《【第二部連載中】無職マンのゾンビサバイバル生活。【第一部完】》27話 突撃となりの公民館のこと

突撃となりの公民館のこと

「にいちゃん!あーん!ホラ!あ~~~~~ん!!!」

「・・・あのなあ、俺はそこまで重傷じゃないって言ってr」

「スキアリー!!!」

「もがぐぐぐぐ!?!?」

口の中に勢いよくスプーンをぶち込まれた。

ちなみに乗ってるのは卵かけご飯である。

味しいけど量が多いんだよ!!

TKGで窒息死とかダーウィン賞も真っ青のアホな死因だからな!!

兎にも角にもよく噛んで飲み込む。

朝っぱらからヘビーだぜ・・・

「へへえ、にいちゃんどーお?おいし?」

「・・・お前、老人介護の仕事だけは絶対すんなよ。誤嚥肺炎で全員殺すから」

「ひどいしっ!!」

ぷりぷり怒る朝霞ではあるが、殘念でもないし當然だろう。

「朝から賑やかでいいわねえ~」

庭に洗濯を干しに行っていたねえちゃんが、いつものようにニコニコしながら今にってきた。

「それだけですかねえちゃん・・・娘さんのポンコツ合が日に日に加速していくというのに」

「ちょわっ!?待って待って!あーし全然ポンコツじゃないし!!」

「せめて適量という言葉を學んでから出直してこい」

「ひどいしーっ!!」

言うや否や、朝霞は給仕の役を放り出して巻き付いてきた。

ウワーッ!ヤメローッ!!

マジで何なのこのき。

これが真のオクトパスホールドなのか。

「ふふふ・・・いっくんが來てからウチが華やいだみたいねえ。いいことだわぁ~」

「は、華要素がないんだけど・・・」

巻き付かれた狀態で抗議するが、ねえちゃんはニコニコしながらどこかへ行ってしまった。

くそう、母娘そろって自由人めが。

「にいちゃん!後で釣りいこーね!釣り!!」

「おー、行く行く。用事もないしな」

「やったーっ!あーし、今ならカツオくらい釣れそうな気がするし!!」

こんな近海にいないだろ、カツオ。

々ツバスくらいが関の山だぞ、ホントに。

「あ、そうだ。古保利さんたちはどうしてる?」

「コホリ~?」

「いや、昨日來た自衛隊の偉い人だよ」

「あ~ね!あのオジサンたちなら近所の家に荷バンバン運んでたよ!アニーちゃんもカンザキサンも手伝ってたし!」

東地區からほうほうので撤退して、一晩経った。

古保利さんとは積もる話もあったのだが・・・俺が怪我人だったので強制的にベッドに叩き込まれることになったのだ。

ちなみに、神崎さんと朝霞二人がかりで運ばれた。

そうして夢も見ないほど深く眠り・・・起きたら朝食を強制的に給仕されることになっていたわけだ。

「近所の家?」

「うん!フジミさんっていう家があんの!前に住んでたおばあちゃんが亡くなって、アキヤになってるんだよ!」

アキヤ・・・空き家ね。

そうか、それは彼らも拠點ができてよかったなあ。

を運んでるってことは、しばらく腰を據えるつもりだろうか。

なんにせよ、自衛隊がいればねえちゃんと朝霞の安全度が跳ね上がるし、こちらとしては萬々歳である。

・・・今更ながら、現狀の最高指揮が最前線にいるという事実からは全力で目を背けるぞ。

脳筋すぎんだろ神楽の3人は・・・

「後で挨拶に行っとかんとなあ」

「あーしもついてく~」

「別に何も面白いもんなんかないと思うけど?」

「違うし!にいちゃんは目を離すとすーぐオオケガすんだから!オメツケヤクってやつ!」

そんな人を問題児みたいに・・・

今回に関しては俺悪くなかろ?

あんな所にいたネオゾンビと『レッドキャップ』が悪い。

だから俺は悪くない!

