《ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく》428話「絡まれ」

「お前が、SSランク冒険者かもしれねぇって坊主か?」

「ん?」

舊王都での観……もとい、潛を行って數日が経過する。相変わらず、ける依頼は薬草採集などのEランク冒険者に相応しいものばかりけている。

それを何か含みのある顔で黙って手続きをするザシカだったが、俺がSSランク冒険者である絶対的な証拠を提示できないとわかっているのか、そのことについて言及することはない。

そんなことを続けていると、不意に聲を掛けられる。振り返ると、そこには五人組の男が立っていた。どうやら、冒険者パーティーのようで佇まいからしてかなり場馴れした様子が窺える。

「こ、これは【星の流星群(スターダスト)】の方々」

(スターダストだぁ? なんだその中二病をこじらせたような名前は)

俺の二つ名のクエストブレイカーも大概だが、俺自が名乗ったわけではないので不可抗力と言える。だが、パーティー名ともなればあらかじめこの面子で話し合って決めたということになるため、言い訳のしようもない。

そんなことを考えていると、リーダーらしき男がずずいと前のめりに顔を近づけてくる。その目は鋭くどこかこちらを値踏みするような視線だ。

「こいつかい、ザシカちゃん。SSランク冒険者かもしれねぇって新人は」

「そうなりますね」

どうやら、俺がSSランク冒険者であることを疑っているザシカが上位ランクの冒険者に相談したらしい。あるいは、ギルドマスターの差し金か。どちらにせよ、俺の正を突き止めたい人間が差し向けてきた相手に変わりはない。

「なら、とっとと済ましちまおう。坊主、ツラ貸しな」

「斷る。付き合う義理も義務もない」

「……」

高ランク冒険者を連れてきて俺と戦わせることでその実力を見極めたいといったところだろうが、殘念ながらその茶番に付き合ってやるほど俺はお人好しではない。

だが、冒険者同士の戦いはギルドと當人同士の同意によって模擬戦という形で行うことができる。つまりどちらか片方が拒絶すれば模擬戦を行うことができないのだ。

「へぇー、ガブラスの威圧にもじないなんて。こりゃあ、ひょっとするとひょっとするかも」

「レイラン、そんな訳ないじゃない。こんな子供がSSランクなんて。Aランクでも怪しいくらいだわ」

「……」

「まっ、戦ってみればわかることっしょ」

ガブラスと呼ばれた男が未だ睨んでくる中、彼の仲間が口々に想を言い合う。中には、寡黙な男もいるようで仲間の言葉に頷いてはいるが、口に出して言うことはない。

そして、騒ぎに気付いた周囲の冒険者の聲から報を集めることに意識を向けていると、興味深い容が聞こえてくる。

「あの新人、なんでSランク冒険者パーティー【星の流星群】に絡まれてるんだ?」

「さあ、よくわかんねぇけど、生意気な口を聞いたとかじゃね」

「それにしても、Sランク冒険者のオーラ半端ねぇな。俺ら萬年Dランクとは大違いだぜ」

どうやら、絡んできた冒険者はSランク冒険者であり、なかなか名の知れた有名人らしい。だからといって、俺が下手に出る必要がまったくないので、態度を改めることはしない。寧ろ、無駄な時間を取られていることに憤慨しているくらいである。

しばらくそんな時間が流れていると、何か心境の変化でもあったのか、突然ガブラスが男らしい豪快な笑い聲を上げる。それを怪訝に思っていると、好戦的な視線のままにやりと口の端を吊り上げて言い放った。

「いいねぇ、お前。ギルマスの言ってた意味がわからなかったが、あながち間違ってないかもしれんな」

何がだと問い掛けたくなったが、ろくでもないことしか返ってこないと考えたため、余計な口を挾まないことに徹する。依頼の手続きも終わっていたので、そのまま歩き出そうとする。だが、立ち塞がるかのようにガブラスが回り込んできた。

「邪魔だ。どいてくれ」

「嫌だね。お前、俺と戦え。どれだけのもんか見てやる」

「やめておけ。怪我人が出るぞ」

「ほう、一誰が怪我をするっていうんだ?」

「俺だ」

「お前かよ!!」

俺の真面目な回答に、突っ込みをガブラスがれる。俺は當然のこととばかりに奴に言ってやった。

「當然ではないか。片やSランク冒険者。片や冒険者になって日の淺いEランク冒険者。この二人が戦って怪我をするのはどっちだと聞かれれば、ほとんどの人間が後者が怪我をすると判斷するんじゃないか?」

「そ、それはそうだが」

「勝敗のわかっている戦いをする必要がどこにある。それに、あんたと戦うメリットが俺にはない。俺にとって旨みのある話じゃないってことだ」

「ぐっ」

俺の正論に反論する余地もないようで、先ほどまでの勢いとは裏腹にガブラスが小さくなっていく。だが、何かを思いついたらしく、腰に下げていた鞄から袋にった何かを地面に叩きつけてきた。

「なら、これならどうよ?」

「……なんだこれは? ……これは」

叩きつけられた衝撃で袋の中が一部出ており、そこから金貨や銀貨が顔を出していた。その量はかなりのもので、なく見積もっても一千萬ジークくらいあるのではないだろうか。

「一千萬ジークある。坊主が俺と模擬戦をやってくれるっていうんなら、これをお前にくれてやる。もちろん、勝っても負けてもこの金は坊主のもんだ。どうだ? これで俺と戦うメリットができたんじゃないか?」

そう言いながら、得意顔を見せてくるガブラスだが、それでも戦った時のデメリットの方が大きい気がする。確かに、新人冒険者にとって一千萬ジークは大金だ。だがしかし、商業ギルドや商會と直接取引を行える俺からすれば、自重することなく本気を出せば一日で稼ぎ出せる程度の金額でもある。

何の取り柄もない冒険者であれば、ガブラスの申し出は有難いだろう。だが、俺からすればそれを目當てにして襲い掛かってくる輩もゼロとは言い切れないため、やはり今回の件に旨みはない。

ガブラスの言葉に、俺は渋い顔で首を橫に振った。そして、その申し出をけた時のデメリットも丁寧に説明してやる。

「というわけで、寧ろデメリットだらけだ。そんなものをけるのは、よっぽど金に困っているか、先のことが見えていない愚か者くらいだ」

「うぅ」

頑なに自分の要求を呑もうとしない俺を説得する言葉がないのか、悔しそうな顔で唸っている。そこに助け船と言わんばかりにある人が口を挾んできた。

「であれば、この模擬戦ギルドマスターである俺が許可を出そう」

「出たな黒幕。こいつらを差し向けたのはあんただろう」

「……なんのことだ。言っている意味がよくわからんな」

あからさまにごまかしている態度が見え見えだったが、それでもまだ俺の方に分がある。いくらギルドマスターが許可したところで、それはギルドとしての許可であり、條件の一つである當人同士の同意が満たされていないのだ。

「俺は同意していない。いくらギルドマスターの許可があろうと、本人が拒否している以上この試合は無効だ」

「ならば、ギルドとして急依頼を出そう」

そう得意気に言うギルドマスターだが、殘念ながら冒険者ギルドが出す急依頼は強制力がなく、これも當人の意志が尊重される。つまり、依頼をけるか否かは冒険者次第ということだ。

「というわけで、その依頼は當然けない。これ以上混ぜ返すようなら、俺は冒険者を辭めるぞ」

「そ、そんなことできるわけ」

「ギルドの規定では“ギルドに対し損失を與えた者、または何かしらの犯罪行為を行った者、または冒険者自らの意志によって冒険者の資格を取り消すことができる”とあるはずだ。まさか、ギルドマスターなのに知らないわけじゃないだろうな」

「ぐっ」

ここにきてギルドマスターが職権用まがいなことを言い出したため、ギルドの規定に関する容の一部を抜粋して伝えてやると途端に黙った。いかなる理由があろうともギルドマスターは自が持つ権限を悪用してはならない。獨斷による指示やのあるについては現場の判斷が優先されることがあるが、基本的に各支部のギルドは本部に伺いを立てるのが通例となっている。

つまり今回の件は明らかなギルドマスターの獨斷であり、のない事案にもかかわらず勝手に急依頼という制度をギルドマスターという地位を使って私的に利用したという行為になり、本來であれば減給処罰ものの業務違反となってしまう。

だが、それはあくまでも本當にそれが行使された時であり、口だけで言っている分には褒められた行為ではないが、冗談だったで済まされる場合が多い。

「ええい、もう我慢できんっ! くらえー!!」

「あ、リーダー」

そうこうしているうち、痺れを切らしたガブラスが素早いきで俺に接近し、その拳を俺の腹に目掛けて突き立ててこようとしていた。誰もが困する中、俺は一人その視線をギルドマスターへと向け、にやりと笑いかけた。その意図が伝わったかどうかを確認する暇もなく、ガブラスが放った拳が俺の腹に突き刺さり、凄い衝撃と共に吹っ飛ばされる。

突然起こった騒に慌てふためく中、吹っ飛ばされた俺はというと、ギルドり口付近に積み重ねてあった空樽に突っ込んでしまった。

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