《「もう・・・・働きたくないんです」冒険者なんか辭めてやる。今更、待遇を変えるからとお願いされてもお斷りです。僕はぜーったい働きません。【漫畫1巻+書籍2巻】》193 スタンピード防衛

そうだ!火の玉を増やせばいいかも。

「ファイヤーボール」

「や、やめろ!」

手のひらに火の玉を宿したら、魔王が怯えて巖に隠れてしまったんだけどどうしたものか。

「うーん」

「やれやれだぜ」

「ふむ。これではどちらが魔王だか分かりませんね。しかしながら、このような半矢を刺して死ぬまで放置するようなえげつない攻撃は人道的にどうかと世間は思うでしょう」

「·····」

本當の事とはいえちょっと傷ついてると、ふわふわ野郎が噛み付いた。

「おうおう、今のは聞き捨てならねえな。てめぇは相棒に救いを求めておきながら、いってえどういう了見でい?」

「私はあくまでも公平な立場です」

そうなんだよな、でも嬉しいよくま吉。

「ありがとう、くま吉。もういいよ」

「いや、ダメだ。こいつの発言はお天道様が許さねえ。そうだ! いっその事、そいつをこの傍観者気取りの覗き魔についでにぶつけちまいな」

「!?」

予想外の発言に、全員の視線が僕の手のひらに宿したままの火の玉に集中。

そこには、文字通り必殺の火がある。

魔王も泣いた火が。

辺り一面の映像が火で埋め盡くされると、レビジョンさんが恐怖でもちをついた。

「ひぅっ。エ、エクス大魔導師!まさか人間にそれをぶつけたりしませんよね!?邪悪な小熊に唆され、そんな事をしたら貴方は本當の魔王に認定されますよ!」

レビジョンさんは正しい。

そしてくま吉も正しい。

僕はどうするか。

ルカを見ると怒ってる。

このままいつものように引き下がると、きっと僕の代わりに悔しがる。

そんな気がした。

「相棒、やっちまいな!」

あぁ、そうか。

誰かの正しさのために、僕の正しさを譲る必要なんてないんだ。

當たり前の事を思い出した。

敬意を払わない相手に禮儀なんていらない。

というか、そもそもなんでこいつは魔王と公平な立場なんだよ!

「エクス魔導師、冷靜にっ。私の視界は多くの人が見ています。どうか正しい判斷を!」

腹は決まった。

「レビジョンさん」

「はいっ」

傍観者なんて立場は許さない。

だから、言葉の手をばして同じ舞臺へと引き上げる。

「僕は友人のためなら魔王になる覚悟があります」

「ひぐっ!?」

さあ、一緒に踴ろう。

命を賭けて。

「その上で聞きます。さきほどの侮辱する発言に覚悟がありますか?」

魔王からレビジョンへ攻撃対象の変更を完了。

「あ、ああありません。失言でした。エクス大魔導師お許しください。どうかっどうか!」

「そうですか」

「ありがとうございますありがとうございます。さすがエクス大魔導師は心が広い!」

火の玉をふっと消すと崇拝されてなんだかなって気分に。

「それと、魔王の味方をしていたのを諌めてくれたくま吉にもお禮を」

「そうでした!熊キチ様もありがとうございます」

「俺っちの名はクレイジーベアだ!べらんめえ」

「クレイジーベア様っ失禮致しました」

くま吉が頷き、これで大円団かなと思ったら、邪悪をする無邪気な聲が。

どうやら諸悪の源が気絶から立ち直ったらしい。

「つまんなーい。つまんなーい。つまんなーい! 僕ちんの手下になるかもって期待したのにぃ!!」

ぱたぱたとした羽音が耳につく。

「へっ。なるわけねえだろ。いいか、てめぇはもう負けたんだ。さっさと消えやがれ」

「やっだっねーっ!不完全なやつは黙ってろよ。それにムノーのくせに、いい加減にしろろよ。さっさと火を消さないと僕ちん怒るよ?まためちゃうかも。うぷぷー」

「はっ哀れな奴だな。相棒、ゼノに現実を教えてやんな。その炎は延長されてるってな」

「僕ちん知ってるよ。せいぜいあと20日でしょ?」

なんで僕に聞くんだろう。

「いや、たぶん1年」

「いちねんっ!?」

「そうだよね?」

本人にパスすると、なんと嬉しそうに首をふるふる振られた。

「ちがうよ」

「ええっ!?」

「うぷぷ、ほらっやっぱりムノーだ!」

しかも、なぜかドヤ顔でピース?

「2年!」

「おおっ凄い!終わったね」

「ううーっ、くそがっまさか僕ちんを舐めてるの!?」

褒めてしそうなのででする。

「良くやったよ」

「えへへ」

「ううーん。ムノーめ! 2年だなんて、流石にどうしよう。フール!?」

フールの方からビカッ!としたが放たれ目を焼いた。

「眩しっ!」

「ヒヒヒひひひひ、あががががが」

視界が白と黒でチカチカする中、フールの大きな奇聲が耳に痛い。

「くま吉、見える?」

「おうよ、當たり前でい。奴さんが燃えだした。なんつうか、ひび割れた空っぽのかられてやがる」

不安そうなルカをぎゅぅと抱きしめる。

「いやだ!まだ消えたくないよ。フール。負けるな!頑張れよ、ねえ!いやだーー!!!!」

斷末魔が消えるとが弱くなった。

「どうやらが耐えられなくなったみてえだな。逝っちまったぜ」

「うん」

視力が戻ってくるとルカが近くて慌てて離れる。

ぱちぱちとぜる炎は、大きな魔石を殘して墓標となった。

まるでモンスターのような最期。

「エクス大魔導師!勝ったんですか?」

「はい。これでスタンピードは終わりました」

最終ステージの魔王は骨も殘さない。

僕も骨は殘らないかも。

「皆さん、聞きましたか?勝ちました!我々人類の勝利です」

勝利のプラカードが街の映像を埋め盡くすと、ようやく事態が飲み込めてきたのか、街の人々が驚いた顔でお互いを見つめて抱き合った。

「「ウオオオオー! ようやく勝ったぞー」」

街は解放の歓聲で揺れ、僕も勝利の空気に酔いしれる。

ふふっ悪くないね。

◇◆◇◆◇◆

「エクス大魔導師!ぜひ乾杯の音頭を」

「そういうのはマーラに」

「いいえ、貴方がフォレストエンドを救った英雄なんですよ。貴方でないと務まりません」

「でも」

斷りながらも悪い気はしない。

もうちょい押してくれたら行こうかなという気持ちも。

「まま、そう仰られず!?」

「どうしました?」

レビジョンさんが街の方を見て急にピタリと止まった。

「私刑?」

「え?」

「領主の屋敷で何人も縛られてます!おそらくあのたくさん立てられた木の棒は火刑の準備でしょう」

「は?」

なんでそんな事が?

「これは撮れ高っ!失禮します」

嬉しそうに走っていった。

やはり彼は人類の敵かも知れない。

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