《【第二部連載中】無職マンのゾンビサバイバル生活。【第一部完】》28話 釣りと探し人のこと

釣りと探し人のこと

「平和だなあ・・・」

「そっすねえ・・・」

夕日を浴びてキラキラとる水面に、垂れる釣り糸。

ウキにはまだ何の反応もない。

「近所も隨分と賑やかに・・・なってねえな。一なんだいあの人たちはよお?晝間はとんと人気がねえぜ」

「あー・・・古保利さんたちは夜行なんで。夜に偵察して、晝に休んでるんですよ」

俺の橫に伏せているなーちゃんが、大きく口を開けて欠をした。

そのまま何度か目を瞬かせると、彼は目を瞑り寢る勢にる。

「なんだいそりゃあ、まるで忍者じゃねえか」

「あながち間違いじゃないっすねえ、それ。おっと、きたきた」

ウキが軽く左右に揺れた後、勢いよく沈む。

それに合わせて竿をしゃくると、ガツンと手元にいい手応えがした。

これは大きいな!

「んぬおお・・・!この引き、結構大ですよ!」

「この走り方は・・おう、セイゴだな!しっかり竿を橫に倒しな、跳ねた鰭で切られちまうぞ!」

右に左にテグスが走る。

それに合わせながら、手早く確実にリールを巻いていく。

ぬぬぬ・・・結構重いがこれならいける。

「だっしゃああああああっ!!!」

「おいおいごぼう抜きかよ!待ってな、タモ出すぜ!」

「ワン!ワン!!」

俺達の騒ぎで起きたなーちゃんが、嬉しそうに吠える。

激勵にも似たそれを聞きながら、水面から飛び出したきらめく魚がタモに収まった。

「やっぱりセイゴだ!それももうすぐスズキになるガタイだぜ!」

「やった!今晩の晩飯に刺が追加されますね!」

嬉しそうにタモを確認しているのは・・・石川さんだ。

俺は、久方ぶりのゆったりとした時間を思う存分満喫している。

古保利さんたちが公民館に突撃した翌日。

俺は朝から居間で惰眠を貪っていた。

7時前に起きて朝食を食べ、そしてまたゴロゴロしている。

「世はなべてこともなし・・・ふぁああ・・・」

ねえちゃんが干したフカフカの布団と枕をお供に、夢とうつつを行き來している。

最高だ。

最高の休暇だ。

もう死ぬまでこうしていたくもある。

これは俺の意思でそうしているわけではない。

いや、現狀に不満は一切ないのだが・・・朝霞を筆頭にみんなが休め休め言うもんでね。

古保利さんたちの偵察活が一定の果を上げるまで、突発的な事案以外で俺の出番はない。

『防衛隊』の連中も、まさか昨日の今日でトチ狂うこともなかろう。

北の『レッドキャップ』も、まだく様子はない。

なので、これを機にしっかりとを治すことにしたのだ。

「にゃにゃむ・・・」

そして朝霞はいつものように俺にしがみ付いて眠っている。

さっきフラリとやって來てこの狀態になった。

・・・いい加減もう慣れた。

まあ、こいつも船のことで毎日頑張っているからな。

これくらいは許してやろう。

「やはりここにいたな、アサカは」

庭から窓を開け、アニーさんが顔を出した。

いつもと違ってラフなTシャツと作業ズボンである。

そこかしこに機械油っぽい汚れが目立つのは、絶賛船の整備中だったんだろう。

そしてシャツのには『黒 船 來 航』と印字。

・・・ねえちゃんの私だな、絶対。

「イチロー・・・うむ、ちゃんと休んでいるようだな。関心関心」

「まあ、けませんしね」

俺の現狀を見て微笑むアニーさんに、苦笑で返す。

みんな心配だなあ。

「そこまで幸せそうにしているのを起こすのは忍びないが、用事がある・・・起こしてやってくれないか?」

「船のことですか?」

「ああ、し打ち合わせがあってな」

それなら仕方ないな。

幸せそうな朝霞の肩を叩く。

「朝霞ー、朝霞やーい」

何度かそれを繰り返していると、朝霞の眉間に皺が寄る。

「うやぁ・・・あと6時間ん・・・」

「・・・お前さあ」

前にもこんなことあったな?

