《乙ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ】》270 奇策

お待たせしました。

ランク7の怪、キマイラ。

アリアでは戦えても倒すための手段がなく、同じ獣系であるネコちゃんはランク6になっているけど、同系列故に戦闘力の差がそのまま力の差となっている。

ネコちゃんの戦技なら痛手を負わせられるけど、それでも戦力の差で決定打にならないわね。

そして今の私でも……キマイラを倒すことができない。

本來なら加護を使ってようやっとダメージが與えられるレベルの相手だから、今の私ではキマイラの再生力を越えることはできなかった。

仮に加護を使えるとしても、火の屬を失っていることで微妙に威力が下がっているので、以前の威力を出せるかどうかも分からないわ。

私は考えた……。

パーティーにおける『魔師』とは何か?

以前の私は単獨で強くなることしか考えていなかった。

たった獨りで大國を火の海に沈めるため、単獨で騎士団を殲滅し、単獨で高ランクの戦士を皆殺しにして、単獨で街を燃やす、純粋な〝力〟のみを求めた。

けれどもそれは人間の範疇を超えるもの。そのために私は命そのものを対価にするしかなかった。

なら、アリアのような冒険者のパーティーにいる魔師はどうするの?

おそらくは今までの私と逆のこと……。

師になるための知識を使い、戦況を見極め、個でなくパーティーを活かすための魔を使う。

でも……それは私らしくないわね。

「アリア……聞いてくれる」

私が本當に簡単に説明すると、アリアは私に顔を顰めて呆れたような視線を向けた。

「バカじゃないの……」

アリアはそう言って視線を鋭く前に向ける。

「じゃあ、やろうか」

「そういうあなたが好きよ」

アリアならそう言ってくれると思っていたわ。

「ネロ」

『ガァ……』

アリアが短く呟き指先をかして指示を出すと、離れてキマイラを牽制していたネコちゃんが一瞬だけ不満そうな聲をらして、全をたわめるように構える。

「――拒絶世界――」

アリアの全からが放たれ、それと同時にキマイラの目前に出現した。

「ハァアアア!」

アリアがキマイラへ刃を振るう。

『ギィギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

を切り刻まれる〝幻痛〟にキマイラが悲鳴をあげた。

キマイラは痛覚が鈍いからその悲鳴は痛みのせいじゃない。キマイラは戦闘力の高いアリアを警戒していた。だからこの悲鳴は、痛みよりも驚愕のほうが大きいはず。

でも、それだけじゃ終わらない――

『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

ドゴンッ!!

アリアと同時に飛び出し、広間を周回するように回り込んでいたネコちゃんが、アリアが攻撃してキマイラが混した瞬間を狙って、側面から爪撃の戦技を叩き込んだ。

『ギィアアアアアアアアッ!!』

即座にキマイラが複數の腳を踏ん張るように勢を戻して、ネコちゃんに爪や牙を向ける。

戦技を使ったばかりのネコちゃんは躱せない。

それはネコちゃんも分かっている。ネコちゃんもアリアも戦士系はそのために敵の隙を作り、反撃をけないようにするのが定石だから。

だからこそ――

「――〝夜〟――」

その瞬間、アリアが二つの巨に割り込み、キマイラからネコちゃんを隠すように、その攻撃を逸らしてみせた。

言葉で言うほど簡単なことじゃない。振り下ろされる刃を指先で逸らすような繊細さと膽力が必要になる。しかもアリアは虛実魔法のと闇を使い、複數の攻撃を蹴りと拳打で敵に痛みさえも與えず、ランク7の攻撃をしのいでみせた。

そのきは発ワードこそ使っていないけど、短剣技レベル5の戦技【兇刃の舞(ダンシングリパー)】に近いはず。

戦技である【鉄の薔薇(アイアンローズ)】に他の戦技は重ねられない。けれどアリアは何度も使ってに刻み込んだ戦技を覚だけで再現した。

それでもには強烈な負荷がかかるはず。何度も使えるものじゃない。

アリアもネコちゃんも全力だ。戦局が変わることを考え、余力を殘す戦い方をやめて力を振り絞っている。今の攻防もキマイラの牙と爪一つでも捌きそこねていたら、そこで終わっていた。

