《【書籍化】勇者パーティで荷持ちだった戦闘力ゼロの商人 = 俺。ついに追放されたので、地道に商人したいと思います。》57 の世界①
あの襲撃の日から丸二日。
その間、ミトラは一度も箱から出てこなかった。
「姉さん、みんな心配してるよ。それに、お腹の子供のためにも何か食べないと……」
「……」
クラリスの聲かけにも、ミトラは全くの無反応だ。
一応、手がるくらいの空気のような隙間があるので、そこに手を突っ込んで中に食べの類を差しれておいたが……
食べているのかどうかはわからなかった。
常に眼帯をしたまま生活していたミトラにとって、箱の中に燈りがないことは全く問題にならないようだ。
これはもう、時間が解決するような問題ではないと思う。
おそらくは時間をかければかけるほど、ミトラの中ではその恐怖のイメージが大きくなっていってしまうことだろう。
結局はこれはミトラ自が乗り越えるしかないことなのだが……
それでも、夫としてはやれる限りのことはすべきだろう。
「ミトラ……。頼みがあるんだ」
「……」
「シュメリアが行方をくらませた」
「っ! ……なぜ?」
「その理由は、たぶんミトラが一番よくわかるだろう?」
「……」
「シュメリアは、俺たちに向けて手紙を置いていった」
「……」
「今ここには俺とクラリスしかいない。だから、そこから出てきて読んでしい」
「……」
パキパキという音を立て。
周囲を覆っていた木製の箱にり口が出來た。
そして、そこからミトラが出てきた。
二日ぶりに見るミトラはし痩せたように見えた。
箱の中に目をやると、一応最低限の食事はとってくれているようだった。
そして、俺から『シュメリアの手紙』をけ取ったミトラは、再び箱の中に戻った。
そこで眼帯を解き、扉から差し込むを頼りにして、それを読み始めた。
そのミトラの表が、徐々に悲しみに満ちていった。
その手紙には、もちろん俺も目を通している。
それは、俺とミトラを宛先として書かれたものだった。
容については、ただただ後悔と謝罪をひたすらに書き連ねたものだ。
『噓をついてごめんなさい』
『騙していてごめんなさい』
『黙っていてごめんなさい』
そんな謝罪が延々と書き連ねられた後。
『ああすればよかったかもしれない』
『こうすればよかったかもしれない』
そんな後悔の言葉がひたすらに書き連ねられているのだった。
そして、最後に……
今もリルコット治療院に院している母のこと。
それとミトラの子供に會えないことが心殘りだと書いて……
上から消した跡があった。
「……」
ミトラは、その場にうずくまって泣き始めてしまった。
そんなミトラを、クラリスが無言でめた。
「外に馬車を用意してある」
「……?」
「一緒に、シュメリアを探してくれないか? ミトラの『生命探知』なら、目で探すよりも効率がいいかもしれない」
「しかし、あのスキルは人通りの多い場所では……」
「探したくないのなら……、ずっとここでこうしていたいのなら……、それでもいい」
それは、やはりミトラ次第だろう。
「……」
シュメリアの行方については、実はすでにアマランシア達が摑んでいた。
『生命の泉』の力で甦ったとはいえ、その薬にどんな副作用があるのかはわからない。
何かあればすぐにでも保護できるようにと、すでに萬全の制を整えていた。
だが、そちらはそちらでシュメリア自に戻る気がない限り、結局は同じことの繰り返しとなるだろう。
ミトラはしばらく悩んだ後で「行きます」と答えた。
→→→→→
眼帯をしたミトラが、馬車に揺られている。
外からは見えないのだから、眼帯を取ってもいいはずなのだが……
馬車の中でのミトラは頑なにその眼帯を解かなかった。
それは、今日に始まったことではなくずっと以前からだ。
自室以外の場所でその瞳を曬すというのは、ミトラにとっては非常にリスクの高いことなのだろう。
「どうだ?」
「……見つかりません」
そんな會話を繰り返しながら、俺はミトラに対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
今、この馬車は西門の外へと向かっている。
そちら側に、シュメリアはいない。
現在シュメリアは南部地區の方に移していた。
裏通りを通りながら、休み休みでゆっくりと歩みを進めている。
尾行しているシンリィやフウリ達によると、おそらくは南門を目指しているだろうとのことだった。
たぶんシュメリアは、そのまま故郷であるサウスミリアに向かうつもりなのだろう。
その足取りが遅々として進まないのは、きっと名殘惜しいからだろう。
「アルバス様?」
「……なんだ?」
「こちら側は、どんどん人気(ひとけ)がなくなっていきます」
「そうだろうな」
「あとまばらですが、覚えのある気配がいくつかあります。この方向は……西の門外地區ですね?」
「ああ」
「シュメリアが……そこに?」
「すまないミトラ。シュメリアはそこにはいない」
「では、この馬車はどこに向かっているのですか?」
ミトラの聲には、若干の怒気が含まれていた。
騙して連れ出したのだから、まぁ當然だろう。
これのけ答えを間違えると、なかなかにまずいことになりそうだった。
「門外地區のさらに西側にある『スザン丘陵』だ。シュメリアの行方については、実はすでにアマランシア達が摑んでいる。だが、シュメリアと會う前に……ミトラには見せておきたいものがあるんだ」
「……」
「しだけ、付き合ってくれないか?」
「……」
眼帯のせいで瞳は見えないが、きっと見たこともないほどに俺を蔑むような目をしているのだろう。
シュメリアをダシにして、騙して連れ出すなんて……
最低のやり口だ。
「……それは、いったい何のためですか?」
「ミトラとシュメリアと……俺と、俺達の子供のためだ」
「……」
しばらく俯いた後で、ミトラが小さく頷いた。
「アルバス様の……。私(わたくし)の夫の言葉を信じます」
→→→→→
そうして馬車はやがて、スザン丘陵の頂上付近で止まった。
時刻は晝過ぎだ。
白い牙の面々に協力を仰ぎ、周囲はだいぶ前から人払いをしている。
「……ここが、スザン丘陵ですか?」
「そうだ。ミトラは初めてくるよな」
「私(わたくし)は、キルケットから出たことがありませんから……」
手を貸して、ミトラを馬車から下ろす。
「ミトラ、眼帯を取ってみろ」
「っ!」
「近くにいるのは、クラリスとアマランシアだけだ。ミトラにならそれもわかるだろう?」
「……」
ミトラはやはり戸っていた。
いつかのように、しずつ呼吸が早まっていた。
「これが、本當にシュメリアや子供のためだというのですか?」
「それは、ミトラ次第だ」
「本當に……酷いことをおっしゃいますのね」
そう言って、ミトラ自らその眼帯を解いた。
そして、目の前の景に息を呑んだ。
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