「なーちゃんも行きたいよね~?」

「ワウゥ!」

いつものように窓の隙間から鼻面を出していたなーちゃんも、同意するように吠えた。

・・・仕方あるまい、散歩がてら行くとするかな。

朝飯も食わされ・・・食ったし、特に用事もない。

釣りに行くには早すぎるので、早速家を出て朝霞となーちゃんを引きつれて歩く。

家から本當に近所に、門柱に『富士見』と書いてある家はあった。

「でけえ・・・」

思わず聲がれる。

富士見さんのお家は四方を塀で囲われたデカい日本家屋であった。

ここからでは中の様子は確認できないが、塀からこれまた大きい松の木が見える。

庭もかなり大きいようだ。

「だっしょ?フジミさんはいくつも船持ってる漁師さんだったんだよ。大分前に死んじゃったけどね~」

「へえ、跡取りとかはいないのか?」

「ん~、息子さんがさ、海の事故で亡くなっちゃって・・・孫もいたんだけど、えーと?エンジニア?になって首都で働いてる・・・っぽい?母さんが言ってたし!」

ふむん。

第一次産業の跡取り問題はここでも深刻だったんだなあ。

もっとも、これからはむっちゃ増えるだろうけど。

とりあえず狩猟と農業しないと生き殘れないしな、現狀。

サービス業とかが復活するのはいつになることやら・・・

「やはり一朗太さんであります!」

そんなことを考えていると、門が開いて式部さんが顔を出した。

いつでもニコニコしていて微笑ましい。

俺も見習わないとな。

「おはようございます、式部さん。よくわかりましたね?」

「おはようございますっ!ふふぅふ、一朗太さんの気配がしましたので」

・・・なにそれこわい。

俺特有の気配ってなんぞや?

ニンジャ恐るべし・・・

「朝霞さんも、なーちゃんもおはようございますっ!」

「バウ!」

「・・・シキブサンはよっすぅ~」

式部さんの挨拶になーちゃんは元気よく、朝霞は謎の言語で答えた。

こら、挨拶はちゃんとしなさい朝霞。

しかし、いつの間にか名前で呼ぶ程度には慣れたみたいだな。

この前の添い寢騒から考えれば大きな進歩である。

「昨日の今日でアレですけど、しご挨拶に來ました。今大丈夫ですか?忙しいなら・・・」

「一朗太さんのお願いならいつでも大丈夫でありますっ!さささ、どうぞどうぞ~どうぞ~」

言い切る前に手を摑まれた。

式部さんの信頼が重い。

手を引かれながら敷地にると、立派な庭が出迎えてくれた。

うひょお・・・池が、池がデカい。

庭木もいっぱいある・・・広いなあ。

まあ、いつから手れをされていないのかっていうくらいに荒れてはいるけども。

空き家だって聞いたから無理もないか。

「すごい家ですね・・・」

「はいっ!薪で沸かせるお風呂も完備であります!最高であります!!」

やはり風呂は重要だよな。

なくても死ぬわけではないが、心が死ぬ恐れがある。

よくよく考えてみたら、今まで水と風呂では苦労してないな俺も。

この環境ではかなり恵まれているなあ。

「式部ちゃんのテンションが高いと思ったら・・・や、いらっしゃい」

「昨日ぶりです、どうも」

これまた豪華な玄関が開き、古保利さんが顔を出した。

いつもながら、見た目だけは普通のおじさんなんだよなあ。

「おや、かわいらしいお客さんも一緒だねえ。お茶くらいは出せるよ、ってって」

「しゃーす!あざます!・・・なーちゃんはお庭で待っててね」

「ワゥウ!」

朝霞が頭を下げて元気よく返事をしている。

マジか、最近塩対応ばっかだったからびっくりするなあ。

一応目上の人への禮儀は心得ているんだな、なんか意外。

・・・あ、そういえば今まで碌な大人の男がいなかったもんな。

「う?にいちゃんなんででんの?」

「いや・・・朝霞はいい子だなって」

思わず頭をでてしまった。

「ま、どうぞ座って座って」

「お茶を用意するでありますっ!!」

通された先は、畳敷きの大広間だった。

10畳以上の広さのそこには、中央に華ではないが値打ちものっぽいテーブルが置かれている。

ここは何の部屋だろうな?

壁には田舎にありがち・・・と言っていいのか知らんが、先祖代々の寫真が飾られている。

白黒から途中でカラーになってるな。

あの一番新しいおじいさんの寫真が、朝霞がさっき言っていた先代だろうか?

