《魔法が使えないけど古代魔で這い上がる》58 短期決戦
「とにかく、兄さんや父さん達をどっかに逃がさねーとな」
ふらつく頭を振って意識をはっきりさせながらロイドは言う。が、それをレオンがコツンと頭を毆って諌めた。
「寢ぼけている場合か、冷靜になれ。それより魔王をどこかに移させた方が早い」
「ぁ……いや、分かってたし。試しただけだし」
「今時子供で言わんような噓をつくな」
「今時の子供の事も知らんジジイが言うな!」
「後にしなさいアンタ達!魔王をフェブル山脈の方までぶっ飛ばすのよ!早くしなさい!」
アリアの一喝に師弟は慌てて魔力を高める。
吹き飛ばされたフィアニスを地につけまいと連続して衝撃を放つアリアに続くように2人は駆け出した。
殘されたアリアはそれを追うよりも先に、ロイド達の後を追おうとする2人を見やる。
「待って!クレアちゃんは倒れた子達の様子を見てあげて!意識を失ってるだけなら良いけど、深刻そうなら最低限の治癒まで!エミリーちゃんはルナを領から連れてくる!ルナが來たら後はあなた達の判斷に任せるから好きにきなさい!」
「「は、はいっ!」」
有無を言わさぬ指示を早口で飛ばし、その力強さに慌てて頷くクレアとエミリー。
伝説の大戦にて將を務めたカリスマを前に反論もなくき出す。
そんな彼達がき出すのを見てから、アリアもフィアニスへと駆け出していった。
アリアに代わって魔王をフェブル山脈へと移させんと駆ける師弟。
ロイドが暴れ狂う時魔をどうにか抑え込み、レオンが膂力にものを言わせて吹き飛ばすという連攜で順調にそれをしていた。
魔王の魔抵抗にロイドが、膂力にレオンが顔をしかめつつも、それなりに距離を稼いでいる。
だが、時魔を抑えていたロイドが不意に顔をしかめた。
「やべ、魔王のやつ冷靜になってきてるぽい」
「だろうな。いつまでも怒り狂うほど甘いやつではない」
時魔の暴さに度が加わりつつある様子に、しかしレオンは當然のように頷いて構わず追撃を放ち続ける。
「いや言ってる場合かよ。度の上がり方がえぐい。抑えられねーぞ」
「未なお前に期待など最初からしていない。気にするな」
「ここで煽るか普通。先にジジイからしばいてやりてーわ」
軽口を叩きつつもだんだんとロイドの表が歪んでいく。
相殺はおろか、もはやこちらに影響がないよう凌ぐのが一杯となりつつあるのだ。
「それに、もう十分だ。次の一瞬だけ全力で抑え込め」
「はいよ……マジで一瞬だけだぞ」
頷くロイドに、レオンは合図もなく加速する。
師の無言の特攻に、しかしロイドは完全にタイミングを合わせて、一點に集中した魔力作で文字通り一瞬フィアニスの時魔を完全に相殺した。
「はあっ!」
その瞬間に寸分狂わずレオンが滲み出る銀の魔力を纏う拳を魔王に叩き込む。
轟音と共に消えたと思わせる速度でフィアニスを吹き飛ばし、數瞬の後にフェブル山脈の中層付近で発にも似た衝突が起こった。
「飛ぶぞ」
「おーよ」
その瞬間と同時に、ロイドは空間魔を発。
ロイド達からフィアニスとの間にある空間を切り取り、その距離を無視した瞬間移で一気にフィアニスの目の前へと移した。
「ウィンディアの子達なら大丈夫よ。あとは私達が魔王を倒すだけだわ」
それとほぼ同時にアリアも同じ方法でロイド達の橫に現れる。
その彼の言葉にロイドは心で安堵の息をこぼした。
もっとも、それを口にして返答しなかったのは、目の前のフィアニスから放たれる覇気のせいである。
「お前達……楽には殺さんぞ」
立ち昇る魔力はフィアニスのへと絡みつくように纏われており、垂れ流しにしているだけの魔力の余波だけでも思わず息を呑むような威圧を有している。
その赤い瞳には怒りと冷靜さが同居しており、油斷も隙も見出せなかった。
「………いよいよか」
フィアニスの本気。
それを確信すると同時に、その威容にロイドは息を呑んだ。
「3人で叩くしかないな」
「あんた達が前衛、私が後衛。ただロイドは臨機応変に中衛もやんなさい。時に直接干渉出來るのはロイドだけだしね」
「っ、あ、ああ」
レオンの常と変わらぬ聲音と、アリアの指示によって気を取り戻したロイドは頷く。
細かい作戦容を話す時間はなかった。ロイドが頷くと同時に、フィアニスがき出したからだ。
「勇者もいないお前達が、オレを倒せると思うか」
「あんたに剣を屆かせるのはこの私なのよ?出來るに決まってるでしょう!」
瞬間移かと思うような速度で迫るフィアニスに、アリアの空間魔が立ち塞がる。
