《【書籍化】勇者パーティで荷持ちだった戦闘力ゼロの商人 = 俺。ついに追放されたので、地道に商人したいと思います。》60 【余談枠】黒の首領
城塞都市キルケットの南の地。
港街セントバールの、その外れにある打ち捨てられた廃屋にて。
1人のが窓から差し込む朝日に青く輝く石をかし、うっとりとした目でそれを眺めていた。
その廃屋の裝は、外見からは想像もつかないほどに片付き、豪華に彩られていた。
そんなの後ろのベッドで、一人の魚人がじろぎをした。
「シュトゥルク、はどうだ?」
「指先がまだ思うようにかないが、覚は徐々に戻ってきている」
「その手、一時は完全に焼失してたんだよ。數日で自己再生した挙句に元通りくようになんてなられたら、この世に白魔師という職業は不要になるな」
「魚人の特だ。だから魚人族にはそんな仕事をする者はいない」
どうせわかってて言っているのだろう?
と、シュトゥルクは投げやりに答えていた。
あの戦いから數日が経ち、シュトゥルク達の生活には一時的な平穏が戻ってきていた。
今、シャリアートと子供達はこの先の海岸で遊んでいる。
「羨ましい限りだ」
首領は、本當に羨ましそうにそう口にしていた。
たぶん、本當にそう思っているのだろう。
今の、この瞬間に限っては……
「それで……、結局お前のみのものは手にったのか?」
「いいや、それはまだ(・・)手にれられていない」
「あれだけの仕掛けをして、結局は果無しか?」
あれだけの仕掛け……。
黒い翼の首領は、シュトゥルクとシャリアートを、アルバス陣営との戦いに臨むようにけしかけて、それぞれに死闘を繰り広げさせた。
そのほかの黒い翼の構員達も、街の外でエルフ達との死闘に臨んでいたという話だ。
その戦いは非常に激しく、一歩間違えればシュトゥルクもシャリアートもアルバス達に敗れ、子供達は親を失って頭に迷うことになっていただろう。
そもそもその子供達を助け出すためにしたことなのだが。
もしかしたら、それすらも……
シャリアートはこの首領に心酔しているようだが、シュトゥルクはどうしても彼に心を許す気にはなれなかった。
「果ならあったさ」
「ほう?」
目を細めたシュトゥルクの前で、が「倉庫取出(デロス)」と唱え、二つ目の(・・・・)青い石を取り出した。
「アルバスからは、ちゃんとそれなりのものを手にれている」
黒い翼の首領。
その、表の世界に知れ渡る名を『シャルシャーナ』という。
皇國一の大商人シャルシャーナ。
第七皇シャルシャーナ。
そして……
盜賊団『黒い翼』首領のシャルシャーナ。
そのは、自らのしいを手にれるため、金(マナ)や権力、そして暴力といったありとあらゆる手段を使いこなすことができるのだった。
そして今回アルバス達に降りかかった一連の事件は、全てこのの手のひらの上で行われたことだった。
盜賊としてシュトゥルク達から子供達を攫(さら)い、大商人シャルシャーナとしてクドドリン卿に売り払った。
そして隣に控えていたルージュの『忘卻の魔眼』により、クドドリン卿の記憶を作した上で、クドドリン卿がアルバス達と遭遇するように仕向けたのだ。
次に、シャルシャーナは、盜賊の首領としてシュトゥルクに奴隷闘技場に拳闘奴隷として潛り込むことを提案し、再び大商人としてクドドリン卿にそれを売り渡したのだった。
そして……
クラリスがその事を知るように仕向けることで、アルバスを護衛と共に闘技場へとい出した。
もし、シャルシャーナにけしかけられて闘技場に降りたクラリスが、その場でシュトゥルクに殺されていれば……
シャルシャーナの計畫は、そこで完するはずだった。
だが、そうはならなかったために、シャルシャーナはさらに次の手に出たのだ。
シュトゥルクを獄させ、さらにはクドドリン卿を使って闘技場を混狀態に陥らせたのは、もちろん全てシャルシャーナの策略だ。
大商人シャルシャーナとして、事前にクドドリン卿に売り渡していた『烈魂の盃』と呼ばれるアイテム。
そこに込められていた『亡骸作(ネクロズム)』のスキルと同様の効果を持つスキルをクドドリン卿に使用させ、亡骸魔獣達を闘技場で暴れ回らせた。
當初の計畫では、魔獣達は街中で暴れ回る予定だったのだが……
西部地區自警団の初があまりにも早かったためそれは斷念する形となっていた。
そして最後は黒い翼の首領としてアルバス達との直接対決に挑んでアルバスに近しい者を殺害した後、大商人シャルシャーナとして『生命の泉』を用いた商談に臨んだのだった。
そして、その結果……
「だが……、元々の目的は、それ(・・)ではなかったのだろう?」
シュトゥルクの言葉をけて、シャルシャーナがニヤリと笑った。
「でもさ、やっぱり気になるじゃん。アルバスのあの時の態度からして、絶対に何かがあるとは思っていた。アルバスが二つ目の含魔石を持っているという可能だって、全く考えていなかったわけじゃない。ただ、本當にそんなことがありうるのか? って考えたらもう、それを確かめずにはいられなかった。あの時の私は、アルバスが何を隠しているのかを確かめずにはいられなかったんだ」
「移ろ気なことだ」
「それがわたくし達の首領ですわ」