『なつかしー』と言いながら朝霞がキョロキョロしている。

この家にもったことがあるらしい。

ご近所だから當然か。

「いい家だよねえ。教えてくれた荒川さんには頭が上がらないや・・・ま、広義的に言えば不法侵だけど」

向かい正面に腰を下ろした古保利さんが、いつものように微笑んでいる。

「お、そういえば治ったんですね古保利さん」

見慣れた左腕のギプスがない。

昨日は潛水服を著ていたのでわからなかった。

「やっとねえ。でも治ったら治ったで仕事が増えちゃったよ・・・しばらく仮病しとけばよかったなあ、ははは」

「っていうか、なんで指揮が最前線に來てるんですか」

神楽の3人はいつでもそんなじだけども。

なまじ戦闘力が高いからかしら。

いや、オブライエンさんについては知らんけど・・・でもあのガタイだもんなあ。

「あー、そういえばアニーさんに聞きましたよ、ダムの件。お手伝いできなくて申し訳ないです」

「あははは、鍛治屋敷相手なら仕方ないよ。ぶっちゃけダムの方は楽だったし、たぶん來てもらっても仕事なかったと思うよ?」

おや、そうなのか。

「數が多いだけだったしね、しかも黒しかいなかったし。水撒いて電撃で一網打盡さ」

・・・それを聞いて『あ、楽勝じゃん』と思った俺はおかしいのだろうか。

なんか最近、白黒とかネオゾンビとか鍛治屋敷とかの相手ばっかりだったせいで麻痺しているのかもしれん。

「しかし、田中野くんこそ無事でよかったよ。いや、よく生きてたねえ・・・こうして見ても信じられないや」

「悪運だけは強いんで。まあ、ギリギリだったとは思いますけども」

あの時鍛治屋敷の娘に邪魔されなければ完勝していたのかと聞かれれば、そうだとも答えにくい。

アイツを始め達人ってのは隠し玉をいくつも持っているものだ。

俺もその一つである『繚旋風』があったわけだし。

だから、あの勝利はたまたま拾い上げた幸運の結果だと思う。

「こっちでも大変だったんだよー?式部ちゃんなんかさあ、キミの安否が確認されるまでずっと死んだ目で働いてたんだから・・・休めって言っても聞かないしさあ」

「ああああー!!!いわ、言わないでほしいであります!!言わないでっ!!!!」

お盆を持ったまま式部さんがダッシュでやってきた。

そんな勢いでもお茶を零していないのは流石としか言えない。

「お、おおおお茶であります・・・どうぞ」

そして俺と朝霞の前にそっとお茶を置いてくれた。

は慌てているのに所作は靜かなものだ。

「じぶ、自分は一朗太さんがご無事なことは確信していましたので!う、疑ってはいませんでした!」

「いや、面目ない・・・いろんな人に心配かけちゃって」

「いえっ!お気になさらず!!こうしてお元気な姿を拝見できただけで自分は満足でありますから!!」

流れるように俺の橫に座りながら、式部さんは恥ずかしそうに微笑んだ。

うーん、いい人だ。

「ずぞぞぞぞぞぞぞぞ・・・」

・・・こら朝霞。

お茶を飲みながら睨むんじゃありません!

お行儀が悪いぞ!

