《異世界から日本に帰ってきたけど、やっぱりダンジョンにりたい! えっ、18歳未満は止だって? だったらひとまずは、魔法學院に通ってパーティーメンバーを育しようか》340 魔法學院対抗戦 3
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大會5日目、すべての參加者が集う第1訓練場では本日の開幕カード、1年生格闘部門の決勝戦が火蓋を切って落とされる。
「試合開始ぃぃ」
開始線上から徐々に距離を詰め始める學と孫忠。試合開始前互いに名乗りを上げた両者ではあるが、その立場の違いが雙方の試合に臨む態度に相違をもたらしているのは明らか。
學は闘武館の門下生とは名乗ったものの、この大會の場に自らの道場の名譽が懸かっているといった意識はテンで持ち合せていない。むしろ未だに門下生の末席に過ぎない自分ごときの勝敗が闘武館に影響を與えるはずがないと気楽に考えている。彼の肩に懸かっているのはどちらかというと第1魔法學院の大會連覇の行方とか同級生や先輩たちから託された想いといったほうが正しい。學自今まで自分を鍛え上げてくれた先輩たち、ことに一番近で世話を焼いてくれた桜に対する恩返しの場という思いをにめて決勝戦に臨んでいる。
対する孫忠はというと、彼の肩には甲賀忍総領家という重い十字架が圧し掛かっていると斷言して差し支えない。一介の門下生という気楽な立場の學と、次の世代の忍集団を背負って立たなければならない孫忠との立場の違いが如実に現れている。背負っているものが大きい分だけ、孫忠のほうが絶対に負けられないという思いが高じてやや力みがちな様子が窺える。
このような両者の背景があって、雙方の立ち上がりは極めて靜かなモノとなる。互いに相手の出方を窺いながら、隙を見つけたら一気に攻勢に出ようという思がぶつかり合っているよう。ことに學は試合前に桜から「一見無手のように見えてもどこから暗が飛んでくるかわかりませんよ」と注意をけているだけあって、距離をとったまま慎重な姿勢を崩さない。
(こちらの手のは読まれているか)
學の慎重な様子を見てどうやら暗の存在がバレていると悟った孫忠は、右手に隠していた鎖分銅をこれ見よがしに振り回し始める。學が接近してきたらいつでも迎撃するぞという構えなのだろう。とはいえ孫忠からすれば振り回している鎖分銅はいわば囮。右手に學の注意を集めておいて、隙を見て左手に隠している鎖分銅でダメージを與えようという魂膽が見え隠れしている。
一方両者が対峙する様子をスタンドから見學している桜はといえば…
「どうやら學君も今までとは々勝手が違うようですわね」
「桜、なんだかやりにくそうな表だけど、大丈夫なのか?」
本日は応援席に聡史の姿がある。その隣には今日も朝からたっぷり走らされてデロデロになって白目を剝きかかっている明日香ちゃんも。ちなみに鈴は未だ部屋に籠りっ放しで姿は見せず、カレンは本部席脇の救護所に待機と相っている。
「お兄様、ウチの道場をナメてもらっては困りますわ。あのような類の飛び道への対処はしっかりと教え込んでありますの」
「そうなのか。だったら心配はいらないな」
桜の発言に頷く聡史の橫では、ついに限界を迎えて座ったまま気を失っている明日香ちゃんが… 応援などそこのけで、疲労に負けてダウンしているよう。本日は東海道五十三次橋宿付近までランニングで足をばしたらしい。徐々に新幹線の速度に近づいているのは気のせいではないだろう。
まあそれはどうでもいいとして、話をフィールド上に戻そう。依然として両者は睨み合ったままきを止めている。この狀況にシビレを切らしたのは孫忠のほう。右手でグルグル振り回していた鎖分銅を牽制の意味を込めて學に向けて放つ。
「甘い」
だが學とて孫忠の飛び道に対する備えは十分。自分に向かって飛んできた鎖分銅をアダマンタイトの籠手で足元に打ち払うと同時に、左足で踏みつけて引き戻せないようにキッチリ制する。それだけではなくて孫忠の手元に向かってびている鎖を踏みつけながら更に距離をめようと試みる。だがそんな學のきは孫忠も想定済み。徐々に距離を詰める學に向かって今度は左手の鎖分銅を投げ付けていく。
ヒシッ
だがこれもさほど効果を上げる攻撃にはならず、逆に學によって分銅ごとキャッチされてしまう。足で右手の分銅を制しつつ、學はもう一方の分銅の鎖を右手で巻き取りながら自由にかせないように固定。こうなると飛び道を無効化された孫忠が圧倒的に不利に映る。だが孫忠の表には、まだ余裕が見られるのはいかなる理由だろう?
