《反逆者として王國で処刑された隠れ最強騎士〜心優しき悪役皇様のために蘇り、人生難易度ベリーハードな帝國ルートで覇道を歩む彼を幸せにする!〜【書籍化&コミカライズ決定!】》【123話】時間稼ぎ(ペトラ視點)
眩い閃に思わず瞳を瞑る。
それが目眩しであることは何となく理解していたが、対処するを持ち合わせていない今は、彼の思通りになるしかない。
「──っ何も、見えねぇ」
スティアーノのけない聲を聞きながら、私は全神経を視覚以外に集中させる。
周囲に響き渡る音。
鼻筋を刺激する僅かな香りの変化。
足下からじる振。
「──っ!」
神を研ぎ澄ますと、後方から微かに敵意をじた。
スティアーノの立ち位置を聲で確認し、彼の持つ剣の位置を予測し、その場所目掛けて手をばした。
「ぬわっ!」
「借りるわ!」
彼の手から強引に剣を引き抜き、私は咄嗟に後頭部を庇うように剣をらせた。
直後、剣を持つ手に重く痺れるような衝撃が伝わってくる。
「……あら」
「ふん。全部読めてるのよド三流魔師!」
強がってみるものの、危機一髪だったことに冷や汗が止まらなかった。
──このどうやって……回り込んできた?
視界は失っていたけど、彼が後方に回り込んでくるような気配はじなかった。
ただ急に背後から敵意が迫ってきたのだ。
反的に彼の攻撃を防ぐことができたけど、これは。
「……中々やるのね」
閃が晴れる。
目を見開くと、背後にじていた彼は、閃を発生させる前と同じ位置に戻っていた。
──やっぱりね。
「……大丈夫か?」
心配そうに視線を向けてくるスティアーノに奪った剣を返しつつ、私は深呼吸をした。
「大丈夫よ。ありがとう」
思考を整理する時間はあまりない。
しかし彼の不可解な回り込みといた気配をじさせない不意打ち。
考えたくないことだが、ここまで行くと嫌な予想が頭を過った。
「アンタ……転移が使えるの?」
尋ねると、ローブのはその漆黒に染まった瞳を覗かせる。
「使えると答えたら……貴はどんな選択を取るのかしらね」
「────っ⁉︎」
各國でも研究段階にある『転移』の魔。
実用段階に至っていないのは、魔力消費が激し過ぎて、使いこなせる人間がいないからだ。
しかしローブのの不敵な笑みを見て、私は確信した。
間違いない。
このは化けだ。
アルディアと同じか……それ以上かもしれない化け。
「なるほど。また厄介なのが沸いてきちゃって……今日は厄日かしらね」
「なぁペトラ、やるのか? 逃げるのか?」
スティアーノは剣を構えながら、私の答えを待っている。
敵は強大。
この港町に現れた謎の傭兵団。
大したことない相手だと考えていたけど、これは想定以上だ。
転移の魔が使えるのなら、逃げられる保証はない。かと言って、正面から戦いを挑んで勝てる相手とも思えない。
私の魔は無効化される。
スティアーノが近接戦闘を仕掛けたとして、私たちの勝率は……?
「はぁ……」
そんなこと考えたって意味なんてないでしょ。
もう答えは出てる。
私に出せる言葉は、
「スティアーノ、やるわよ! あのを二人で倒すしかないわ!」
この場で踏ん張るしかない。
「そう……貴たちは、勝てない戦いを挑むのね」
「勝てない戦いですって? ……はっ、笑わせないでよね。アンタに負ける気なんてしもないわ。何たって私は、特設新鋭軍魔導部門のトップになるつもりなんだから!」
こんなところで躓いている暇はない。
私はもっと先へ……上へと登る!
「行くわよ!」
「おうよ!」
前に出るスティアーノは、颯爽と剣を振る。
「うらぁ!」
「…………」
「よし、全部外れたぁ! ペトラ次どうすりゃいい?」
「攻め続けて!」
「あいよ!」
──まあここまでは予想通り。
ローブのは機敏にいて、スティアーノの剣撃を的確に避け続けている。
あれだけけて優れた魔師というのだから、本當に信じられない。
そして、魔の発に関しても抜け目ない。
休む暇もなく、魔の発の気配。
私は剣撃をれることに集中しているスティアーノに呼び掛ける。
「──スティアーノ、回避っ!」
「うわっ……! 今のもギリギリだったわ……」
「大丈夫、こっちで全部見えてるから。アンタは安心して戦いなさい」
「そりゃ、助かるわ」
魔の発直前は魔力による揺らぎが周囲に現れる。
それが見えるから、注意喚起に関しては問題ない。
「せやぁっ!」
「……甘いわ」
「喰らえッ……!」
「貴のきも読めてるわよ。ペトラ」
「チッ……」
スティアーノとの戦いに集中しているところを狙ってみたが、放った魔はいとも簡単に躱された。
お返しとばかりに、こちらに風系統の魔が放たれる。
強風に耐えながら、私は再度魔の構築を始める。
「ああもう、今度は完璧に魔を消されたわ!」
「ペトラ、俺の攻撃一回も當たんないんだが!」
「私も當てられてないわよ!」
こちらの攻撃は何一つとしてローブのに直撃していない。
でも、向こうの攻撃もこちらに當たっていない。
──待って。それはどうしてなの?