しがみ付いてくる朝霞を高速で揺さぶる。

「あばばばばばばば・・・!?にゃに!?地震ん!?」

「ハイおはよう」

やっと起きてくれた。

朝霞は目を白黒させながら、寢ぼけ眼で周囲を見回している。

「に、ににににいちゃん!タカダイに逃げないと!!」

「そうだなあ、とりあえず俺から離れなさい」

「・・・うゆ?」

正気に戻ったらしい朝霞が、俺の顔を見つめてくる。

「・・・なんだ夢か~」

「二度寢にるな二度寢に」

「みゃん!?」

安心したように再び就寢の姿勢にろうとした朝霞の背中のツボをプッシュ。

強制的にそれを妨害する。

「ははは、平和なことだ。アサカ、すまんが仕事だ」

「あ、アニーちゃん・・・うい、おけまる~」

謎の言語を話しながら、朝霞は俺のから離れた。

「みゅんみゅんみゅ・・・!」

そのまま、貓が起き抜けにするようなポーズ。

コイツが犬なのか貓なのかそれとも人間なのか、たまによくわからなくなる。

「おっしゃ!充電完了したし!にいちゃん行ってきま~!」

「おう、行ってらっしゃい」

「ゆっくり休まなくちゃダメだかんね!」

何を充電したのか、朝霞は元気よく外に飛び出して行った。

「はは、それではな。ゆっくり休むんだぞ」

「あの、何か手伝いとかは」

「ない。寢ろ」

アニーさんはそうぴしゃりと笑顔で言い放つと、朝霞の後を追って行った。

うーむ、釘を刺されまくっている。

しばらくはこの調子だろうなあ・・・甘んじてけよう。

惰眠を貪るために、再び目を閉じた。

・・・夢も見なかった。

寢すぎて若干が疲れた。

壁の時計で時刻を確認・・・10時か。

晝飯にはまだ早いが、さすがにこれ以上は眠れそうにない。

どうすっかなあ・・・

「おや、起きましたか田中野さん」

庭でなにやら作業をしていたらしい神崎さんが、窓を開けてこちらへ話しかけてきた。

また燻製でも作る気なんだろうか。

「いやあ・・・大分寢ましたよ」

「ふふ、一日中寢ていてもいいんですよ?」

「逆に疲れますよ、それは」

神崎さんは上機嫌だ。

あ、そうだそうだ。

ついでに言っておこう。

「昨日の燻製、無茶苦茶味かったです。神崎さんは何でもできますね」

山で狩ってきたという豬の燻製。

ほんと、店で売ってるみたいな味で最高だった。

魚はよく食うが、はあまり食えないからな。

「なんでもはできませんよ、できることだけです。でも、喜んでもらえてよかったです!まだまだ在庫はあるので、お腹いっぱい食べてくださいね!」

うーん、神崎さんが天使に見える・・・

「ここは狹い島ですが、豬や鹿が多いですから・・・また狩りに行ってきますね!」

まあ、ゾンビのせいで人口も減ってるだろうしなあ。

「『防衛隊』の連中は・・・まあ、魚だけで満足してるんだろうなあ」

完全に俺の偏見だけど、なんかあいつら真面目に働いている気がしない。

防壁のことは自分たちの安全に直結するから仕方なしにやってるだけで、それ以外は適當そう。

「市街地から離れた場所で狩猟しましたから、気付かれる心配もありません。もっとも、気付かれたところで別にどうということはないのですけれど」

自信満々な神崎さん。

俺も別にそこは心配していないんだが・・・

「・・・でも、一応ヘルメットとマスクはしといたほうがいいですよ。神崎さん人なんで・・・あいつらにとっちゃ最優先ターゲットになりかねませんし」

「びじっ・・・!?そ、そそそそうです、か?た、田中野さんはその方がいいです・・・か?」

急に神崎さんが高速で振し始めた。

「え、ええ・・・そうですね、その方がいいと思いますよ?」

詩谷にも龍宮にも、先のことなんか考えずに目先のを優先するアホはいたし。

背後の自衛隊のことなんか考えずに、神崎さんにちょっかいを出す奴がここにいてもおかしくない。

「さ、早速予備の裝備を確認してきますっ!!」

神崎さんは凄まじい速さで富士見宅の方へ走って行った。

・・・そういえば、神崎さんは古保利さんチームとは一緒に行してないのな。

まあ、今更か。

古保利さんの方はガッチリ腹心とかで固めてるっぽいし。

神崎さんの能力が低いとは思わないが、やはりチームにはチームの信頼関係とか連帯が重要なんじゃないかな、たぶん。

「なーちゃん、神崎さんって足速いなあ」

「クゥ~ン・・・」

なーちゃんは、何故か俺の方を呆れたように見ていた・・・気がする。

なにかねその目は?

