「なんだ、ハティか、さっさとれ！」

「くそ、この忙しい時に迷な奴だ」

シュガーショックを黒く塗りつぶせば、聖王國の黒い狼に間違えるに違いない。

ハマスさんのそんな素っ頓狂な提案に乗った私は心びくびくだった。

だって、どこからどう見てもシュガーショックとあの黒い狼は違う生きだからだ。

シュガーショックの方が目がかわいいし、シュガーショックの方がらかそうに見える。

たとえ、黒く塗りつぶしたとしても。

しかし、聖王國の門番さんたちは違いなど一切見分けられない。

ノータッチでシュガーショックを通してしまう。

「うっしっし、見たか、これぞ元聖王國の參謀たる私の智謀！」

「ハマス、てめぇは黙ってろ！」

私たちと言えば、シュガーショックのもふもふのの中にいるのだった。

それにしても、門番の人たち、あの黒い犬のことを嫌っているようだ。

うちの村人たちはシュガーショックをすごくしてくれているのに。

もったいないなぁと思ってしまう私なのだった。

「うひぃ、暑くて死ぬかと思ったわぁ」

國したのち、私たちはひとまず森の中に姿を隠す。

人気がいないのを見計らって出てきたのだが、シュガーショックの中はとてもとても暑かった。

メテオが音を上げるのもうなずける。

「よし、王都まで進んでいくぞ？　変裝はいいな？」

そして、私たちは旅の一団として行することにした。

いつもの服は空間袋の中にれて、ハマスさんの用意した聖王國らしい服裝にチェンジ。

うふふ、いいじゃない。

いかにも、潛捜査ってじ！

「よぉし、皆でリリを助けるよっ！　たぶん、あの子、泣いてるから！」

私は皆に気合をれる。

何はともあれ、リリの奪還。

それから私の姿を子供にしてくれている、水晶の破壊。

最低限、この二つはしっかりやってあげなきゃ！

「おぉし、シュガーショック、これをに著けてくれ！」

ドレスはというと、シュガーショックに服のようなものを著せていく。

彼いわく、姿を隠すための魔道だとのこと。

あぁ、そう言えば、いつぞやの時も姿を消して忍び込んだんだっけ。

それにしても、シュガーショックに服を著せるとすごくヘンテコだ。

モフモフ部分を無理やりに抑えつけているみたいになっている。

「めっちゃ高額なんやでこれ？　本當なら目ん玉飛び出るんやけど、うちが渉したらなんと半額になってんで？　すごいやろ？　なぁ？」

メテオは自分がいかに安く買えたかについて説明してを張る。

そう言えば、この子、安く買うことに異様なまでの執念を燃やすよね。

私はとりあえず、彼の頭をよしよしとしてあげるのだった。

子供の姿だけど、領主の務めだよね。

「す、すごいですよっ！　シュガーショックが消えました！」

そして、その魔道の効果は抜群。

シュガーショックの巨が明になっていき、後ろの風景がけて見える。

「それじゃ、行くわよ！　みんな、乗りこもう」

というわけで、手さぐりでシュガーショックに乗りこみ、疾風のごとく聖王國の中心都市へ向かった私たちなのだった。

◇

「聞いたか、聖王様がついにサジタリアスに攻め込むらしいぞ！」

「ついに人間の國を一網打盡だ！　我々の星！」

「さすがは聖王様だ！　世界征服も夢じゃないぜ！」

聖王國の中心都市である王都に到著した私はあることに気づく。

人々がところどころで集會し、喜びの聲をあげているのだ。

その話題は聖王様がいかに偉大な指導者であるかについて。

國民の皆さんは聖王様のことをとても信頼していて、彼のことを心酔している様子だった。

「ふぅむ、なんかどこかで見覚えある景やな……」

貓耳をフードで隠したメテオはそんな人々をみてぽつりとらす。

いや、どこかで見たって言うか、これ、どこからどうみても、うちの村のデジャブである。

さっきの人たちの會話の「聖王様」を「魔様」に変えても何の違和もない。

つまり、聖王國の國民の人たちは聖王様を尊敬どころか、崇拝しちゃっているのだ。

うわぁああ、なんだか嫌だなぁ。

「ぐむぅ、我らが魔様を差し置いて世界征服だなんて許せません！　狂信者の異教徒どもめ！」

ハンナはぎりぎりと奧歯を噛みしめて見せる。

いや、あんたのそう言うところも全く同じなんだけど。

魔様を擔ぐ、斷の大地の村と、聖王様を擔ぐ、聖王國。

この両者の國民はどう考えても相容れない。

このままじゃ、終わることのない宗教戦爭が始まってしまいそうである。

「ううむ、報収集ならば教會にいくべきだな」

ここでハマスさんは冷靜な提案をしてくる。

私にとっては異様な景でも、彼にとっては日常風景なのだろう。

それにしても、教會って神様に祈りを捧げる場所でしょ？

そんなところで報収集できるのかしら。

訝しげに思いながらも、ハマスさんに従って教會に向かうのだった。

「聖王様、ばんざぁあああい！」

「聖王様、大すきぃいいい！」

『教會』と書かれている場所は一言で言うと、酒場だった。

人々はお酒を片手に大聲を張り上げていた。

お酒の名前は聖王様お水、略して聖水というものらしい。

