《愚者のフライングダンジョン》114 黒紫無雙 ※ステータスあり

頭部を失い、足も數本消し飛んだタコの『しわよせ』。そのは正確に俺の方を向いていて、激しい怒りをわにしている。

いったいどので俺を知したのか、どうやってバランスを取っているのか、疑問に思うことはいくつかある。

しかし、俺が最も知りたいのは、なぜタコはあれほど大きなダメージをけているのか、だ。

俺のパンチは正確にタコの首を捉え、首から上だけを丁寧に切り落としたはずだった。なのに、タコの頭の斷面はボロボロで損傷の激しい狀態だし、攻撃を當てていない箇所まで吹き飛んでいる。與えたダメージが過剰すぎる。

直撃の瞬間に何が起きたのか知りたいが、思い出そうとしてもボクちゃんの視力が悪くて見えていなかった。

俺のだったら見えていたのに……。ボクちゃんに変したことをつくづく後悔する。

無いものは無い。ひとまず、わかることから整理しよう。

タコの狀態は見たまんまだとして、俺自の狀態はどうだろう。

ガスマスクに損傷はない。吸気チューブの中で茶葉と酸素剤がシェイクされたのがちょっと不安な程度だ。即席のガスマスクだが、結構丈夫に出來ていた。ニオイもかなり防いでくれている。臭くはあるが、鼻の先に畑の料を置かれたみたいなニオイで収まっている。

外傷も見られない。〖黒紫のオーラ〗を毆った手が無事なことにしホッとする。だが、かすかに殘る腕の痺れ。これにはやはり納得のいく答えが必要だ。

げんこつを固めて考える。タコを毆ったときのは重かった。実を毆ったときと同じだ。『なんでも切る能力』ではじられないはずの重みに、タコの力のがあるに違いない。

さらに拳を強く握る。手を覆う布がびたそのとき、指の関節部分に小さなすり傷を見つけた。破けてはいないが、傷の部分がし薄くなっている。

それを見た瞬間、まるで數獨パズルのヒントを開けた後かのように、脳みそがフル回転する。手に伝わったの正がわかった。同時に、タコがあれほどのダメージを負っている理由もわかった。このすり傷が教えてくれた。

すり傷が付いたのは魔法金屬だが、魔法金屬はあらゆる質の上位に君臨する質だ。下位の質がどれほど上質な代だろうと、魔法金屬を壊せないどころか、すり傷ひとつつけられない。

ただし、魔法金屬を傷付ける方法は存在する。俺が知っているのは二つ。別種の魔法金屬をぶつける方法と、〖黒紫のオーラ〗を使って魔法金屬を魔力に変換する方法だ。

このすり傷を付けた方法は後者ではない。もしも後者であれば、俺の手は無くなっていた。

つまり、前者だ。別種の魔法金屬と接したことでスーツに傷がついた。おそらく、魔法金屬製のカフェテーブルを飲み込んだ影響で、タコのが魔法金屬に変化したのだろう。昔、黃金宮殿を飲み込んだ俺がそうだったように。

だが、魔法金屬になっただけでは『刈払う貝』の能力を突破できない。『刈払う貝』の『なんでも切る能力』を防ぐことができるのは、『冥府送り』のように極娯楽神から授かった能力付きの神だけだ。ポコ珍鳥と戦ったときに試したが、『刈払う貝』の前では俺のは紙切れ同然だったし、〖黒紫のオーラ〗でさえ無力だった。

要するに、タコはなんらかの方法で『刈払う貝』の能力を無効化し、俺の全力パンチをモロに食らったというわけだ。図らずも想定以上のダメージを與えられたが、狀況はあまり良くない。『刈払う貝』が無効化されたということは、こっちの防力が著しく下がったことを意味する。無論、タコの攻撃を全部避けてしまえば良い話だ。となると、知っておきたいのはタコの運能力がどれほどかというもの。

固有能力と頑丈さが脅威なだけで、『しわよせ』のパフォーマンスにはバラつきがある。タコの知能力は不明だが、反応速度は遅いとわかった。

タコが怒りの反応を見せたのは、俺がブレーキをかけて完全に停止した後だ。反応速度が速ければ、もっと前に反撃の勢に移ったはず。なくとも、このタコは限界到達者より遅い。

