《テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記》911 対悪霊後半戦開始
渦を巻く黒いが消えた時、悪霊は既に形態変化を完了させていた。その肝心の何がどう変わったのかという點だが、ニョロニョロした手のようなものが何本も生えてきていた。
「う、うわあ……」
まあ、うねうねと蠢(うごめ)くさまは見ていてあまり気持ちの良いものではないし、魔らしい変化と言えなくはないだろうね。
ただ、生えてきた場所が問題だった。先に言っておくと卑猥な方面の話ではありませんのことよ。もともとこの悪霊の自、腹部から上しかないからね。下半が手になって蛸のようにうねうねとけるようになったりはしていないのだ。
しかし仮にそうなっていたとしたら、間違いなく苦戦することになっていたことだろう。ここまで順調に敵のHPを削ることができていたのは、方向転換すらままならないほど悪霊がその場からかない、けないことに大きく起因していたのだから。
複數の手の足――手なのか足なのか混してきそう……――で多方向を同時に相手取ることができるようになれば、ボクたちの利點はほとんど消失していたと思うよ。
おっと、仮のことをいつまでものんびりとしていられるほどの余裕はないのでした。話を戻しますと手の生えてきたその箇所とは、頭部、しかも顔に該當する前面ではなくその上、頭頂部だった……。
えーと、ゆで卵みたいだと表現したように、ツルツルだったことを気にしていたの、かな?
いや、もうホントにこの微妙な空気をどうしてくれるのよ!?髪のが蛇になっている某三姉妹みたいならそれなりに不気味で恐ろしかったのだろうとおもう。が、それこそ無數のそちらとは違って悪霊の場合は何本か(・・・)でしかない。
じっくり見ていたいものではないのではっきりとは言えないが、多分多くても二桁には屆いていないのではないかしらん。
「一杯譲歩しても、頭の上にイソギンチャクが乗っているようにしか見えないわ……」
繰り返すけれど最大限好意的に見てそれだからね。つまり実際にはミルファやネイトたちのようにコメントのしようがない、という意味で言葉をなくしてしまう狀態だった。
だけどそこで止まってしまっては司令塔としては失格だ。例えあんな変なものでも考察して脅威度を予測しなくてはいけない。何せ元になった死霊のそのまた大元は『大陸統一國家』最後の王様だし、とんでもない隠し玉を持っているやもしれない。
さて、楽観的プラス思考で今の狀況を考えるならば、ボクたちの攻撃によって完全な妨害とまではいかなかったものの形態変化を一部に押し止めることができた、ということになるだろうか。さすがに頭の上でニョロニョロしているだけということはないと思うが、完全と比べれば著しく能力は低下しているはずだ。
高い位置にあることを利用して、ボクたちの視界の外から奇襲をしかけてくるのでは?悪霊から生えてきた手だし、びるくらいは朝飯前ではないかな。槍のように真っ直ぐびて貫いてきたり、鞭のようにしなりながらびて打ち據えてきたりしそうだ。
「ということで接近する人は上からの攻撃にも注意して!離れている人もここなら安全と高をくくらずにいつ攻撃が來ても避けられるように用心しておくこと!」
いざ戦いが始まってしまえばどこまで徹底できるか分からないけれどね。それでも心構えさえしておけばいきなり致命傷をけるようなことはないと思う。
「ネイトとリーネイはしばらく回復優先でお願い」
実はボクの勘違いで、これこそが完全という可能も殘っている。頭に思い描いた攻撃と同じであっても、段違いの威力と速さを兼ね備えているかもしれないし、はたまた予想だにしない手を打ってくるかもしれない。
ここは臆病なくらい慎重になっておくほうがいい。
頭部の手のきに対するボクの予想の正解率は五十パーセントといったところだった。當たっていたのはその攻撃方法で、槍のように直線的に突いてきたかと思えば鞭のように曲線的なきもあるという、分かっていても対処が難しい代だった。
「くっ!固いですわね!?」
加えて數本が絡まり合って強靭な攻撃を繰り出すという蕓當まで披してくる始末だ。こうなるとカウンターでやり返してもミルファの細剣では弾かれてしまい、ほとんどダメージが通らなくなってしまった。
「ああなったらボクがやり返すからミルファは回避に専念して!」
幸いにも龍爪剣斧の斧刃であれば通るので、役割分擔とばかりに彼の背後からするりと抜け出してはどっせい!と力任せの一撃を叩き込んでいった。
そして攻撃が終わればすぐに後退する。敵の反撃をけないため?確かにそれもあるのだけれど、一番の理由はあるを視界にれないためだった。
この合手の攻撃なのだけれど、一本の時とは異なり自在という訳ではなかった。その足りない距離を稼ぐために悪霊がとった行が、を倒すという方法だった。
その上これ自も侮れないほどの危険な攻撃になるのよね……。ほとんど予備作もなくいきなり倒れ込んでくるので、押し潰されてしまいそうになるのだ。背面(あちら)側では逃げ遅れたチーミルを助けるため、リーヴが【ハイブロック】でけ止める――それでも二人ともダメージなしとはいかなかった――ということも起きていた。
それにしても躊躇(ちゅうちょ)なく背中から倒れていくとか、けを取り慣れている人でもなければできることじゃない。ある意味これもゲームならではの演出と言えそうだ。
話を戻すと、そうやって倒れ込んでくると當然頭部も近くにやってくることになる。これが曲者だったのだ。
想像してみてしい。ツルツルの頭から生えた手が數本ずつ寄り集まって、三つ編み狀態になっている様子を……。最初にそれを至近距離のドアップで見た時には、戦闘中にもかかわらずふき出してしまいそうになったわよ。しかも笑うのを耐えようとして、乙が出してはいけない類の音を口から発してしまったのだった。
正直、これは本當に偶然の産だったのだと思いたい。これを狙ってやったのだとすれば運営は格の歪んだひねくれ者の集まりなのだと軽蔑してしまいそうだもの。
そんな切実?な事もあって合手への攻撃はヒットアンドアウェイにならざるを得なかったのだった。
〇本編ではもう機會がなさそうなので、ここで対悪霊戦についてし補足しておきます。
まず、正規ルートというか正面から『空の玉座』へとやって來た場合、近衛兵とかの死霊が追加されることになっていました。
口近くに吹っ飛ばされたリュカリュカちゃんが聞いたうめき聲はその名殘みたいなものです。
次に元兇の魔法使いを放置していた場合、やつもしてきて悪霊二との戦いになるところでした。なんて迷なやつ……。
どちらにしても背面側に回り込むような余裕はなく、もっと苦戦することになっていたはずです。
結果的にリュカリュカちゃんたちはバトルが一番楽になる選択をしていた、ということになります。ご都合主義?後付けっぽい?……それは言わない約束だよ、お父っつあん!
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