《ロング・ロング・ラブ・ストーリーズ 4度目のさようなら that had occurred during the 172 years》第4章 1963年 プラスマイナス0 - すべての始まり 〜 9 蘇った記憶(2)

9 蘇った記憶(2)

その日から、一年くらいが経った頃だ。銀座デパート一階の隅で、ある人がたまたま商品を手に取った。二十代中盤ので、日本ではまず知らない人がいないであろう有名人。

は真っ赤なスカートを手に取って、やはりたまたま通りかかった店員に聲をかけた。

「これ、一つしかないんだけど、他にサイズはないのかしら?」

こんなことを聞かれて、店員の返すべき答えはだいたいの場合が決まっている。

――申し訳ございません。それは一點ものなんです。

閉店間際だったこともあり、実際にその店員も元までそう言いかけたのだ。

しかしそう返してしまえば、きっと彼はここからさっさといなくなる。ここまでの有名人と話せるなんて、一般人にはそうそうあるような機會ではない。

だから彼は思い切って聲にした。もしかしたら上司に怒られるかもしれないが、そうなったらそうなった時だと覚悟を決める。

「さすがにお目が高いですね。それって店には在庫はないんです。でも、々お待ちください。きっと製造元にはあると思うので、事務所から問い合わせてみますから……」

からスカートをけ取り、店員は足早に去っていった。

本當のところ、製造元にだって殘っているかはわからないのだ。

もう一年以上前に返品した商品で、つい先日返しれが一點だけ出てきてしまった。けれど、さすがに今さら返せない。寒くなる前に売ってしまえと言われて、つい先日、在庫室から目につくところに出したのだった。

そうして店員がいなくなると、後ろに立っていた男がスッとに近づいた。彼の耳元に顔を寄せ、囁くように、それでもかなり慌てたじで聲にした。

「先生、もう行かないと……パーティーに遅れてしまいますから」

「いいのよ、どうせ最初はお偉いさんの挨拶なんだからさ」

「それでも、もうギリギリですから……また、社長に叱られます」

そこでやっと振り返り、

「それでもいいのよ! 何よあいつ、オリンピックのおかげでヒットしたとか、久しぶりのヒットだから盛大にしようとか、本當に失禮しちゃうわ! だから言わせておけばいいの、今回は、し待たせるくらいどうってことないのよ」

顔を傾けながらそう言うと、は何事もなかったように前を向いた。

もちろん多遅れて到著しようが、彼は痛くもくもありゃしない。

パーティーに遅れて叱られるのは、いつでも付き人である男の方だ。しかしそんなことを口にも出せず、彼は小さく息を吐いてから、スッと一歩だけ後ろに下がった。

昨年から今年にかけて、日本中で大ヒットした〝の道〟。

これは確かに久しぶりのヒットで、昨年の歌謡レコード大賞を賞した大當たりの曲だった。

そのヒット記念パーティーが、今夜銀座からほど近いホテルで開かれる。そんな會場に向かう途中、數寄屋橋差點を過ぎたところで彼が突然言い出したのだ。

「ちょっとこの辺りに停めてくれる? あそこで、し洋服見ていきたいのよ」

いくら時間がないと告げても、もちろんそんなことお構いなしだ。

結局、パーティーには三十分以上遅れて、それでも気にったスカートが見つかったと彼は終始ご満悅。

あれから、五分ほどで店員は戻ってきて、まるで自分のことのように嬉しそうな顔で言ってきた。

「お客様、ありました。製造元に確認したところ、お探しのサイズ、先方にはまだたくさんあるそうですよ」

そう聞くや否や、彼はニコッと微笑んで見せる。

ところが後ろを振り返るや否や、瞬時にその顔つきが真顔になって、

「三つ、お願い」

とだけ聲にする。

つまり同じものを三著買うよう付き人に言いつけ、それから再び前を向いて、

「試著は大丈夫だから、あとは、よろしくね……」

と言い殘し、彼はさっさと歩き出してしまうのだった。

そんな出來事から一年以上が経った頃、は再び大ヒット曲を生み出した。

歌謡界の王として君臨する彼は、その曲のお披目で、なんと膝小僧をわにしてステージに立った。銀座デパートから屆いた真っ赤なスカートをにまとい、踴りながらテレビで歌って見せたのだ。

それが大きな話題となって、それからまもなくミニスカートは流行り始める。

そしてさらに數年後には、日本各地で空前のブームとなっていた。

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