《【第二部連載中】無職マンのゾンビサバイバル生活。【第一部完】》30話 二日酔いと偵察報のこと

二日酔いと偵察報のこと

「あったま・・・いってぇ・・・」

起きた瞬間から頭が割れるように痛い。

なんじゃこれ・・・が重いぞ・・・なんで?

目を開けると、いつもの朝霞の兄貴の部屋ではない天井が見える。

・・・ここは、居間、か?

なんでこんなところに寢かされてるんだ?

壁の時計で時刻を確認・・・8時、か。

たぶん朝だろうけど、なんでぇ?

「あ、に、にいちゃん・・・?」

無數の?マークを浮かべていると、朝霞の聲がする。

振り向くと、パジャマ姿で立っていた。

・・・なんか怯えてない?

「に、にいちゃ~ん・・・」

朝霞はおずおずと、上を起こした俺に抱き著いてきた。

そのまま、いつものように巻き付く勢へ移行しようとしている。

「やめなさいよ朝霞・・・俺もう起きたんだから巻き付かないの」

いつものような力は出ないが、それでも朝霞を押し返す。

「お前なあ、毎回言ってるけど嫁り前の娘が軽々しく・・・なんだよその顔?」

いつもなら拒否すると嫌がる朝霞の顔が、ぱあっと明るくなった。

「よかったぁ!戻った!にいちゃん戻ったし!!」

それはもう嬉しそうに俺のに頬ずりすると、朝霞はを離して臺所へ走って行った。

「おかゆ、準備するかんね~!起きちゃダメだし~!!」

・・・どういうことォ?

『戻った』?

皆目見當がつかない。

ううむ・・・寢る前っていうか昨日・・・俺は何をしていた?

えっと・・・たしか、石川さんと釣りに行ったんだよな?

それであの人の重すぎる過去話を聞いた・・・所までは覚えている。

夢じゃなかったはずだ。

それで・・・駄目だ、その後のことが何も思い出せない。

いや、待てよ?

『乾杯』をした気がする。

もしかして・・・

「い、一朗太さぁん・・・?」

何やら思い出せそうな所で、再び聲をかけられた。

目をやると、窓ガラスの隙間から式部さんが顔を出している。

庭にいるのか。

「あのあのお・・・ご気分は、いかがでありますか?」

「あ、式部さん。おはようございます・・・それが、頭がむっちゃガンガンするんですよ・・・一何があったんですかね・・・?」

そう尋ねると、式部さんは慌てたように手をブンブン振った。

「あ、あ~・・・一朗太さんは、その!ですね!々、そのお~・・・」

なんとも歯切れが悪い。

どうしたというのだろうか。

「―――田中野さんは、昨日お酒を飲み過ぎて昏倒してしまったのです」

式部さんと反対方向・・・2階への階段から神崎さんの聲がした。

・・・お酒?

あ、ああああああああああああ!!

そうだ!確かに飲んだ!!

石川さんに乾杯しようって言われてちょっと飲んだぞ!!

「そうだぞイチロー、キミは酒に弱すぎる・・・今後は慎むことだな」

式部さんの橫からアニーさんまで顔を出した。

呆れたような表をしている。

「・・・たしかに、ほんのちょっと舐めた所までは思い出せましたよ」

・・・マジで?

俺あれだけの量飲んだだけでベロベロになったのか!?

・・・ここ何年もろくに飲んでなかったから弱くなったのかな?

元から酒は好きじゃなかったが、こんな狀態になるんならもう二度と飲まんぞ・・・うぐ、頭いってえ・・・

「ま、どうしてもと言うなら・・・私がいる時は付き合ってやる。これでもしはたしなむんだぞ?」

アニーさんは綺麗にウインクを飛ばしてくるが・・・正直、こんな思いをするくらいなら二度と飲みたくはないんだが。

「ちょ、ちょちょちょ!それならじ、自分も!自分も一緒に飲みます!!」

「・・・待ってください、その場合は私も參加しますので」

式部さんと神崎さんも參戦してきた。

俺の知らぬところで俺と飲む話が著々と進んでいく・・・!?

ちょっと待ってくださいよ!?

俺はもう飲みたくないんですってば!

「待つし!そん時はあーしも一緒に飲むしっ!!・・・あ、にいちゃんどうぞ~!朝霞特製おかゆのご場だし~♪」

テーブルの上に味しそうなお粥をどんと置きつつ、朝霞まで參加してくる。

お前もか!?

っていうかお前はバリバリの未年だろうが!!

「ははは、おいおい・・・モテモテだなあイチロー」

「これは違うんじゃないでしょうか・・・?」

アニーさんよ、あなたこの狀況を面白がってますね?