ガシャッ
ふいに孫忠の右手にあった鎖分銅が音を立てて芝生の上に。學に踏みつけられて用をなさなくなったと判斷して意図的に放棄したものとスタンドのギャラリーは誰もがそう思った。対して學は右手で巻き取った鎖を絶対に手放すものかと力を込めて引っ張り始める。レベルは學の100オーバーに対して孫忠は80前後。當然パワーで分がある學が力比べで勝って孫忠のを自らの立ち位置方向に引き寄せていく。さらに學がひときわ強くグイッと鎖を引っ張ると、鎖を通して瞬間的に思いがけない力が伝わった孫忠はバランスを崩して前のめりに今にも倒れ込みそうな様子。
(今だ)
孫忠が前のめりの姿勢から立て直すのに手間取っているのを見た學は、その隙を突いて突進しようと一歩踏み込む。だがその時、彼の頭の中に警告音が鳴り響く。學が自らの勘に従って急停止すると、案の定孫忠の右手から再び鎖分銅が襲い掛かってくる。驚くことに彼はバランスを崩して前のめりになったと見せかけながら、素早く芝生に落ちている鎖分銅を拾い上げて攻撃に出ていた。不利な態勢になったと見せかけておいて攻撃を企むとは、やはり甲賀忍者総領家の嫡男侮れずというべきだろう。正統的な武蕓者からすれば邪道というそしりをけるかもしれないが、ありとあらゆる狀況を自分が有利に働くように利用するその手管は學と同じ年齢ながら実に良く鍛えられているという稱賛に値する。
勘に従って急停止していた學は間一髪を翻して飛んできた分銅を避けている。もしもあのまま突進をしていれば低い位置から飛んでくる分銅に當たって相當なダメージを食らっていたはず。このような危機に際して頭の中で警告音が鳴り響くのは、桜に付いて繰り返してきた日頃の鍛錬の賜といえよう。
すんでのところで致命的な攻撃を躱した學と絶好機を逃した孫忠。再び仕切り直しとばかりに睨み合う。開始時と違う點は、學の右手には孫忠が放った鎖分銅が巻き取られている點だろうか。しばしの沈黙ののちに再びき出したのは孫忠のほう。姿勢を低くすると一歩二歩踏み込んで學に接近を図る。対する學はまた何かあると構えつつ迎撃の勢に移行。
シュッ
再び學に向けて孫忠の右手から黒く塗られたが放たれる。それはプロテクターの隙間に挾み込まれていた小振りのクナイに相違ない。宙を飛翔するクナイは鎖分銅よりも鋭く空気を斬り裂いて學に迫っていく。だが意表をついたつもりで放たれたクナイも、學によってあっさりと叩き落される。ならばと再び右手の鎖分銅を繰り返し學に投擲しつつ隙を見て同時にもう1本クナイを投げ付ける孫忠。右手一本で鎖分銅をりつつクナイを投げるなんてまるで曲蕓師のよう。だが彼の攻撃は思ったような効果を発揮せず學によって悉く弾き返されるという攻防が続く。
「意識外から放った暗をすべて撥ね返すなんて、一どういう目をしているんだ?」
「それなりに鍛えていますから」
呆れ顔の孫忠に対して、學は當たり前だという表で返している。それはそうだろう。至近距離から繰り出される桜のパンチを避けたり天狐の風の刃を叩き落すといった、通常では考えられない過激な訓練をこの大會に備えて積んできたのだから。ことに天孤との鍛錬はチーム戦に備えて魔法を回避するためのモノだったのだが、それが思わぬ形で役に立っている。
ここまでされると、さすがの孫忠も飛び道は役に立たないと観念した模様。両手の鎖分銅を自ら地面に捨てて、ついに背にする忍刀を引き抜く。
「忍者が刀を手にしたとき、それは決死の覚悟を決めた決意の表れと知るがよかろう」
孫忠の言葉通り、忍者とは最後の最後まで刀に手を掛けようとはしない。その前に片を付けておくのが上策と日頃から叩き込まれている。したがって忍刀を手にする孫忠からすると、ようやく學の強さに本腰をれなければ勝てないと理解したともとれる。
そんな様子の孫忠を見た學も、右手に巻き付けてある鎖を自ら解いて地面に投げ捨てる。
小太刀に分類される忍刀を右手で構える孫忠と、相変わらず自然を崩さない學。先に仕掛けるはみたび孫忠のほう。忍刀を軽く振り上げて學に迫っていく。だが刀を振るう孫忠など學にとっては実に容易い相手。振るわれる軌道の外側にサッとを翻すと、側面に回り込んでから脇腹に當を食らわそうとコブシを構える。