タコが反応できない速度で攻撃を繰り出せば、いつかタコを吸収するチャンスが訪れるはず。

さっそく追撃に移りたいところだが、タコは〖黒紫のオーラ〗を広げて守りを固めている。『刈払う貝』は〖黒紫のオーラ〗を通過するとわかったが、ヘルメットは普通の魔法金屬だから、無闇に突っ込むと頭を失ってしまう。

タコに飛行能力は無いらしく、吸盤狀の足で床裏に張り付いている。その足の部分だけ〖黒紫のオーラ〗を纏っていない。

そこに突破口を見つけた。

こっちも〖黒紫のオーラ〗で全を包む。そして、ピストルの弾と同じ程度のスピードで突進した。

前回、ピストルの弾と同じ速度でカフェテーブルを投げた時、タコは全く反応しなかった。さっきの攻撃で俺の強さは思い知っただろうし、今回は無視せず反応するはず。

ピストル級の速度で移しながら、タコを観察する。タコは〖黒紫のオーラ〗を保つのみで、避けようとはしない。

〖黒紫のオーラ〗の目の前まで來た。このまま突っ込めば頭が消し飛ぶ。當然、そんな自滅行為は作戦にっていない。〖黒紫のオーラ〗の結界に侵する直前で急上昇する。

俺は床裏に突っ込んだ。しかし、スピードは全く落ちない。床裏を黒紫食いして進んでいるからだ。視界不良のデメリットはあるが、これも頭を守るためだ。

床裏を削りながら〖黒紫のオーラ〗に侵する。次の瞬間、床裏に頭が挾まった。急停止した反がくる。パワーを溜めていた下半が弧を描き、タコの目の前で空を蹴って床裏に激突した。

気を失わないことが救いだった。攻撃は中斷。床裏に指を突き刺し、ヤモリのごとく這って逃げる。

逃げるときは全力だ。敵は常に視界にれる。追い討ちが來ると思ったが、タコはさっきの激突でできたを攻撃している。俺が近づいたことにも気づいていないようだった。

振り向きが遅いし、攻撃速度もプロボクサーのパンチより遅い。反応速度は人並みと見て良さそうだ。

スペックで見れば敵じゃない。だが、そう簡単に吸収させてくれそうにもない。

床裏に激突する瞬間、確かにじた。俺の〖黒紫のオーラ〗が吸い取られる覚を。しかも、床裏に激突したとき、『刈払う貝』の効果が消えていた。

タコから逃げた直後に、どちらも能力が復活した。〖黒紫のオーラ〗の範囲から抜けた瞬間からだ。

タコのスペックが低いことを踏まえて考えると、無効化能力はタコの意思とは関係なく、常時発しているに違いない。おそらく〖黒紫のオーラ〗に付隨するものだろう。

非常に攻めづらくなった。タコは移用の足以外、攻撃の瞬間も〖黒紫のオーラ〗を解かない。今は結界の範囲を拡大しているため、最初のように近づいて毆れば頭が喰われる。

これはもう、徒手空拳ではどうにもできない。だが、手詰まりじゃない。手が屆かないなら間合いをばせばいい。防を捨てればなんとかなる。

『刈払う貝』のスーツをぎ、別の魔法金屬製のスーツを著る。槍に変形させた『刈払う貝』を持ち、もう片方に『冥府送り』を持つ。

タコは俺が離れたことにまだ気づいていない。【歪天】を使って姿を隠し、程距離まで近づく。

見たところ、怪我したを瞬時に再生させる能力はタコに備わっていない。俺が魔力袋に頼っているように、タコにも〖黒紫のオーラ〗の発に必要な何かしらのがあるはず。安心して吸収できるように、〖黒紫のオーラ〗が使えなくなるまで切り刻んでやる。

近くで見ると、タコの足は殘り5本になっているのがわかった。床裏に張り付く足は殘しておいて、他の足を切り落としていこう。

オーラの結界の外から狙いを定める。バランスを取るためか、ぷらぷらしていて暇な足がある。あれにしよう。

ザンッ!

