《テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記》920 ここでこれなの?
玉座の裏にあったのは下へと続く階段だった。明かりがまったくないらしく、十數段先は闇の中だ。いわゆる地下にあたるのかそれとも隔離された空間なのかは不明だが、の場所であることは間違いなさそうだ。
ちなみに、蓋(ふた)になっていた床はどういう原理なのか勝手に開きました。まあ、ゲーム的な面から言うなら、プレイヤーが発見して認識することがトリガーになっていたのだろう。
設定的には謎なままだけれど。だからエッ君、「もう一回やって!」とか言われても無理だから。リーヴも解析したそうな顔をしないで!妹分のトレアの方がよほど落ち著いている……、あ、人化していつでも下りる準備は完了していますかそうですか。
謁見の間に到著するまでの『天空都市』の探索中は『ファーム』の中で待機させていたからなのか、悪霊との大一番の戦いが終わったばかりだというのにうちの子たちは元気が有り余っているじだわね……。
のんびりしていて崩壊が始まってはシャレにならないので、さっそく階段を下りてみることに。〔生活魔法〕の【源】で明かりをともして、さあ出発。
薄暗い階段を踏み外さないように慎重に進んでいく。緩く右へとカーブしているようで、先が見えないことの一因になっているみたいだ。
畫面越しのゲームであればパッと畫面転換が行われるところがだが、VRの験型となるとそうはいかない。沸き躍る冒険活劇があるはずもないのだから、さっさと終わらせればいいのに。
一方で焦燥だとか不安だとかいうものは否応なしにかきたてられてしまうから、それが狙いだったのなら大功と言えるだろうね。……微妙に腹立たしいけれど。
「……長いね」
「長いですわ」
「長すぎではないでしょうか」
百を超えたあたりで數えるのをやめてしまったので正確な段の數は分からないが、多分その三倍から五倍くらいは足をかしたと思う。低めに見積もって一段辺り二十センチだとしても、六十から百メートルは下っていることになる。
相変わらずカーブも続いていたため螺旋狀のきになるから、橫への移はほとんどないのではないかしらん。多分、謁見の間のほぼ真下に位置していると思われます。
「まさか、このまま『天空都市』の下まで突き抜けていくなんてことはありませんわよね?」
「ミルファさん、変なことを言うのは止めてもらっていいですか」
人はそれをフラグと呼ぶので。そう言ってたしなめたボクだったが、その可能は十分にあり得そうだと考えてしまった。
そしてそういうフラグ回収に余念がないのが『OAW』というゲームだ。時間間隔がなくなりそうになるくらい薄暗い中を歩かされ続けた結果、到著先で目にした景にボクたちは唖然とすることになった。
「……本當に底にまで突き抜けてしまいましたの?」
縦橫高さのそれぞれが數メートルほどのその空間は側面の一つがぽっかりと開いてしまっていて、空と海――はるか下の方にちょっぴりとだけ見えた――の青に埋め盡くされていた。いつの間にか縁の方へと導されていたとも言えなくはないが、ミルファが口にしたように真下に突き抜けたと考えた方が妥當だろうね。
「転移魔法陣の中継地點でも見えたけど、こうしてみると本當に海の上に居たんだねえ」
數歩ばかり――いや、普通に怖いので端まで行くとか無理――開かれた側へと進んで下方を覗いてみれば、そこに広がるのは空とは異なる青さだ。
「海の上……。出用の魔法陣はちゃんと大陸に屆くのでしょうか?」
「そこは大丈夫だと思うよ」
不安そうなネイトに努めて明るく言う。一応、拠もある。
「そんなに極端にアンクゥワー大陸から離れている訳じゃないから。ほら、あれ見て」
指さした先には縦に一本の棒、いや線のようなものが。
「あれ、『神々の塔』だよ」
高度があるのでそれだけしか見えないけれど、もうし近付けば大陸の山々なども見えてくるはず。
見知った存在があったことでようやく安心できたのか、ネイトがに手を當てながら大きく息を吐く。アンニュイな表が妙にせくしーですな。そんな彼を形態のトレアちゃんがニコニコと見上げていた。
対してもう一人の仲間のミルファはというと……。
「こうして下を見てようやく空の上だと実できましたわ」
エッ君とリーヴをお供に、開いた面のそばまでいってじっくりと外の景を鑑賞していた。萬が一にでもふらついて落下したりしないように両手を床につけているとはいえ、見ているだけで足の裏がムズムズしてきそうだよ……。
「転移魔法陣を探すよ」
大した広さでもないので一人でも十分ではあるのだけれど、こちらの心臓に悪いので呼びかけて戻って來てもらうことにする。
「探すも何もそこに見えているではありませんの」
お楽しみを中斷されて不機嫌、ということではなくあまりにもデカデカと描かれていたので、探す意味もないと思えてしまっていたのだのだろう。ミルファの視線を辿れば確かに魔法陣が描かれていた。
……壁に。
「うん。あれのことはボクも気が付いていたよ。でも転移のための魔法陣が壁に描かれているなんておかしいでしょ」
なお、〔鑑定〕によると強風を発生される魔法陣とのことだった。
「こわっ!?なんですのそれ!?ここまできて悪質なトラップですの!?」
ミルファの反応も當然で、その魔法陣があるのは奧側の壁だ。つまり下手に起させてしまうと開いた方へと吹き飛ばされ、そのまま下の海面に向けて真っ逆さま、となってしまうというものだった。
「そうとも言い切れないかもしれないんだよね……」
出のためのの通路の先にあるというのが一點。そして他に魔法陣らしきものが見當たらないというので二點目だ。そして最後に、そこそこ大きなが魔法陣のすぐ前にこれ見よがしに鎮座ましましていた。
「あれって出ポッドだよねえ……」
球狀の形態といい、ファンタジーな世界観にそぐわない機械満載なメカメカしい外見といい、どう考えても宇宙船からバシュン!と出される急用出ポッドにしか思えなかった。
「もしかしなくても出逃亡用ってこれのことだよね?あの魔法陣で強風を発生させてバシュン!と飛ばしちゃう設計ですか。……転移の魔法陣というのは誤って伝わった報だったということかあ」
長らく強権を維持する時代が続いていたので、下手をすれば存在すら忘れられていたかもしれないのだ。どんなものなのか確認されていなければ誤って伝えられてもおかしくはないということかしらね。
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