孫忠も學のきがわかっていたようで、振り下ろそうとした忍刀を途中で止めて首元に一撃れようと袈裟斬りに切り替える。重たい太刀ではここまでの取り回しは不可能だが、小振りな忍刀だからこそ可能な蕓當。
「クッ」
これには學の口から思わず聲がれるが、もちろん瞬間的な反で回避に功する。だが學が勢を整える間もなく今度は孫忠の左手が學の鳩尾目掛けて迫ってくる。そしてその手には大型のクナイが握り締められている。どうやら孫忠の忍刀の攻撃は鋭いながらもすべてが囮で、本命はこのクナイでの一撃にあった。刀を手にする決死の覚悟とやらもどうやらフェイクで、最後にもうひとつ奧の手を隠し持っていたらしい。これだから忍者というのは一筋縄ではいかない。だが…
ガシッ
繰り出されたクナイは學の鳩尾の1センチ手前で止まっている。驚くべきは學の反神経。姿勢を崩しながらも彼の右手が孫忠の左手首を摑んでそのきを止めている。さらに學が手首を軽く捻ると、クナイはポロリと地面に落ちていく。ここからは學のターン。
お返しとばかりに孫忠の鳩尾に左のコブシを叩き込むと、さすがの孫忠も狀態を折り曲げて苦悶にぐ。さらに學は忍刀を握り締める孫忠の右手首に素早く手をばしていく。一瞬で手首を取ったと思ったらそこに捻りを加えつつ、もう片方の手の添えながら下方向に引っ張るように力を込める。お馴染みの小手返しが鮮やかに決まって、孫忠のは一瞬宙に浮いた直後芝生に叩き付けられる。最後は學の拳がフェイスガードに叩き付けられて勝負は決した。
「そこまで! 勝者、赤、第1魔法學院中本學」
審判からの判定が下ると、場から一斉に聲が沸き上がる。優勝が決まった第1魔法學院の生徒たちの喜び湧きかえる聲と他校の學院生からの見事な試合に対する賛辭と、第5魔法學院生たちの殘念そうな聲が錯している。
そして勝敗が決したフィールドでは、學が手を貸して孫忠が立ち上がっている場面。
「すみません、大丈夫ですか?」
「ああ、このくらいはかすり傷だ。ダメージもない」
「良かった、怪我をしていないか心配しました」
「同はよしてくれ。これだけ技を悉く撥ね返されては完敗を認めざるを得ない」
悔しそうな表ながらも潔く負けを認める孫忠の姿がある。だが彼にもいくばくか同の余地はある。それは例えば忍者が使用する煙玉や目潰し用の竹筒や瓶にれられた酢といったアイテムが対抗戦のルールで使用できなかったこと。もし仮にこれが本の実戦であったならば、學はもっと手を焼いていたことだろうと容易に察せる。その他にもまだ理由があるのだが、その辺も含めて孫忠は今回の敗戦をけ止めている。
とはいえこのままでは引き下がれないのも事実。
「この借りはチーム戦で返す」
「はい、また対戦する機會があればよろしくお願いします」
両者が握手をわして再戦を誓い合っている。こうして1年生の格闘部門は見事學の優勝という結果で幕を閉じる。この様子をスタンドで見ていた聡史と桜はといえば…
「桜、さすがは學君だな。ある意味快勝じゃないか」
「お兄様、こんなレベルで満足されてはいけませんわ。學君には私を追い越す勢いで強くなってもらいますの」
「それって俺も追い越されるという意味か?」
「お兄様もウカウカしていられないという意味ですわ。の子たちにちやほやされるヒマがあったらしでも強くなっていただきたいですわ」
兄に対して相変わらず辛辣な妹がいる。そして大會本部席では…
「ふむ、學もだいぶ腕を上げたようじゃのぅ。次の連休にでも再び學を連れてだんじょんに出掛けるとしよう。案役として申し分ないわい」
などと騒な呟きを吐き出しているジジイがいる。どうやら學の不運はさらに加速していきそうな気配が漂う。というか、これまで桜と怪ジジイの無茶振りに何とか耐えて生き殘ってきたのは奇跡とも呼べるレベルだろう。どうか學にはこれからも生き殘ることを最優先で頑張ってもらいたい。
◇◇◇◇◇
1年生の決勝戦が終了して20分後、ようやくスタンドが落ち著きを取り戻した頃合いに今度は2年生の決勝進出者がフィールドに姿を現す。もちろんその両名はマギーと晴。