まったく、愉快な人だよもう・・・

まあ、俺の不調の原因はわかった。

二日酔いなんてマジで何年振りだろうな・・・

とにかく、お粥を食って水をガボガボ飲んで安靜にしていよう。

テーブルの方まで移し、お粥に添えられたレンゲを取・・・ろうとして朝霞に橫から掻っ攫われた。

何すんのお前。

新手の拷問かなにか?

「おい朝霞、なんでお前」

「ふー、ふー・・・はいにいちゃん!あ~~~~ん♪」

俺の橫に座った朝霞が、お粥を冷ましながら満面の笑みでレンゲをこちらへ向けてくる。

「あのなあ、俺は重病人じゃないんだから・・・」

「おいしいよ♪はい!あ~~~~~~~~~~~~ん!」

聞いちゃいねえコイツ。

今まで似たような展開は何度もあったが、思えばみんな俺の言うこと聞いてくれないなあ。

何故そうまでして食べさせようとするのか、コレガワカラナイ。

「はむっ・・・うん!塩加減もいいじだし!」

・・・そしてなんでお前が食うんだよ、朝霞。

味見は臺所で済ませてるんじゃないんですかねえ?

「ふ~、ふ~・・・はい、どうぞ~~~」

・・・ああもう、わかったよ、わかりましたよ。

俺が自力で食うという願いは絶対に卻下されると思うので、甘んじて口を開く。

ほどよい溫度に冷まされたお粥の味が、口いっぱいに広がった。

・・・あ、うまいこれ。

素樸な塩味と卵のうま味がいい仕事してんなあ、普通の時も食いたい味だ。

・・・自家製っぽい海苔がまたいい仕事してるぜ。

これならいくらでも食えそうだ。

「にいちゃんおいし?おいし?」

「んん・・・うまいよ。朝霞が作ったのか?」

「うん!朝から仕込んだんだよ~。えへへぇ」

まさかこれほどのものを作れるとは。

見直したぞ、朝霞よ。

「どんどん食べてね、にいちゃん!あっこの鍋いっぱい作ったんだからね!」

「・・・ここは相撲部屋かなにかか?」

馬鹿じゃねえの?

鍋ってもしかして、こっから見えてるアレ?

何人前あるんだよオイ・・・病人に食わせる量じゃねえぞ。

朝霞は俺をフードファイターか何かだと思ってんのか?

「ま~ま~、ほらほら、あ~~~~・・・ああああ!?」

次なる一杯を俺に食わそうとした朝霞が、急に振し始めた。

どうした急に。

「これ・・・これぇ!間接キスじゃん!!にいちゃんのエッチ!!!」

「・・・々言いたいことは山ほどあるけど、この場合エッチなのはお前だと思う」

「はへぇ!?」

當たり屋かよお前。

流石にツッコミきれんぞ、おい。

顔を真っ赤にして振している朝霞を見ながら、俺は果たして次の一口がいつ來るのかを考えていた。

「(・・・な、なるほど、お粥ですか)」

「(だ、大膽でありますなあ・・・朝霞さん)」

「(・・・おい、キミたちはアレか?ひょっとしてティーンエイジャーなのか?え?ひょっとして私だけがおかしいのか?)」

いつの間にか神崎さんたちが3人でコソコソ話している。

なんだろう、防衛計畫か何かですか?

「古保利さんとこまでお散歩しよっか、なーちゃん」

「バウバウ!」

朝食を済ませ、10時ごろまで寢転がっていると流石にも楽になってきた。

正直まだは重いが、頭痛の方はすっかりなりを潛めている。

退屈そうに庭から鼻を突っ込んでアピールしているなーちゃんに聲をかけると、二つ返事でたぶん了承が返ってきた。

「あらいっくん、もういいの?それなら臺所の黃いタッパーも持って行ってくれない?中に漬ってるから~」

ソファに座って編みをしているねえちゃんが聲をかけてきた。

神崎さんたちは各々仕事に出ているので、この家には俺達しかいない。

まあ、朝霞とアニーさんは庭先の倉庫にいるので近所だが。

『防衛隊』の連中が來ることもないだろうし、ちょっと散歩に出るくらい大丈夫だろう。

もしもの時のために、アニーさんが監視システム的なものを設置してくれているらしいし。

もしアイツラがくれば、即座にアニーさんや式部さんたちが対応してくれるだろう。

「男の子は元気が一番だけど、飲み過ぎはに毒よ~」

「・・・肝に銘じます、はい」

ねえちゃんの言葉に反省しながら、タッパーを片手に庭に出た。

・・・マジで昨日の俺どんなんだったんだ?

朝霞に聞くとガクガクするし、式部さんはアワアワするし、アニーさんに至ってはニヤニヤする。

神崎さんなんかは決して目を合わせてくれないときたもんだ。

はあ~・・・酒は飲まないようにしよう。

どっかでノンアルでも回収しとこうかしら、付き合いで飲まなきゃいけない時のために。

「お酒って怖いなあ」

「クゥン?」

俺の獨り言に、先を行くなーちゃんが可く首を傾げている。

師匠は肝臓が4つあるくらい酒が強かったけど、弟子の俺はクソ雑魚ナメクジのようだ。

まだ重さの殘るに顔をしかめながら、俺はゆっくりと散歩することにした。

「あ、いらっしゃい」

「どうも、お疲れ様です。あ、これ・・・ウチのねえちゃんからおすそ分けです」

富士見邸の玄関先で、古保利さんが煙草をふかしていた。

目の下には若干クマがあり、眠たそうに目を細めている。

「へえ・・・うまそうな漬だなあ。ありがと、部下と一緒に食べるよ・・・ふあぁああ・・・」

タッパーをけ取った古保利さんは大あくび。

それにつられてか、なーちゃんも大きく口を開けている。

あくびってなんか伝染するよな。

「眠そうですね・・・偵察の影響ですか?」

「うん・・・やっぱりね、慣れるまではしんどいよ。今日は休憩さ」

目をしょぼしょぼさせてぼやく古保利さん。

こりゃ、悪い時に來たかな・・・

「・・・丁度いいや。偵察の結果を報告するから上がって上がって」

「いや、お疲れならまた今度でも・・・」

「うんにゃ、眠気覚ましに付き合ってよ。今寢るとリズムが崩れるからね・・・あと3、4時間は起きとかないといけないんだわ」

そう言うと、古保利さんは頭を掻きながら家へっていく。

そういうことなら、お付き合いしようかな。

なーちゃんは前のように庭で遊んでいてもらおう。

以前通された部屋に案され、テーブルを挾んで座る。

目の前には、隊員さんの出してくれたお茶が湯気を立てている。

「ま、楽にしてよ」

古保利さんはそう言って煙草を咥えた。

お、ここは喫煙可能スペースかな?

「指揮権限でこの家は喫煙可能さ・・・もっとも、部下には睨まれるけどね、ははは」

俺にお茶を出してくれた隊員さんはどこかへ行き、気配もない。

・・・部下の人も底が知れないなあ。

「あ、安心してよ。戦闘能力はキミよりも數段下だからさ・・・ウチはホラ、隠特化型ってやつ」

「・・・別にそちらと事を構える気はサラサラないんですけど。師匠みたいなバトルジャンキー扱いはご勘弁願いたいですね」

俺への風評被害が酷い件について。

たぶん師匠のせいだ。

「あはは、こちらもキミ達と敵対することはんでないよ・・・さてと、ええと、ああ、これこれ」

古保利さんは周囲に散らばっている書類をガサガサとかき回し、お目當てのモノを見つけたようだ。

今更ながら散らかってんなあ・・・さっきまで會議でもしてたんだろうか。

「朝霞ちゃんからの報を元に、舊鉱山の経営事務所から地図を回収してね・・・それを使って中央地區まで足をばしたんだよ」

ばさり、とテーブルの上に年季のった地図が置かれる。

その地図を見れば、この島には蜘蛛の巣のように坑道が張り巡らされていることがよくわかる。

この數日の間にそんなことしてたのか・・・手が早いなあ。

「よく地図なんて見つかりましたね」

「『防衛隊』の皆様が快く報提供してくれてねえ。いやあ、地域住民が優しくってありがたいなあ」

・・・本當ォ?

それって『説得』って書いて『脅迫』って読むんじゃないのォ?

まあ、別にどうでもいいけどな。

アイツらに良い一切ないし。

「ま、そういうわけで中央地區の偵察したんだけど・・・ここね」

古保利さんが指でトントンと示す。

ここは・・・以前ドローンの映像で見たあたりか?

小學校と役場の表記があるな。

「いやあ、予想以上。恐らく24時間制で歩哨が立ってるね・・・近距離で確認したわけじゃないけど、恐らくそれ以外にも機械的な警戒裝置も備えてると思うよ」

そう言うと、古保利さんはぐいっとお茶を飲み干した。

「ぷは。『マーヴェリック』の破壊が最優先目標だけど、それは敵さんもわかってるだろうからね・・・警戒が厳重なこと厳重なこと」

「こちらの存在が向こうにバレてるってことです?」

もうネオゾンビをころころした存在が俺達だって見してるのか?

「うんにゃ、それはないね。だけど『レッドキャップ』は詩谷とか龍宮でも目撃されてるんだよ?向こうさんも、自衛隊や警察が避難所運営してるってことくらいは知ってるだろうし・・・いわば、仮想敵扱いって所かな」

なるほどな。

この島にいるってことじゃなくって、いずれ敵対するかもしれない存在・・・って認知されてるわけか。

「だけど、先日の・・・ネオゾンビ?だったっけ?それを無力化した存在のことは知られてるから、もしかしたらこちらへ奴らが偵察を送ってくる可能も無きにしも非ず、だね」

「・・・もう、攻めてきますかね?」

正直、今攻め込まれるとヤバいぞ。

こちらは圧倒的に數が足りてないんだから。

「それはないね。なくとも、今はまだ」

古保利さんは斷言した。

「・・・なんでですか?」

「中央地區さ、ゾンビ無茶苦茶多いのよ・・・ここらへんね」

古保利さんの指がく。

示された場所は・・・病院?

「ミサイル陣地を偵察してたんだけどね、この病院の敷地からひっきりなしにゾンビが突撃してきてたんだよ。僕たちが悠々と偵察できたのってそれが理由でもあるんだよね」

「病院から、ですか」

「うん、奴らは病院方面への防で現狀手一杯っぽい。聞いて驚いてよ?病院から來てるゾンビさ・・・全部黒いやつなんだよね」

苦笑いする古保利さんに、背筋が寒くなる。

・・・全部、黒?

マジかよ。

進化率とんでもないじゃん・・・

「てっきり、奴らは中央地區全部を掌握してるもんだとばかり・・・」

「今の所ミサイル陣地に囲い作ってるのがいっぱいってじだね・・・キミがかち合ったネオゾンビもさ、ひょっとして病院の制圧用だったりして?」

・・・確かに。

弾薬は使えば使う程なくなるが、あのネオゾンビが完全に制出來たら話は別だ。

適當に放り込んどきゃ無雙できるかもしれん・・・いや、できるな。

「ぶっちゃけ今は手を出さない方が得策だと思うね。奴らもそうだけど、病院の方も気になるんだよ・・・コレ見てみ」

テーブルの上に何かがさっと置かれる。

これは、寫真か?

遠+暗視だから畫像は見えにくいけどね、病院の窓から中を見たものさ・・・わかるかい?」

ふむ・・・これが窓枠で、この奧が・・・え!?なんだこれ!?

「何だろうねえ・・・コレ。病院の部は、確認できる範囲はこれでミチミチなんだよね」

そこに寫っていたのは、巨大な塊だった。

よくは見えないが、黒ゾンビの裝甲によく似た質の・・・繭?

とにかく、でっかい殻の集合のように見える。

「・・・これ以上の新事実はお腹っぱいなんですけども」

「僕もさ。こんなもん・・・詩谷でも龍宮でも見たことないよ。これが何なのかわかんないけどさ、幸いなのは『レッドキャップ』の近くにあるってことだよね」

「ですね。コレがあるなら・・・奴らはなくともしばらくはこっちになんて目もくれないでしょうし」

黒ゾンビの大群がいるなら、こっちに侵攻するなんて考えもしないだろう。

なんせ虎の子のミサイルがあるのだ。

まずは周辺區域の安全確保を優先するはずだ。

「加えてキミのお友達のモーゼズ『元』中尉が重要な報を吹き飛ばしてくれたって言うじゃないか?それもあって、時間はまだある・・・と思うよ」

・・・最後に不安になること言わんでくださいよ。

だがまあ、明日にでも戦爭が始まるってことはなさそうだな。

「龍宮の治安も落ち著いてきたし、追加の人員の目途も付いてる。まずはここでもっと報を集めてからだねえ・・・くのは」

「援軍も來るんですか?」

「うん。オブライエン佐が乗り気でね・・・偵察は自衛隊、ドンパチは駐留軍擔當になりそうかなあ。向こうでの作戦が功すれば、ね」

・・・作戦?

ダムの確保は終わってるんじゃなかったっけ?

