《【書籍化】碧玉の男裝香療師は、ふしぎな癒やしで宮廷醫になりました。(web版)》1-10 新たな香りを試してみよう!

そちらの方が、広い王都をあちらこちらと走り回らずに効率が良いと言うことだった。

「うちは、元は手紙を屆けるだけの飛腳屋だったんですが、今はこうして荷も運んでるんですよ。意外と荷の要が多くて」

「お互い儲かるねえ」

「おかげさまで」

はっはっは、と二人は肩を叩いて笑い合っていた。商魂たくましい。

「今、彼に渡したのは茶葉だよ。もちろん、移香茶のもっている」

「僕もその移香茶っていうの、飲みましたよ。とても良い香りで味しかったです」

「えっ、本當ですか! あ、ありがとうございます!」

本當に自分の作ったものが誰かの元へと屆けられるのを見ると、嬉しさがこみ上げてくる。

月英の緩んだ口元を見て、鄒央が片目だけをパチッと瞬かせた。

彼にも、月英の今の気持ちが手に取るように分かるのだろう。

「おっと、そういえば月英くん。先ほど何かを言いかけていなかったかい?」

ああ、そうだった。一番大切なことを伝えずに帰るところだった。

「松明花《ベルガモット》の茶葉なんですが、そろそろ作れなくなると言いますか……予想以上の注文量で、香り付けに使っている油が底を盡きそうなんです」

「あぁ、なるほど。だから今回は半量だったんだね」

「そうなんです。松明花の実は寒い時期にとれるものなので、今から新たに作るのは難しくて」

「いや、それも仕方ないか。うちもここまでとは思っていなくて、完全に予想外だったよ」

さすがに香療用の分まで使ってしまうわけにはいかない。

移香茶に使える分は、もうほとんどないと言って良いだろう。

「しかし、じゃあ來年までおあずけ……というわけにはいかないからなあ」

「商売は水ですからね。一度斷流してしまうと、すぐ忘れられてしまいますしね」

どうやら配達人の青年も一緒に考えてくれているらしい。

鄒央と付臺を挾んで、難しい顔をして唸りあっていた。

「月英くん、この移香茶ってのは他の香りでも作れるのかい?」

「できますよ。もちろん、油にできるものが前提ですが」

「どうせ同じものができないんだったら、いっそハッキリと別の香りのものがいいなあ」

はっきりと別の香りというと、他に試作した柑橘系は外したほうが良いのだろう。

であれば生姜か、最初から除外していた花系となるが。

「飲まれる場所次第だと思うので、茶心堂さんの意見を伺いたいんですが……生姜の香りと花系の香りだと、どちらが良いですか?」

「おや、花の香りもつけられるのかい」

「あ、だったら僕は個人的にあれが良いです。茉莉花」

新たな発見とばかりに目を輝かせた鄒央が、青年の言葉を聞いて、さらに煌めきを増幅させる。

「いいね!」とパチンと指を鳴らす鄒央。

「あの花の香りは私も好きだな。甘いから特に甘味処からは喜ばれるだろうさ! 月英くん、茉莉花は油にできるかい?」

「ええ。確かに茉莉花はちょうど今が時期ですし、良いかもしれませんね!」

さっそく月英は、王宮への帰り道に々な場所を巡り、咲いている茉莉花を籠一杯に持ち帰った。

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