「ササミ食べる?」

「ヴァウ!!ウォン!!!」

晝飯までの時間、俺はなーちゃんとおやつを食べることにした。

犬用ササミ、いつの間にか癖になってしまった。

食料としては確保しやすいから最高だよな、ペット用食料。

皆で晝食を食べ、しばらく歓談した。

俺としては腹ごなしの運でもしたかったんだが、全員に止められた。

筋トレすらもアニーさん直々に駄目だと言われてしまった。

なので、悶々としながらストレッチだけをして・・・引き続き居間でゴロゴロすることにした。

朝霞たちは船の整備、神崎さんは山に仕掛けた罠の様子を見に行くとそれぞれ出かけていった。

式部さんは富士見宅で何やら仕事があるらしく、今日はこちらには來ないと神崎さんに聞いた。

みんな仕事してるんだなあ・・・

『男の子が家にいると安心ね~』と、ねえちゃんは喜んでいたが・・・男の子っていう年齢じゃないんですがね。

あと、なーちゃんも喜んでいる・・・ように見える。

どうやらお気にりのオモチャ程度には好かれているようだ。

「ねえちゃん、ちょっと釣りでもしてくるよ」

流石にこのままではが鈍りすぎるので、食料調達も兼ねて釣りに行くことにした。

これくらいは許されるだろう。

「あらそう?じゃあなーちゃんも連れて行ってあげて~。無理しちゃダメよ~」

ねえちゃんの聲を背中に聞きながら、釣竿と道を借りて出発することにした。

もちろん、なーちゃんも一緒にだ。

朝霞が言っていたが、彼にリードは不要らしい。

よく躾けられてるなあ・・・

を抱え、なーちゃんに先導されるように道を歩く。

目指す場所は家から目と鼻の先にある砂浜・・・の橫にある巖礁だ。

朝霞といつも一緒に行っていたからスッカリ覚えてしまった。

砂浜から巖礁に踏み込むと、既に先客がいた。

麥わら帽子をかぶったそのガタイのいい人は、音に気付いてこちらを振り向く。

「よぉ、田中野さんじゃねえか」

「あ、石川さん、どうもどうも」

ご近所の石川さんだった。

「もう出歩いて大丈夫なのかい?丈夫だねえ・・・朝霞ちゃんから大怪我して死にそうって聞いてたけどよ」

「朝霞が大袈裟すぎるだけですよ、五満足ですし」

「がはは、あの子も男の兄貴ができて心配してんだよ・・・どうだい?一緒に釣らねえか?丁度話し相手がしかったんだ」

「ええ、俺なんかで良けりゃあいくらでも」

石川さんとし離れた場所に折りたたみ椅子を設置し、お言葉に甘えることにした。

「よぉナカオチ!こいつは頼もしい護衛だなあ、がはは」

「ワウ!ワフ!」

石川さんのでっかい手にでられて、なーちゃんも嬉しそうだ。

そういえばそんな名前だったな、彼

朝霞の兄貴のセンスよ・・・

俺と石川さんは、肩を並べて釣りをすることになった。

そして冒頭に戻る。

石川さんはもう既に何匹も釣り上げていて、俺もそこそこの釣果だった。

そろそろ休憩しようかな・・・と思ってたら、デカめのアタリがあったのだ。

「よ・・・っと!ついでにシメといたぜ」

タモからスズキの出世前であるセイゴを取り出した石川さんは、小さめの包丁を使って即座に息のを止めた。

そのまま流れるように臓を取り除き、海水で綺麗に洗うと氷水を浮かべたクーラーに収納。

鮮やかな手並みだなあ、鮮魚店も真っ青じゃないか。

「こうしとけば刺味さが跳ね上がるからよ。いいぜえ、弾力もあってな」

「うわー、ありがとうございます!手慣れてますねえ」

「そりゃあ腐っても漁師の家の出だからよ」

あー、そういえばそうか。

・・・あれ?でも詩谷にいる時は建設會社に勤めてたんだよな?