まずは一本。

痛みに気づく前に二本目を切り落とす。床裏を毆っていた足だ。さらに三本目、四本目。これで殘り一本。

消滅されちゃ困るが、防を捨てた今、手加減もしてられない。魔力袋にあたる部分を壊すために、タコのを満遍なく刺しまくる。

一旦離れて様子を見る。【歪天】を解いたとほぼ同時にタコの足が霧散した。そして、タコのに無數のが開く。

人並みの覚を持つタコからしてみれば、時を止められたようなもんだ。

認識外からの攻撃で大量のダメージを負ったタコが次に取った行は、防だった。

〖黒紫のオーラ〗が膨らむ。

もし俺と同じ魔力袋があるのならば、確実に撃ち抜いたはず。それでも尚、オーラを膨らませた。まさか、こいつの〖黒紫のオーラ〗は魔力袋を必要としないのか?

〖黒紫のオーラ〗は更に膨らむ。支えとしていた床裏をも飲み込んだ。

そうなると、當然、タコは重力に従って落下するわけで……。

「やべ」

落ちていくタコを念力で持ち上げようとするが、〖黒紫のオーラ〗に阻まれる。

タコのオーラは更に広がり、壁を削った。壁と接したのに、なんのブレーキも掛からずに落ちていく。

追いかけるように俺も落ちる。気分は真夜中のスカイダイビング。蛍イエローの流れ星と共に臭い空気を浴びながら飛ぶ。

壁を食べたからか、タコのが再生していた。型もし大きくなったみたいだ。石でも毒でもなんでも食う奴だから、食えば食うほど強くなるって質は厄介だ。

全回復したにも関わらず、一向に止まる気配がない。このまま落ちれば地獄の核まで到達するぞ。

攻撃しようにも〖黒紫のオーラ〗が拡大し過ぎて、『刈払う貝』の最大程を超えている。こうなることなら地球で『刈払う貝』を複製しておけば良かった。帰ったら複製しよう。帰ることができたならだが。

タコがこっちを向いた。何をするかと思えば、〖黒紫のオーラ〗をこっちに飛ばしてきた。

反撃のつもりらしい。だが遅すぎる。皮一枚で避けて、球狀のオーラ弾をじっくりと観察する。

このオーラ弾は俺にはできない技だ。〖黒紫のオーラ〗は対象を吸収可能な魔力にして魔力袋へ送る。その質上、オーラのどこかが本と接していなければならない。オーラを切り離せないのが、今までの認識だった。

試しに小指でれてみる。すると、オーラ弾にれた部分があっけなく消えた。魔法金屬の布も、魔法存在のも、オーラ弾の前では無力らしい。次の瞬間、オーラ弾は消え、同じ場所に膨大な魔力が生まれた。

どうやら、オーラ弾はあらゆる質を魔力に変換し、空気中に放出してから崩壊するようだ。まるで吸収能力を失った〖黒紫のオーラ〗だ。

小指とスーツをすぐに修復する。

タコはオーラ弾が効くと知るや否や、オーラ弾を連発してきた。

オーラ弾は俺の知る中で最強の飛び道だ。こんなものを連発されたら、回避できても上の研究所がだらけになる。

巨大うちわにした『刈払う貝』で飛んできたオーラ弾に対応する。だが、オーラ弾は消滅しなかった。オーラ弾になっても無効化能力は殘るらしい。うちわに沿って流れたオーラ弾は、そのまま壁の方へと飛んで行った。

今のオーラ弾の挙を見て違和を覚える。

もしかしたらと思って、もう一度タコを観察してみた。タコの落下速度が上がっている。〖黒紫のオーラ〗も同様に加速していた。

間違いない。〖黒紫のオーラ〗にも〖黒紫のオーラ〗と同じ弱點がある。

だったら、タコを止められるかもしれない。それどころか、奴の本れられるかもしれない。

核に近づくにつれてどんどん加速するから時間もない。すぐに試そう。

「『重力作』」

超常現象が効かない相手にも通用したりする法則がある。それが萬有引力の法則だ。〖黒紫のオーラ〗は質を魔力に変換するが、魔力は粒子であり、質量がある。オーラ弾が回転した違和から、地獄の引力が〖黒紫のオーラ〗に加速度を與えていると気づいた。であれば、魔力の塊である〖黒紫のオーラ〗には『重力作』が効く。

