その後、一日だけイースティリア様と共にダエラール領を視察した。

晩餐の前を帳簿を確認して小さな問題點を幾つか纏めた後、フォッシモに手渡して所を述べる。

「金山の人足以外に大きな問題は見當たりません。堅実な経営ですね」

「ありがとう。褒められて嬉しいよ」

「余力があれば、領の蠶事業に支援を。絹糸の需要は多くはありませんが、帝都にて不足傾向があります。価格に注意を向けておけば、高騰の際に利益が増えるでしょう」

主に、ロンダリィズ工房製のドレスが原因である。

帝國だけではなく、諸外國にもその質としさが知れ渡り始めていた。

あの領の事業は、これからさらにびる事業ばかりであり、それは服飾に関しても例外ではない。

今後本格的に広まった場合、他(・)の服飾工場で品質の良い材料の確保が困難になることや、新技、新繊維の開発などが求められる可能が高くなる、という予測を立てていた。

しかし、アレリラがそのタイミングを直接知り得るのは、業務上の書類である可能が高い。

その報を流すと橫流しになってしまうので、これに関してはフォッシモに一任するしかなかった。

「出來るだけ頑張ってみるよ」

「ええ。ですが、無理だけはしないように」

「姉上にだけは言われたくないなぁ」

イースティリア様が父と話をするのを待つ間、話題繋ぎか、ふと護衛に目を向けたフォッシモが問いかけてくる。

「そう言えば、護衛は幻獣に乗っているのに、馬車なんだね」

「最近の學會では、魔法生と呼ぶそうですよ」

魔法生とは、魔法(・・)をる生の総稱である。

昔はフォッシモの口にした幻獣という名で呼ばれており、現在でも人に馴らすのは難しく、飼育に関しても研究中の分野に屬する生だ。

現在でも、探検家などが実在を確認した野生の群れを見つけては捕獲し、記録として殘している。

魔法という呼稱は、人のる魔とは違い詠唱を必要としないので、差別化されているそうだ。

炎を吐いたり、空を飛び続けることが可能であったりする點や、種族ごとにる魔法が違う點から、魔導のように特定の魔法をる専用のがにあるのでは、という考察が最新の研究で発表されていた。

「魔法生ね。どっちの乗騎も見たことないけど、どんな能力があるの？」

フォッシモは興味を引かれたようで、そう問いかけてくる。

イースティリアとアレリラに片時も離れずについている男それぞれの護衛は、走竜(ドルゴ)と一角馬(ユニコーン)を乗騎としていた。

「ナナシャ」

「はっ！　ご説明致します！」

護衛のナナシャは、腕を後ろに組む。

筋質なをしている彼は、元は貴族令嬢だったそうなのだが、一角馬に好かれたことと武好きが高じて実家を飛び出し、騎士団に志願したという変わり者である。

金髪碧眼のなのだが、には興味がないらしい。

「走竜は、二本足で走る翼のない竜で、馬とさほど変わらない軀だが炎を吐くことが可能です。腳力を強化する魔法で高速で移することも出來ます！」

「ふぅん。君の乗騎である一角馬の方は？」

「短時間空を駆けることが可能で、治癒の魔法や雷鳴をります！」

「雷を！？　凄いな！」

興した様子で、フォッシモがしいツノを額から生やした、金の鬣(たてがみ)を持つ白馬を見る。

「ちょっと使ってみたりとか」

「フォッシモ」

「ごめん。さすがに冗談」

アレリラは小さく息を吐き、おそらく半分は本気だっただろうフォッシモの意識を逸らすために先ほどの質問に答えることにした。

「車を引くことの出來る巨を持つ地竜は、普通の領地にある狹い道を進むことが出來ません。また、狹い道を通れるような車では、そもそも地竜の速度で走ると壊れるのです」

地竜は、変に固められていない道を走った場合、重みと速度で道を無駄に荒らす。

また、車が耐えられる速度で走ると、力面では馬に遙かに勝るが速度はさほど変わらない。

「地竜は一晝夜走り続けることが可能ですが、休息を取らなければ人の方が參ってしまいます」

故に、急ぎの旅でもない為、小回りのきく馬車を使う方が合理的なのである。

「はー、そういうもんなんだね」

「貴方は、もうし移手段に関しても勉強をしなさい。流通の要ですよ」

この分だと、國家間橫斷鉄道についても通り一遍の知識しかないに違いない。

あの畫期的な発明が広まり、さらに魔法生の飼育……先にイースティリア様と話していたグリフォンの繁が功すれば、流通革命が起こるだろう。

そうなると、運ばれる資の量が変わり、経営の仕方にも選択が迫られることとなるのだ。

「次期領主が、興味がないでは困ります」

「今からうんざりしてるけど、まぁ、頑張るよ……」

どことなくけない聲音でフォッシモが答えたところで、家の中から父の高めの聲が聞こえてきた。

「話は終わったのかな？」

「そのようですね」

二人で同時に目を向けると、屋敷の扉が開いて、家令に続いてイースティリア様と父が姿を見せた。