《【書籍化決定!】家で無能と言われ続けた俺ですが、世界的には超有能だったようです》第十五話 予選開始!
「わりぃわりぃ、弁當買ってたら遅くなっちまった!」
「遅いよ! もう始まっちゃう!」
參加登録から小一時間後。
いよいよ予選開始を間近に控え、ロウガたちは観客席へと移していた。
まだ予選だというのに、闘技場は立ち見も出るほどの超満員。
観客たちの熱気が渦巻き、客席はある種の異様な空間となっている。
試合を巡って賭けをしている者も多いらしく、とにかく騒々しかった。
「ほらよ、闘技場名のコロシアムパンだ」
「デカっ! どうやって食べるのこれ?」
闘技場を模したらしき円形をした大きなパン。
人の顔ほどもあるそれを渡されて、クルタはし戸ってしまった。
するとロウガは手本を見せるように、パンにがぶっとかぶりつく。
たちまち中のチーズがびて、食をそそる香りが周囲を漂う。
「なるほどね。んんっ、おいしい!」
「行けますね、お姉さま」
三人そろって、同じパンを丸かじりにするロウガたち。
ビヨンッとチーズをばしたその姿は、何とも微笑ましかった。
するとここで、闘技場の中心にある舞臺に司會らしき男が昇ってくる。
「さあさあ、皆様お待たせしました!! 大剣神祭予選第一ブロックが間もなく始まります!!」
威勢のいい聲が、魔導を通じて會場全に広がった。
たちまち客席は沸騰し、そこかしこから聲が上がる。
中には待ってましたとばかりに席を立ち、拳を突き上げる者までいた。
「それでは、選手たちの場です!!」
場口に向かって、勢い良く手を差し出す司會者。
それと同時に、出場選手たちが一列になって現れる。
大陸中から集まった猛者たちだけあって、皆、悍な顔つきをしていた。
年齢、別、型、人種に至るまでバラバラだが、全員が強者であることが見ただけでわかる。
「見て、ジークだよ! おーーい!!」
「がんばれよー!!」
やがて列の最後尾付近にジークの姿を見つけたクルタたちは、立ち上がって大きく手を振った。
その姿に気付いたジークもまた、軽く手を振り返す。
しかしそんな彼の背中に、すぐ後ろを歩いていたザリトラ兄弟がぶつかった。
たちまちジークは前のめりとなり、危うく倒れそうになる。
「あっ! 今の明らかにわざとだよ!」
「こんなとこまで……徹底してやがるな」
「最低ですね」
あからさまなやり方に、顔をしかめるクルタたち。
しかし、ザリトラ兄弟はそんなことお構いなしとばかりに勝ち誇った表をする。
そのヒールぶりが気にった観客たちもいたのだろう。
客席の一部から歓聲が上がり、クルタたちはますます不機嫌になった。
「むむむ……!」
「気にするなって。それより、始まるぞ」
石畳の敷かれた四角形の舞臺。
選手たちは二列に分かれると、その両端に向かい合うようにして並んだ。
司會者は選手たちの列のちょうど中央付近に立つと、いっそう聲を張り上げる。
「まずはルールの説明から! 今回の大剣神祭の予選はブロックごとのバトルロワイヤル形式です! この場にいる全選手が一斉に戦い、最後に殘った一名のみが栄えある本選へと駒を進めることになります!」
それだけ告げると、司會者の男は手にした筒狀の魔道をクルクルッと回転させた。
そしてそれを宙に放り投げると、サッと一回転してキャッチする。
「それでは、試合開始!」
舞臺から飛び降り、距離を取る司會者。
それと同時に選手たちは次々と武を抜いた。
一即発。
張り詰めた空気がその場に満ちて、観客たちも固唾を呑む。
「さあて、誰を祭りにしてやろうか!」
最初にいたのがザリトラ兄弟であった。
彼らの手に握られた剣からは、ゆらゆらと黒い瘴気が立ち上っている。
明らかに尋常の剣ではなく、魔剣の類であった。
「おおっと!! ザリトラ兄弟、あの武は何でしょうか!?」
異変を察知した司會者が、魔道を手に煽る。
するとそれに応じるように、兄の方が剣を高く掲げた。
剣から発せられる瘴気がにわかに濃さを増し、渦を巻き始める。
「……やっぱりあいつら、コンロンと繋がってやがった! あの武はやべえぞ!」
「まずいですね……!!」
寒気がするほどの存在。
その覚は、かつてラーナの振るっていた魔剣によく似ていた。
クルタたちの顔がたちまち強張り、揃って前のめりになる。
ジークと言えども、あの魔剣が相手では萬が一のことがあるかもしれない。
「ジーク……!!」
顔の前で手を組み、祈りを捧げるクルタ。
さほど信仰深いわけではない彼であったが、この時ばかりは必死であった。
だが次の瞬間、舞臺からザリトラたちの怒號が響く。
「まずはお前からだ! 行くぞ弟者、俺たちに逆らったこと後悔させてやる!」
「おうよ!! この予選、兄者の勝ち抜けだぁ!」
ジークに向かって走り出したザリトラ兄。
それを援護するように、弟が近くにいた選手を突き飛ばした。
彼らとジークとの間の距離が、剎那のうちに詰まる。
しかし――。
「ぐおはっっ!!」
ザリトラ兄のが、くの字に折れて吹き飛んだ。
彼は進路上にいた弟も巻き込み、そのまま客席と舞臺を隔てる壁に衝突する。
大気を突き抜ける轟音、地を揺らす衝撃。
分厚い石壁が大きく凹み、一部が砕された。
――たった一撃。
その呆気なさすぎる結末に観客の誰もが唖然とする。
「……すごい、すごすぎるぞ!! 彼はいったい何者だあああ!!」
やがて、魔道を振り上げて吠える司會者。
その聲に合わせるように、闘技場全が大きくどよめくのだった。
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