最初は〇〇組って聞いてヤクザを連想したけど、調べたら違ったし。

「まあ、家業を継ぐのが嫌になって島ァ飛び出したんだけどな」

「へえ、そうなんですか」

「おう、高校も中退して荒れに荒れてたぜ・・・あの頃の俺ァ正真正銘の屑だったな。田宮先生にぶん毆られてなきゃ、今頃生きちゃいねえだろうよ」

師匠、マジで喧嘩ばっかりしてるよなあ・・・今更だけど。

「道場を世話してくれたのも田宮先生だしよ、頭が上がらねえや」

「え?元々『貫水流』じゃなかったんですか?」

「ああ、いろんな流派つまみ食いしてよ。それで勝手に強くなったと勘違いしてる糞鬼だったぜ」

ふむ、人に歴史ありってわけか。

「よっこいせ・・・ちょいと休憩しようや」

石川さんは竿を引き上げ、傍らに置いた小さめのクーラーを開けた。

がちゃがちゃと何かがこすれる音がする。

「よく冷えてんな・・・やるかい?」

そう言って取り出されたのは、小さめの酒瓶だった。

は・・・なんだろ?アメリカ語はサッパリだ。

「あー・・・一応怪我人なんで、お茶でも飲んでます」

「そういやそうだったな。すまねえ!あんまり元気そうだからよ、がはは!」

本當は呑めないんだけどね。

斷る理由ができてよかった。

「じゃ、俺ァ勝手にやらせてもらうぜ」

石川さんは親指で弾くようにして栓を開けた。

・・・おお、指も相當鍛えてるな。

あれなら貫手や急所打ちなんかも凄い威力が出そうだ。

実戦空手、恐るべし。

俺も家から持ってきたペットボトルを持ちあげる。

はねえちゃんが淹れてくれた麥茶だ。

キンキンに冷えている。

「なーちゃんもどうぞ」

同じように持ってきた水を、ドッグボウルにれる。

が渇いていたようで、なーちゃんは豪快に飲み始めた。

「~~~~っはあ!うめえ!!」

石川さんはほぼ一息で酒瓶を飲み干し、大きな溜息をついた。

・・・今チラッと見えたんだけど、その『55%』ってのはひょっとしてアルコール度數ですか・・・?

モンドのおっちゃんみたいに、この人もかなりの酒豪らしいや。

飲まなくてよかった・・・俺なら一口でぶっ倒れちまう。

よく冷えた麥茶で十分だ。

「こたえらんねえなあ・・・おお、そういえばちょうどいいな。ちいと田中野さんに聞きてえことがあってよォ」

「んぐ・・・はい、なんすか?」

麥茶を堪能していると、石川さんが改まった様子で話しかけてきた。

急にどうしたんだろう。

「―――ひょっとして、『北』にいる連中のこと・・・なんか知ってんのか?」

一瞬、周りの音が止まった気がした。

それくらい、石川さんの聲は真剣だった。

「・・・なんで、そう思うんですか?」

心の揺を押し殺して、そう聞き返す。

「その反応こそが証拠・・・ってのもあるけどよ、確信したのは自衛隊の連中が來たからだ」

「古保利さんたちが?」

「ああ、『防衛隊』みたいな連中・・・わざわざ自衛隊が出張るほどでもねえからよ。他にも目的があんじゃねえか・・・って思ってな」

そう言うと、石川さんは新しい酒瓶を取り出して栓を抜く。

それを、音を立ててごくごくと飲み干し・・・溜息をついた。

「・・・そう警戒すんなよ、なにもアンタと事を構えよう・・・ってんじゃねえや。南雲流相手にすんなら、正面からはいかねえよ」

「買いかぶり過ぎだと思いますけどね。俺は南雲流でも劣等生ですから」

「へへ、よく言うぜ。なら手裏剣はしまいな」

おっと、握り込んだ棒手裏剣に気付かれたか。

無意識に握っちゃったんです!俺は無罪です!!

「本當に田中野さんとやり合う気はねえんだ。俺が知りてえのは、『北』に・・・探してる人間がいるかどうかさ」

探している、人間・・・?

詩谷から龍宮と渡り歩いていたのは、その誰かを見つけるためだったのか?

