《僕の姉的存在の馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜》

まさか家に帰るまでこのままの格好だなんて思いもしなかった。

ただでさえ、こんなゴスロリ風の黒を基調としたステージ裝はヒラヒラしててきづらいのに……。

「はやく行こう、楓」

「うん」

僕のことをわざとそう呼んで、まわりの人たちに『の子』だという認識を持たせたいのだろう。

香奈姉ちゃんは、僕の手を握り、普通に歩くくらいの速度で街の中を歩いていく。

やっぱりこんな服裝で歩くには、とても違和がある。

「あたしたち、完全に見られてるよね?」

奈緒さんが、まずその想をらす。

次に言い出したのは、沙先輩だった。

「なんか、まわりの人の視線が痛いかも……」

「いくらなんでも無理があると思うよ」

理恵先輩も、恥ずかしいのか沙先輩にくっついて一緒に歩いている。

とりあえず、途中にある公園まで我慢だ。

「仕方ないじゃない。著替える場所がなかったんだから……」

香奈姉ちゃんは、わざとらしくそう言った。

それは絶対に噓だ。

僕が人前に出ても張しないようにするために、そうしたんだろう。

巡回中の警察がいないことが、まだ救いだが……。

どちらにしても、はやく公園に向かった方がいいんだろうな。この場合──

「とりあえず公園に向かった方がいいかもね。そこでなら、著替えもできるかも──」

僕は、そう提案してみる。

香奈姉ちゃんがそれを許してくれるかどうかわからないが……。

香奈姉ちゃん自、訝しげな表で僕を睨んでくる。

「ダメだよ、弟くん。せっかくその服裝で歩いているんだから、楽しまなくちゃ」

やっぱり、そう言ってくるとは思っていた。

それだけなら、よかったんだけど……。

「そうそう。いくら裝するのが嫌だからって、公園に行くのは、ちょっと許せないかな」

「せっかく似合っているのに、いじゃうの? わたしとしては、次の裝の參考にしたいから、そのままでいてほしいな……」

なんと理恵先輩もそう言っていた。

似合っているって言われても、あんまり嬉しくはない。

でも、先輩たちにそう言われてしまったら、そうせざるを得ないわけで……。

「わかったよ。でも派手なことは控えてくださいね。僕にも、無理なことがありますから」

「うん。気をつけるね」

「わかってるって。そこは、私たちがちゃんとエスコートしてあげるから、安心していいよ」

沙先輩は、そう言って僕の手を握ってくる。

しかし、それを許さないのが香奈姉ちゃんだ。

「こら! ちゃっかり抜け駆けするのはダメだよ! そんなことをするなら、私だって──」

「香奈の場合は、いつも楓君を獨占してるんだし。このくらいは、いいんじゃない?」

「むぅ……。奈緒ちゃんだって……。私の見てないところで、スキンシップを図ったりしてるじゃない」

香奈姉ちゃんは、ムッとした表で言う。

奈緒さんは、ちょっとだけ驚いたような表を見せてから、香奈姉ちゃんから視線を逸らす。

「それは、まぁ……。あたしだって、一応ね」

「奈緒ちゃんの気持ちは、なんとなくわかるなぁ。私だって、楓君と2人っきりなら、ついついんなことをやってしまいそうだし」

あろうことか沙先輩は、そう言っていた。

さりげなくアプローチをしてきていたから、なんとなくはわかる。

たぶん、理恵先輩もそうなんだろうな。

「わたしも、沙ちゃんや奈緒ちゃんには負けないよ」

やはりというべきか理恵先輩は、僕のもう片方の手を握ってくる。

まさに両手に花の狀態だけど、嬉しくないのは、きっと香奈姉ちゃんと奈緒さんが原因だろう。

さて。どうしたものかな。

そう悩んでいると、香奈姉ちゃんはいかにも不満そうな顔で言ってくる。

「弟くんは、なんで喜んでいるのかな?」

「いや……。喜んでは……」

「ふ~ん。そのわりには、やけに顔が赤いけど……。それは、気のせいなのかな?」

「それは、まぁ……。いきなりれられたら、誰でもそうなるっていうか……」

僕は、なんて言えばいいのかわからず、完全にしどろもどろになってしまう。

香奈姉ちゃんのやきもち妬きが、こんなところでも発揮してしまうとは……。

これじゃ、なにを言っても言い訳にしかならないじゃないか。

「なるほどねぇ。弟くんは、そうされたら嬉しい、と」

香奈姉ちゃんは、そう言いながらメモを取っていた。

メモ帳なんて、一どこから出したんだろうか。

「ちょっと、香奈姉ちゃん? なんでメモなんか取ってるの?」

「ん? なにかの參考になるかなって思って」

「なんの參考にもならないよ。頼むからやめて──」

やめてほしいって言うつもりだったが、沙先輩たちがそれを止めてくる。

しくらい、いいじゃない。楓君だって、まんざらでもないみたいだし」

「えっ……。でも……」

「こういうのは、素直じゃないとダメなんだからね」

そう言って、奈緒さんは僕のことを優しく抱きしめてきた。

どうやら彼たちにとっては、場所なんかは関係ないみたいだ。

「そこまで言われたら……。僕も、みんなのことが大切だと思うから」

「うん。弟くんなら、そう言ってくれると思っていたよ」

「楓君は、私たちの大事な『弟』なんだから。私たち以外のの子を好きになっちゃダメなんだからね!」

「それは、さすがに……。の自由くらいはあっても──」

「もしかして、他に好きな人がいたりするの?」

そんなことを訊いてくる香奈姉ちゃんは、なぜだか悲しげな表だった。

それって重要なことなのかな。

個人的なことなのに……。

だけど、いないっていう事実は変わらない。

「いないけど……」

「なら安心かな。私個人としては、弟くんのお世話をしたいから」

「ずる~い! 私だって同じだよ!」

沙先輩は、ムキになってそう言う。

ギュッと抱きついてくる沙先輩は、いつもよりかずいぶんと可らしい。

これには奈緒さんや理恵先輩も黙ってはいられなかったみたいだ。

「あたしだって沙と同じ気持ちなんだから……。楓君は、しっかりとついてこないとダメだからね」

「そうだよ。わたしたちにとっても、楓君は大事な『弟』なんだから。その辺をちゃんと理解してもらわないと」

「『弟』なんだ……。それなら普通にをしたって自由かと……」

「なにか言った?」

「いえ……。別に……」

そう訊いてくる香奈姉ちゃんが、さりげなく怖いな。

香奈姉ちゃんは、あくまでも笑顔だ。

その笑顔が本であるのかどうかは、僕には判斷がつかない。

ここは慎重になって香奈姉ちゃんたちを見守るしかないか。

僕は、そんなことを考えながら公園へと向かって歩いていた。

もちろん、みんなと一緒にだ。

いい加減、裝姿で歩かせるのはやめてほしい。

ただでさえ、まわりの人たちの視線が痛いのに──

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