「朝からやけがするねえ・・・ええっと?それでここに來た理由は・・・僕たちのこれからの予定を聞きたいのかな?」

楽しそうにそう呟いた古保利さんは、そう水を向けてきた。

「あー・・・そうですね。あとご近所さんへの挨拶って所でしょうか」

「ああそうか、まあしばらくはここが拠點になるかなあ・・・」

古保利さんはお茶をぐいっと飲み干してテーブルに置いた。

さっきまでの雰囲気はなりを潛め、いつかのように真剣な表となる。

橫にいる式部さんもそうだ。

「・・・朝霞~、ちょっと面倒臭い話になっからさ。庭でなーちゃんと遊んでてくんない?」

「う~・・・わかった。アナウメはしてもらうかんね?」

俺達の間の空気を察したのか、朝霞は席を立って部屋から出て行く。

こういう所は俺よりよほど気が付くな、あの子は。

・・・あまり朝霞には聞かせたい話じゃない。

話に出るかはわからんが、胎児云々のことは絶対にな。

「・・・察しのいい娘さんだねえ。親戚だっけ?」

「ええ、妹が増えた気分ですよ」

そう言うと、古保利さんはにやりと笑った。

「妹、妹ねえ・・・(よかったねえ式部ちゃん)」

「ふふぅふ、黙権を行使するであります」

なにやら嬉しそうな式部さんである。

「さて・・・これからのことだけどね」

仕切り直しとばかりに古保利さんが口を開く。

「まず優先目標は、中央地區にある『マーヴェリック』の無効化。鹵獲できれば最高だけど・・・まあ、そこまでは高みかなあ」

あのでっかいトラックか。

そうだな、アイツをなんとかしないと出もままならない。

「その前準備として、今日から夜間の偵察に出るよ。ああでも、これはキミに協力を頼むことはないね、そっちも療養中のようだし」

偵察に関しては役立たずだからな、俺。

なにしろ古保利さんはそれ系のプロフェッショナルだし。

満足の狀態でも同行する気はない。

「今は式部ちゃんを含めて8名の部下がいるからね。偵察に関しては僕たちで対応するよ」

「ですね。俺は役に立ちませんし」

他の部下の皆さんは、別の部屋にいるみたいだ。

気配はするけど音はしない。

うーん・・・ニンジャの部下もまたニンジャなのか。

「はは、自慢の部下たちさ。こと偵察にかけては全幅の信頼を置いているからね」

「こうしていても気配が希薄っぽいですもんね。読みにくいことこの上ない」

後藤倫パイセン以下、俺以上ってところかな。

・・・うん、ここに混ざっても確実に足手まといになっちまうな。

いいの!俺は直接戦闘型だからいいの!

適材適所なの!

「おや、大人が集まって緒話かな?楽しそうじゃないか・・・私も混ぜてもらおう」

襖が開き、アニーさんがってきた。

ああ、そういえば手伝いに行ってるって朝霞から聞いたな。

「お茶をお持ちするでありますっ!」

「ああ、すまない」

式部さんが素早く席を立ち、アニーさんはほぼ同時に座った。

どうやらここはリラックスできる場所と認定されているようで、いつものマスクはしていない。

「えっと・・・」

「ああ、気にしないで。彼から出自その他もろもろは聞いてるから、通信で前もってね」

なるほど。

じゃあ俺が気にする必要はないな。

「こちらとしても、噂に名高い『レッドキャップ』とお知り合いになれて興味津々さ」

「『元』ですよ、コホリさん」

「あーそうだった、そうだった」

古保利さんとアニーさんの間に、何とも言い難い空気がある。

表面上は穏やかだけども、なんというか壁があるような・・・?

軍人としての線引きのようなものだろうか。

「まあ、とにかく・・・僕たちはしばらく夜行になるからね。田中野くんは安靜にしていなさい」

「それは・・・どうも」

「気にしない気にしない。今までは働きすぎくらいだったんだからさ」

そう言って手をヒラヒラさせる古保利さん。

「荒川さんの許可は取ってるし、しばらくお目付け役として式部ちゃんを派遣するからね。今度無理したら関節とか外されちゃうぞ~」

「そんなことはしませんが、しっかり監視させてもらうであります!よろしくお願いするであります!!」

知らぬ間に俺への監視制が整えられていた件について。

外堀が・・・外堀が埋められている。

大坂夏の陣・・・いや冬の陣だっけ?

「とりあえず現狀はこんなモノかな~?これからも逐一報告はするからね、僕たちに任せてどーんと構えてなさい」

ワザとらしくを張る古保利さん。

まあ、餅は餅屋。

俺としてはこれでしは気が楽になるなあ。

「ああそうだ、これから『防衛隊』とお話しに行くからね。ちょっとついて來てくんない?」

そう言ってニヤつきながら、古保利さんは席を立った。

それと同時に四方の襖が開き、完全武裝の隊員さんたちまで現れる。

・・・噓だろ四方にいたのかよ。

古保利さんの奧の3人しかわからんかったぞ。

恐るべし、現代ニンジャ・・・!

