《ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく》422話「だってしょうがないじゃないか、同じじゃないんだから」

「兄貴、ちょっといいか?」

「おう、どうした?」

店の扉の先にある工房に案された俺は、店員とやり取りをしている人間を靜観していた。工房にいたのはガタイのいい三十代くらいの男で、しお腹が膨らみ始めた頃合いの型をしている。だが、その目は鋭くものを見極めようとする強い意志がじられ、まさに職人の目といった合だ。

ちなみに、俺を工房に連れてきてくれた店員は二十代後半の男で、工房にいた男よりもの厚みはないものの、しっかりとした筋のついたつきをしている。

どうやら、工房にいた男は店員の兄のらしく、兄弟で店をやっているということが何となく伝わってくる。店員が説明を終えると工房にいた男がこちらに視線を向けてくる。

「でだ。うちの工房を借りたいっていうのが坊主か」

「ああ、そうだ」

「うちとしては、素人に工房を貸して怪我でもされちゃあ迷だ。工房を借りたいなら、坊主が素人じゃねぇっていうのを証明しな」

どうやらその男はこの工房の主らしく、俺がまだ人していない子供ということで、鍛冶の技を持たない素人だと判斷したようだ。だが、これでも鍛冶に関しては日頃から鉄製関連の裝飾品を製作しているということもあって、上位スキルの後半までレベルがあるので、簡単な鍛冶作業は難なくこなすことができる。

だが、見た目が子供である以上、卓越した鍛冶の技を持っていないだろうと判斷した工房主は、俺が鍛冶の技があることを証明しろと言って一本の剣を作業臺に投げて寄こした。

その剣は量産品のどこにでもある鉄製の剣に見える。だが、細かな部分を見ると、厚みのバランスや重心の置き方など一定の鍛冶の技がなければ模倣することが難しいもののように見けられた。

「これと同じものを作ってもらおうか、これを真似できるくらいの腕があるならうちの工房をタダで貸してやる」

「あ、兄貴。そりゃあ、いくらなんでも……」

「ドリュスよ。俺ら職人にとって工房ってのは縄張りみたいなもんだ。どこの馬の骨とも知らねぇ奴に、工房でウロチョロされんのは職人には耐え難いもんなんだよ」

「だ、だからって。これは」

「これと同じものを作ればいいのか?」

何やらめている二人だったが、俺としてはまったく問題がないため二人の會話を無視して問い掛ける。二人とも一瞬呆けた顔になったが、俺の問い掛けの容を理解した工房主が険しい顔で答える。

「できるのならな」

「やめといた方がいい。この剣を再現するのは素人じゃ無理だ」

「とりあえず、やってみよう。できるかできないかはやってみないとわからないからな」

そう言いながら、俺は工房主が寄こした剣を手に取って観察する。解析に掛けてみると、やはり先端から柄の部分までの剣の厚みのバランスが絶妙で、量産品とはいえかなりの技が用いられていることがわかる。これと同じものを作れるのは、鍛冶レベルが8以上でないと難しいだろう。

だが、俺にとっては普段作っている裝飾品と同じレベルであり、何かの片手間で作れる程度のものでしかないので、さっそく作っていくことにする。

前世でも鍛冶という職業は存在していたし、ゲームなどでも頻繁に出てきたので、概念としては何となく理解はできる。だが、実際に鍛冶というものを目にしたり実際に験したことのある人はほとんど皆無と言っていいだろう。工房に勤めている人間でない限りは……。

であるからして、今生でも初めて鍛冶を行うのだが、そこはスキルというものが存在している世界なため、やったことがないものでもなんとなく理解できてしまう。

まず、鉄のインゴットを爐にくべながら溶かしていく、そして形ができるくらいのらかさになったところで爐から取り出し、大の形になるように槌を使って叩いていく。トンテンカンという音が工房に響き渡りつつ、剣の形に加工していき、そこから細かい調整を行っていく。

二人ともそれを黙って見屆けていたようだが、最終工程が近づいていくにつれてなんだか驚愕している様子が伝わってきた。

そうした合に鍛冶作業を行った結果、一つの剣が出來上がった。そして、その出來栄えを確認すると、俺はぽつりとつぶやく。

「だめだな。やり直しだ」

「「えっ」」

出來としては悪くない。いや、寧ろ最初に提示された剣よりも品質の高いものができでしまった。だが、それではダメなのである。

「ちょ、ちょっと待て坊主。やり直しとはどういうことだ!?」

「ん?」

作った剣を再び爐で溶かそうとしたところで、工房主の男に止められてしまう。だから、俺はありのままを答えてやった。

「あんたが提示した條件は“この剣と同じものを作れ”だ。この剣はその條件を満たしていない。だから、作り直しだ」

「待て待て待て待て待て! 確かにそう言ったが、それはあくまでも腕の良し悪しを見るための方便であってだな」

「どちらにせよ。この剣と同じものでなければ、俺の腕を証明したことにはならない。それとも、一端の職人が、男が、一度口にしたことを違えると?」

「ぐっ」

工房主の反論にそう返してやる。特に“一端の職人”と“男”という部分を強調してやると、途端に黙った。それを確認した後、俺は作ったばかりの剣を再び爐にくべた。ドリュスと呼ばれた店員が「あぁ」という何とも言えない聲を出していたが、そんなことも気にせずに俺は鍛冶作業を再開した。

一度経験したことによって作業容が最適化され、先ほどよりも効率的な鍛冶を行えたが、出來上がったものは見本の剣と同じものではない。當然、再び爐にくべやり直しである。

「違う」

「……」

「これも同じじゃない」

「……」

「これも違う」

「……」

「これも――」

「も、もうやめてくれぇー!!」

同じ作業を十回ほど繰り返していると、突如として工房に悲痛なび聲が轟いた。聲のした方に顔を向けると、工房主の男が両膝と両手を地面に付けている。ちょうどORZ狀態になっており、どうやら土下座と同じようなことをしているようだった。

そんな勢のまま男は、苦しいようないたたまれないような何とも言えない悲痛な顔を向けながら、俺に向かって懇願するように口を開いた。

「もうこれ以上はやめてくれ。目の前で業が消えていくのを見るのは職人として見過ごすことはできん」

どうやら、俺が生み出す剣が盡く業であることは一目見ただけで気付いたらしく、それを何のもなく爐にくべ続けられていく様子に、職人として何か琴線にれる部分があったようだ。

だがしかし、そう、だがしかしである。最初に提示された條件は、同じものを作れという容である以上、それ以上のものを作ることは即ち條件の不達を意味するのだ。よって――。

「作り直しだ」

「ノォオオオオオオオオオオ!!」

工房主の悲痛なびも虛しく、俺は淡々と剣を作り続ける。そして、都合三十回を超えたところでようやく提示された剣とほとんど同じ品質の剣を生み出すことに功した。だが、その頃にはぐったりとなった工房主が「俺が今までやってきたことはなんだったのだろうか?」と魂が抜けた狀態だったため、その日は大人しく宿に戻ることにし、明日また出直すことにした。

一方の弟は苦笑いを浮かべて「明日また來てくれ」とだけ言っていたが、彼もまた工房主と同じくぐったりとしている様子であった。そんな二人を見て、俺は肩を竦めて工房を後にしたのであった。

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