《愚者のフライングダンジョン》117 モルモット
今回は短いです。クライマックスに向けて慎重に書き進めております。文量のみならず更新頻度も減る見込みですが、必ず完結させますので、辛抱強くお待ちください。
クソムカつくぜ。
ウヅキさんの話をしようと思ったのに、ムツキの話題にすり替えられ、優先順位を狂わされちまった。今日も地獄のパーティに出席しなきゃなんないってのに、厄介事が次々と。本當に嫌になる。
ムツキを取り返すために、今すぐ韓國へ向かいたい。だが、その前にやることがある。
目を覚ました4人の監視員に問う。
「なあ、聞いただろう? 助けを求めたっちゅうのに、ヤヨイさんは聲ひとつ変えんかった。それでもまだ肩を持つのか?」
返事はない。こいつらの力は會話できるほど回復していない。傷を癒して元のに戻してやったってのに疲労困憊ってじ。ちょっとやりすぎちゃったかもです。
返事はないが、表から読み取れることもある。彼たちは皆、恐怖を孕んだ目で床を見た。誰も目を合わせようとしない。
「こんなところで時間を使ってる場合じゃねんだわ。でも、俺の敵を放っておくわけにゃあいかねぇもんな。さて、どうしたもんか。殺人は最後の手段にしたいんだが」
すると、ブロンド髪のがこちらを見た。濁りのない青い瞳に、隠し切れない恨みが込もっている。こいつはドーのマスクを被っていた奴だ。検察が寄越した監視員で、名前は確か、土屋(つちや)リリー。イギリスと日本のハーフだ。
「悪魔」
恨み言が出た。死にたくなければ命乞いしろ。
「へぇ、俺は悪魔か。バーをガス室にしたおめぇらに言われたら認めるしかねーな。悪魔同士仲良くしようぜ」
被害者ヅラしていたどもが青ざめた。
「どうして毒ガスのことを知ってるんだ、ってツラだな。萬が一のことを考えて、忠実な部下を潛り込ませておいたのさ。おめぇらの悪事は全てまるっと保存してある」
またリリーと目が合った。他の奴よりも肝が座っている。この中のリーダーと見ていいだろう。こいつをシメれば他も屈服するはずだ。
話がつくまで居座る意思を伝えるために、空気椅子に腰を下ろす。そして、念力でリリーの首を摑んだ。
「うぐぐっ」
を掻きむしるような仕草で、もがき苦しむリリー。
それを黙って見ていられなかったらしく、どもは抗議の聲を上げた。
「こんなことして許されると思うなよ!」
「リリーさんを放してください!」
「わたしは作戦に反対しました!」
一人だけ助かろうとしている奴がいる。しかし、反省のは見えず、その場しのぎの言葉に聞こえた。無視だ。
リリーの力が弱まってきた。暴れないよう、彼の両手両足を念力で縛り、俺の膝に乗せた。
もはや弱ったリリーの目に恨みはない。親貓に捨てられた子貓のような綺麗な目で見つめ返してきた。
「しい。まるで水晶のように澄んだ瞳だ。そうだ。その目が正しい。なにも企むんじゃない。噓偽りなく正直に答えろ。命が惜しいか?」
「や、嫌だ」
「嫌だじゃわからん。はっきり答えろ。俺のもとで生きるか、去って死ぬか」
リリーはおやつを引っ込められた子貓のようにキョトンとした。俺の言葉の意味がわからないみたいだ。
「おめぇらは使い捨ての駒なんだよ。連絡係の役目を終えたら始末することになっとる」
どもはそこまで驚いていない。俺の話を疑っている。
「ここに來た時にマイクロチップを埋め込んだやろ。あれには料金の支払いや位置報の記録だけじゃなく、使用者の命を奪う機能もついとる」
チップは取り出し困難な首元に挿されている。リリーの首にを當てると、チップの影を見つけた。
「証拠を見せてやる」
リリーの首のを割いて、指を突っ込み、中のチップを抉り出す。首から大量のが噴き出した。量は多いが、死ぬほどじゃない。それなのに、どもは涙を流して震え上がり、キャーキャーとうるさい悲鳴をあげた。
「黙れ」
カゴからモルモットを取り出す。泣き続けるどもは、憎たらしい目でモルモットを見た。悲しんだり、怒ったり、怖がったり、憎んだり、忙しい奴らだな本當に。
「見てろ」
モルモットにチップを挿する。
亜空間からスマホを出し、畫面を開くと、ヤヨイさんからの通知がイタ電のごとく続いていた。無視してチップ専用のアプリを開く。信號を送って殺人スイッチを作した。
「キューッ! キューッ!」
モルモットは短い悲鳴を上げたあと、力を失って倒れた。
「仕組みはわからんが、このチップ一つでゾウも殺せる。解雇したらスイッチを押していい決まりだ。ちなみに、おめぇらは全員解雇済み。それと、ボタンを持ってるのは俺だけじゃない。そこんとこ頭にれとけ」
かなくなったモルモットに、どもは釘付けだった。
「憐れむな。敬意を払え。彼は死を持って教えてくれた。これがおめぇらの結末だ」
ピロピロピロピロピロ〜♪
トゥルル〜トゥルル〜♪
テンテンテンテンテン〜♪
チャララ〜チャララ〜♪
どものスマホが一斉に鳴り出した。
モルモットが死んだ直後の不気味な著信に、どもは怯えている。
「こっちは急いでんだ。さっさと出ろ」
俺の一聲で電話に出る勇気が湧いたらしい。どもは震える指で畫面にれた。
『土屋リリーの反応が消えた。何があったか説明を求む』
監視員たちはそれぞれ別の屬を持つ組織から派遣されたはずだが、どの電話も同じ容だった。典型的なマニュアル対応。監視員の扱いなんてこんなもんだ。
「寄越せ。代わりに俺が答えてやる」
念力で全員分のスマホをぶんだくり、マイクを俺の側に向ける。
「監視員は全員解雇した。舵木(かじき)レナ、三鑰(みかぎ)ミホ、苅木(かるき)サラも順次処分する。代わりにやってやるからおめぇらは手ぇ出すな」
どの組織も理由を聞きたがっていたが、ムツキを監視したがる変質者どもに真実を教える義理はない。全て無視して通話を切り、どものスマホを回収した。
スマホが盜られたことに、どもは絶の表を見せる。俺の膝にいるリリーもを無くした目で俺を見た。
「おめぇのチップを壊しちまった。悪いな。今新しいのに替えてやる」
モルモットの死骸からチップの殘骸を取り出し、元通りに修復する。そして、まみれのリリーの首にチップを挿れた。
「これで自由に選べるね。さあ、選べ。首のチップを取り出し、政府のブラックリストにるか。それとも……」
モルモットの傷を消し、黒紫喰いで葬った。
「それとも、こいつみたいに今日死ぬか。俺も鬼じゃねぇ。償う気持ちがあるのなら、ブラックリストりした後も面倒見てやる。俺の手足となって働くのなら、更なる自由を與えよう」
どもは口を固く結び、頭を抱えて悩んでいる。
唯一、頭を抱えられないリリーの顎を摑んで、無理矢理口を開かせた。
「無限に時間があると思うな。おめぇが直で答えろ」
「……どうして。……どうして、私たちだけ。悪いのは全部ヤヨイなのに。私たちはあいつの指示に従っただけなのに。どうしてあいつだけ。あいつだけ見逃すんですか」
「急いでんだよ。泣き言なんか聞く気はねぇ。さっさと答えろ。答えねぇと、俺が勝手に決めちまうぞ」
時間が経過するにつれ、ドス黒いがあふれる。それを抑えるための笑顔を見せたら、リリーが泡吹いて気絶した。
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