スタンドから湧き上がる大歓聲を背にけながらもマギーは油斷のない視線を晴に向けている。1、2回戦は余裕で勝ち上がったものの、3回戦の渚とそれに次ぐ準決勝の頼朝との試合に大いに苦戦したこともあって、決勝の舞臺にコマを進めた晴を軽んじるつもりは一切ない様子。
対して晴は、こちらも學院で1、2を爭う負けん気の強さが面に現れているかの表。ちなみに魔法學院における負けず嫌い選手権の王者は桜で、公式には過去53回の防衛に功している。さらにその上に殿堂り級の絶対王者として學院長が君臨しているのは言うまでもない。
そんな魔法學院の負けず嫌いの系譜を濃厚にけ継ぐ晴だけに、マギーを食って番狂わせを起こそうという並々ならない意にあふれるのは當然。気合十分な表で盾を構えている。
「試合開始ぃぃ」
合図と共にマギーが晴に打って掛かる。渚や頼朝のように槍や剣といった獲は持たずに盾を前面に押し出す晴のスタイルは、マギーにとって一見楽な相手に映るのかもしれない。そのまま勢いに任せて流れるような蹴り技とパンチのラッシュを繰り出していく。だが晴としてはハナッからマギーの攻撃をけるのは想定済み。手にする盾でガッシリとけ止めながら隙あらばシールドバッシュを叩き込もうと足を踏み出していく。
「予想通り防が固いわね」
「これしか取り柄がないもんでね」
攻めに徹するマギーと防に徹する晴の対照的な姿がフィールドに出現している。一見すると一方的にマギーが押しているように見えるかもしれないが、晴の盾の前に攻めあぐねているものこれまた事実。それだけでなくて一連の攻撃を撃ち終えた直後に晴の怒濤のシールドバッシュが襲ってくるので、マギーとしても中々気を抜けない展開。接近しての撃ち合いは効果がないと踏ん切りをつけたマギーは、一転ヒット&アウェーの戦い方に切り替えていく。やや距離をとりながらフェイントをえて急接近しては、晴の隙を見つけて側方に回り込んでパンチを繰り出す作戦のよう。
これには晴としても対処に苦労する。足を止めての打ち合いならばそれなりに勝算があるのだが、縦橫無盡なアウトサイドからの攻撃を繰り返されると対応が後手に回らざるを得ない。しまいには盾を振り向けるタイミングが遅れて、時折軽いジャブやローキックがや足に當たり始める。だが生粋の脳筋である晴にしてみれば、この程度の攻撃など耐えて當然。強大な敵の攻撃を正面からけ止めてこそ、パーティーのタンク役が務まるというもの… などという姿勢を見せつけている。実際晴の耐久力はレベルが上回っていることもあり頼朝よりもはるかに上。これにはマギーも舌を巻かざるを得ない表を浮かべている。
「あんたたちは毎日どんな訓練をしているのよ?」
「へへ、師匠が厳しいもんでね」
呆れた口調のマギーに対して晴はケロリとして言い返している。さすがは気合いの申し子にして脳筋の鑑。しかもこの大會に際して実施された特訓では、桜の重たいパンチを浴び続けて3分間立ち続けたというの持ち主でもある。ちなみに頼朝でも30秒が限界なので、盾を手にするとはいえ晴の底知れない耐久力が窺えるだろう。
ただし試合時間の経過と共に次第に優劣がはっきりとしてくる。ける一方の晴に対してマギーはさしたるダメージもなく足を使って軽快に攻撃を繰り出す。そして晴にとっては次第に小さなダメージが徐々に蓄積していく展開となり、真っ先に限界を迎えたのは盾を摑んでいる握力だった。というかマギーの強烈な蹴り技の衝撃が吸収できずに、しずつ盾を支える両腕にダメージとなって指先の覚がマヒし始めていた。次第にそのダメージは指先から肘方向に、さらには腕全に広がって盾を持つ手がかすかに震え出す。
こうなると晴がいくら耐久力に優れているとしても、もはや時間の問題。ついには盾の隙間を掻い潛ったマギーの強烈なローキックが鮮やかに晴の左大部を捉える。
「クッ、クソォォォ! 気合いだぁぁぁぁ!」
痛む足を引き摺って何とか持ち堪えようとした晴だが、いくら気合いをれても肝心の足が言うことを聞かなくなっている。そして直後にハイキックを頭部に食らって芝生に倒れ込んだ。あの晴がマギーに吹っ飛ばされて倒れ込む姿に、ブルーホライズンの面々は思わず息を呑む。
「そこまで、勝者、赤、マーガレット=ヒルダ=オースチン」
激戦に決著がついてスタンドは大歓聲で盛り上がる。勝ったマギーへの稱賛と敗れた晴への健闘を稱える聲がフィールドに向けて投げ掛けられる。
芝生に倒れてけない晴にカレンが駆け寄って回復を施すと、1分後には難なく立ち上がって両者が握手。こうして2年生の格闘部門の優勝者は、マギーが昨年の雪辱を果たす形で終わった… と誰もが思ったのだが、ここでマギーが意外な行に出る。
本部席に向かうとマイクを手にしてフィールドに戻り、やおら聲を張り上げる。
「ねえ、みんなは本當にこれで満足なの?」
スタンドに向かって呼び掛けるマギーの意図が今一つ理解できないギャラリーは、シーンと靜まり返って彼の向を見守る。
「確かにトーナメントを私は勝ち抜いたわ。でも本當に強い選手が誰も出ていないじゃないの! 私はこんなトーナメントは認めないし、けっして優勝したとは思えないわ。だからこそトーナメントを勝ち抜いた勝者の権限でデビル&エンジェルの誰かと対戦を要求するわ。おあつらえ向きに明日はエキシビジョンマッチがあるから、もうひと試合増えても大會の進行には差し支えないでしょう。誰でもいいからデビル&エンジェルからひとり対戦相手を出してちょうだい」
マギーとしても昨年桜に敗れた雪辱を期して様々な努力をしてきたのだろう。それが今大會のレギュレーションで特待生が個人戦に參加できなくなって不満があったはず。マギー自常々悔いが殘る生き方をしたくないという枷を自分に課しているだけに、今大會の運営に文句のひとつもつけたくなったといったほうがいいのかもしれない。
ところが思いもかけないマギーからの提案にしんと靜まり返っていたスタンドは一気に湧き上がる。「いいぞ」「やれやれ」などという無責任な聲が飛ぶ中でスタンドの一角から一際馬鹿デカい聲が響く。
「その勝負けて立ちますわ!」
第1訓練場に集まった全員の注目を集めたその聲の主は言わずと知れた桜に他ならない。マギーがマイクを使って出すよりもはるかに大きな聲によってスタンド全が再び一気に靜まり返る。この狀況に泡を食ったのは隣に座っていた聡史。
「おい桜、お前はひとりで何を勝手な真似をするんだ」
「お兄様、お言葉ですが私はいついかなる時でも誰の挑戦でもけますわ。尊敬してやまないイノキさんの教えですから」
イノキさんが好きというのは脳筋チェックシートの8番目の設問に出てくる定型問題。はいと答えた人間は8割方脳筋と判斷して構わない。ということで第1魔法學院を代表する脳筋娘の耳には隣の席から聞こえる兄の言葉などテンでっていはいない。さすがは桜というべきか…
さてこのマギーが投じた弾に頭を抱えるのは大會本部席の面々。主に各魔法學院の學院長たちが著席しているのだが、マギーと桜のやり取りをいかように処理するべきか頭を悩ませている様子。だがこの人だけは違う。
「フムフム、ヤル気があって結構。若い者は時折無鉄砲に弾けるものよ。マイクエープリルは戦いの華。これでこそ盛り上がるというものよ。のう、方々納得していただかるかな?」
「本橋殿、エープリルではなくてアピールではないですか?」
「細かいことはどうでもいいわい。ともかく飛びりの試合を認めんか」
ジジイが本部席に陣取る面々をひと睨みすると居並ぶ各校の學院長たちは誰も文句が言えなくなる。というか防衛省から派遣されている學院長ですら歯のが合わなくなるほどの恐怖すら覚えるひと睨みであった。つい2週間前に就任したての新米學院長であるにも拘らず、まるで重鎮のような態度でそこに座っているジジイの圧力に全員がコクコクと頷くしかない。これによってマギーとデビル&エンジェルの代表者のエキシビジョンマッチが急遽決定される。もし仮に神崎學院長がこの場にいたらジジイを止められただろうか? 答えはおそらくノーだろう。逆に面白がってジジイと一緒になって実施の方向に聲高に意見するのが目に見えている。
