《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》機制の火
コウにとってはつい先ほどの話だ。
「俺と五番機が【永遠の火】が使えない? 何故だ」
『話すと長くなるから割。あとで説明するけど、使えないと思って』
アシアが申し訳なさそうに伝える。ヘファイスティオンの逸話を語るには時間があまりにも無さすぎた。
「仕方ないさ。使えないなら、そんな機能は無い前提で工夫するしかない」
「私、そういう工夫する人が大好きなんですよ!」
フリギアが目を輝かせる。
「私達にある手札はこの戦車ゴルディアス制中樞と五番機のみ。あとはブリタニオンと。――十分です。今から新しい火をゴルディアスの演算能力を使って、MCSと相談して組み上げますね」
「え?」
「プロメテウスの火はヘファイトスの火と同時に、アテナの火でもあるんですよ。つまり私には改良する権利があります」
『フリギアのアテナならではの権能ね』
アシアが嘆の聲をあげる。誕生したばかりだというのに頼もしい。
「完!」
「早い!」
「新しい火の名こそ【機制の火(メカニクス・ファイア)】。アテナの異名の一つΜαχανιτι?(マカニティス)。考案者。策謀するとも。アテナに対していいがかりですね! 直訳すると機械の火とも読めます。プランを組み立てることから転じて機械機構(メカニクス)。【機制の火】は心に潛む潛在的な防機制も利用して発する、アテナの火です」
「アテナはアレスのように侵略する戦爭ではなく、防衛のために戦う神だったな」
「その通りです! アイギスを代表に守護の権能こそがアテナです。そのアテナの火を説明します。効果は永遠の火(エターナル・ファイア)よりも強力です。機械機構が多いほど、制を擔うアテナの権能は強くなる。――ウィス出力は永遠の火と同程度ですが、私の火はスラスターの耐久力と出力も限界値まで引き上げます。全スラスターだらけの五番機との相は抜群です」
「恐ろしい権能だ」
「その代わり、リアクターだけじゃなくてスラスターも吹き飛びます。代償も【永遠の火】よりも大きいです」
「仕方がない。換で済むんだ。使うものではないからな」
コウに逡巡は無い。本來なら命を喪う機能なのだ。
「鬼札を一つ。ありがたい」
そうしてコウと五番機は、【機制の火(メカニズム・ファイア)】を手にれたのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「馬鹿な。押し戻せないだと!」
アナザーレベル・シルエットは文字通り別次元。裝甲も出力においてもだ。本來萬全なら、電子砲さえも使いこなせる。カラヌスはいわゆる量産に近いものだが、それでも現行シルエットなど遠く及ばない能を誇る。
プロメテウスの火とやらを用いたとしてもその差を埋めることは不可能なはずだった。
「対ヴァーシャ戦に備えてスラスターを増加しておいたんだが、まさかこんな時に役立つとは!」
コウは運向上のために五番機のスラスターを増やしていた。今や【機制の火】の恩寵をけ、どのスラスターも絶大な推力を持つ。
「しかし! 十秒持ちこたえたら俺の勝ちだ。貴様は宇宙を彷徨う塵になるのだ!」
傍した【永遠の火】の概要が確かならば、十秒経過すればリアクターが自損する。
ゴルディアスの力をもってしても、MCSが働いていないシルエットなど敵ではない。
「――そら。すぐに十秒だ!」
アレクサンドロスⅠが勝ち誇ったようにぶ。
コウにも通信が屆いたほど。よほど鬱屈がたまっていたのだろう。
「策略というのはね。んな手札を組み合わせるものなのです。――死になさい。アレクサンドロスⅠ」
フリギアが冷酷な視線を送りつつ、カラヌスに宣告した。
「――九秒経過。【不撓不屈】」
『【機制の火】殘り0.1秒。【不撓不屈】を発します』
五番機のリアクターと全にあるスラスターが負荷に耐えきれずに脆く崩れ去ろうとした瞬間――
時間が巻き戻るかのように、リアクターとスラスターが復元した。
「馬鹿な。何故ける! ヘスティアめ! また謀ったか!」
絶するアレクサンドロスⅠに、あらぬ疑いをかけられたヘスティアは、広場でうんざりした顔をしている。なんでもかんでも彼のせいにされてはたまったものではない。
隣にいるハデスは笑いを堪えていた。
「あはは! さいっこう! これがプロメテウスの贈り! 東方(アシア)の私(アテナ)。オリンポス十二神の私では不可能な東方概念の組み合わせ!」
フリギアの視線がカラヌスに突き刺さる。輝く瞳を持つというアテナそのものだった。
「プロメテウス。お前、相當やらかしているぞ。東方概念の強引な解釈もだ」
