《ロング・ロング・ラブ・ストーリーズ 4度目のさようなら that had occurred during the 172 years》第5章 1973年 プラス10 - 始まりから10年後 〜 3 名井良明として(6)

3 名井良明として(6)

顔中を覆うようなヒゲに、暑苦しいべっ甲メガネを掛けて、

――三十六歳の俺に、気づかれまいとして……のことだ……。

今この瞬間も、この世界の剛志はきっと銀座で働いている。そんなあいつがやって來て、五十六歳の剛志は素知らぬ顔で演技する。

こんなのは、まさに思いもよらない真実だった。

しかしよくよく思い返してみれば、あそこにいた男こそが自分だったという気がしてくる。

――どうして、こんな簡単なことに気づかなかったのか……?

そんな葛藤に黙り込んだ剛志に、節子はこの時、不思議なくらい何も言ってはこなかった。

何度も何度もわたしの名を呼ぶ――そう言った後の彼も、何か思いつめているようにも見えたのだった。

やがてそんな狀態に剛志も気づき、顔を上げ、慌てて何かを言いかけた。

ところがその寸前に、節子が彼の言葉を遮るように言ったのだ。

「あの、もしよかったら、ここで一緒に暮らしませんか? 部屋はたくさんあるし、わたし一人で住むには、ここは本當に広すぎちゃって……」

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