《やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中》38
パレードの道順は単純だ。ジルたちは帝城西門、ハディスは東門から出て、帝都の外縁をめぐるようにぐるりと周り、最後は中央の大通りを抜けて帝城前の広場に設置された舞臺袖に、それぞれ辿り著く。
元気いっぱいに手を振って聲援に応えながら、ジルは舞臺袖に一度引っこんだ。反対側には遅れてハディスたちが到著する予定だ。
踴り子たちが舞臺で踴ってくれている間に最後の準備にとりかかる。化粧を直し、マントというには薄い、フード付きのレースで縁取られたものを羽織った。ところどころ真珠が散りばめられたマントは中の裝をけさせるので、神的に見える。真っ白ではなくどことなく甘い合いでそろえられているのは、いずれ真っ白な婚禮裝を著る予定だからだ。
新しく裝をデザインする際、掲げられたテーマは『花畑に迷い込んだ妖』――レースのマントは羽のように軽やかに緻に、甘い香りのする合いで。フード付きなのも演出だ。
最後には花冠をかぶるのだから。
「しお話ししましょうか。本番前に張してばかりでは疲れます」
深呼吸を繰り返していると、橫からフィーネがささやいた。ジルは小さく首肯する。
「フィーネ様は、レールザッツ領に帰るんですか?」
「いいえ。私、ベイルブルグに屋敷を構えようかと思ってますの。人生で一度は、姑というものに挑戦してみたくて」
「え、まさかスフィア様と何か……?」
「バザーの件で一度だけ、軽くご挨拶しただけですわ。素敵なお嬢様でした」
額面どおりけ取る気にはとてもなれない。半眼になるジルに、フィーネは優しく笑う。
「リステードとの結婚を迷っている理由は大変よかったですわ。リステアードが早死にしそうだから、ですって」
ぎょっとしたが、フィーネは満足げだ。
「よく息子のことをわかっています。あれは信念が強い故に言わずともいいことを言い、あちこち敵を作って喧嘩を売買するでしょう。早死には的確な見立てです。ベイル侯爵家再興を目指す彼にすれば躊躇して當然でしょう。もう、聲をあげて笑ってしまいましたわ」
「い、いいんですかそれで……それだと、スフィア様がいつまでも頷かないような」
「斷れないことなどわかっておりますよ、彼は。でも踏ん切りがつかない。フリーダが苛立っているのはそのあたりでしょう。だからアドバイスしました。あなたがお詫びに回ればいいのです、と。リステアードのいい歯止めになります。でも嫌な顔をするかと思ったら、それなら得意ですと心されてお禮を言われて、また笑ってしまいました」
思い出したのか、顔を背けてくすくすまた笑っている。
「そのうち、正式に婚約することになるでしょう。その際は、お願いしますね。陛下が反対していると小耳に挾んでおりますので」
「そこはわたし、スフィア様の味方ですけど……」
フィーネが姑になったらスフィアも大変そうだ。いや、意外とのほほんとしたお人好しな人柄と時折見せる強さで乗り切ってしまうのかもしれない。
「陛下の準備が整ったそうです」
「わかりました、竜妃殿下。どうぞ舞臺へ」
「は、はい」
確認を終えたカサンドラとデリアが戻ってくる。張していきなりけつまずきかけたジルをデリアが支えた。カサンドラがすばやく裝を整え、ジルの頬を両手で包む。
「難しく考える必要はありません。陛下のことだけお考えください」
「へ、陛下のことだけ、ですか」
「そうです。陛下を綺麗な花畑につれていって差し上げてください」
それなら――できそうだ。こくりと頷いたジルは、もう一度だけ深呼吸して、足をかす。
ドレスも花冠も大事だが、いちばん肝心なのは演出だ、と後宮の妃たちは主張した。舞臺では花畑に見えるよう花が飾られるが、それだけでは足りないと。だったらと手を挙げたジルの提案のために、んな人が駆けずり回ってくれた。
本の竜妃が誕生し、竜帝がいるのだと、言葉よりも雄弁に伝えるために。
足を踏み出した舞臺には、観客からは見えない位置に種がまかれている。
新しい伝説を、と求めたのは三公だ。けれどきっと、ラーヴェ帝國の民も新しい伝説をほしがっている。本當はハディスだってそうだ。三百年も竜帝が生まれず、竜神への信仰が薄れかかっている今だからこそ、必要なのだ。