本來、魔力は重力よりも強い力だが、『重力作』はその関係を歪める。概念破壊系の能力だ。

タコに〖浮遊〗を使用し、『重力作』の対象を固定する。法則にかかるスキルだから、法則に従う存在は『重力作』に抗えない。やはり地球の限界到達者が持つ特典は異常だ。人という檻が無ければ、世界を滅ぼすだけのポテンシャルがある。

タコの落下が止まった。そして、徐々に上昇を始めた。

「『重力作』」

更に『重力作』を重ね掛けする。対象は〖黒紫のオーラ〗だ。別々に重力を作して、タコのから〖黒紫のオーラ〗を引っ剝がす。

タコのを守るオーラが完全に剝がれた瞬間、タコに黒紫線を浴びせる。

人並みの覚を持つタコに逃れるはない。攻撃に気づいて〖黒紫のオーラ〗を噴き出すも、を覆えずに黒紫線に押し負けていた。

タコに黒紫線を味わわせてやる間、俺は俺でタコを味わう。

し薄いが、甘い。ニオイは地獄の底のせいでわからない。

タコの姿が完全に消え去った。完全に吸収し盡くしたと言って……いい……。いた。いたた。

「ガァぁぁああああッッッッ!」

苦しい。なんだこれ。が苦しい。胃が痛い。

前食べたときはこんな事無かったのに。

アレルギー?

『しわよせ』が『しわよせ』食ったらダメなじ?

めちゃくちゃ痛いんだけど。

え、死ぬの? マジ?

俺には『聖33』があるんだぞ。することを我慢してんだから、しくらいボーナスくれたっていいじゃないか。

ちくしょう。意識が朦朧としてきた。こんな臭い場所で死ぬのは嫌だ。せめて部屋に戻りたい。

あ、ちょうど手元に『冥府送り』があるじゃないの。出しといて良かった。あー、やっべ。麻酔けた時みたいだ。視界が霞む。気を失う前に俺を飛ばせ『冥府送り』────。

◆▼▲▼◆▼▲▼◆▼▲▼◆▼▲▼◆

目を覚ましたとき、俺の頭は床からし高い位置にあった。冷たくい金屬が頬を冷やしている。頭を上げると、皮が剝けそうなほど頬がびた。ずいぶんと長い時間寢ていたらしい。3日以上経ってたら冥界神達に怒られる。

『起きマッチョですか? ご主人様』

冷たい金屬の正は太ももだ。俺に膝枕をしていたのはヘルキー01だった。

『お疲れだったようで。ぐっすり眠っておられましたな』

「俺はどれだけ寢てたんだ?」

『申し訳ありません。筋時計は壊れておりまして』

「うん。じゃあいいや。お前はもう自由だ。地獄で言うのもなんだが、好きに生きろ」

『好きに生きろ、とは命令ですか?』

「命令だ。さっさと消えろ。自慢の筋とハネムーンにでも行ってこい」

意』

正座を直したヘルキー01は俺に一禮し、螺旋階段を登っていく。檻の部品にしていた魂たちも既に居なくなっていた。俺が寢てる間に部屋を出て行ったようだ。

とにかく無事で良かった。あんなに苦しい思いをしたのは徳島のトンネルぶりだ。気絶したのは人間だったとき以來か。

とりあえずステータスを見てみよう。帰ってからの方が正確なステータスを見れるだろうけど、こんだけ苦労してここまできたんだから、もう我慢できない。

これでなんの強化も無かったらもう一回だ。テキトーな魂を持ってきて『しわよせ』にしてしまおう。

今回の『しわよせ』は『愚者の中の愚者』を獲得する前に発生した『しわよせ』の可能があって、今後新しい『しわよせ』は生まれないかもしれないが、やってみるだけの価値はある。

「ステータスオープン」

新しくなったステータスを見て、冷や汗が流れる。

「え?」

──────────────────────>

【LV.MAX】天道ケー@KSmileDM33

【種族】『しわよせ』・極娯楽神の使者・神候補

【重さ】 -50

【戦闘力】MAX:∞

【タフネス】 不滅

【魔力】 ∞

【スペック】

『極複製神の神鏡』

『極娯楽神のお気にり』『愚者の中の愚者』

『聖33』『廻者』

『怪王』『天使の心』

『冥界神の心』『始善神の心』

『くたびれた宇宙』

霊王の骸』『大金烏の骸』

『飛翔』『搭乗』

『死魂の運び手』『複合』

『ゼンマイソウルコンバット』

『冥府送り』『刈払う貝』

『黒紫無雙』new!