相手は格上。
私たちを倒そうと思えば、いくらでもやり方はある。
よくよく観察してみると、私たちに大怪我を負わせないような魔ばかりを使っている。
危険度の高い魔を放っている時は、より魔の発をじやすい魔力の揺れを起こしている。
私が察知できるように……でも何故。
「おい、ペトラ。手が止まってるが、どうした?」
勝負の先が見えないのに、彼は焦ることなくき続けている。
そしてそのきは……ほぼ守りに徹した消極的なもの。
──この、まさか!
「スティアーノ! これ、時間稼ぎよ!」
「は?」
──この、私たちを倒そうなんて微塵も考えていないんだ!
ただ、この場で足踏みをさせている。
だって私たちを倒そうと思えば、いくらでも倒せるはずだ。
それだけの実力差が実際あるし、同じ魔師同士、それくらい簡単に察せられる。
「よく気付いたわね……勘が鋭い部分だけは褒めてあげる」
「ふざけないで! 何が目的よ!」
「話すわけないでしょう。そのための足止めなのだから。むしろ殺さないだけ謝してほしいくらいよ」
──本當に腹立たしい。
どうせ負けないからと余裕を崩さない口調が、モヤモヤして許せない。
絶対に一矢報いてやる!
一歩前に踏み込み『今度こそ……魔を當ててやる!』
そう意気込んだ時だった。
「──何この揺れ⁉︎」
地下水道が大きく揺れた。
先程からも何度か地上が騒がしいと思っていたが、より近く……大きい揺れは無視できない規模のものだった。
ローブのは、上に視線を向けているが特に何か話すことはない。
「…………」
「ちょっと、アンタは何か知っているの?」
話しかけても反応はない。
「なぁ……こっからどうする?」
すぐ橫まで戻ってきたスティアーノが、私にコソッと耳打ちする。
不安そうな顔だ。
安心させてやるような言葉をかけてやりたいのは山々だったが、現狀どうしようもないもの事実。
「悪いけど……策なしよ。向こうが無理をして私たちを仕留めにこないってことは、隙を作るつもりがないというのと同義だもの」
「そっか……ついでに逃げられねぇしな」
「狀況が変わるとしたら、味方の救援があるか。あのが私たちの足止めをする必要が無くなる時くらいね」
「なんか、されるがままってじだな」
「……不本意ながら、その通りね」
久しぶりに自分の無力さを実した。
目の前には倒せない敵。
殺されることはないだろうと思える狀況であるが、相手の思を阻止することができないまま、時間が過ぎることを待つしかない。
元々は噂になっている傭兵団の調査に來た。それなのに、その傭兵団に好き勝手やられている現狀は、敗北したに等しい。
「けないわ……」
──こんなたらくじゃ、アルディアに顔負けできないじゃないの。
アイツはきっと、どれだけ強大な敵が立ち塞がり、どれだけ多くの敵が現れたとしても、何かしらの解決策を編み出しているはずだ。
いつだってそう。
どんな窮地に陥ろうとも、毅然とした態度で事の解決に乗り出し、なんとかしてきた。
「……まだし時間が掛かりそうね。悪いけど、貴たちは大人しく、私とこの地下水道にいてもらうわよ」
──私には何もできないの?
勝てる気がしない。
そんな気持ちの落ちかけている私を起したのは、橫に立つ男だった。
「……ペトラ」
俯いた私の背を優しくさする手があった。
彼は、落ち込んだ様子を一切見せずにこやかに笑う。
「まだ、諦める時じゃねぇよ」
「────っ!」
「俺たちみたいな『いつでも全力出そうぜ』ってタイプの人間はさ。こんなところで下は向かないもんだぜ?」
「スティアーノ……!」
「敵わない相手だとしても、お前は決して逃げたりするやつじゃない。そうだろ……ペトラ!」
──そうだ。
その通りだ。
私は逃げなかった。
士學校の頃の私は、もっと怖いもの知らずだった。
恐れるものなんてなくて、努力さえすれば何だって超えていけるという際限のない自信があった。
目が覚めた。
年齢だけ重ねても、自分が強くなるわけじゃない。
常に前に進み続ける意志を放棄した瞬間に、長は止まってしまうのだ。
「……そうだったわね」
「ああ、なくとも……俺の知ってるペトラはそういうやつだよ」
「なら、戦い続けなきゃね?」
けなくなるまで終わらない。
勝てるかどうかじゃない。
勝とうとする意思を絶やしてはいけないのだ。
「そうそう。俺はそっちの闘志燃やしてるペトラの方が、らしくて好きだぜ」
「奇遇ね。私もこっちの自分の方が好きなのよ……!」
挑戦し続けることを辭めない。
そこで諦めたら……私じゃなくなるから。
「……本當に貴たちは恐れるということを知らないのね。愚かだわ」
ローブのは呆れたような言葉をぶつけてくるが、そんなの関係ない。
「ふん。これが私たちよ。それに……アンタは私たちのことなんて何も知らないじゃないの! 知ったような口を効かないでしいわ」
「…………」
それ以降、彼は黙り込む。
だがその瞳だけは、より一層冷たいものになったのは理解できた。
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