空間そのものを壁とする障壁は、さしもの魔王とて突き進むのは困難。
しかし迂回や回避は問題なく、しかも時魔の加速によって、迂回のロスを上回る程の進行速度で突き進む。
「勇者はいないけど、昔は時魔を使うやつもいなかったんだろーが」
しかし、その魔による加速もロイドによって抑え込まれた。
それによって瞬間移ともいうべき速度から高速移のレベルまで落とされる。
「コウキの分も、俺がお前を斬るだけだ」
そして異常な高速移を可能とするのは魔王だけではない。
數百年もの間、魔力量と能力を高め続けたレオンは、フィアニスにも勝るとも劣らぬきを可能とする。
フィアニスの膨大な魔力の込められた拳を魔導の剣で迎え撃つレオンは、衝突の直後にすぐさま前蹴りを放つ。
それを回避しようとバックステップしようとするフィアニスよりも早く、ロイドが後方へと瞬間移をして短剣二刀を背中に叩き込んだ。
それによりその場にい付けられたフィアニスは、その直後同時に挾撃という形で師弟の攻撃を前後に食らう。
凄まじい衝撃が逃げることなくそのを叩き、その威力に一瞬が直した。
「っが……!」
「それに、私の仕事は道を作るばかりじゃないわよ」
「………っ!」
更に追撃とアリアの空間魔『震天』がフィアニスの全を激しく叩いた。
そのを破砕せんと揺れる空間が魔王のを破壊する。
だが、それもほんの一瞬のこと。
即座に時魔によって元のへと戻った魔王が、破壊魔法を纏う拳をを一回転させてレオンとロイドにまとめて振るう。
「っ……!」
それを咄嗟に防ぐも、レオンはともかくロイドは耐えられずに吹き飛ばされた。
「お前の時と空間は確かに脅威だが、それを使うお前が自が弱い」
吹き飛ぶロイドに向かってフィアニスは鋭く踏み込む。
この3人パーティのをロイドだと判斷し、そこから崩そうというのだ。
そしてそれは間違ってはいない。
レオン、アリアという古代の英雄と呼ばれる2人に比べると、やはりロイドは頭ひとつ実力が劣る。
「そして次は空間魔師のだ。剣士は最後に仕留めてやろう」
そしてアリアを次點として、レオンを最も脅威だと判斷していた。
これは相の問題でもあるが、ともあれ魔王にとって弱い順番から倒すならばこの並びになるらしい。
それにアリアは眉を跳ね上げるも、反論はしない。それはロイドもそうであった。
「まずはお前だ、年」
「なめんなぁああッ!!」
だがそれは、魔力を用いた戦闘力の話でしかないのだから。
「ーー!」
ロイドにトドメを刺さんと迫るフィアニスの目が見開かれた。
そのを包む『白金の』に、こちらを睨む金の瞳。そして発的に高まった威圧に虛を突かれた故だ。
「『斬空』っ!」
「ぐっ」
白金のを込めた空間魔の刃は、魔王の魔力の防壁を突き抜けてそのを斬り裂いた。
思わず追撃を中斷して距離をとるフィアニス。その上空から、また別の白金のが燈る。
「レオンより弱い扱いはムカつくわね。訂正しなさい、節魔王!」
アリアの空間魔だ。上空の空間を地面ごと魔王を押し潰さんと叩きつけ、それを冷たい視線で見下すように睨む彼の瞳もまた、金の輝きに染まっていた。
「これは……『神力』か」
魔力とは格が異なる隔絶した力の塊。
それにより、フィアニスが戦線のと評した2人の力は格段に高まった。
だがそれでも、とフィアニスはロイドを見やる。
「だが年、お前が弱點となるのは変わら」
「チンタラ喋んなこっからは短期決戦じゃボケが!」
ない、と続けようとしたフィアニスの言葉を一息でぶった斬ってロイドが魔力を練り上げる。
存在そのものの格が違うが故に相容れぬ『神力』と魔力。
それを束ねて扱う為の『剛魔力』とした昇華した魔力は、『神力』に反発しながらも強引に束ねられ、白金を緑銀へと染め上げていく。
「――……」
魔王をもってして予想外の景だったのか、フィアニスの言葉が途切れた。
奇しくも『神力』となさと魔力の多さからそれを併せるを得たロイドのスタイル。
それは『神力』の多いアリアも使えないーーというよりは効率を考えて習得していないーーものだ。
実に燃費の悪いスタイルながら、それに見合う非常識なまでの発的な力の上昇。
それは、魔王の言葉を奪うには十分だったようだ。
「誰がだボケ!てめーをだらけにしてやるわ!」
古代の大戦に居なかった年が、英雄と並び立つ力を示して、高らかも口汚く吠えた。
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