〈スキル〉

〖神パワー〗〖超・神パワー〗

〖貓の爪〗〖三毒〗

〖スーパー黃人〗

〖強い糸〗〖電撃〗

〖墓守〗〖明鏡止水〗

〖念力〗〖結合〗

質化〗〖大魔王〗

──────────────────────>

が持つスペックが消えているのは問題ない。俺のは今、魔法存在であって、魔法金屬のじゃない。『極複製神の神鏡』が本ではなく魂に定著したのも確認済みだ。問題はもっと別にある。いつもの欄と様子が違う。

「黒紫のオーラが消えてるんだが……」

まさか、似た能力同士で相殺しちまったってことはないだろうな。

見間違いかと思ってもう一度見返すと、スペックが一つ増えていた。

「黒紫……無雙? なんだこのネーミングセンスは。こんなの考えた覚えはないぞ」

極娯楽神が勝手に付けたな。麻雀の國士無雙とかけて役満ってか?

安易な當て字を押し付けやがって。これじゃあオヤジギャグじゃねーか。

年齢的には……まあまあオヤジだけどさ。面白くねーよ。こんなん役所に屆けたら笑いもんじゃねーか。

もう書き換えようがないし、やられたもんはしょうがない。寢ていた俺が悪いんだ。名前に強いこだわりも無いし諦めよう。肝心なのは能力だ。

手にだけオーラを出すようにイメージして、能力を発現させる。

「黒紫のオーラ」

手の平からいつも通りのオーラが立ち上る。試しにお菓子を出して黒紫食いする。覚も以前の同じだ。全く変化をじない。

「オーラ弾」

手の平のオーラを球にして、タコがやっていたように出する。すると、ピストルよりも速い速度でオーラ弾が壁を削った。

次に、『刈払う貝』を出してオーラに突っ込む。今、『刈払う貝』にれたら指が吹き飛ぶはず。試しにれてみる。指は無事だ。『刈払う貝』の能力が無効化されている。

どうやら、タコが使っていたオーラと同じことができるらしい。それ以上の力が備わっていてしいところだが、今は研究している場合じゃない。後でゆっくり調べよう。

一旦現世に帰りたい。どれだけ気絶していたのかも知りたいし、今の姿を他の冥界神に見られるわけにはいかない。

◆▼▲▼◆▼▲▼◆▼▲▼◆▼▲▼◆

目が覚めると、油が跳ねる音が聞こえた。焼けたウインナーの良い香りがセンサーを刺激する。音と香りだけで朝食の時間だとわかった。

俺が知りたいのは日付だ。スマホを開いて畫面を見る。良かった。一日しか経ってない。今日のイベントには間に合いそうだ。

安心してスマホを閉じると、キッチンの方で油の跳ねる音が止んだ。

おかしい。焦げ臭いニオイがしないうちに調理が中斷された。キッチンに居るのはウヅキさんじゃないな。

天ちゃんが攫われないよう、家には客を上げないようにしている。他人がり込んでいる事態が既に異常だ。

警戒を強めつつ、音を殺してキッチンへ向かう。センサーの範囲になってようやく警戒を解いた。

「おかえりなさい」

キッチンに居たのは山本メイだった。しかし、おかしい。山本メイの正は俺本人だが、それを知っているのは俺だけだ。山本メイの正を知らないウヅキさんが室を許すわけがない。

ウヅキさんは居ないし、スパルナと天ちゃんの姿も見えない。何かあったに違いない。

「なんでおめぇがここにおんのや?」

「話すけど、落ち著いて最後まで話を聞いてくれよ。同期するのはその後だ」

「回りくどい」

「同期したらおめぇに影響されて二人同時に家を飛び出すかもしれんからな。保険だぜ」

よほど嫌なことがあったって顔だ。こちとらヘビーなスケジュールで働いてきたばかりってのに、重たい話を聞かされそうだな。

「わかった。で、何があったんだよ」

それを訊いた瞬間、メイの額に管が浮き出た。

「ウヅキさんがされた」

は? 何言ってんだお前……。

    人が読んでいる<愚者のフライングダンジョン>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください