《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫306.ミスリード

その頃、何も知らずにダンジョン攻略を続けているのぞみたちは、『契紋石(パトンピス)』のを持つボス魔獣のゴーレム將軍を倒し、さらに順路サインに従って、分かれ道を左に進んでいた。

その後ろを追いかけてくるのは蛍(ほたる)。そして、そんな彼らの様子を、石の影から見送る人がいた。

前進するのぞみたちの最後尾で、全のコントロールを任されているティムが違和に気付いた。

「……どうも変ですね。この道は、本當に正しい道でしょうか」

「どうしてそう思われるんですか?先頭のシタンビリトさんが選んでいるのは、機元端(ピュラルム)が導いたコースでしょう?」

ラーマの言うことは正しい。だが、

「それなりのペースで進んでいるはずなのに、私たちよりも前に人の気配が全くじられないのです」

ティムの理屈に納得するように、楓も前をまっすぐに見た。

「確かに妙だべ。ゲートを出発した時、私たちは何人もの心苗(コディセミット)に先を譲った。先を行く人がいるはずだども、魔獣の數が減ってないのもおかしいべ。これだけ狹い道を、魔獣に手出しせずに通過するなんてありえない話だもの。それに、さっきのゴーレム、『章紋(ルーンクレスタ)』を使ったべ?あんなボス級の魔獣、誰かが先に倒してたならば、次にゲートが開くまで再生しないはずだべ」

ラーマは楓とティムの話を聞いてもまだ、システム異常とは考えていないらしい。

「私たちがたまたま、誰も走っていないコースを選んだ可能もありませんか?」

「その可能は否定できませんが……」と、ティムはやんわりとラーマに応じた。

「おかしな點はまだあるんですよ。このダンジョンエリアが、あまりにも長いことです」

ティムの言葉に、今度はラーマも黙る。

「もしも先ほどのゴーレムがボス魔獣なら、私たちはそろそろダンジョンを抜けるゲートに辿り著くのではないでしょうか。ですが実際にはゲートはなく、私たちはダンジョンのより深い階層へと向かっているように思われてなりません……」

「な、何でそんなことまで分かるんだ?」

ヌティオスが問う。

ティムは彼が、筋の発達しすぎるあまり、覚が鈍いことを思い出した。

「溫度と気圧が上がってきているのをじます。それは、地下の深層部に潛っている証拠でしょう」

ティムはジェニファーに訊ねた。

「ツィキーさん、あなたは本イベントの會議に參加されましたか?」

治安風紀隊として會議に參加していたジェニファーは、「ああ」と応じながらも、嫌な予がしていた。

「ダンジョンエリアの次は、どこに出ることになっていますか?」

ティムの質問が、ジェニファーをさらに戸わせる。

「……川と湖のエリアだ。どの道を選んでも、地下水路からそのエリアに出ることになっている。そこから次のゲートが見えるはずだが……」

ジェニファーの話を聞き、ラーマは自分たちが明らかにコースアウトしていることを認めた。

「それは、順路サインにエラーが起きているということですか?恒例イベントにおいて、そのようなミスが起こることはあり得るでしょうか?」

勘の良い楓は、真実に気付き始めていた。

「姫巫ちゃんを認識したらわざと指定の場所へミスリードするように、プログラムが改ざんされてるかもしれねぇべ」

「もしそんなことがあり得るなら、彼の命を狙っているのは一どんな方なのでしょう……?」

「……學校の先生か、もしかしたら管理層の人間かもしれないべ。心苗にはプログラムの改ざんができるような権限がないんだもの」

楓の推論は大膽なものだったが、ティムはさらに容疑者を絞った。

「おそらく、彼の警護任務に當たっており、全ての報を掌握できる場所にいる者ですね」

ジェニファーは、三人がほぼ正確な犯人像を導き出したことに肝を冷やす。

「あなたが仰っているのは、機関の長ということですか?」と、ラーマが目を瞠(みは)った。

ティムは答えず、ただラーマの目をじっと見つめた。

「と、とにかく、これ以上進んじゃダメだべ。相手の思うツボだ……」

楓がそう言った時、前方からのぞみの聲が聞こえた。

「あっ!出口ですね!」

のぞみの視線の先に、が見えている。

「みんな!もうすぐゲートに辿り著くヨン!」

メリルの明るい呼びかけが後方に伝わり、前方を行く者たちのペースが上がる。トンネルを抜けると、視野が広がった。

しかし、そこはジェニファーが言っていたような地下水路ではなく、跡のような場所だった。

天井は見えず、幅10ハルの橋と、その上に聳える石像、そして下を靜かに流れる溶巖が見える。石像は石の柱の上に収まっており、翼を持つ人間を模している。石壁に付いた水晶が緑を発し、それが源となって、彼らに跡の中の様子を見せていた。橋の向こうには、巨人でも通れる大きな扉が見えている。

聳え立つ石柱と重厚な扉、その神聖な雰囲気を持つ空間に踏みると、のぞみたちの足取りは自然とペースダウンした。周囲の様子を見回していた時、クラークが石柱の上に立ち、目の前の石像を見上げて驚嘆の聲を響かせる。

「すげぇ……」

「本みたいッスね」と悠之助が言い、藍(ラン)が「ここもまだ、ダンジョンエリアなんでしょうか?ここ、どこなんでしょうか?」と呟いた。

「地下の神殿みたいヨン」

周囲の様子とメリルの言葉を聞いて、のぞみは「まさか……」と聲を震わせた。

「のぞみさん?」

張りつめたのぞみの表が、藍にも移る。

「私がまだ、フミンモントルの心苗だった頃、當時の擔任の先生から教わったことがあるのですが……。イトマーラの結界を支える九つの柱が、このセントフェラスト領にあるという話を、聞いたことはないですか」

「お、おいおい、まさか、ここが柱の間だってのか?」

茶化すようにクラークは言ったが、誰も笑わなかった。

一般の心苗の立ちりが止であることは、誰もが知っている。

「ねぇ、私たち、本當に正しいコースを走ってきたのかな」

ルルの言葉に、先頭を任されていたラトゥーニが眉をひそめる。

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