ともあれ大會本部の意向がまとまったので、ホスト校である第5魔法學院の學院長がマイクを手に取ってアナウンスを始める。
「ただいまトーナメント優勝者による申し出があった件を大會本部で協議したところ、エキジビションマッチ実施という意見でまとまりました。よって明日の第1試合としてマーガレット=ヒルダ=オースチン対デビル&エンジェルの代表者の対戦を急遽組みれます。デビル&エンジェルは本日の18時までに代表者を決定して大會本部に通知してください」
協議で決まったわけではない。そこにあったのはジジイの指導力以外の何でもないはず。言い方を変えれば無理強いとか強要ともいう。まあ言い方なんてどうにでもなるといういい見本のようなモノだろう。本當に人騒がせなジジイだ。當の本人は特に深い考えなどなく、ただ単に面白そうだから… 程度の認識に決まっている。
そんな楽屋裏の事など知る由もなく、エキジビションマッチがもうひと試合組まれたことでスタンドは大盛り上がり。「デビル&エンジェルの代表者は誰になるのだろう?」といった聲がそこいら中から聞こえてくる。
この狀況に桜はニコニコな表で高笑いをして、隣の聡史は頭を抱えている。ともあれ至急代表者を決めなければならないので、依然として白目を剝いている明日香ちゃんを抱きかかえてミーティングルームに向かう。程なくして救護室にいたカレンも駆けつけて相談開始。ちなみに明日香ちゃんはカレンから回復のをけてようやく意識を取り戻したよう。それから鈴は相変わらず部屋に籠りっきりでこの場にはいない。
「それでは明日のエキシビジョンマッチに誰が出るか決めたいと思いますの。特に意見がなければ私が立て続けに2試合行う方向で話を進めてよろしいでしょうか」
勝手に話し合いの主導権を持っていこうとする桜に兄が待ったを掛ける。
「いくら何でもそんな無茶は認められないだろう。それにお前が勝手なことをしたら鈴が『私をバカにしているの』ってヘソを曲げるぞ」
「仕方がありませんねぇ~。今回はどなたかに譲りますわ」
いくら戦闘狂の桜でも、大會開始以降ずっと部屋に籠って式の構築に當たっている鈴の機嫌を損ねるのは不味いとわかっているよう。そもそもひとりでエキジビションマッチを2試合行おうなんて、その考え方が大逸れている點にもっと早く気付いてもらいたい。
「私が出場できないということは鈴ちゃんも無理ということですね~。となると殘るのは、お兄様と明日香ちゃんとカレンさんになりますわ」
ここでカレンが話に割り込んでくる。
「桜ちゃん、私もフィールドの安全を保つためにそれなりの強度の領域を作する必要があります。準備に2時間ほど要しますからパスでお願いします」
「それは仕方がないですね~。となるとお兄様か明日香ちゃんに出場していただかないといけませんわ」
「桜ちゃん、一何のお話ですか?」
ここまで話の流れにまったくついていけない明日香ちゃんが聲を上げる。ミーティングルームにカレンがやってくるまで白目を剝いていたのだから、まあそれは仕方がない。ということで改めて桜がかくかくしかじかと説明開始。
「ええええ、そんな面倒な試合なんて嫌ですよ~。お兄さんが出場してください」
「俺にお鉢を回されてもなぁ~」
どうやら二人の間で譲り合いが発生している模様。聡史としてもマギーとの力関係がわかっているだけに、今ひとつ乗り気でないのは事実。
「仕方がありませんわ。こうなったらいつものようにクジ引きで決めるしかありませんの」
ということで公平にクジ引きということで話がまとまる。興味があるとすれば桜にジャンケンやあっち向いてホイなどで過去3連敗中の聡史と、なんやかんや言いながら不運を引き寄せがちな明日香ちゃんという、パーティーを代表する運の悪いどちらに出場が決まるかという點に盡きるだろう。大貧民に例えるならクラブの3程度の引き弱の聡史とハートの4の明日香ちゃんという、強運とはまったく無縁の対決と呼んで差し支えない。レベルが上昇すると運の良さもパワーアップするはずなのだが、「運は自らの力で手繰り寄せるもの」と豪語する桜やルシファーさんの加護をける鈴、そして本人が神であるカレンといった面々と比較するとこの二人に関してはクソザコナメクジレベルの幸運しか持ち合せてはいないよう。
ということでカレンがメモ用紙に當たりハズレを書き込んだクジが二つテーブルに置かれる。明日香ちゃんは散々迷った末に右側を、聡史は殘った左側のクジを手に取って広げる。その結果…
「ええええええ! 私が出場じゃないですかぁぁぁ!」
絶とも悲鳴ともつかない聲がミーティングルームに響き渡る。當たりクジを引いたのはその聲の通り明日香ちゃんとなった。
「どうか頑張ってくれ」
エキシビジョンマッチを回避した聡史は無責任に応援する聲を掛けているが、まさかの當たりを引いた明日香ちゃんは思いっ切りむくれた表。
「明日香ちゃん、そんなに頬を膨らましているとただでさえデブなのが世余計に太って見えますわよ」
「誰がデブですかぁぁぁ!」
常日頃はもっと溫厚な表現で桜に反論する明日香ちゃんだが、現在はそんな余裕もない様子でダイレクトに食って掛かっている。面倒事が大嫌いな明日香ちゃん的には、エキシビジョンマッチとはいえまさかの個人戦出場がどうにも許せないよう。だがそんな明日香ちゃんに対して桜から思わぬ提案がもたらされる。
「仕方がないですわね~。明日香ちゃんがマギーさんに勝ったら、対抗戦の期間中はランニングをナシにして差しあげますわ」
ピクッ… 桜の提案に俄かに明日香ちゃんの顔に変化が。
「桜ちゃん、やりますよ~。私は絶対に勝ってみせます」
これまで毎日桜によって午前中の3時間走らされていただけに、明日香ちゃんは心底ランニングを嫌がっていた。だったら夕食時のデザートを程々にすればいいはずなのだが、味しそうなスイーツを見てしまうと食が抑えられない格。しかも日を追うごとに距離をばされるとあって、午前中は明日香ちゃんにとって地獄のような時間と化していた。それが試合に勝ったら學院に戻るまでランニングをしなくていいと言われたものだから、今や明日香ちゃんのヤル気は天を衝くがごとし。
「良かったですわ。明日香ちゃんがヤル気になってくれましたの」
ニッコリ微笑む桜の表だが、その奧底には何やら腹黒いものが隠されているよう。実際1週間ランニングをナシにしたところで桜は一向に損はしていない。むしろ明日香ちゃんの重維持のためにトレーニングに付き合っていただけで、仮に明日香ちゃんがブクブクに太ったら學院に戻ってからより厳しいダイエットを課すだけなのだから。
そうとも知らない明日香ちゃんは、しばらくランニングなしという安楽な生活を思い浮かべてニヘラ~というだらしない表。そんな表をするのは試合に勝ってからにしてもらいたい。
ともあれこのようなり行きで、明日のエキシビジョンマッチ第1試合は〔明日香ちゃん 対 マギー〕、第2試合は〔桜 対 鈴〕というカードが大會運営本部から正式に発表されるのであった。
エキシビジョンマッチに明日香ちゃんも出場。果たしてマギーとの試合の行方はどうなるか? そしてついに激突する桜と鈴。2つの試合から目が離せない展開に…… この続きは出來上がり次第投稿いたします。どうぞお楽しみに!
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神様の間違いで殺された主人公が女に転生して異世界で暮らしていくほのぼのファンタジー たまに戦闘あり、百合ありでやっていきます! ちょっとだけシリアスもあるよ 第1部:1章〜8章 第2部:9章〜15章 第3部:16章〜最新話まで
8 171現実で無敵を誇った男は異世界でも無雙する
あらゆる格闘技において世界最強の実力を持つ主人公 柊 陽翔は、とある出來事により異世界に転移する。そして、転移する直前、自分を転移させた何者かの言った、自分の幼馴染が死ぬのは『世界の意思』という言葉の意味を知るべく行動を開始。しかし、そんな陽翔を待ち受けるのは魔王や邪神、だけではなく、たくさんのヒロインたちで━━━ ※幼馴染死んでません。
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