《【書籍化】碧玉の男裝香療師は、ふしぎな癒やしで宮廷醫になりました。(web版)》2-8 のーんで飲んで飲んで!

「茶葉に毒が混ぜられていたって聞きました。鄒央さんが知っていることで構いませんから、當時の狀況を教えてもらえませんか」

「ああ、いいとも。騒ぎがあった茶屋は『東《とう》明《めい》飯《はん》店《てん》』という大きな店でね――」

鄒央はその時の様子を語ってくれた。

どうやら、調不良者が出たのはその東《とう》明《めい》飯《はん》店《てん》という店だけだったという。

その日、鄒央は月英から屆けられた移香茶の茶葉を、注文のあった店ごとに量り分けていた。松明花に続き茉莉花の茶葉も好評で、香りが変わっても引き続き注文はり続けていた。

そうして店舗ごとに茶葉を包み終えた時、突然、東明飯店の店主が茶心堂に怒鳴り込んできた。怒鳴っている理由を聞けば、茉莉花の移香茶を飲んだ客達が皆、調の異変を訴えたのだという。癥狀も皆同じような悪心や吐き気などばかり。

最初、東明飯店の店主は料理が原因かと思ったが、客の食べたものは皆バラバラで、その中で唯一の共通點が移香茶だった。

これが一人二人ならば偶然ですんだのだろうが、さすがに十人以上ともなると、東明飯店も大事にせざるを得なかった。

「あそこも原因をはっきりさせないと、客にあらぬ噂を立てられるからね。『茶が原因で、うちの料理はまったく問題はないですよ』ってな合に」

また、その証明のために店主は役所に駆け込んで、移香茶のせいで多くの客が倒れたと訴えた。

そいう流れで、史臺が出張るような問題に発展したのだとか。

「鄒央さん。東明飯店以外での被害は出てないんですか?」

移香茶が原因なら、同じ茶葉を使っているはずの他の店も、被害が出ていてもおかしくないのだが。

しかし、鄒央は首を橫に振る。

「他の店からそういった苦は出なかったさ。ただ……」

鄒央は申し訳なさそうに、聲の調子を落とした。

「東明飯店がそう言ったことで、他の店も一様に移香茶の取り扱いをやめたいと言ってきたんだ」

こればかりは仕方のないことだ。

たとえ自分のところで問題はなくとも、よそで問題をおこしたものを使い続けようとは思わないだろう。

「ていうことは、東明飯店の茶葉だけに異常があったってことですよね?」

月英が腕を抱え、口元を拳でぐりぐりと弄ってれば、今まで靜かに聞いていただけだった翔信が口を開く。

「茶心堂さん、卸した茶葉の殘りなどはありませんか?」

「移香茶は人気だったから、る度に全部卸してたんだけど……ああ、そういえば!」

鄒央は「ちょっと待っててくれよ」と言って、付臺の向こう――店の奧へと姿を消した。

そうして次に姿を現したとき、彼の手には小さな紙包みが乗っていた。

「他の店から返品された茶葉をとっておいたんだったよ!」

包みを開けると、中にはなめだが茶葉がっていた。

月英は鼻を近づけスンスンと香りを嗅ぐ。

「間違いないですね。茉莉花茶のものです」

しかし、こうして香りを確認してみても、何か他のが混ぜられているようなじはしない

「見た目も、香りも……僕が茶心堂さんに屆けた時とまったく一緒に思いますが」

「そうなんだよ。私はいつも茶葉が屆いた時には、確認のため、包みごとに必ずその茶葉でお茶を淹れるようにしているんだが……見ての通り元気なもんさ」

鄒央は拳を天井に向けて、両腕を力強く屈させていた。

ふんふんと言いながら、あまり太くない腕を見せてくれるところが可らしく、思わず月英もクスリと息をらす。

「では鄒央さん、この返品された茶葉でお茶は淹れました?」

「いや。君のことは疑ってはなかったけど、流石に手を付ける勇気はなかったよ」

「でしたらすみませんが、この茶葉でお茶を一杯淹れてもらえますか」

途端に気だった鄒央の表が渋くなる。

「飲むつもりかい?」

「作った本人ですから」

自分は絶対に毒などれていないと言える。

しかし、それを他者に証明するがない。

であれば、自分のでもって証明するほかない。

「それに最悪でも、調不良程度ですから」

そう言って笑ってみせれば、鄒央はやれやれと肩を竦めた。

「本當……娘に聞いていたとおり無茶をする子だよ」

鄒央が丁寧に淹れてくれたお茶が、コトリと月英の目の前の臺に置かれた。

興味が勝ったのか、月英より先に翔信が湯気立つ茶に鼻を近づける。

「はあぁ、これが茉莉花茶かあ。すごい良い香りだな」

翔信は香りが気にったのか、何度も立ち上る香気に鼻をかしては、良い香りだと呟いていた。

しかし、あまりに長いので月英が翔信の手から茶を奪い返す。

やはりその道の手練れなのか、鄒央の淹れる茶はとても味しいのだ。飲むのなら冷めないうちに飲みたい。

「クセになりそうだな」

翔信の呟きに、鄒央の瞳がった。

きっと、翔信に新たな顧客になる可能を見出したのだろう。

っからの商売人である。

「移香茶は鼻と舌で楽しめる二度味しいものだからね」

言って、月英はグイと茶の中のもの全てを一気に飲み干した。

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