～阿吽視點～

褒賞授與式から1カ月、俺はプレンヌヴェルトダンジョンの改築作業に追われていた。というのも、ダンジョン都市ウィスロから來た１組のパーティーが破竹の勢いでダンジョンを踏破しているためだ。

パーティー名【シードル】、５人組Ｓランクパーティーらしい。こいつらは前衛職を擔うアタッカーの魔剣士とタンクである重騎士２名、それに後衛の癒師と魔師という構だ。モニターで見ているとタンク２名の連攜やヘイト管理が上手く、最低限のダメージで敵の攻撃を防ぐことができているだけでなく、しでもダメージを負うと癒師がしっかりと回復。その隙に魔剣士と魔師がダメージをれるというシステムが確立していた。

ただ、【シードル】の優れているところはその戦闘技だけではない。むしろ徹底して危険な戦闘を避けるリスク管理にあった。事前に報を揃え、報が不足している時は様子見だけして撤退を決める判斷も早い。

「やっぱウィスロから來たパーティーはダンジョン慣れしてやがんなー」

「そうでござるな。こやつらは低層階や中層階のほとんどを最短ルートで直行しているでござる。それがプレンヌヴェルト街で売られている“迷宮地図”のおであるのは分かっているでござるが……それにしても踏破速度が速いでござる」

「……これさ。ついにヒュドラも突破されかねんよな？」

今までの冒険者達の最高到達階層は25階。要するにこれまではヒュドラが冒険者達をすべて追い返していた。圧倒的な防力と回復能力に加え、毒の異常狀態を引き起こすブレスを吐くヒュドラは、Ｓランク下位というランクに甘んじることなくその役割を十全に擔ってくれている。ただ、【シードル】の構や練度から見ると、そのヒュドラでさえも突破されてしまう可能が高い。

「ってか、ヤオウを幻影城に移させちまったから30階層にボスが居ないんだよなぁ。だから早急に30階層のボスを召喚する必要があるということになる……DP(ダンジョンポイント)ってしは貯まってるか？」

「そんなに多くはないでござるが、クエレブレとヤオウが殘してくれたポイントと合わせればＳランク上位１と５階層分くらいはできそうでござる！」

「うーん……とりあえず30階層は玃猿(かくえん)たちが森林エリアを改造しまくって罠だらけにしてるし下手に別のボスを配置するのも良くないよなぁ……。まぁ、ここはそのままにしとくか。代わりに31階層から35階層を新しく作って、35階層にボスを配置しておこう」

「それが良さそうでござるな。玃猿(かくえん)たちに任せておけば時間稼ぎはしてくれそうでござる」

「となると31階層からの新エリアだが、とりあえずボスから考えてみるか？」

「そう言われると思ってＳランク上位の魔で良さそうなのを見つけておいたでござるよ！　ただ、ちょっとクセが強そうな魔でござるが……」

「お？　仕事が早いな！　それってどんな魔なんだ？」

イルスが提案してきたのは『ギガンテックセンティピード』という巨大なムカデの魔だった。実はコイツ、かなり有名な魔であり、當然魔図鑑にも載っている。

特徴は小さい個でも全長50ｍを越える超巨大なと、その高すぎる防力。さらに麻痺の狀態異常を付與する噴を吐くなどの厄介さを持ち合わせている。

その防力は、似た特徴を持つヒュドラをも軽く凌ぎ、生半可な理攻撃ではそのい裝甲で弾き返されてしまう。それだけでなく様々な屬の魔法に耐があり魔法攻撃すら効きにくい。唯一効くのは火屬の魔法であるが、それも相當な火力を出さなければダメージを與える事は困難だろう。

攻撃面で単調さはあるものの、その巨から繰り出される質量攻撃はそれだけでＡランクパーティーを軽々と壊滅させられるほどの破壊力を兼ね備えている。

この魔が有名な理由……、それは厄介な行特にある。

その行特とは“縄張り(テリトリー)”。自分の縄張りにってきたモノは、たとえそれが同族であれ瞬時に殺害対象へと変わる。そして一度その対象になってしまうと自の縄張りを大きく越えて追いかけ続けてくる場合もあるらしい。

魔図鑑には、ギガンテックセンティピードはアルト王國とオルディーラ國の境界に當たるナクヴァ山脈が生息域と書いてあったのだが……、ギガンテックセンティピードが生息している事が理由でこのナクヴァ山脈は危険地帯(・・・・)と呼ばれ、両國ともに立ちり止區域指定をしている。

『もし山脈にギガンテックセンティピードが生息していなければアルト王國とオルディーラ國の貿易が活発化しており、両國ともに更なる繁栄をしていただろう』と著名な學者が発表したこともあるらしい。

そんな厄介な魔もダンジョンのボスとして配置してしまえば、そこは鉄壁の要塞と化す。

「なかなかヤバい魔をチョイスしたな……」

「扱いづらさはあるでござるが、悪くない選択肢でござろう？」

「そうだな！　ってかもうギガンテックセンティピードで決定しちまおう」

「そ、そんな簡単に決めて良いのでござるか？」

「厄介な行特はあるが、ダンジョンの魔である以上マスターである俺の指示は聞くだろう。それに何よりこの魔とダンジョンの相が良すぎる。となれば召喚しない手はないだろ？」

「ちょっと不安でござるが……拙者が提案した事でもあるし、反対はしないでござる！」

「よし！　なら、とりあえず他の階層は後回しにしてギガンテックセンティピードと専用のボスエリアを作っちまうか！」

次話は5/12（金）投稿予定です♪

ちょっと語が停滯気味ではありますが、數話後「ゾンビ先輩の大冒険」の続編を挾んだ後、再びストーリーが進んでいきます。お楽しみに★