《ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からのり上がり~》まだまだ未ってことですね
「さて、それじゃあまずは素直に想を聞こうかしら?」
別室に水龍王の聲が響く。
ハクアを除く全員が集まり、先程まで繰り広げられていた戦闘についての話し合いが始まった。
「いやー、凄かったっすね。いつもながら、なんであの攻撃をハクアのステータスで回避出來るのかわかんないっす」
「確かにそうなの。ムーは絶対に避けられないし、ハクアと一緒に居ると、自分が強いのか弱いのか分からなくなるの」
「そうじゃな。ステータスだけ見れば負ける気はしない。けれどその相手がハクアだとすれば勝てる気もしなくなってくる」
「貴達も同じような意見かしら?」
シーナ達の総評を聞いた水龍王が、意見を黙って聞いていたトリスとシフィーに問い掛ける。
「……確かに、ハクアと同じ力を持つものが相手なら妾も負けないでしょう。それがハクアとなれば苦戦は免れない」
「うん。ハクアの力は目に見えない部分が異常過ぎる。神、センス、そのほかのどれを取っても私達龍族では考えられない力を持ってる」
「特にあの見切りと攻撃予測、それを十全に活かせるのコントロールが凄まじいですね。同じことをやれと言われても妾にはまず無理です」
「同じく。近いことは出來るかも知れないけど、あのレベルは無理」
「私やム二は無理だけど、トリスや姉さんでもっ無理なんっすか!?」
「悔しいがな」
「能力に任せて無理矢理似た事は出來る。私ならギリギリ見てから攻撃を回避出來るけど、それもそのうち続かなくなる。ハクアのあれは完全に見切る事で、最小のきを実現してるから、あの度で見切れなければ同じことは出來ない」
「ええ、そうね」
シフィーの言葉に同意した水龍王はチラリとミコトを見る。
「今同じ事が出來るとすれば、一番近いのはミコト様かしら?」
「っ!? いや、わしはあのレベルでは無理じゃぞ?」  
「あのレベルではね。でもハクアちゃんと一緒に居る事で、ミコト様の読みの度はここ最近一気に高くなりました。このまま続けて行けば近しいレベルには行けると思いますよ」
「うーむ。あまり出來る気はせんのじゃ」
「そうでもありませんよ」
弱気な発言をするミコトを否定したのは、意外にも今まで傍観していたテアだった。
「白亜さんとの組手の中で、貴が一番白亜さんのきを吸収しています。龍族に限らずそれが出來るのは意外にないんですよ」
「そうなんっすか?」
「ええ、ある種、人間以外の種族と言うのは完された種族ですからね。そこから一歩踏み出すのは中々居ないんですよ」
「完?」
「人は未で未完な生きなんだよ。例えば獣人なんかは獣の力を取り込み強くなった。エルフやドワーフ、妖なんかも獨自の強さがある。もちろん龍族もね」
「聡子の言う通り、それぞれの種族にはそれぞれの強みがあります。しかし人間と言う不完全な種にはそれがない。しかしそれ故に未で未完なまま何処までも至る事が出來るんです」
「まっ、そこまで行けんのなんて滅多に居ないけどね」
テアとソウ。
二人の神が人という種をそう評する。
その場の面々からすれば理解の範疇を超える話ではあったが、ハクアというイレギュラーな人間を知った今となっては、納得出來る部分が多いのも確かだった。
「それで、ハクアちゃんとの戦闘はどうでした?」
「あはは、もちろん楽しかったよ。まっ、最初は肩かしもいい所だったけどね。でもハクちゃんが出て來てからは相変わらず、しでも気を抜けば一瞬で元に喰らいつかれる覚は流石としか言いようがないよね」
「ええ、そうですね。ハクアちゃんは強い弱いと言うよりも、ただ怖いですからね」
「水龍王でもか!?」
「そうですよミコト様。ハッキリ言ってあの子は怖い。負けることはなくとも、一瞬でも気抜ければ命に刃が屆く。その覚だけがずっと付きまとう」
知らず水龍王はを抱く。
圧倒的な強者である水龍王。
その水龍王をしてハクアには何故か死をじさせるナニカが常に付きまとう。
「それがあの子の怖い所ですよ」
「そうだね。澪ちゃんもお嬢様も同じタイプではあるけど、ハクちゃんはそれが特に強い。相手に勝てる勝てないじゃないんだよねーあのタイプ。ああいうの私の時代にもたまに居たなぁ。総じて絶対に相手にしたくなかったけど」 
「むしろ貴もそのタイプでしょうに」
「んー、人からはよく言われましたけど、自分ではよく分からないんですよねー。私としては普通のつもりですし」
「はぁ、普通の人間はいくら後世に語られようと神の頂きに到達しませんよ」
「そんなもんですかね? ああ、もちろんハクちゃん達がおかしいのはわかりますよ。その中でも特にハクちゃんがおかしいですけど、私から見ても異常ですもんねあの子」
だから楽しいんですけど。と、顔を綻ばせのように言うが、容は実に騒である。
「あの子は人という種の極地に近い。人という種の中に現れる天才と言う名のイレギュラー。その中でも更に特殊な生き殘ることに特化した、適応型です」
事に、環境に、全てのものに適応し生き殘ることに特化した存在。
それ故に相手の死を正確に見極め、本能のまま一直線に狙ってくる。
それがハクアという人間の本質だ。
人一倍生に敏なためその極地にある死を観測する。
死を観測することで生を摑み、生を摑むために死を観測する。そしてハクアは本能的にそれを々な事象に無意識で応用している。
「白亜さんもそうですが、聡子も含め人という種は未完なんですよ」
「未完ですか。先程も仰っていましたよね?」
テアの言葉を水龍王が聞き返す。
「ええ、未完の種。それ故に何者にもなり、何処までも行ける。そして白亜さんも聡子もその中のひと握り、天才と言う名の狂気を宿す者です」
故に互いがぶつかれば、その才能を喰らいあい、何処までも進化する。
気付きは長に、長は進化へと代わり、次のステージに押し上げる。
「それがハクアちゃんの強さですか」
「ええ、その一端は先程の戦いで見たはずです。聡子の強さに喰らいつくように強くなる白亜さん、そしてその白亜さんを突き放すように強くなる聡子の姿を」
「確かにそうですね」
「どの種族でも神に至る者は居ます。龍神、鬼神、神霊など、そのどれもが神としてはある種完されていますが、聡子のように人から至る神は、神になっても未だ長の途上にあるんです」
「まだまだ未ってことですね」
「ええ、ですから人から神になった者は神の中でも力が弱い。ですが逆に言えば神というモノの中でも異端。それでいてそれ以上にもなれる存在でもあります」
「途方もないですねー。まあ、私は楽しくやれればそれで良いんですけど」
「それで良いんですよ。上ばかり見ている者はいずれ行き詰まる。白亜さんにしろ、澪さん、お嬢様にしろ、貴達人間は互いに互いを押し上げる存在なんですから」
神という途方もない存在の一端。
それを垣間見たからこそ、その神々が期待を寄せるハクアという存在が、ますます不思議に思える一同。
「本當にハクアちゃんは不思議な子ね」
「そうですね。あの子は神如きでは計り知れないですから。とはいえ今はどうせ、問題を棚上げにして明日のことは明日の自分に任せようと考えて、ぐっすり眠っている頃でしょうけど」
「ハクアのそういう所を聞くと、本當に同一人なのかどうか毎回怪しく思えるの」
ボソリと言ったムニの一言は、その場の全員の代弁のようであった。
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