いや、存在そのものが消えたのだ。我々も聖王様に政敵がいたということはかろうじて覚えているが、何者だったのか、人間だったのか、魔族だったのかさえ分からない」

「なるほど……」

場の空気が一気に冷えていくのが分かる。

つまり、先ほどのウエイターの人と同じように、存在そのものが掻き消えてしまうらしい。

まるで闇のとばりの中に落ちていくように消えてしまう。

ひぇええ、私も危うくそれになるところだったってこと!?

「……乗り込むっきゃないわな、うちは村の経費計算するけど」

「……そやな、うち、調査の準備をせなあかんけど」

皆がごくりと唾をのむ中、メテオとクエイクの軽口がむなしく響く。

気がめちゃくちゃ進まないけど、聖王國に乗りこむしかないようだ。

そして、その黒い水晶とやらの謎を解かなければ。

「ご主人様、ひとまずはリリアナ様とクレイモア様が帰國されるのを待ちましょう。ハンナ様や燃え吉とともに乗りこめば、聖王國などすぐに灰にできますよ」

ララの言うとおり、リリたちの帰りを待った方がよさそうだ。

クレイモアはあんなだけど護衛として非常に頼もしいし。

「ひぇええ、そ、それは止めてくれっ! 聖王國にだっていい奴はいるんだ!」

ハマスさんは私の手を取ってすがりついてくるものの、灰にするつもりはない。

聖王國の人たちに迷をかけるつもりはないよ。

聖王以外には。

とはいえ、聖王國は全くの未知の領域。

當然、ハマスさんにもついてきてもらうことになりそうだ。

やることが積み重なっていく。

とりあえず、溫泉にって、議論は明日に持ち越そう……。

それは私がゆったりとお湯に浸かっている時のことだった。

どんどんどんどんっ!

屋敷の扉が懐かしいじで叩かれる。

この覚、覚えてるよ。

「魔様! 大変ですっ!」

私を呼ぶ聲の主はハンナだ。

大分、焦っているように聞こえる。

ひぇええ、一、どうしたんだろ。

「リリさん達がサジタリアスで襲われて拐されました! クレイモアは負傷したみたいです!」

それは私たちの次の戦いの始まりを意味していた。

やっと第15章の折り返しとなります!

これからいよいよ、長年の宿敵とのケリをつける戦いが始まります!

「面白かった!」

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「名言カレンダー、しい……」

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