初代の竜妃が魔法の盾を作ったように。
(――咲け)
ラーヴェ帝國で唯一、魔力で咲く花の種が、ジルの魔力に反応して次々芽吹き出した。一歩進む度に、魔力で輝く竜の花の蕾が膨らむ。無機質なただの舞臺に、をばし、魔力を吸って増えていく。
まるで舞臺を花畑に塗り替えるように。
「なんだ、どういう仕掛けだ!?」
「竜の花だ。竜妃様が歩くたびに、竜の花が咲いてる!」
ここは初めて竜帝が竜妃を見初めた花畑だ。
中央に辿り著いた瞬間に、足元から魔力を放出する。一気に竜の花が花開いた。あっという間に舞臺を覆い盡くし、広がっていく。
「竜葬の花畑だ……」
そう、竜を葬る花畑。そこへ現れるのは、竜帝だ。
遅れて反対の袖から舞臺にあがってきたハディスは、やっぱり悔しいほど綺麗だった。とても子どもの自分がかないそうにない。ジルの背後で裾持ちをしている三人でさえ。
余計なことは考えなくていい。ハディスのことだけ考えていれば。
きてくれたんだと微笑めば、それだけで。
ハディスはし目を丸くしたようだったが、すぐに微笑み返して、近くまでやってきた。
言葉はいらなかった。
そっとハディスが手のひらを返した両手を前に出す。手のひらの上で、銀の魔力が輝いた。
歓聲があがる。ジルも目の前で行われることに魅っていた。
ジルが咲かせた竜の花が、次々銀の魔力に導かれてハディスの手のひらの上に集まり、編まれていく。
花冠だ。竜の花でできた花冠が、目の前で作られていく――
「……花冠の編み方がね、わからなかったからこうしたんだって」
「え?」
聞き返した瞬間、ハディスの手のひらがひときわ輝いた。
銀に輝く、竜の花冠だ。硝子のように氷のように明に輝く、世界でただひとつの冠を、ハディスが持ち上げる。ジルはそっと、フードをおろした。
頭にかぶせられた瞬間、魔力が弾けるように銀の粒を撒き散らした。どこからともなく、拍手が起こり、歓聲がさざ波のように遅れてやってくる。
ハディスが差し出した手に自分の手をのせ、導かれるまま前に出る。すると大きな影が會場を覆った。竜の影だ。一匹ではない。帝都の上で、祝うように竜が待っている。
驚くジルの顔を見て、ハディスが笑う。
「本の竜帝と竜妃がいるんだ。これくらいしないとね」
そのうち一頭が、舞臺の前におりてくる。黒竜だ――金目の。
「へ、陛下。もしかしなくても、この子」
「さあ、行くよ」
ひょいっとハディスがジルを抱き上げる。どこかひっかけたのか、風に煽られ、するりとマントがげた。まるで妖が人間になったみたいに。
(え、待て。予定と違う)
カサンドラたちのしかめ面やフィーネの笑顔、デリアの驚いた顔が見えたが、ハディスが軽やかに黒竜に飛び乗るのを誰も止められない。観客は歓聲をあげる有り様だ。
「へ、陛下! 今から花を配らないと――」
「そんなの、竜に乗って上空から降らしたほうがそれっぽいでしょ」
ハディスが手綱を持った瞬間、黒竜が翼を広げて上昇する。その鞍につけられた籠には、竜の花が詰め込まれていた。どうも他の竜も同じらしく、ある竜は面白そうに下降と上昇を繰り返しながら、ある竜は大きく旋回したり、花を落としていた。
こぼれ落ちた花が、花弁が、帝都に降り注ぐ。
竜帝が舞うところ、すべてに白い花が舞う。帝都を白く埋めつくしていく。
【書籍化決定】婚約者が浮気相手と駆け落ちしました。色々とありましたが幸せなので、今さら戻りたいと言われても困ります。
アメリアには、婚約者がいた。 彼は、侯爵家の次男で、貴重な「土魔法」の遣い手だった。 婚約者とは良好な関係を築けていたと思っていたのに、一歳年上の彼が王立魔法學園に入學してから、連絡が途絶える。 不安に思うが、來年には自分も入學する。そのときに話し合えばいい。 そう思っていたのに、一年遅れて入學したアメリアを待っていたのは、周囲からの冷たい視線。 婚約者も理由をつけて、アメリアと會おうとしない。 孤立し、不安に思うアメリアに手を差し伸べてくれたのは、第四王子のサルジュだった。 【書籍化決定しました!】 アルファポリスで連載していた短編「婚約者が浮気相手と駆け落ちしたそうです。戻りたいようですが、今更無理ですよ?」(現在非公開)を長編用に改稿しました。 ※タイトル変更しました。カクヨム、アルファポリスにも掲載中。
8 50反逆者として王國で処刑された隠れ最強騎士〜心優しき悪役皇女様のために蘇り、人生難易度ベリーハードな帝國ルートで覇道を歩む彼女を幸せにする!〜【書籍化&コミカライズ決定!】
【書籍化&コミカライズ決定!】 引き続きよろしくお願い致します! 発売時期、出版社様、レーベル、イラストレーター様に関しては情報解禁されるまで暫くお待ちください。 「アルディア=グレーツ、反逆罪を認める……ということで良いのだな?」 選択肢なんてものは最初からなかった……。 王國に盡くしてきた騎士の一人、アルディア=グレーツは敵國と通じていたという罪をかけられ、処刑されてしまう。 彼が最後に頭に思い浮かべたのは敵國の優しき皇女の姿であった。 『──私は貴方のことが欲しい』 かつて投げかけられた、あの言葉。 それは敵同士という相容れぬ関係性が邪魔をして、成就することのなかった彼女の願いだった。 ヴァルカン帝國の皇女、 ヴァルトルーネ=フォン=フェルシュドルフ。 生まれ変わったら、また皇女様に會いたい。 そして、もしまた出會えることが出來たら……今度はきっと──あの人の味方であり続けたい。王國のために盡くした一人の騎士はそう力強く願いながら、斷頭臺の上で空を見上げた。 死の間際に唱えた淡く、非現実的な願い。 葉うはずもない願いを唱えた彼は、苦しみながらその生涯に幕を下ろす。 ……はずだった。 しかし、その強い願いはアルディアの消えかけた未來を再び照らす──。 彼の波亂に満ちた人生が再び動き出した。 【2022.4.22-24】 ハイファンタジー日間ランキング1位を獲得致しました。 (日間総合も4日にランクイン!) 総合50000pt達成。 ブックマーク10000達成。 本當にありがとうございます! このまま頑張って參りますので、今後ともよろしくお願い致します。 【ハイファンタジー】 日間1位 週間2位 月間4位 四半期10位 年間64位 【総合】 日間4位 週間6位 月間15位 四半期38位 【4,500,000pv達成!】 【500,000ua達成!】 ※短時間で読みやすいように1話ごとは短め(1000字〜2000字程度)で作っております。ご了承願います。
8 149拝啓、世界の神々。俺達は変わらず異世界で最強無敵に暮らしてます。
幼い頃、生死の境をさまよった主人公、秤彼方は大切な人が遺した力を神々から受け取った。 異世界転移に巻き込まれる前にチート能力を授かった主人公。彼は異世界をどう歩んでいくのか……。 「拝啓、神々。なんで俺が異世界の危機を救わなければならない?まあ、退屈しのぎになるから良いか!」 少年は神より譲り受けた銀に輝く雙剣と能力とで異世界を崩壊へ導く邪悪を絶ち切っていく! 少年が異世界を奔走し、駆け抜け 退屈を覆してゆく冒険譚、ここに開幕! 小説家になろうでも投稿してます! イラストはリア友に描いてもらった雙子の妹、ルナです!
8 128四ツ葉荘の管理人は知らない間にモテモテです
四ツ葉 蒼太は學校で有名な美人たちが住むマンションの管理人を姉から一年間の間、任される。 彼女たちは全員美人なのに、どこか人と変わっていて、段々、蒼太に惹かれていく。 勝手に惚れられて、勝手にハーレム! だが鈍感主人公は気づかない! そんなマンションの日常を送ります。「四ツ葉荘の管理人になりました」からタイトルを変更しました。
8 108デフォが棒読み・無表情の少年は何故旅に出るのか【凍結】
特に希望も絶望も失望もなく 夢も現実も気にすることなく 唯一望みと呼べるようなもの それは “ただただ平々凡々に平和に平穏にこの凡才を活かして生きていきたい” タイトルへの答え:特に理由無し 〜*〜*〜*〜*〜*〜 誤字脫字のご指摘、この文はこうしたらいいというご意見 お待ちしていますm(_ _)m Twitterで更新をお知らせしています よろしければこちらで確認してください @Beater20020914
8 60俺の妹が完璧すぎる件について。
顔がちょっと良くて、お金持ち以外はいたって平凡な男子高校生 神田 蒼士(かんだ そうし)と、 容姿端麗で、優れた才能を持つ 神田 紗羽(かんだ さわ)。 この兄妹がはっちゃけまくるストーリーです。
8 57