ぼそっとハデスが呟き、隣のヘスティアが目を逸らしつつ頷いた。東方の化たるアシアは言葉もない。
「こ(、)の(、)の概念はクールでイカれてるもの! 私ね? MCSのなかで鋼のを持つという東方のおじさまに教わったの。『軀(からだ)つけて一戦(いく)させん』。戦神たる私ですら嘆する戦意! リアクターが壊れたぐらいでコウの五番機は止まったりしない。質への時間遡行に必要なウィスも戦車からの供給でたっぷりある。機の即時復元など余裕!」
思わずアシアはフリギアを凝視する。にっこりと笑い返すフリギア。
「死してなお戦をする概念に加え、アテナの異名そのもの――【機制の火(Makhanitis)】の合わせ技。とくとご覧じろ」
五番機の制に必死なコウはフリギアの言葉を聞き逃す。
「今の五番機は【機制の火】の効果などない。しかしここまで運べば、あとしでブリタニオンに叩き落とせる!」
【不撓不屈】でリアクターやスラスターが復元されたとはいえ、効果そのものは切れている。
ゴルディアスから膨大なエネルギー供給が続いている以上、押し切れる。
そう思っていたが、徐々に落下が減速する。カラヌスもまた、莫大なエネルギーを用いて五番機に抗っていた。
「聞こえるかな。――ヘスティア。戦闘機はそのままですよ? 爐床の神たる権能、今こそ見せてくださいね」
『私の數ない権能まで計算にれるとは、アテナ。貴は相変わらず容赦ないわね。――今はフリギアか。ありがとう』
「アテナ? フリギア? 何のことだ!」
何も理解できていないアレクサンドロスⅠが左右を見回す。フリギアを認識できないのだ。
押し返すことはできず、ブリタニオンに突する。
「頼んだ。ヘスティア!」
コウも踏ん張り所だ。あとしでブリタニオンに落とせる。床は貫通するかもしれないが、ブリタニオンのリアクター外壁はアナザーレベル・シルエットの裝甲よりも強固なはず。カラヌスを破壊する唯一の好機だ。
あえてウーティスともエンプティともいわず、語りかけるヘスティア。その言葉が彼に屆かないことも知っている。
『人々の中心。爐床の神ヘスティアの権能を発。我、決してかず。我が炎、決して絶えず。すべてのものよ。我の元へ集え』
重力が増す。爐床の神ヘスティアの権能。すべての中心となり、不なもの。
不の中心には槍のようにそびえ立つ戦闘機。
「ブリタニオン中心部で重力が増している?」
アレクサンドロスⅠが悟った時にはすでに遅い。
すべてのもの。ゴルディアスも五番機も、わずかに殘っていたライラプスの殘骸ですら引き寄せる。
「――ッ!」
最後の力を振り絞り、五番機の全エネルギーと金屬水素をスラスターに注する。
重力が増すなかで、ゴルディアス制中樞を地面に叩き付ける五番機。
「手を離したか! しかしこれでは!」
カラヌスの落下先には、戦闘機が突き出ていた。針のような機にはブリタニオンのウィスが通っている、もの言わぬ尖塔だ。
かぬ機首は穂先となり、カラヌスを貫通し、ゴルディアス制中樞が機にのしかかる。
「ありえん――!」
アレクサンドロスⅠの絶は、ゴルディアス制中樞によってカラヌスごと押し潰された。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
予想された読者もいましたが、カラヌスをブリタニオンにぶつけるためには、やや威力が不足していました。
フリギアならでは一計が、打開策なのです。
【機制の火】。それはアテナの異名Μαχανιτις です。組み合わせる者、プランナーの意でもあります。なおこの言葉はアテナだけではなく、アフロディーテにも該當します。古代ギリシャの観とは……
この~(ῖ)τιςにあたる部分が火や炎、そして人やを意味します。直訳すると機械炎などで表示されてしまいます。ὁπλίτηςだと、遡ると鎧を著た者、、重裝歩兵になります。
フランス語でもmachineは名詞ですね! ドイツ語やロシア語もそうですが名詞にがある國の言葉は個人的にかなり鬼門です……
機械と深く関係がある、オデュセウスの守護者たるアテナならではの「機械制の火」なのです!
締めはヘスティア様です。
平等に、分け隔て無く、等しく中心である爐床の神だからこそ。
フリギアはそれさえも計算にれて、自らが加護する者に勝利をもたらす――ギリシャ神話の神様はだいたいびいきですよね。
フリギアによる合わせ技。アテナでもある自分、戦車、五番機と東方概念、槍の逸話、そしてヘスティア。
もっとも新しい超AIフリギアのアテナ。五番機と相の良い東方の概念も含んだ彼は、マカニティス(策謀者)の名に相応しい超AIになったのではないでしょうか。
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