ここでし時間をさかのぼろうか。

玉座の裏にあった隠し階段の先、『天空都市』の底でボクとエッ君はあっという間に小さくなっていく出ポッドを見送っていた。

「うわあ……。あの速度って結構な恐怖験じゃないかしら……」

彼方に薄っすらと『神々の塔』らしきものが見えるくらいアンクゥワー大陸から離れていたようだから、當然と言えば當然の出速度なのだろうが、乗っている方とすればたまったものではないような気がするよ。

それこそＳＦ作品に出てくるような重力キャンセルもしくは重力コントロールといった機能がなければぺちゃんこになってしまうのではないだろうか。

「い、今さらながらにミルファとネイトのことが心配になってきた……」

ちなみに、うちの子たちはさっさと『ファーム』に逃げ込んでいるだろうからその點の不安はないです。そういう意味でもチート級のアイテムだよねえ。

手を放してしまった以上彼たちに対してボクができることはもうない。強いて挙げるなら無事を祈るくらいなものかな。

それならできることを、(な)すべきことをすとしよう。

「さて、それじゃあ謁見の間に戻るとしますか」

言うや否や階段に向かって駆けだしたエッ君の後を追う。そこにまで突き抜けていただけあって謁見の間への道のりは結構長いからね。もたもたしてはいられない。

カウントダウンも既に九百秒を大きく下回り八百秒に迫ろうとしていた。二段飛ばしの要領でひたすらダッシュで駆け上がっていく。いやはや、階段の段を飛ばすだなんて小學校の時以來だよ。リアルでやろうとすれば二階分ほど、五十段程度で息が上がってしまうと思う。力的な疲労をじないゲームだからこそできる蕓當だよねえ。

単純な作の繰り返しだから、ついついどうでもいいことを考えてしまうなあ。どんな狀況であっても対処できるように脳で々とシミュレーションをしておくべきなのだろうけれど、里っちゃんならばともかくボクにそこまで複雑なことを思考できるほどの余裕はない。

ゲームの運アシストが機能しているとはいえ、これだけ激しい作となると一定以上の意識を割いておかないと危険だ。

余談だけれど、あの天才従姉妹様はリアルでも並列思考の真似事のようなことができたりするので、ゲームであれば激しい運中でも別なことを考えるくらいのことはできてしまうと思う。

多分そこまで追い詰められる機會がなかっただけで、本気になればそれこそ長刀で斬りつけながら魔法を使用する、なんてことも可能ではないかしら。もしかすると切り札にするために々だけのにしているのかもしれない。

とかなんとかやっている間にもはき続けていて、ゴールは目前になっていた。まあ、その分タイムリミットも近付いていたのだけれど。殘り七百秒強とか階段長過ぎ問題！

「エッ君、到著したらまずは敵がいないかの確認をお願いね。安全を第一にいて。王冠の確保はその次でいいから」

すぐにでもキーアイテムを手したくなるけれど、そういう時ほど無防備になってしまうものだからね。餌にするならこれ以上ない適役だ。仮に罠が張られているとすればここしかないだろう。

後は王冠そのものに神作や簒奪(さんだつ)といったヤベー仕込みがされているか。こちらは運が良ければ〔鑑定〕技能で見抜くことができるかもしれないが、どう足搔(あが)いたところで主砲発を阻止するためには王冠を使用するしかない訳で……。

ボク並びにリュカリュカとしての神力に期待、といったところかな。

謁見の間へと飛び出し、玉座の背に隠れるようにしてまずは部屋の奧側を確認する。人影を始め怪しい存在はない。そのまま視線を上へと向けるも、そこにあったのは豪華なシャンデリアのみだった。どうやら『神々の塔』に巣くっていたスライムのように、天井からの強襲を心配する必要はなさそうだ。

その間にもエッ君がり口側の確認を終わらせてくれていた。悪霊との戦闘中にボクが聞いたうめき聲のようなものは聞こえなくなっていたようで、どうやら順調に式が切れた効果はでているみたい。

妨害の心配はなさそうだと判斷して玉座の全面側へと回り込む。件の王冠はというと、最後に見た時と同じく床に転がったままだった。

おっと、れる前にまずは〔鑑定〕だ。ふむふむ。登録を行うことで統括者として重要項目にアクセスできるようになるのか。外見的に豪華なだけのただの？冠にしか見えないのだけれどねえ。まあ、ＶＲのヘッドギアみたいなものだと思えば理解できなくはないかな。

ちなみに、王の筋でなければ扱えないといった制限もないようだ。セキュリティが甘過ぎな気もするが、『空の玉座』に付隨する『古代魔法文明期』のだとすれば、『大陸統一國家』の人たちですら手も足も出せなかったのかもしれないね。

「神作とか怪しげなトラップが仕込まれている形跡もなさそうね……」

実は初代王様の意識が宿っていて、王冠を被った瞬間が乗っ取られる、なんてことはなさそうだ。もっとも、高度な技によって隠ぺいされていたとすればその限りではないのだけれど。

「カウントダウンがなければ納得できるまで徹底的に調べてやれるのに……」

真実にたどり著けるか、ではないところがミソです。あくまでもボクの気分の問題だったりする。その一連の様子から躊躇(ちゅうちょ)していることがじ取れてしまったのか、エッ君がつぶらな瞳……、はないけれど心配そうにこちらを見ていた。

あちゃあ……。テイムモンスターを不安にさせてしまうだなんてマスター失格だよね。

「……よし！」

気持ちを切り替えて王冠を拾い上げると、意を決してカポッと被る。刻一刻とタイムリミットが近づいてきている中で、最初から選択肢など他にはありはしなかったのだ。

「あれ？」

何も起こらないぞ？と思った瞬間、ボクの視界は急変していた。真っ暗で広大な空間。壁や天井はおろか、床すらも存在しているのかすら怪しい。ボク自も立っているのか座っているのか、はたまた寢転んでいるのかよく分からないという。

そんなおかしな狀態のはずなのに、ボクはなぜか懐かしさのようなものをじていた。

「いや、ちょっと待ってよ。こんな空間を懐かしいと思うような験はしていないと思うんですけど！？」

まさか宇宙人にアブダクションされて記憶を消されているとか！？

……きゃーーーーー！？！？