そして、酒場の壁には聖王様が水著姿でお酒を持っている絵が描かれた紙が數枚られていた。

キャッチコピーは「今日もお仕事お疲れさま」である。

おもおもどどんである。

うわぁ、セクシーポーズが目に痛い。

健康的に日に焼けたものや、蠱的な表のものもあって、ちょとドキドキしてくる。

「なんやねん、この痛い……、悩殺村の村長やん」

「いや、人は人なんだけどなぁ。すげぇ勇気だぜ」

メテオとドレスも微妙な表。

確かに聖王様は人なんだろうけど、統治者がこんな真似していていいのだろうか。

ちなみに悩殺ポスターの隣には、「聖王様の癒しは世界一フライ」とか、「どきゅん♡聖王様大好き激辛ヌードル」などの謎めいたメニュー名が並ぶ。

ますます、デジャブをじてしまう私。

うぅむ、潛すればするほど、聖王様の立ち位置が分からなくなる。

恐怖で人々を支配しているのかと思っていたけど、違うのかしら。

「ふははは！　私も久々に聖王様コールをしたくなったぞ！」

ハマスさんはそう言うと、酔っ払いたちのの中にっていく。

そして、皆と一緒に「聖王様、バンザイ！」をし始めるのだった。

「あほやん、あいつ、ぐびぐび」

「まったくだぜ、酒は上手いけどなぁ」

メテオとドレスは盛り上がるハマスさんを目にお酒を煽っていた。

いやいや、あんたら、お酒飲んでる場合じゃないでしょうが！

とはいえ、盛り上がる一団を見ながら、私は思うのだ。

あの聖王様、國民からされ過ぎているんじゃないだろうかって。

それが悪いことだとは思わないけど、これはどう見ても異常だ。

どう考えても、聖王様が自分でんで「聖王様バンザイ」を國民にさせているとは思えない。

もし、自分でやっているとしたら頭がおかしいってことになるし、正気じゃない。

彼と相対して分かったけど、あの人は別にっからの悪ではないと思う。

なんというか、悪を演じているというか、ヤケになっているというか。

ここで私は真実に至るのだった。

もしかしたら、彼はただただ周りに擔ぎ上げられて、聖王様を演じているだけなのではないかということだ。

確かに彼はモンスターをるとか、強いスキルを持っているのだろう。

だけど、ひょっとしたら、もしかしたら……。

彼は普通のの子なのかもしれないのだ。

私と同じように！

珍しいスキルを授けられたせいで周囲から擔ぎ上げられ、無茶なことをさせられているのではないだろうか。

私と同じように！！

いわば、被害者である。

私と同じように！！！

彼はきっと思っているのだ。

普通のの子に戻りたいと。

だけど、それを許してくれない國民の人達。

だから彼は先日の戦いの中で、自暴自棄になって聖王國なんかどうでもいいってんだのだ。

彼を追い込んだのは、國民からのプレッシャー。

それもハマスさんみたいな狂信的な人たちからのプレッシャーは非常にはた迷である。

わかる、わかるよ、その気持ち。

村のみんなの変な期待が怖くて、私だって何度領主を辭めたいと思ったことか。

溫泉がなければとっくに放り出していたかもしれないよ。

私は聖王様のヘンテコな毒みたいなのを飲まされて子供の姿に戻ってしまった。

早く元の姿に戻りたいとも考えている。

だけど、この姿に戻ったことで、しだけ以前の普通だった時代を思い出したのだ。

それは自由で、気ままで、やすらぎに満ちていた。

「いや、口から炎を吹く普通のの子っておらへんやん……？　一日に二回も溫泉にるし、十分に気ままやん……？」

「メテオ、黙ってろ、燃やされるぞ？」

私が腕組みをして、慨にふけっているとメテオとドレスが何かをつぶやく。

もっとも、酔っ払いの歓聲でかき消されてしまったけれど。

何はともあれ、私は聖王様にしだけ謝しているのだ。

だからこそ、私は思う。

彼にも自由で気ままな普通のの子を取り戻してほしいと。

「うふふふ、待っててね、聖王様、私が解放してあげるわ」

私は壁にられた聖王様の悩殺ポーズを見ながら、ニヤリと笑う。

そう、私が救うべき相手はもう一人いると気づいたから。

「ま、魔様、さすがですぅうう！　あの聖王を粛清(かいほう)するんですね！　私も頑張りますぅうう！」

ハンナは私の手を取って、うるうると瞳を濡らす。

その表に何か不穏なものをじる私なのであった。

ちなみにハマスさんは「聖王様、バンザイ！」コールの中で報収集を進め、新生式とかいう儀式が明日、開催されることをキャッチ。

なんだかよくわかんないけど、でかしたよ、ハマスさん！

私たちは報収集を進めながら、作戦會議をするのだった。

そういえば、サジタリアスをどうのこうのって言ってたけど、ララは上手くやってくれているだろうか？

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「居酒屋のあのポスター、ララさんのがほしい……！」

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