《ロング・ロング・ラブ・ストーリーズ 4度目のさようなら that had occurred during the 172 years》第6章 1983年 プラス20 – 始まりから20年後 〜 2 大いなる勘違い(2)

2 大いなる勘違い(2)

そもそも、あれは自宅の庭で起きるのだ。節子がいればどうしたって気づかれるし、なんとしても外出するよう仕向けなければならない。

ところがなんとも幸運なことに、運命の日の二日前、三月七日出発のツアーに行かないかと節子が突然言い出した。さらに目的地はフランスなんだと言ってくる。

「地中海に沈む夕日を、あなたと一緒に見たかったのに! お城が遠くに霞んで見えて、最高に素敵だってところなのよ! 今どき、飛行機が怖いとかヤメてほしいわ。ねえ、どうして八時間以上はダメなのよ」

フランスは八時間以上かかる――だから行けないと、剛志は頭を下げたのだ。節子は呆れ顔でそんな疑問を口にするが、どう説明しようがわかってはもらえるはずがない。

もちろん今回だけは、どんな短いフライトであっても答えはノーだ。さらに十二時間を超える長旅となれば、斷るために噓をつく必要さえない。

あのエンジン音が聞こえてきた途端、彼の心臓は一気にバクバクし始める。そうして浮き上がった瞬間から、ずっと生きた心地がしないのだ。だから搭乗前から酒をガブガブ飲んで、できるだけ早く酔っ払って寢てしまう。

運が良ければ節子に起こされるまで寢っぱなしだし、運悪く目が覚めても、だいたい殘りは一時間くらいのフライトだ。

そのくらいなら、また酒を飲んで我慢できないこともない。

ところが十二時間のフライトとなれば、そんな我慢がさらに五時間続くことになる。そうそう寢ようったって寢られないし、これこそが地獄の時間となるのだった。

そして當然節子にも、彼のリアクションなど予想できていたはずなのだ。となれば、きっと最初から、一人で行ってもいいくらいに考えていたんだろうと思う。

結果、ツアーには節子一人が行くことになり、あの日は剛志がひとり留守番となる。これ以上ない塩梅に、剛志はホッとをなでおろしていたのだった。

そうしてさらに、あの日からひと月と二日前のことだ。その日はよく晴れ上がった月曜日で、節子は料理教室の生徒たちと溫泉旅行に出かけていた。

帰ってくるのは二日後の夜。一人殘された剛志が、そろそろ畑に出ようかなどと思っていた頃だった。

そんな時に突然、最近替えたばかりの電話が電子音を響かせる。彼は足早に電話のところまで駆け寄って、妙に軽いを手にして耳に當てた。

「もしもし、巖倉でございますが……」

そう言って、いつものように相手の聲を待ったのだ。

「突然すみません。わたくし、児玉と申しますが……」

そこで思わずハッとして、を握る指に力がった。さらに続いた言葉によって、彼は一瞬パニック狀態に陥ってしまう。

「……実は、し聞いていただきたいお話がございまして……」

これ以降、慌てふためいて何を話したのか覚えていない。ただ水曜日だという記憶はあったから、明後日であれば何時でもいいと伝えたことだけは間違いない。

――あれは、同じ週の月曜日、じゃなかったのか……!?

初めて巖倉邸を目にしたのが日曜日だった。

そしてその翌日の月曜日、會社の會議室から巖倉氏の家に電話をかけた。

剛志はこれまで、あの日を〝三月七日〟なんだと思っていたのだ。ところが電話のあったのは二月の五日で、あの張の一日はそれから二日後の〝二月七日〟のことだった。

こんな大事なことを、剛志はこの瞬間になってやっと知った。

――くそっ! どっちも水曜日だからか……。

奇しくも三月、二月とも、どちらも七日は水曜日だった。

きっとそんなことで、いつしか勘違いをしてしまったか……?

――ということは、あの電話もそうだったのか?

伊藤と智子のことを聞いてきた、奇妙な電話によって伊藤との約束を思い出した。

――あれも二月、だったんだ……。

そして明後日には、三十六歳の剛志がこの家までやって來る……。

ただ、髭は思い通りにびているし、幸い伊達メガネも手にれたばかりだ。

思い返せばあの時、剛志はずいぶん張していた。それでもあのくらいの張は、人生で何度も経験済みだし、待っているのが自分だなんてほども思っちゃいないのだ。

しかし、今度ばかりはぜんぜん違う。

剛志はすべて知っていて、若かりし頃の自分を相手にやりきらねばならない。そんなことを想像するだけで、あの頃以上にカチカチの自分が容易に想像できるのだった。

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