『第八世界Ｃ地區方面視察用居城、俗稱『空の玉座』の統括者新規登録を始めます』

どこからともなく響いてくる聲にホッと一安心。どうやらここはＶＲ機の設定畫面のような場所らしい。良かった。宇宙からの侵略者に拐された訳でも、謎の組織によってお嫁にいけないに改造された訳でもなさそうです。

良かった。田舎育ちだから蟲への忌避は薄いけれど、逆に大好きでもないのでそれらをモチーフにした怪人にされるのは正直困ってしまう。特にの場合はせくしー路線の場合が多いからねえ。

そういえば『ＯＡＷ』では先日、勇者様シナリオの亜種として魔族の人実験によって生まれたダークヒーローを選択できるようになったらしいですよ。さらに似通った境遇のＮＰＣも登場して、パートナーや攻略対象になっているのだとか。『戦いを通して育まれていくと友、そして葛藤！』がキャッチフレーズなのだそうだ。

えー……、うん。ご新規さんの開拓は大事だよね。

さて、ボクの方に話を戻しますと。現実世界――ゲームの中だけど――から切り離された、いわゆる神世界だとか意識下の場所に該當するらしい。

その証拠にこれだけあれこれと思考を巡らせていたにもかかわらず、視界の隅に表示されたカウントダウンの數字は止まったままだった。

『王冠端末所持者のスキャンを開始します。……前任者との縁関係なし。記録の殘されている二十代前までさかのぼりましたが、そのいずれとも縁関係を見出すことはできませんでした。以上のことから以上のことから現所持者を完全な新規登録者と判斷します』

ふみゅ。本人も知らなかった亡國のお姫様設定などは存在していなかったようだね。まあ、キャラクターメイキングの時に設定しなかったのだから當然なのだけれど。

このの裏設定だけど、語の主人公が増すということで結構評判がいいそうだ。判明してもプラスにしかならないタイプのものがお勧めらしいです。王族や高位貴族の庶子というのが定番だね。ものによっては特定のランダムイベントがクリアしやすくなる効果もあるとかないとか。

まあ、ボクはあまり興味が引かれなかったのでスルーしたのだけれど。なぜかアウラロウラさんには「ブラックドラゴン相手に頭脳戦で勝ってしまうような人には不要でしょうね……」と遠い目をされてしまった。

『新規統括者として個名リュカリュカ・ミミルの登録を開始します』

「んん！？どうしてボクの名前を知っているの！？」

『先ほどスキャンした際に登録に必要な報はすべて取得済みです』

なるほど。縁関係を即座に照合できるくらいだから、それくらいはできて當然か。プライバシーの侵害だとか個人報の保護なんてことは、こちらの世界では「なにそれ味しいの？」狀態なので言うだけ無駄です。

それよりも、王族とのの繋がりがないことを理由に弾かれなかったので一安心といったところだわ。逆に言うと王族でなくとも統括者になれるということで……。この辺りの事にも反が止まらなかった一因になっていそう。

中にはかに統括者の座を狙っていたヤバい人もいたような気がする……。

そんなやからを差し置いてリュカリュカちゃんが、しかも棚ぼたというか諸般の事により仕方なくその座についてしまっているのだから皮な話だよねえ。もっとも、やることをやったらすぐに返上するつもりだけれどね。

こんな厄介で面倒そうな肩書きなんて、持っているだけでトラブルを呼び込んでしまいそうだもの。

『リュカリュカ・ミミルの登録を完了しました。これより統括者の意識を現実に帰還いたします』

「ちょおっと待ったあ！その前に『空の玉座』のこととか統括者の権限のこととかを教えて！」

『了解しました』

こちらはほとんど何も知らない狀態なのだ。このまま放り出されても困る。

それに名前的にはトップのようでも実はそれほどの力はなかった、という展開がないとも限らない。ここは偵察好きで報通なキャラのように要チェックが必要な場面だ。

と、ここまでも噓ではないのだけれど、本當の狙いは別にあったりします。せっかく現実の時間が停止しているという便利空間に居るのだから、その利點を最大限に活用しないとね！

できることなら作戦の細部に至るまで計畫を立て盡くしておいて、現実に戻って以降は行するだけの狀態にしてしまいたいところだ。

『まず、この『空の玉座』について概要をご説明したします。當館は今から遡ること三お……、エラー発生。正確な時間を測ることができませんでした。以降は太古と稱します。太古の時代に市は幾分第八世界Ｃ地區の視察と管理を目的として建造されたものであり……』

人工知能だろうと思われる存在の説明を聞き流しつつ、質問事項や場合によっては命令する容を考えていく。

重要そうな話をしている？まあ、ワールドクエスト『天空の島へ至る道』の最終盤だからね。この機を逃せば完全なお蔵りになるかもしれないし、表に裏に々な設定や報を開示しているのでしょう。

「統括者の権限はどれくらい？基礎的で本的なシステムにも介できる？それともこれを滯りなく管理運用するためだけのものなの？」

『お答えします。ブラックボックス化された當施設が存続するための基盤項目を除き、すべてに介する権限を持ちます。ただし、理由もなく損壊の恐れのある危険な命令は拒否されることもあります』

いきなり「自しろ！」とかいった命令が通るようでは危なすぎるものね。妥當と言えば妥當かな。安直にぶっ壊してお終いとはいかないようだ。殘念。

主砲での砲撃に関しては、魔力が減して『天空都市』の形を維持できなくなった際に連する形になっているから、危険な命令とは判斷されていないというところだろうか。もしかすると『空の玉座』そのものには害がないと判斷されて放置されているのかも。

いずれにせよ、システムの隙間をつくような姑息(こそく)ではあるけれど巧妙(こうみょう)な手口だわね。

そして、統括者になったことでその命令にも介できそうだと分かったのは収穫だね。

どこを狙っているのかは知らないけれど、今そこに住んでいる人たちは當時とは何の関わり合いもない――と思われます――のだ。そんな人たちを巻き込むようなことをさせる訳にはいかない。