言うや否や、石川さんは巖の上に手をつき、俺に向けて土下座した。

「―――頼む!『北』について知ってることを教えてくれ!!この通りだ!!!」

首筋を俺にさらけ出したその姿からは、敵意や害意はじられない。

っていうか、石川さんが変な人間なら・・・ねえちゃんは確実に気付いてるだろうし。

あの人そういうのに鋭いっぽいしな。

アニーさんの正も看破してたみたいだし。

「ちょっと、顔を上げてくださいよ・・・俺もそんなに詳しくないんですから」

「じゃあ、やっぱり知ってるんだな!?」

「ま、とりあえずこのままじゃ話もできないんで・・・座りましょうよ」

石川さんをなだめ、向かい合って座る。

なーちゃんはし離れた所から俺たちをじっと見つめている。

喧嘩でもしてると思ったのかな?

「田中野さんと自衛隊のねえちゃん達が親し気に話してるのを見たんでな・・・何か知ってるだろうと思ってたんだ」

椅子に座り直した石川さんは、新しい酒瓶を開けた。

・・・飲み過ぎじゃない???

あ、よく見たら今度はただのお茶だわそれ。

「『北』の連中ってことは・・・アレですか、『龍宮刑務所』関係ですか」

石川さんが謎の特殊部隊と面識があるとも思えないし、恐らく探しているのは元刑者の方だろう。

「ああそうだよ・・・そうか、やっぱり刑者連中は『北』に合流してるんだな」

「・・・よく知ってますね」

水を向けると、石川さんが低い聲で話し出した。

「詩谷でゾンビ騒が起こってよ、しばらくして考えたんだ・・・ひょっとしたら龍宮刑務所にれるかもしれねえ、ってな」

「刑務所に、る?あの、ひょっとして獄を手助けする・・・とかですか?」

知り合いが収監されてて、それを助けようとか?

困ったな、そういう方面の話には協力できないぞ。

「―――違う」

石川さんが俺を見た。

その目を見た瞬間、その疑いは霧散した。

「―――どうしたってこの手でぶち殺さねえと、気がすまねえ外道がいんのさ・・・あそこにはな」

その目は。

いつかの俺と同じをしていた。

俺と同じ、復讐にとりつかれた人間の・・・消えない恨みの炎を宿していた。

「復讐、ですか」

「すまねえが説教は聞く気ねえぞ」

「なにを仰る、俺も『北』にそうしてやりたい外道がいるんでね」

俺がそう返すと、石川さんは目を丸くした。

こういう反応は流石に予想外だったらしい。

「俺の親友を殺した。領國って外道がね・・・いるんですよ、『北』には」

「・・・アンタも、俺と同じってワケかい」

石川さんが歯を剝いて笑う。

「ええ、だから『復讐は何も産まない~』なんて、馬鹿なことは言いませんよ。師匠も復讐容認派でしたしね・・・まあ、止められて止まるようなもんでもないでしょうが」

「ああ、その通りだ。俺がソレを止める時ってのは、くたばる時だけさ」

覚悟が決まっているみたいだ。

気負いもなく、強張りもない。

ただ、復讐を果たすことを當然としてとらえている人間の態度だ。

「・・・石川さんの相手は、『北』にいるんですか?」

「そうとしか考えられねえ。龍宮刑務所も、その周辺も探すだけ探した・・・ヤクザやチンピラ、知ってそうな連中を片っ端から毆り倒して聞き込みもしたぜ」

「そこで『北』のことを知ったんですか」

「・・・ああ。刑者の中でも腕っこきや役に立つ連中が、軍隊みたいな連中にスカウトされてるって話が出てきてよ」

ふむ、鍛治屋敷がリクルートした時の話が伝わっているのかな。

ああいう業界?って、橫の繋がりとか強そうだし。

「場所まではわからなかったがな・・・目撃報を伝っていくと、どう考えてもこの島にいるとしか思えねえんだ。だから、戻ってきたって訳さ」

「・・・なるほど」

「しかし、これでハッキリしたぜ。『ヤツ』はきっと北にいる、やっとだ、やっと見つけた・・・」

石川さんの手に持った酒瓶が、みしりと音を立てた。

「・・・どんな、相手ですか?」

俺がそう聞くと、手の中の酒瓶がばりんと音を立てて砕けた。

ガラスの破片が、夕を浴びてキラキラと輝いている。

「・・・名前はな、『速水昭介(はやみ・しょうすけ)』」

折れるんじゃないかってくらい、石川さんは歯を噛み締めている。

「―――俺の房と息子を、殺した相手だ」

波の音より小さいのに、はっきりと聞こえる。

そんな、聲だった。

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