流石としか言いようがなかった。

翌朝早く、茶心堂を訪ねてみれば、既に移香茶葉だと偽った荷は、配達人の手で東明飯店へと屆けられたとのことだった。

行も早ければ、鄒王は言ったとおり、東明飯店の張朱朱にしっかりと話を通していてくれた。

翔信と二人、覚悟をして首を引っ込めて店にったのに、張朱朱が「話は聞いたよ」と奧へ案してくれたのには々した。

「荷をけ取るだけでいいって話だったからけたんだ。まだあたしは完璧には赦しちゃいないからね。そこんとこは間違えるんじゃないよ」

向けられた張朱朱の顔に猜疑が殘っていたのは、仕方のないことだろう。

それもきっと、これが上手くいって真犯人さえ捕まれば、向けられなくなるはずだ。

「なあ、月英」

張朱朱の後に付き従いながら、翔信が小聲で隣の月英に話しかけた。

「どうしたんです、翔信殿」

「俺……やばいかもしれない」

彼は自分の両腕を抱え、まるで寒そうにぶるりとを震わせていた。

「なっ！　大丈夫ですか!?　どこか合でも悪いんですか!?」

相を変えて、月英はをめる翔信を支える。

「月英、俺……」

「大丈夫です！　し休みましょう、翔信殿！」

「気の強いに邪険に扱われるのが好きみたい」

「は？」

「今まで、に首っこ摑まれて捨てられるなんて屈辱だと思ってたけど……今日はそれがなかっただろ？　それで気付いちゃったんだよ」

「…………」

月英は支えていた手を離し、翔信からも二歩、距離をとった。

「俺、あの傑みたいな張朱朱さんに投げ捨てられるのが気持ち――」

「すみませーん！　店の評判を著しく落とそうとしてる人がいますよー！」

「何だってぇ!!」

奧から床板を踏み抜かんばかりの足音を立てて、張朱朱が戻って來る。

彼は勢いそのままに、いつも通り翔信の首っこを摑むと店の外に投げ捨てた。その際、「あぁんッ」と気持ち悪い聲が聞こえてきた。

「しまった。ご褒だった」

月英は両手を著で拭きながら、舌打ちをした。

張朱朱からけ取った鄒央の荷を、東明飯店の二階の個室を貸してもらい検分する。

紙で包まれ、紐で十字にしっかりと結われている。

中はもちろん、ニセ移香茶葉だ。

翔信は荷を手に取って、上下左右からまじまじと観察していた。

一度追い出された翔信だが、一応は月英の監視役という大役を帯びていたため、張朱朱に頼み込んで店の中へとれてもらっていた。

その際も鼻息を荒くしていたような気がしたが、勘違いだと思いたいし、思うこととする。

「開けられたじは……しないな」

「じゃあ、中を確認してみましょう」

翔信の手が紐を解き、丁寧に包裝紙を剝がしていく。

最後の包が開くと、中からは茶葉が現れふわりと香りが立ち上る。鄒央が、香りの強い茶葉と混ぜると言っていたが、確かに香気が立っている。その奧に茉莉花の甘さが仄かに香っていた。

「どうだ？」

「うーん、匂いからは異常はじられませんが……」

茶葉の見た目から異常はじられない。

「ただ、どんな毒がれられてたか分からないせいで、何とも判別がつかないですね」

「じゃあ、太醫院に持って行って判別してもらうしかないか」

「でも、僕って太醫院には近づけないんじゃ」

「あー……接見止だったな」

當てが外れた翔信が、べたりと額を卓にくっつけた時だった。

「あんたら、結果はどうだったんだい」

一階から上がってきた張朱朱が、個室の扉を前れもなく開いた。

突然の登場に驚く二人をよそに、彼はぬうっと顔を突き出し、卓に広げてあった茶葉をまじまじと凝視する。

その目は、忌々しいものを見るように顰められている。

「それで、これに毒はってたのかい？」

険しさそのままに顔を向けられ、月英はあたふたする。

「いえ、あの、それがそのですね、僕たちじゃそもそも毒かどうか判別するのは難しくてですね」

「はあ!?　あんたら宮廷様なんだろう？　そのくらい分からないのかい」

「専門外のことはちょっと……」

語尾を極端に上げて不服をわにする張朱朱に、月英と翔信はへこへこと頭を上下させた。

二人はまったく悪くないのだが、張朱朱の気持ちも分からないでもない。

平民からすれば宮廷など皆同じにみえるのだ。

月英もかつては、宮廷部がこれほど事細かに細分化されているとは思ってもいなかった。

しかも、こちとらただの仕事中毒者と香療馬鹿である。

香療馬鹿は一応太醫院所屬ではあるが、その名の如く香療にしか造詣は深くないし、仕事中毒者も似たり寄ったりだ。

「じゃあ、やっぱり街醫士に持って行くしかないね」

何気なく口にした張朱朱の言葉に、二人はハッとして「それだ！」と聲と顔を合わせた。