「自衛隊詩谷駐屯地、それに・・・第七駐屯地の掃討並びに資確保作戦だよ」

・・・なるほどな。

詩谷駐屯地は、神崎さんたちが出してきた基地。

第七駐屯地ってのは、我が県に存在する駐留軍の基地のことだ。

場所は、秋月からさらに東に行った所にある。

・・・他府県に比べれば小規模だが、それでも資は富にあるはずだ。

「銃火は現狀困らないくらいあるけどね、もっとデカくて強力なのは手元にないからねえ・・・それらを確保できれば、わざわざ近くまで行かなくてもミサイルを無効化できるって寸法だよ」

ふむふむ。

さすがだなあ・・・事態はどんどんと進んでいる。

有能な指揮さんたちが生き殘っててよかったなあ。

「避難民関係もあるから、そんなに大部隊をかせるわけじゃないけどね・・・『みらいの家』とか『瀧聞會』とか、厄介な集団が消えてくれてよかったよ。『レッドキャップ』もこの島にいるから、向こう側は比較的安全だしね」

・・・まあ、チンピラはいっぱいいるけどな。

一般的な市民では大変だろうが、武を持った素人集団なんざ軍隊の敵じゃないだろう。

「せめてヘリが確保できればいいんだけどねえ・・・こればっかりはどうなるかわかんないや。ま、というわけで・・・しばらくは近接戦闘持ちの出番はないから、しっかり養生してよ」

「・・・ですね、そうします」

まずはしっかりを治さないとな。

この島からは出れないんだし。

偵察スキルもないからな。

「こっちも晝夜逆転生活が増えるからね・・・連絡は式部ちゃん経由でよろしくね。彼、連絡要員だから」

「それはありがたいんですけど・・・大丈夫なんですか?式部さんも偵察に參加しなくって」

そう聞くと、古保利さんはニコニコしながら無言で手をかした。

見ると、いつの間にかテーブルに置かれた手帳になにやら書き込んでいる。

「キミにぞっこんだからねえ・・・離すのは忍びないからさあ」

そう言いつつ、書き終えた手帳がこちらへってくる。

『能力が突出しすぎて班行に不向き。そっちで単獨行してる方が役に立つ』

・・・式部さんも神崎さんタイプじゃん。

才能がありすぎるってのも困りものだなあ。

これは俺のにだけ収めといてくれってことかな?

部下さんたちには聞かせたくないみたいだ。

「ぞっこんって・・・やめてくださいよ人聞きの悪い」

「命の恩人ってのは間違ってないだろう?一途だよ~ああいう子は。おじさん眩しくって涙が出ちゃう」

・・・謝されているのはわかるけども。

俺としてはノリで突っ走っただけだから、そんなに気にしなくてもいいと思うんだけどなあ。

「というわけで、式部ちゃんのお世話よろしくね」

「俺の方がお世話される未來しか見えないんですけども・・・」

おっと、また手帳になにやら書いている。

なになに・・・『ぶっちゃけ、彼キミ以外にはマジで塩対応だからね。空気がピリピリしてて怖いのよ』

・・・式部さんって意外とコミュ障なのかな。

前に余所行き口調で話してるのは見たけど、確かに冷たいじはしたが。

「さあて、話はこれくらいかなあ・・・というわけでゆっくり養生してね、田中野くん。何かあればすぐに知らせるからさ、でーんと構えててよ」

「は、はあ・・・それじゃ、くれぐれも気を付けてくださいね」

「ははは・・・それキミが言っちゃう?まあ、ありがたくけ取っておくけどね」

話はこれくらいにしておこう。

新事実の洪水で、俺もちょいと疲れちゃった。

それに、古保利さんたちにも休んでもらわなければ。

晝夜逆転してるんだし。

庭の池に頭を突っ込むという前衛的な遊びをしていたなーちゃんに聲をかけ、家に戻ることにした。

・・・びしょびしょじゃん。

楽しそうだけどさ。

「おかえりなさい、田中野さん!」

「・・・神崎さん、今日は何ですか?」

家の庭まで戻ると、燻製機の前で何かしている神崎さんがいた。

周囲になんともいえない香ばしい匂いが立ち込め、なーちゃんのテンションが上がりしている。

「ふふ、山で大きなキジがとれましたので!おいしいですよ!!」

「マジか・・・凄いですね神崎さん」

こっちに來てから神崎さんの狩りスキルがいかんなく発揮されている。

向こうにいた時はそれどころじゃなかったもんなあ・・・

キジ・・・食べたことないけど、この匂いなら絶対味いな。

「田中野さんには早く元気になっていただきたいので!」

おお、貴重なドヤ顔神崎さんだ。

そういう顔すると途端に年相応というか、むしろく見える。

いつもはきりっとしてて格好いいけど、こういう表もかわいらしいよな。

「ありがてえなあ・・・もう」

ううう、煙が目に染みて涙が出そうだ。

俺の周りはいい人ばっかりだなあ・・・本當に。

俺はしみじみと、人の溫かさをじていた。

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