《ロング・ロング・ラブ・ストーリーズ 4度目のさようなら that had occurred during the 172 years》第5章 1973年 プラス10 - 始まりから10年後 〜 4 告白(2)

4 告白(2)

の子で養護施設、さらに裕福な家庭と來たものだから、桐島勇蔵から聞かされた〝智子〟の話と結びつけてしまった。

そもそも節子には、どことなく智子に似ているところがある。

だからもしかしたら……智子の母親? などと、この時一瞬思ったが、そんな偶然がそうそうあっていいはずがない。

――でも、智子の本當の母親も、きっとこんなじの人なんだろうな……。

剛志の知っていた智子の母もしい人だった。知的なじのする形タイプで、もちろん智子も節子も人の方だ。

ただ二人の場合はどちらかといえば、可らしさの方が優っている気がする。それはまさしく剛志にとっての幸いで、もしもそんな彼と暮らせれば、天にも昇る気持ちだろう。

――もしよかったら、ここで一緒に暮らしませんか?

あの時、あまりに突然、予想もしない言葉に驚きまくった彼に向け、節子はさらに続けて言ったのだった。

「あ、もちろん、嫌ならはっきり斷ってください。わたしはね、いろんなことが言えないまま生きてきちゃって、これ以上、そんな後悔したくないって思ってる。だから、思ったことはすぐにちゃんと伝えようって決めてるの。だからね、そちらも思った通り言ってくださって、本當に、ぜんぜん構いませんから……」

そんな聲に心、踴り出したいくらいに嬉しかった。

しかし実際にそうするかどうか、一時の喜びだけで決められるものじゃない。

だから今日はこのままマンションに帰って、明日またこの時間に訪ねてもいいかと聲にした。

――彼と一緒に、俺はこの時代で幸せになる!

そして屋敷からの帰り道、彼は素直にそう思えるようになっていた。

しかしそうなるためには、クリアしなければならないことがある。

さらにきっと、節子も同じように考えて、次の日、剛志がやって來るなり過去を話し出したに違いない。

「わたしにはね、両親はおろか、兄弟、親戚だって人っ子ひとりいないの。親しい友人だってほとんどいない。まさに天涯孤獨っての上よ。だからここまで來るのに、いろんなことをして生きてきたわ。も使ったし、いかがわしいことだって、正直やったこともある。でもね、なんと言っても最悪だったのは、わたしはこの手で、自分の子供を捨てたってことなの……」

丁寧だった言葉遣いがしくだけて、彼はそんな出だしで昔の話を語り出した。

そうして告げられた彼の過去は、剛志にとってそれほど衝撃的とは思えない。

きっと戦後の混期なら、似たような話は山のようにあったろうし、それでも頑張ってきたからこそ、このような屋敷に住めるまでに彼はなれた。

子供を養子先に殘してきた話も、節子の優しさゆえだと素直に思える。

ところがだ。自分の方はそう簡単じゃない。

すべてを話してしまえば、どうしたってタイムマシンが〝どうこう〟なんて話になるのだ。そんな事実を伝えることが、二人にとってプラスになるとはどう考えたって思えなかった。

だから剛志は、またまた伊藤博志を見習った。

伊藤が話していたのをそっくりそのまま、剛志は節子に話そうと決める。

「気がついたら昭和三十八年の街をね、ひとりぼっちで歩いてたんだ。自分がどこの誰だかさえわからなくて、もちろん名前だって思い出せない。背広っぽいものを著ていたから、きっとどこかで働いてはいたんだろうけどね。とにかく、そんなことも含めて、何もかも、俺は忘れ去っていたよ」

だから自分だって、本當は何をしていたかわかったもんじゃない……と、剛志は笑顔ながらに節子へ告げた。

「じゃあ、名井良明って名前は……噓なの……?」

「いや、噓っていうか……ちょっと言いにくいんだけど、実はね、その名前も戸籍も、死んだ人のものなんだ」

大筋は、紛れもない真実を伝えておいて、

「だから、戸籍とかは本だけど、実際の名井って人には、僕自會ったこともない。だからこの名前に未練はないし、もし、もしもだけど、昨日の話が本気ならば、この際わたしと、正式に結婚しませんか?」

そして節子の戸籍にりたい。

と、ほんのしの噓を織りぜながら、彼は節子へ告げたのだった。

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