「それが私達の首領よ」
近くに控えていたアルミラとルージュが、ほとんど同時にそう答えた。
シュトゥルクは、肩をすくめてから再び黙り込んだ。
→→→→→
「ところでアルミラ。私、最近働きすぎだと思わない?」
シュトゥルクが小屋の外に出かけて子供達と戯れ始めた後、シャルシャーナはアルミラにそんな軽口を叩いていた。
「首領は、好きでこれをやっているのですわよね?」
「まぁね。だけど、やっぱり私、盜賊稼業はあまり向いてないかもしれないな」
天を仰ぎながら、心底疲れたような様子でシャルシャーナがそんなことを言った。
「どの口がそれを言いますの? もうすぐでまたキルケットのオークションですわ。盜賊団としては、ここ一番の稼ぎ時ですわよ?」
「うん。でも、やっぱり私は商人だ。アルバスとの商談で改めて思い出させてもらった」
「まさか……」
「ああ、みんなしばらく休んでな。私は……、今年のオークションは『表の顔』で出るつもりだ」
「……いいんですの?」
アルミラが、し真剣なトーンになった。
「なにがだ?」
「アルバスのことですわ。彼を放っておくのは、かなり危険ではないですの?」
「問題ないだろう。アルミラは隨分と奴のことを買っているみたいだけど……。現狀、奴に何ができると思う?」
「……」
「たぶん、アルバスには私の正はすでにバレているだろう。『生命の泉』の代償として、私が『奴自』を求めた時。奴はおそらく私の本當に(・・・)しい(・・・)もの(・・)に勘付いていた」
「『無盡(オメガ・ゼロ)』ですわね」
「ああ。『大商人シャルシャーナ』は、アルバスがそれを持っていることを知らないはずだ。だが、『黒い翼の関係者』は、アルミラを通じてそれを知っている。故になくとも、『大商人シャルシャーナ』が黒い翼と繋がっていることは勘付かれただろう」
そして……
シャルシャーナは「いや、違うな」と小さく呟いてから話を続けた。
「アルバスは、私が黒い翼の首領だと勘付いている。理由なんかわからないけど、そんな気がする。……いや、絶対に気づいている」
「アルバスのことを買っているのは、わたくしよりも首領の方ではありませんの?」
「ふふふ、そうかもね」
「まぁでも、それを知ったところでアルバスにはどうすることもできない。ということですわね」
「ああそうだ。一介の銀等級商人(アルバス)が、皇シャルシャーナ(この私)に対し、確たる証拠もなしに『貴様は盜賊団と通じている』などと言えるはずがない。そんなことを言えば、斷罪されるのは奴の方だろう」
「そう簡単に……」
「わかるよ、アルミラ。私だって、アルバスがそう簡単には済む相手じゃないことはわかってる。だから私は、この後あいつがどう出てくるか、本當に楽しみで仕方がないんだ」
「……」
「なぁ、アルミラ。あいつ、この後どんな手を使って私を追い込もうとしてくると思う? それ、すごい楽しみじゃない? ふふっ、ふふふ……」
「……」
こうなってしまった首領は、もう誰にも止めれない。
自らの興味の赴くままに、部下達の迷など全く顧みず、好き勝手な方向へと進み続ける。
アルミラは、小さくため息をついてから、大きく頷いた。
「首領の、仰せのままに」
彼らの世界は、シャルシャーナを中心にして回っていた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
『第9章 エルフと魚人族編』はこれにて完結となります。
『法令制定編』の前編という扱いで、後編に向けてアルバスが『奴隷止法』を作りたいと思うに至る機づけをしっかりと掘り下げるための章という方向でした。
が……、またまた気づいたらとんでもなく長い話になってしまっておりました。
9章の第一話を投稿した時點では、40話前後で完結する予定だったんですが……
魚人族陣営視點の話を追加したり、
ミトラとシュメリアの絡みを追加したり、
ラストバトルを大改変して『バージェスVSシュトゥルク』と、『アルバス陣営VS首領陣営』に分けた挙句、
『アルバスVSシャルシャーナ』の商談まで加えてしまったらもう……
當然の如くこんなに長くなってしまいました。
でもまぁ、當初予定していたものよりも斷然ラストが盛り上がったかとは思うので、良しとすることにします。
次章は……
アルバスがジルベルトをはじめとするキルケット貴族と絡み、シャルシャーナの妨害をけながらも法令制定のための的な行を起こしていく話。になる予定なんですが……
とは言えこの9章。8章のラストの後書きで言っていた9章の構想からは、相當かけ離れてますからね。
正直言って、書き始めてみないとなんとも言えないです。
いつも通り書き溜めてからまた始めたいと思うので間は開く予定です。
もしお時間がございましたら、またまたお付き合いいただけますと幸いです。
『書籍版』の方も、どうぞよろしくお願いいたします。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
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