それから俺たちは富士見邸を出発し、『防衛隊』が城にしている公民館へとやってきた。

俺の後ろには朝霞もついてきている。

なーちゃんはアニーさんと式部さんと一緒にお留守番だ。

人を見られたら何をされるかわからんからな。

以前のオッサンみたいな頭下半がまだいるかもしれんし。

その點、古保利さんの部下は全員顔も型もわからないように完全防備だから安心である。

・・・今更だけど皆さん暑くないの?

え?慣れてる・・・あ、そうですか。

そういえば神崎さんはどこに行ったんだろう・・・?朝から姿が見えないし、古保利さんの所にもいなかった。

朝霞は手伝いに行ったって言ってたんだが・・・ふむ、単獨偵察かな?

ちなみに、今俺や朝霞が同行している理由だが。

『キミと協力関係だぞって見せることであちらのきを牽制する目的もあるからね。式部ちゃんに聞いたけど、目をつけられてるんだろう?』

という理由で、完全武裝の自衛隊の後ろをトコトコついて行くことになったわけだ。

こちらのことも考えてくれるとは有り難い限りである。

これでねえちゃんたちの安全度はさらに跳ね上がるな。

ある程度まで公民館に接近すると、俺達を発見した『防衛隊』が騒ぎ出した。

そりゃそうか、ライフル構えた自衛隊が歩いてくるんだもんな。

それにしても索敵とか全然考えてないな、こいつ等。

周辺に銃座もフェンスもない。

今まで見てきた中でダントツにガバガバな避難所だ。

銃を持った相手に、ここまで接近されたらもう詰みだぞ。

本當にわきが甘い連中だな。

「おい!?どうしたんだ騒いで・・・んな!?じ、自衛隊・・・!?」

表の騒ぎを聞きつけてか、公民館の中からオッサンが飛び出してきた。

アレは以前ウチに來た・・・ええと、柳田?だったか。

「こんにちは。私は陸上自衛隊、神楽仮設本部所屬・・・古保利文明三等陸佐です」

古保利さんは立ち止まり、余所行きの顔と口調でビシリと敬禮した。

背後に控えた部下の皆さんも、一糸れぬ機敏さでそれに続く。

うおお・・・凄い迫力だ。

「あ・・・え、ああ。わ、私はここの代表者で、柳田といいます。あ、あの、それで自衛隊の方々がどうして・・・」

しどろもどろになりつつも、柳田は返答している。

背後や周囲にいる他の面々は、何も発さずにこちらをただただ凝視している。

視線の先は、自衛隊の彼らが持つ銃やナイフ、軍服など。

相変わらずわかりやすいなあ。

「後ろにいる田中野さんからの報で、こちらへ上陸してきました」

そこで俺がいることに気付いたのか、柳田は俺を見た。

その目には驚愕と困の意思がありありと含まれている。

「彼とは以前から協力関係にありましてね。行方不明になっていたので今日まで捜索していたのですよ」

「そ、そうです、か・・・」

柳田やその他の連中の顔が、みるみる青ざめていく。

自分たちが今までしてきたことを思い出しているんだろう。

正確には、暴走した松本のオッサンがしてきたことを。

「おい!あんたら自衛隊か!遅いじゃないか・・・今の今まで何をしていたんだ!!稅金泥棒が!!」

そんな狀態を崩したのは、前にも聞いた耳障りな聲だった。

例の松本が、公民館から出てくるなり古保利さんに向けて怒鳴っている。

「ま、松本サン!ちょっと!まずいですよ・・・!!」

「うるさいっ!!・・・おい!早く救援資やら何やらを持って來い!食料がなくなってきているんだ!!」

空気の読める若い男がなんとか止めようとしたが、松本はそれを振り払って歩きながら怒鳴る。

・・・噓だろ、この狀況でそんな態度がなんでできるんだよ。

ある意味大すぎる・・・見習いたくはないけども。

「ふむ、失禮ですがお名前は?」

それに対し、古保利さんは靜かに聞き返した。

靜かだが、聲が凄まじく冷たい。

「松本だ!・・・え?」

真っ赤だった松本の顔が、一瞬にして青を通り越して白へ。

その原因は、一斉に自分へ向けられた無數の銃口だ。

古保利さんを守るように、8丁のライフルがピタリと照準されている。