だから……

「まだよ」

アリアもネコちゃんも、キマイラでさえも今の攻防で一瞬、……ほんの瞬きする間だけきを止めていた。

「――【炸裂巖(ロックブラスト)】――」

ネコちゃんの尾に摑まっていた私が、至近距離のほぼ真上から炸裂巖を撃ち放ち、幾つかの頭部を砕しながら巖がめり込む。

『ギギャアアアアアアアアアアアア!!』

今度こそキマイラのダメージによる悲鳴が響く。

現狀で一番戦闘力の低い私をそこまで警戒していなかったでしょ? 敵に知恵があるからこそ奇策は意味を為す。

あのとき、アリアがき出したほんの一瞬、彼は私も同時に移に巻き込み、途中で差したネコちゃんにけ渡した。

摑まったというより捕まったというべきかしら?

「――【瀑布(キャタラクト)】――」

これで終わりではないわよ?

空中に生み出された巨大な水の塊が巖に叩き落とされ、巖をさらにめり込ませると同時に――

ドォオンッ!!

めり込んでいた巖が炸裂して、キマイラの背の部分を吹き飛ばした。

『――――――――――――――ッ!!!!』

キマイラの複數の頭部から正真正銘の悲鳴が広い空間を満たす。

「ネロっ!!」

『ガァアアアアア!!』

その機を逃さずアリアとネコちゃんが殘った頭部を切り裂き、叩き潰す。

でもその瞬間――

『――――――――――――――』

複數の獣による不協和音。

異形の怪が、さらに異形へと変じていく。

キマイラの砕された背から何か巨大なものが飛び出し、ネコちゃんの巨を吹き飛ばして、アリアはギリギリ躱せたけどそのまま床に打ち落とされた。

そして私は――

「スノーっ!!」

アリアの聲が響く。

それと同時にキマイラの後部からも巨大な何かがせり出し、巨大な丸太のようなが私のを弾き飛ばした。

「――っ!」

重ね掛けしていた【巖(ロックスキン)】も【水の(ヴェール)】も【祝福(ブレス)】でさえも一瞬で剝がされ、腕と肋骨を折られた私が反吐を吐きながら宙に舞う。

『ギィイイギャアアアアアアッ!!!』

すぐさま、異形と化したキマイラが私を追ってくる。

撚り合わされた巨大な四本の四肢……。

背からびた手を束ねた巨大な翼……。

戦うためにを厳選し、特化した姿はまるで複數の頭部を持った〝竜〟のように見えた。

私はこのざまでは戦闘は無理そうね……。

ああ……

「……計算通りね」

私が跳ね飛ばされたのはキマイラの後方。これほどダメージを負うのは計算外だったけれど、方向と距離は想定通りよ。

冒険者パーティーの魔師の戦い方は、私の戦い方と違う。

そんな儚い〝夢〟を見るなんて。

私がアリア以外の誰かのために戦うなんて――

本當に〝私〟らしくない……。

師の戦い方なんて、暴力で叩き潰せばいいのよ。

だから私は、この方角に飛ばされた(・・・・・)。

最初からレベル5の魔を連打しても、キマイラを倒せる可能は低いと分かっていたわ。

だから決定打の無い狀態で、二人に全力を出してキマイラの気を引いてもらう。

その間に私は出來る限りキマイラの後ろに回る。

知恵のあるキマイラは、戦いでいてもけして私たちを自分の側面より後ろには行かせなかった。

キマイラの後ろに回ったらどうなるのか?

あの孤島のダンジョンでも私がいた瞬間、ミノタウラス・マーダーが後を追ってきた。ダンジョンに縛られた魔はそうしなければいけなかったから。

だから、後方に吹き飛ばされた私を追って、隙を見せたアリアとネコちゃんを放ってでも私を追ってきた。

ドスンッ!

私のが床に叩きつけられ、魔力で防しても折れた肋骨でも刺さったのか、さらにが口元を汚した。

キマイラが私へ迫る。

でも、殘念だったわね……。

自分から飛ぶまでもなく、飛距離は十分だったわ。

「……來てやったわよ。ダンジョンの〝霊〟」

吹き飛ばされた私は、キマイラが追いつくよりも早く辿り著き、塗れの手を最奧の祭壇へ乗せた。

スノーが願うものとは……

次回、その力が明らかに! 後日譚でこんな展開いいのか!

書籍版の6巻は、コミカライズ3巻と同じくらいの発売になりそうです。

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