「さて、行くとしよう」

晝食を食べ終わった俺は、さっそく街へと繰り出す。街の様子は至って普通に見えるものの、人通りのない路地の気配を探ってみると、なくない人數の気配がじ取れた。おそらくは、家を持たない人間がスラムのような組織を形して生活しているのだろうと推測される。

當然、そんな人間がいるということは治安が悪いということであり、ここでも大陸統一という弊害が出てしまっているようだ。

天下統一や世界征服などという言葉は存在するが、その大層な言葉の裏では治安の悪化や國としての実態など、狀況としてはあまり良くないのが現実だということだ。とどのつまり、國というのは一つにするよりも一定の領地を一定數の人間が治めた方が効率がいいということだ。

「あっ、すまない」

「いや、こちらも余所見をしていた。申し訳ない」

などと、考え事していると人とぶつかってしまった。ぶつかったのは、気品ある妙齢ので、なりや仕草からかなり分の高い人間であることが窺える。差し詰めどこぞの貴族の令嬢といったところか。

とにかく、ぶつかったのはこちらに非があるので、素直に謝罪の言葉を口にしておく。彼も特に気にした様子はなく、こちらの謝罪をけれてくれた。

「では、これで失禮する」

「待ってほしい。見たところ君はこの街の人間ではないのだろう？　よかったら、街を案しようか？」

さて、どうしたものだろう。相手が貴族に屬する人間だということは、口にする言葉がそのままの意味ではなくその裏に別の意味が込められていたりする。あるいは、俺が実力者だと見抜ける何かを持っていて、わざと聲を掛けてきた可能も捨てきれない。

彼の顔を見やると、微笑みを浮かべ心を読み取りにくい表を浮かべている。このまま斷ってもいいのだが、分の高い者からしか得ることができない報があるのもまた確かであるため、ここは彼の策に敢えて引っ掛かってみることにした。

「あなたがそうしたいというのであれば、お言葉に甘えるとしよう」

「そうか、なら付いてきてくれ」

そう言って、は俺のし前を歩きながら街のことを説明しながら案する。一見すると、特に怪しい點はなく、ここの店で売ってる食べが味しいだのこの広場は待ち合わせの場所として有名だのといったよくある説明だ。

だが、雰囲気的に何か俺に話したいことがあるようで、説明の中に遠慮気味なが見て取れた。一何を企んでいるのかと思っていると、突然ぽつりと彼は話し始める。

「君はこの街を見て何をじる？　思うことを話してほしい」

「そうだな。特に問題のないように見えるが、しばかり裏路地の住人が多い気がする」

「……やはり、気付いてしまうか。実はそのことで困っていてな」

彼が話し始めた容によると、俺が考えていた通り大陸統一という偉業を達したアルカディア皇國だが、國として大きくなりすぎてしまったことで、道中の盜賊の増加や都市にいるスラムの人數が飛躍的に増加したらしい。そして、それに伴い都市の外問わず犯罪率が急激に増えており、対応が追いつかないそうだ。

前世の世界でも、犯罪率が高い治安の悪い國は存在した。その原因として挙げられるのが、取り締まる警察の規模よりも犯罪者たちの規模の方が大きく、仮に取り締まったとしてもその取締りに対する報復行為が橫行してしまい、下手に取り締まれないといった現狀だ。

対策としては、人員を増やし取り締まる側の絶対數を増やすということだが、そのためには莫大な資金が必要となるため、現実的に実現が難しい課題となっていた。

「彼らに仕事を與えればいい。例えば、自分たちが住むことになる住居を彼ら自の手で作らせるとかな」

「なるほど」

「住居完後は、何かしらの事業を発表してそれに參加してもらうという形で再雇用をして一人でも多くの人間を労働者にする。もちろん、労働待遇が悪辣なものはご法度で、できるだけクリーンな雇用條件で雇うことが重要だな」

「ふむ」

「そして、そのための財源を捻出しなければならないが、増稅はせずこれもまた管理側が新たに何かの事業を発足し、運営する必要が出てくるといった合か」

「き、君は一何者なんだ？」

「ただの冒険者さ」

俺が詳しいことを話す気がないと悟った彼は、それ以上の追及はやめ當初の予定通り案を続けてくれた。彼の説明で大の建の場所がわかったので、結果的に彼がいてくれて助かった。

彼の案の道中も、街の外にいる盜賊たちの対処の方法やどのルートを重點的に警らさせるかなどのアドバイスを行った。彼にとっては目から鱗だったらしく、俺の言葉にしきりになるほどと頷いていいた。

最後の建を案し終わったところで、彼の案が終了となるが、ここで初めて彼が自分の名前を明かした。

「私の名前はカリファ・フォン・アシュフォードだ」

「ローランドだ」

「……何か困ったことがあったら、城を訪れるといい」

「わかった。何かあればそうさせてもらう」

カリファの自己紹介に俺も名前だけ告げておき、彼とはそこで別れた。去り際に「さっそく、言われたことを実行せねば」と言っていたが、この街を治める人間と顔見知りなのだろうか。

厄介事の匂いがしてきたが、こちらとしてもいろいろと貴族しか知り得ないような報――機事項以外で――を得ることができたので、俺としては必要な接だったと納得することにした。その後何か起これば逃げるか対処することも視野にれつつ、気付けば夕方になっていので、俺は宿へと戻り、その日は夕食を食べて早めに休むことにした。