「な、なに・・・い、いったい、いったい何をするんだ・・・!」

「―――貴方はし、勘違いをしているようだ」

古保利さんが進み出て、松本の真正面へ。

「我々は、あなた方民間人の救助にいているわけではない。目下の目標は周辺地域の偵察と索敵だ・・・見た所健康そうだし、救助の必要は低いと見えますがね」

決して聲を荒げることなく、淡々と事実だけを伝えるような古保利さん。

薄く開かれた目には、何のも宿っていなかった。

それに曬された松本は、何か口をもごもごさせながら後ずさり・・・若い男の背後に隠れた。

けねえなあ、本當に1人じゃなにもできないんだな、コイツ。

石川さんが言ってた通りだ。

「そして・・・柳田さん」

「は、はい!!」

話しかけられた柳田は、まるで電流でも流されたようにを痙攣させて答えた。

松本のやらかしによって、彼の顔もまた白くなっている。

「我々が求めることは1つです。簡単に言えば・・・そう、『邪魔をするな』」

ざり、と古保利さんが足を進める。

背後の部下たちも同じように。

それに対し、『防衛隊』は怯えるように全員後ろに下がった。

「一般市民に迷をかけるくらいなら、『防衛隊』という名前らしく・・・おとなしく防衛をしていなさい。これは『命令』ではなくて『お願い』ですが・・・まあ、破った場合はそれ相応の報いがあるでしょう」

「は、はひ、はい!」

柳田は、涙目になってそう返すことしかできていないようだった。

「―――もちろん、急事態や重病人の発生に関してはその限りではありませんが。まずは自分のは自分で守っていただきたい・・・それでは、今日はこれで」

そこまで言い切ると古保利さんはまたもや見事な敬禮をし、回れ右。

呆気にとられた『防衛隊』の面々を目に、さっさと帰路に就いたのであった。

・・・俺と朝霞、一言も喋ってないじゃん。

「いや~、余所行きモードは疲れるねえ」

公民館から十分離れると、古保利さんはいつも通りに戻った。

「あんだけ脅しとけばまあ大丈夫でしょ。特にあの松本っての、あれが『防衛隊』のガンだね~」

たったあれだけの邂逅でもうそこまで判斷したのか。

隊員さんたちも頷いている所を見ると、全員その考えに達したらしい。

「いやでも、もしトチ狂ったらどうします?聞いてるでしょうけど、この前襲撃があったんですが・・・」

損得勘定ができないアホってのは一定數存在するからな。

今は大丈夫だが、松本なんかはいつおかしくなるかわからん。

そう思っていると、古保利さんは俺を見て薄く微笑んだ。

「大丈夫さ。海は広いからね」

・・・うん、そうだね。

この問題を深く考えることはやめにしよう、そうしよう。

俺は全力で考えないことにするのだった。

「お帰りなさい!田中野さん!」

古保利さんと別れ、朝霞たちと家に帰ると庭に神崎さんがいた。

式部さんは今晩から家に泊まるらしいので、今は別行である。

「・・・あの、神崎さん、『ソレ』は・・・?」

庭の神崎さんは、一斗缶を何個か連結したようなの前でしゃがみ込んでいる。

そこからは、何やらいい匂いのする煙がモクモクを上がっている。

アレなんだっけ、ああ!燻製を作る機械だっけ?

いや、そうじゃなくて何故神崎さんが庭で燻製を・・・?

「田中野さんにをつけて早く治っていただくために、朝から準備していました!」

そう言って神崎さんは、燻製機の扉を開ける。

そこには、いいになったの塊が鎮座していた。

う、味そう・・・!

「早朝に狩猟してきた豬です!まだまだはありますので、保存がきくようにこうして燻しています!」

「そ、そうですか・・・いやあ!嬉しいなあ!!ありがとうございますっ!」

周囲に満ちるいい匂いでテンションヤバくなったなーちゃんに當たりをされつつ、俺はそう答えることしかできなかった。

神崎さん・・・マジで有能・・・

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